ヴィヴィアンは、大学の近くの大きな家に父親と三人の妹、そして二人の弟と共に暮らしていた。彼女の父親は3番目の妻、つまり、ヴィヴィアンの双子の妹たちの母親が亡くなってから、働き続けられるほど‘精神が安定’していなかった。残念なことに、父親の障害者手当てが足りず、年長であるヴィヴィアンが兄弟のために働かざるを得なかった。
ヴィヴィアンの家はレンガ造りの2階建てであるが、いつ潰れてもいいような感じの建物であった。駐車場の入り口には、昔深い赤色だったと思われる古くて汚れたピンク色のサンダーバードがあった。
「なぜ私たちはここに隠れているのだ?」
と、エドワードは僕に聞いた。彼は囁くことが上手く、その声は届かなかった。僕たちは彼女の家の近くにあった茂みに隠れていた。人に見られることは心配していなかったが、誰が見ても絶対に変態だと思われるはずだ。
「僕は彼女と接触したくもないし、やつらをここに引き付けたくもないが、彼女の無事を確認したいのです。」
「血の匂いは確かにない」
と、エドワードは保証した。
愚かなエイリアンヴァンパイア、全知のエイリアンと持っている本と魔法。
「落ち着け。」
玄関灯が点灯し、長男で13歳の弟クーパーが、街角の大きなごみ箱に黒いゴミ袋を捨てにきた。明らかに、他の世界の悪いモンスターと会ったような顔をしていない。クーパーが家に入ってから僕は立ち上がった。
「モンスターがこんなに近くにいて、彼女に会うのは危険なのかな? 」
「そうだね。」
「彼らが死んでからは?」
「彼女とどのような接触があっても、君の匂いを更に強くしてしまうので、危険だ。それに、他の獣が本を探しに来るといけないから、彼女が無事でいて欲しかったら二度と会ってはいけない。それに、ここから離れたほうがいい。私たちは、どこへ行ってもやつらを引き付けている。やつらは私の本と君の本の匂いを嗅ぎつけてしまうのだ。」
と、彼は言った。
私はうなずいて道を戻り始めた。
「やつらが私たちを見つけるまで、どれぐらいの時間があるのでしょうか?」
「それは、私たちの痕跡をどれくらい分かりにくくするかによる。私たちが当てもなく歩いたらあいつらにはもっと難しくなるはず。」
「もし、一つの場所だけにいたら?例えば、ずっとここに留まったら?」
「それは、長くても一時間くらいしかない。」
「分かりました。この道を下ったところにスケートボード場があります。彼らをそこへ引きつけたら人に邪魔されることはありません。作戦を考えて雨が降るよう神に願いましょう。ちょっと待って、神に嵐が来るように頼むことはできるのですか?」
エドワードは不機嫌な顔をした。
「私たちは絶対にお願い事をしてはいけない、ただ与えられたときに感謝するだけだ。」
と、彼は言った。僕は白目をむいた(あきれた)。典型的な神だ。
「もしこの世界の神が嵐を必要だと感じたら、嵐が起こる。私は自分の世界で嵐を起こすことは出来ないが、ここの天候はもっと安定しているので、私には…」
「分かりました。」
僕たちはしばらく静かに歩くと同時に、私たちはどうなるのかと考えた。
「今すぐ、本にサインすることを考えなおしてほしい。」
僕は顔をしかめた。
「私たちはもうそれについて話しましたよね。ヴィヴィアンのことが優先です。」
「君が去る前に彼女が安全でいて欲しいのは良く分かったが、君は既に、君が本にサインをしても、まだどこへも行くことができないということに気付いていると思う。その一方、君はガーディアンになり、君のパワーはより強力になる。やつらと戦うために必要な力を得るために、今すぐに君の本と、その後、私の本にサインしてくれないか。」
僕は、すぐに考えた。
「僕は魔法など一切知らないので、いいことは何もできない。」
「それは違う。君は魔法のコントロールのしかたを知らないだろう、しかし、それは、君の感情や強い意志に反応する。」
と、彼は言った。
僕たちは公園に着き、約3メートル(10フィート)あるフェンスに行く先を阻まれた。大きな公園は、ウォーキング通路・市民プール・運動場とジュニアセンターの4つに分かれていた。
そこでは、市の公共工事が行われており、馬鹿な少年たちが自分たちの頭をかち割るまで、どれくらい大胆なことができるか友達に見せるための場所であるスロープやハーフパイプの建築の途中であった。運動コーナーのフェンスは、テニスコートやスケートボード用のスロープを作る工事のため、数か月間閉鎖されていたので、入口ゲートまで行くまでもなかった。ちょっと嫌な気がしたが、僕たちが必要としているスペースとプライバシーが確保できることを望んだ。
僕はよじのぼり始めてから反対側に降りるまで、エドワードに注意を払っていなかった。彼はまだのぼり始めていなかった。
「ここが公園です。フェンスを越えなきゃ。それにここから移動しなきゃいけないって、分かるでしょう?」
彼は少し屈んでから、ジャンプした。彼がジャンプしてから僕の横に着地するまで、ゲートに触ったのは一回きりだった。
僕はポカーンと彼を見た。
「できるところを、見せたいだけでしょう。」
「そうしなければ、君は私が飛ぶ瞬間を見ることができなかっただろう。さあ、本にサインすることを考えなさい。」
「僕がサインしたら、あなたは、もう僕を本当に弟子にするか考える暇はありませんよ。あなたが執拗に僕にサインをさせようとするのは、僕が戦うのをその本が助けてくれると思っているからですか?それとも、僕の事を信用できないからですか?僕は自分の名前を書いたら、それに対しての責任が生じ、ヴィヴィアンが安全になっても戻れないでしょう。」
彼の表情が硬くなっていた。
「それは私も考えたが、君がここにとどまるなら、ヴレチアルはもっと野獣やサーヴァントたちを送り込んでいたはずだし、君に本の匂いがまだ少ししかついていないので、まだチャンスはある。それは君がまだ危険に晒されていると言うことだ。どっちにしても、それは本からやつらを遠ざけるだろう。いや、私が君に本をサインしてほしい理由は、君は無意識に強力なパワーを隠しているからで、君がまだ何一つ訓練していなくても、ガーディアンのパワーがあれば、即戦力になれるからだ。」
「僕は不死身になるのですか?」
「そうだ。」
と、彼は言った。
僕は自分自身にうなずいた。不死。永遠の命。僕が今まで経験したのは、僕の母親・学校・ファストフード業界、この三つだけだ。母は僕の魂を奪い、学校は僕の幼少期を奪い、フライドポテトはより良い未来への期待を奪った。それが人生だ。僕は本当に永遠の命が欲しいのか? 澄んだ空を見上げた。満月がコンクリートを照らし、街の明かりがあっても良く見える星が幾多かあった。
「ヴィヴィアンは?またいつか彼女に会えるのだろうか?」
エドワードは冷たい表情で見たが、月明りで彼が隠していた同情が見えた。または、共感かも知れない。
「それはどうか。いいアイデアだとは思わない。」
歯に衣着せぬような言い方だった。
僕は酸っぱい顔をして見せ、金属の手すりに腰かけて僕と僕の小さな本を追っている飢えた獣たちを待つことにした。エドワードは僕が予想していたようなイラついた溜息をせず、ただ隣に座った。彼が知り合ってもいない女性を助ける手伝いをしなければならないのは難しいだろうと、僕は考えた。僕は彼と2冊の本を危険に晒していたし、それによって、地球や彼の世界も危険に晒していた。
「モンスターたちは、あのフェンスを越えられるのですか?」
「もしあのフェンスが神から送り込まれた生き物を止められるならば、それは神が越えようともしていないからだ。僕が知る限り、あの野獣たちは飛ぶことが出来る。」
「なぜ彼らはあなたを送り込んだのですか?」
と、僕は聞いた。
「あなたの力がここでは不完全であると知っていながら、なぜ他のガーディアンではなく、あなたを送り込んだのですか?」
「私を送り込んでくださいと頼んだからだ。前にも言ったように、私は地球の前ガーディアン、ロネスを良く知っていた。」
僕は何も言わなかったが、彼は数分経ってから、話し続けた。
「ガーディアンの思想はあまり一般的ではなく、数百年も試されてきた。他の者たちと違い、ロネスと私は、ガーディアンになるために生まれてきたわけではなく、実験的な存在だった。私たちは双子の兄弟だった。私がここに来るのを申し出たのは、彼を殺害した者たちを見つけることができるからだ。」
彼が何を感じているか考えながら、しばらく沈黙が続いた。僕は彼の兄弟の身代わりだった。
「あなたの喪失は残念です。」
彼は頭を振った。
「あなたの兄弟を殺害した者を見つけましたか?」
彼は、頭を横に振った。
沈黙が続く。
僕はおずおずとバッグを見て、誰からも言われずそこから本を取り出した。手に取って、分厚い紙をめくった。名前がいっぱい書いてあり、それが一つの名前なのか、団体になっているのか、判断がつかなかった。いくつかの名前は、明らかに人間のものだと分かったが、その他は違っていた。その中の一つは、ただの3本の平行線だった。もう一つは五角形の周りの記号だった。
「どれがあなたの名前ですか?」
と、僕は聞いた。彼は緊張したようなので、僕はもっとも無邪気な笑顔をした。
「僕の名前を消さない限り、あなたの名前を消しません。」
彼は腕を伸ばし数ページ戻り、僕が前に見た時はてっきり日本語か中国語だろうと思った小さくてエレガントなサインを指差した。
「あなたの言語でエドワードとはこのように書くのですか?」
彼は笑った。
「私の本当の名前は、エドワードではない。ただ単に、君にとってもっともらしい名前が必要だったのだ。」
と、彼は言った。僕は笑った。
「なんだって?」
「もう誰もこのような名前じゃないです。フランクやアルベルトと同じようにね。多分ヴィヴィアンのおじいさんと、後20人くらい知っているおじいさんたちの名前だったと思います。多分、その名前は、ご老人の普遍的な名前だと思います。」
「君は年上に対して無礼だな。」
彼はあざ笑うように言った。
「では、あなたの名前はなんですか?」
「キロ ヤトゥヌス」
と、彼は言った。
僕は瞬いた。僕はてっきり発音できないようなものと思っていたが、それとは逆に、なんだか日本語とラテン語を混ざっているように聞こえた。彼が以前言った三つの島の名前も、僕には日本語に聞こえたし、彼の名前も尚更だった。他の名前をじっくり観察した。
「君は何を探しているのだ?」
「他のショモディイ人。」
「なんの市民権もないし、他にモド・ヴィド・スドと言う三つの言語がある。私の名前は最もスタンダードなスドで書かれている。旅行や商売をしたい者たちはスドを知らなければならない。君も覚えなければいけない。スドは正式にツゾクと知られている。ツゾクを大まかに訳すると‘一般的’と言う意味で、ユニバーサル言語だ。多くの場合、実際にコミュニケーションをするには方言が多様だが、各世界にはこの言語の方言がある。」
「ロネスの名前はどこですか?」
と、僕は聞いた。彼はその質問で気を悪くするかと思ったが、次のページをめくって、ページの中ほどにあったエドワードのものに良く似たサインを指したときには、無関心な感じだった。ロネス、僕の前任者。
「もし、ウィザード達がガーディアンの子孫であって、あなたが信じているように僕がウィザードであれば、彼が僕の祖先と言うわけではないですか?」
「他に地球を訪問したガーディアンたちも、そうとは限らない。君がウィザードと言うことは、ガーディアンの子孫だが、でもロネス以外のではないかと思う。でも、大勢の子供がいたので、彼はまるで君の祖先のようだ。彼の子供達は、みんな非常に才能に恵まれていたが、生意気な傾向にあって問題を起こすのが好きだった。」
僕はそうでなくてよかった。
「あなたの惑星はなんていうのですか?」
「デュラン。人々はサゴと呼ばれている。」
僕は笑わぬよう我慢した。
「本当に?」
彼は混乱し、イライラして僕を見つめた。
「デュラン・デュランは80年代にとても人気のあったバンド名です。」
別に‘ハングリー・ライク・ザ・ウルフ’という曲の入ったCDを持っていることを言う必要はないと思ったし、まだCDを使っていることを認めたくもなかった。僕は、iPadやスマートホンを払う余裕はなかった。
「そうだ。ロネスに彼らのことを聞いた。」
そう話している間、彼は僕の本を見つめた。
「あのな、君に出会ってからまだ数時間しか経っていないが、もう既に君のために愚かなことをやっている。私たちが退屈することはないと思う。もしかしたら、ときには楽しいかもしれない。もちろん、君の魔法の指導者になることが好きになれるとは、言えない。」
そう言って僕を見た。
「でも、きっと、君にチャンスを与えないと後悔するだろう。」
彼はバッグの底からまっすぐな木を鉛筆のような形に彫刻したものを取り出した。消しゴムはついていないし、尖っているほうに鉛の芯はなかった。僕が確かめるようにエドワードの顔を覗き込むと、彼はうなずいた。僕は鉛筆を手に取ったが、彼は私の手を止めた。
「君は確信を持っていなければならない。これは、後戻りできるようなことではない。君がこれにサインしたら、永遠にこの世界の責任者となる。君の人生は永遠にそのことが中心となる。」
僕は、紙から数センチのところにある手に持った鉛筆をよく見た。
僕は人生において、自分への処遇を克服するため、必死になっていたが、あまりうまくいかなかった。僕は自分の仕事が大嫌いだったが、卒業するのを恐れていた。それに心理学が好きで心理学を学んでいたが、それを職業にはしたくなかった。正直に言うと、ファストフードで働きながら勉強する方がまだ良かった。正しいと思えることは何一つなかったし、僕が楽しみにできるようなキャリアはなかった。職も無い。
もちろん未知の世界は心配だった。冒険は危険だし、当然、ガーディアンとしても同じだった。でも、この人生を生きるのは容易で安全だが、やはり好きにはなれなかった。僕に訪れたチャンスを受け入れようと思った。僕は責任に怯えたことが無かった。本が間違えて僕を選んだとしても、僕はこの世界を守るために全てを捧げることができると思った。もしかしたら、エドワードが間違っていて、本も間違って僕の手に届いたのかもしれない。
僕は彼の名前のすぐ下に自分の名前を署名した。僕の名前が浮き出た。
エドワードが、突然、僕の手から本を取り上げ自分のバッグにしまった。僕が何か言おうとして口を開けると、僕は前に倒れた。彼は僕の腹に手を添え前方に放り出されないようにし、もう一方の手を背中に添えて後ろに倒れないようにした。僕は呼吸ができなかった。僕の心臓の鼓動が高く、半狂乱に動いている以外に、他の全ての臓器が麻痺したようだった。
そうすると、胸に穴が開き、冷たい空気が入ってきた。その冷たさは胸の中で氷の塊となり、心臓が鼓動するたびにそれは大きくなっていった。僕の胃は煮え滾っているようだったが、他の臓器は麻痺していた。僕は叫ぶことができなかった。
「身を任せるのだ。」
エドワードがアドバイスした。
彼が言うのは簡単だ。でも、僕には無理だ。呼吸ができなかった。
それは思考の下に埋葬されているはずだが、僕の頭に、ヴァンパイアが生まれ変わるために一度死ぬ光景がよぎり、僕は死ぬんだ!なんてこった!僕の体は、まるでそれを認めているようだった。僕は、どこか奥底で自分が死んで、アンデッドに(ゾンビ)なると思っていた。僕は追放されて、らい病患者のようにエドワードの倉庫に閉じ込められ、ショモジィイで生きるしかないのだ。僕の臓器は動くことができずに麻痺したままだが、頭はグルグル回り、僕の手は、肺へ酸素の通り道を作るかのように胸を引っ掻いていた。
その様にして、引っ掻いて噛みつくような寒さは次第に胸の刺すように痛む部分へ後退していった。小さな氷のかけらのようなものが、しびれとなった。僕の内臓は動き始め、僕は必死に空気を吸い込んだ。僕は立とうとしたが、エドワードの手がレンガの壁のようにびくともしなかった。僕は体を芝生の方へよじって、胃がその働きをするようにした。僕はバーガーを失った。持っていたことも知らなかった。
エドワードが僕を放したとき、僕は夕食を逃してしまったかのように倒れた。
「あれは、いったい何だったのだ?」
エドワードは僕の頭の横にしゃがみ、僕を興味深く覗き込んでいることがわかった。
「私が思ったより早かった。だから再び言うが、大半のガーディアンがそのために生まれてくる。」
彼は、この状況が求めるよりも、あまり心配していないようだった。
僕は座れるようになるまで数分かかった。僕が第一ボタンを外してみると、僕の心臓のあたりに新しいシンボルが現れた。そのシンボルは、直径2インチくらいのもので、ペンタグラムに別のラインがクロスしたり巻き付いたりして絡み合っているものだった。まだ新しいものにも関わらず、古いタトゥーのように色あせた黒いものだった。
「これは、ここから消えるのですか?」
僕はまだ痛みを感じながら、聞いた。シンボルの周りは麻痺していたが、荒れて赤くなっていた。
「いいえ。」
エドワードは、シャツの首元を下げたので、彼のマークを見ることができた。なんとなく日本語っぽかった。
「君は立てるか?」
僕は頭を振ったが、立とうとはしなかった。
「これがこんなに痛みを伴うって、なんで言ってくれなかったのですか?」
「ため込んだほうが悪い。私は痛みが伴うと聞いていたが、まだ幼いころに印をつけられた。だから、覚えていない。まだ痛いのか?」
「いや、ただ痺れているだけです。あなたの本の時も、こんな感じですか?」
「その痛みは、ガーディアンになったためだから、他の本にサインするときには痛みを伴わない。立ってみなさい。」
僕は何もなかったかのように立ち上がった…、頭の中でね。実際には、芝生に顔から倒れそうだった。僕は言うことがないような恥ずかしい言葉を怒鳴り、エドワードは僕を座った体制に引っ張り戻した。
「君が立てないようであれば、戦うときに魔法でさえも助けにならないだろう。」
「立てるけど、もうちょっと待ってください。」
と、僕は言った。エドワードはプレデターが別のプレデターの気配を感じたように周りを見回した。
「少し待てますか?」
「ほんの少しならいいが、やつらは私たちが近くにいるのを知っている。多分、罠がないか探しているところだと思う。」
「いくつか罠を仕込めばよかったかも知れませんね。あなたは釣り針のミミズのように感じていますか?」
彼に睨まれ、目が回った。
「忘れてください。ちょっと、手を貸してください。」
僕が伸ばした手を、彼は掴んだ。
「立たせることは出来るが、立っているのを助けることは出来ない。」
僕には体が鉛のように重く感じられたが、彼は軽々と僕を引っ張って立ち上がらせた。
「はい。分かりました。」
と、僕は言った。
エドワードは振り返って後ろの森の方を覗き込んだ。彼が何かを言うまでもなく、僕は小枝が折れる音を聞いた。そして、雷の音が他のすべての音を消す前に、木々の葉っぱがこすれる音を聞いた。僕が上を見ると、雨が落ちてきた。嵐が来たのだ。
雨によってエドワードの髪の毛がほほに張り付いていく間に、彼は安心したように微笑んだ。
「神は善良だ。」
僕はうなずきながら森の方を見た。
「では、僕はどのようにして雷を落とせばいいのですか?」
と、問うた。
彼はその考えに驚いた。
「やってはいけない。それには途轍もないコントロールが必要だ。ただ自分自身の身を守ることに集中すればいい。」
また先のほうで音がしたが、エドワードは後ろのスケートのエリアを見た。
僕が振り向いた時にはすでに遅かった。やつらがそこにいた。やつらの冷たい冷気を感じることができたが、僕は急に地面に倒れていた。僕の上に乗ってくると思ったが、眩しい光と共に耳をつんざくような音がして、やつらは遠くへ転がった。次に、僕に何が起こったか把握する前に、野獣たちはすぐさま立ち上がり、逃げて行った。
エドワードは僕の腕を掴み、立ち上がらせた。
「それは、良いアイデアではなかったような気がする。」
「時には悪いアイデアがないと、この人生は面白くないのでは?間違いや悪いアイデアが科学に画期的な進歩をもたらしたのです。」
僕は息を切らして、漫然と話していると知っていた。
僕たちは周りを見回したが、エドワードの態勢から判断すると、僕たちは囲まれていた。
「ここにどれだけいるのですか?」
「今はまだ三体だ。一体はとても怒っている。」
沈黙があった。
「一体は去ろうとしているが、他の二体はまだその辺にいる。」
どうして僕はもうそのことを知っていたんだ?
「エドワード、彼らを感じることができるようです。」
彼は疑いの視線を控えた。
「それには、スキルとトレーニングが必要なので、ほぼ不可能だ。」
「あなたは、僕がどちらかを備えていると言っていましたよね。僕は何の違和感もありませんが、彼らを感知することができるようです。今回はかなり強いですが、まるで誰かに見られているような感覚です。」
僕は彼が見たように、自分の背後を見た。杉の木の暗い影から、全く予期していなかった4体目の獣が出てきた。
僕は暗黒の神が何かを取り返すために何者かを送り込むとすれば、その神はクリエイティブかと思った。僕はてっきり恐ろしい外見の‘何か’か、無形の黒い煙のようなものかと思っていた。僕は間違っていた。
僕の印象は、巨大で鱗に覆われた猫だった。でも、街灯の近くに止まると、そんなに似ていないと思った。頭がつるつるで、尖った耳は頭の横の部分にあって、何よりも角のようだった。それの唇はねじ曲がっていて、むしろ犬のような感じで、とても小さくて尖った歯を見せていた。たくさんの尖った歯。体つきももっとやせていて、まるで爬虫類だった。うろこは先が尖っており、雨で黒く光っていた。
そのリアルさで、実際にはずっと恐ろしいものだった。超自然的なことや未知のものへの恐れとは逆に、今、僕の顔を食おうとしている巨大な肉食獣に直面していた。それと同時に、やつらは十分にエイリアンだったので、やつらがどのようにして襲ってくるのか、超自然的アドバンテージがあるのか、さっぱり見当がつかなかった。
エドワードが‘猫のような’獣に対して何かをする前に、別方向の森の狭いところから他の獣が現れた。ウサギのような走り方で、あまりにも早くてはっきり見えなかったが、エドワードが反応できないうちに、その獣は彼を捕まえた。
僕は一体目がちょうど頭上の空中にいるのを目撃するタイミングで振り返った。でも、運よく、やつが僕の上に乗った時、僕は既に降りようとしていたので、攻撃のタイミングがずれて、やつは僕が直前に座っていた板金属バー方へ転がっていた。金属バーは半分に折れたが、やつはものともしなかった。
僕は自分の勢いに乗ったまま、転がり戻って膝をつき、まれな俊敏性で立ち上がった。普段の僕はかなりどんくさい。僕は3フィートくらいのバーの破片を手に取りエドワードの方を振り返った。武器は取り返した。5ポイント。お願いだからレベルアップしないでくれ。エドワードはまだボーっとして地面に倒れたままで、‘猫’がバッグを噛んで取っていた。僕は、本能的に猫の顔に向かってバーをバットのように振った。バッグが吹き飛んだが、猫はちっとも動じなかった。やつの打撃を受けた顔の鱗は薄紫になり、やつは僕に向かって唸り声を発した。
自分がミスったと気づく前に、猫は僕の上に乗っていた。僕はエドワードがもう一度雷の術を使うのを願った。そうすれば、こいつが僕の顔を食って喜んでいる間に、焼けこげるからだ。 僕は、雷が獣に落ちて、クリスマスツリーのように光っているのを想像した。僕の想像はとてもリアルで、カッと目を眩ますような光と、雷の音が耳をつんざいた。
正直に驚いたのだが、猫が僕を離して、横に落ちた。やつは苦痛で痙攣していたので、僕は唖然として座った。やつの目は閉じていたが、まだ息をしていた。
僕のすぐ後ろからきたうなり声が、巨大な足が僕を怪我した猫の上に投げ飛ばす前の唯一の警告だった。あの遠くへ転がっていた猫は、今回も着地に失敗しなかったようだ。
僕は顔と首を守るために腕をあげたが、やつが僕の腕を噛みつく痛みは次第に酷くなって、僕の予想を超えた。やつの顎が僕の前腕部をすっぽり捉え、僕の骨が数か所で折れたのが分かったし、獣の冷たい涎が焼けるような感じだった。やつは僕の腕を強く引っ張って離し、その歯が僕の首をめがけてくるのが見えた。僕は目を閉じようと思ったが、出来なかった。岩に金属が当たるような音がしたとき、僕は何が起こったか分からなかった。そして、なぜ、獣の代わりにエドワードが僕の上にいたのかも、分からなかった。
彼は、長い方のバーを持っており、猫を押して僕の首から遠ざけていた。スイングの勢いで猫を上へ、そして数フィート遠くへ打ち飛ばした。エドワードは猫から離れ、その胸にギザギザの先端をドンと放った(突いた)。それの金切り声は、僕の知る動物やモンスターとは比べられないほど、全く違っていた。その大きな体にのめり込んでいなかったかのような感じでエドワードはバーを引き抜いて自分の前で持ち上げ、猫の足に刺した。彼は引き返し、僕の怪我した腕を掴み、引っぱり上げた。それら全ての出来事は、モンスターが僕の顔を食っていないと気づく前に、起こった。
そこで、僕の体が濡れて、疲れて、寒いことに気づいた。僕がよろめいていると、彼は僕を揺さぶった。
「君は獣を感電させるために稲妻を使ったのか?」
と、聞いた。
なぜ頭がグルグルしているのか分からないまま、僕はうなずいた。
「何を考えていたんだ?それは非常に危険だったぞ!」
その後の僕のヒステリックな笑いは、世界のどこででも心理病棟に連れて行かれておかしくないものだった。
「僕は創造力を発揮しただけです。もう一体は何処へ?」
「分からない。応援を迎えに行ったのかも知れない。」
しかし、エドワードの間違いを証明するかのように、獣は戻ってきた。」
僕の頭はやっとはっきりしてきて、体も普通に戻り、視野から離れたところで待機している獣を感じ取ることができた。やつが近づいてこないので、僕はエドワードを見て、指示を待った。
「なぜやつは攻撃してこないのですか?」
「もしかしたら、強力なやつらを邪魔しないようにどこかへ行っていたあの小さいやつかも知れない。きっと自分より強力な獣を焼付けることが出来る二人のウィザードには対抗できないと知っているのだろう。それか…、そいつは、他の二体よりもはるかに賢く、強いのかもしれない。」
彼は僕を見たが、どうやら僕が好ましく思わないことを企んでいるようだ。
「君が稲妻を使ったとき、獣に完璧に命中した。君はトレーニングを受けていない新米ウィザードにしては、とてもパワーがあり、コントロールも良い。その後、君が立っていられるのも、驚異的だ。」
「いや、あなたのように稲妻のようなスピードであの二体を殺したのが、衝撃的です。僕もそのように早くなれるのですか?」
「私の世界では、出来ない。ドゥランの重力は地球よりも大きいので、ここでの私の体重は軽くなっているので、とても素早く動けるのだ。ふつう、魔法について何も知らないものには聞かないが、君は再び稲妻をコントロールできると思うか?」
「多分、やつらが僕の顔を食おうとしていれば、出来ると思います。あなたも出来ることを願います。」
「私はこの弱い世界でできることをやって、あの愚かなやつらに衝撃を与えた。君はそれを考えて、やつらをひっくり返して焼いた。もし私が獣を君から遠ざけて同じ場所に居させたら、君はやつらを焼けると思うか?僕も焼かないようにだが…」
「自分が何をやったか、本当に分からないのですが、やってみます。もしあなたの足や腕が焼けたら、怒らないですよね?」
と、聞いた。
「獣にもあてることが出来たら、怒らない。」
彼には、せめてものユーモアのセンスが…どこかにあるようだ。
雨の勢いが強くなり、雷が落ちはしないが、より頻繁に鳴るようになった。月は相変わらず分厚い雲の後ろに隠れていたが、雷と街の光害が空を明るくしていた。
あの獣が慎重に接近してきた。てっきり僕たちを欺くために何かするのかと思っていたら、僕たちの真ん前に踏み出してきたので、驚いた。エドワードは自分のバッグを掴み、僕に渡した。猫の目がそれに焦点をあてたとき、震えた。もちろんその獣はどこに本があるか知っている。僕は胸に的を押し付けていた。エドワードが数歩前に出た時、猫は横に移動し始めた。回っていたのだ。
街灯がバチッと音をだしたが、街明りで明るい空の下でキラッと光る猫の歯を見るのは容易だった。街灯が消えた瞬間、猫は飛びあがった。こいつは他のよりも猫らしく走り、2倍速かった。どのような方法で猫は横に出没して、完全に消えるまで、まるで左右に走り回っていたようだ。地面が上に向かって爆発し、猫はそのすぐ横に、瓦礫につまずきながら再び現れた。
僕は走り続けた。まえよりゆっくりだが、稲妻の術を使うには速いスピードで向かってきていた。やつは再びつまずいて、今回は頭と背と下にして冷たく止まった。僕はエドワードに聞いている暇などなかった。前にやったよう、稲妻が猫に落ちるイメージを描いたが…、何も起こらなかった。
「殺せ!」
と、エドワードは言った。
「やろうとしている!」
大きなスナップ音がして、猫が急に走り出した。僕は泥水に倒れ、再び恐ろしいエイリアンに伸しかかれ、防御するために腕を上げるのがやっとだった。前にやられたように獣が僕の腕を噛んだとき、僕の横で地面が爆発した。僕の首よりも、腕の方がまだよかった。
すると、猫は僕の上から下りた。エドワードが数秒間、獣の首に腕をしっかりかけたのだが、その後そいつに乗られ、今にも顔を噛みつかれそうになっている。彼の鼻は顔の大きさほど大きく、体も大きかった。
僕の思考は分散し、とんでもない怖さに迷い、ちゃんと考えることができなかった。あの眩しい光や、猫の悲鳴が何を意味するのか解らなかった。分かるのは、自分が引き裂かれて焼かれているような痛みとそれに続く痺れ。稲妻が僕に当たったのだ。
* * *
僕は途轍もない痛みを感じていたが、何かが間違っていると気づいていた。僕は痛みを感じないはずだ。僕は、死人は痛みを感じないと想像していた。急に物事がはっきりし、胃がひっくり返るようだった。僕は地獄にいるのだ。僕の母は間違っていなかったのか?いいや!僕はこの終止符をいつになっても聞けないだろう!
でも、重たい息遣いが聞こえた。
妙なことが起こった。
僕が目を開けた。真っ暗だったが、エドワードがしゃがんで僕を覗き込んでいた。彼は僕にCPRを施していた。なんて酷い人だ。僕を砕けた体に連れ戻した。
彼は息を切らしながら座った。
「君は強烈なパワーを持つ者にしては、とても軟弱だ。」
「あの猫!」
のどが詰まって、咳き込み、止まらなかった。
「君はやつを殺した。君は前回やったようにやつに触れもしないで、瞬間的に殺して、自分自身を焼いた。だが、グッドニュースは、私を焼かなかったことだ。」
「僕は不死身になると思ったのだが!」
「ある意味、不死身だ。それは、君が年を取らないのと、殺されにくいってことだ。不死身といっても、いろんなレベルがあって、私たちは不滅に近いのだ。私たちは、老衰や病気では死なない。そんなところだ。」
僕は咳き込みながら笑ったが、痛みがさらに増し、僕は泥だらけの冷たい芝生の上に倒れた。咳がやんで、僕は明るい空を見上げた。
嵐ではなかったのか?
「僕はどれくらいの間気を失っていたのですか?」
「君は一分ほど死んでいた。」
と、彼は答えた。僕は彼が一度座って立ち上がった時に、彼が隣で横になっていたのだと気づいた。
「さあ、もう行ったほうがいい。」
彼は怪我をした僕の腕をつかんで座らせたが、僕が思わず叫んだので、止まった。体中に激痛を感じていた。
「水が欲しい。病院にいかなきゃ。」
と、僕は言った。
「いや、それには時間がかかりすぎるのと、質問攻めにされる・」
彼は自分の本を取り出し、僕の手に芯なしの鉛筆を置いた。僕は書こうとしたが、手が動かず、鉛筆を感じることもできなかった。
「できない。」
と、僕は言った。鉛筆と本が消えて、彼は僕を立ちあがらせた。僕の視界がぼやける前に、もう一度叫んだ。
「急げ。あまりにも大きな騒音がしたので、誰か見にくるかも知れないので、ここにいるべきではない。」
僕は確信を持てなかったが、
「すみません。」
と、言った。僕の思考と体が繋がっていないようで、全てがグルグル回っていた。耳鳴りが始まったとき、気を失うと知った。エドワードは僕を支え、歩かせた。というか、彼に引きずられているような感じだったが、僕はかまわなかった。木に腰かけるまでにどれくらい経ったか分からないが、僕はもう一度、
「すみません。」
と、言った。
「気にするな。君はよくやった。気を失いそうなのか?凄い汗をかいているし、青白くなっているぞ。」
返事を待つことなく、彼は僕の口に小さな瓶を押し付け、
「飲みなさい。」
と、命令した。
僕は飲んだが、喉を詰まらせるところだった。それは薬のように濃く、甘いホウレン草のような味がした。その液体が胃に達した時、頭痛が止み、体温は平常に戻り、吐き気と耳鳴りもなくなった。
「よくなったか?」
「ええ、とても。」
彼は僕の負傷した腕の袖を引き上げ、大きな血のみみず腫れをあらわにした。「我々が世界間をジャンプする前にこれに添え木を付けるのは良い考えではないかも知れない。」
彼が骨折した部分を探っている間、僕は目を閉じ、血の味を感じるまで唇を噛んだ。
「君の骨は二か所で折れて、三か所でヒビが入っている。」
僕の腕が冷たくしびれ始めるまで、腕を見ることが出来なかった。彼はミント色のペーストを傷口に塗っていた。
「それは何ですか?」
「私の世界から持ってきた薬草のミックスだ。」
彼は塗り終わった後、近くにあった黒い入れ物を閉めた。
「これは少し痛むぞ。」
と、警告した。
彼がバッグから白い包帯を取り出して僕の腕に巻く間、僕はあいていた手で口をふさいだ。それを縛った時僕は歯をかみしめたが、痛みはすぐに消えた。その薬草ペーストがなんであれ、素晴らしかった。
「どうだ?効いているか?」
「ええ、ありがとう。」
僕は座っている態勢を整えるために立ち上がって、咳をした。僕の肺は、皮肉なことに、実際には煮えているはずなのに、まるで生のままのようだった。
「出発する前に…、アパートに行くのを手伝ってもらえませんか?」
いくつか持って行きたいものがあるのと、ヴィヴィアンに電話したかった。
「私たちは長居ができないし、いる時間が少ないほど良い。」
でも、彼は僕が立ち上がるのを手伝ってくれた。
「あまりお勧めできない。」
「あなたの忠告は評価します。」
ただ、清潔なパンツをもう一枚くらい持っているのも大事だ。
「僕の手をコントロール出来るまでどこへも行けないので、その他のすべきことを処理しましょう。」
自宅まで歩くのは耐え難いものだったうえに、やっと着いた時、まだ手が動かなかったので、エドワードがドアロックを外した。運よく、大丈夫かと確かめられるほど、ご近所さんは誰一人僕の心配をしていなかった。
僕とエドワードのためにタオルを出した後、洋服ダンスを開けて書類をいじり始めた。預金通帳や学校の書類などは必要なかったが、出生証明書と社会保障カードは置いておかない方が安心だと思った。エドワードがソファーの隅で僕の猫を愛撫していたリビングへ、お気に入りの服を数枚もって戻った。
「その子はドリアンです。連れていってもいいですか?」
「ダメだ。僕の本にサインできるなら、行けるが。それに、彼がドゥランに適応するのは困難になるだろう。」
僕はうなずいた。もう一つの別れだった。僕は痛みを無視して、折れていない方の腕で抱き上げて彼の顔を見た。
「君は僕の大学生活をサポートするためにあそこにいたんだ。もしかしたら、ヴィヴィアンがいい場所を探してくれるかもしれない。」
彼を地面に下すと、撫でてもらえなかったのでイライラして飛び出していった。
僕はつまずきながらキッチンへ行き、シンクの上にあった携帯電話を掴んだ。僕は刺すように痛む指で正しい数字を押すよう何度か試みた。それを耳にあてると、誰かが応答するまでに数回鳴った。
「もしもし?あなたは間違った番号にお掛けになったようです。」
僕は四歳児の声を認識した。
「ハンナ、ヴィヴィアンはそこにいるかい?」
僕はヴィヴィアンの一番下の妹に聞いた。
「いいえ、彼女は彼女の部屋にいるわ。」
「お願いだから、電話を彼女の部屋まで持って行ってくれないか?」
ハンナが階段を上がる音が聞こえ、ドアの開く音がして、ヴィヴィアンがハンナにドアノックをせずに入ったことに注意する大きな声が聞こえた。
「もしもし?」
彼女の甘い声は、疲れ果てているようだった。
「僕だ。勉強はどう?」
彼女がベッドに座る音が聞こえた。
「最悪よ。まだ勉強始めることさえできていないわ。しかも、ブライアン氏が2週間前に言ったと言い張る明日が期限の書類もある。もちろん、彼はあの黄ばんだ入れ歯を通して嘘をついているのよ。それにドクタードゥームは、彼の演説10頁をチェックするように言っている。私的に、良い秘書だけが必要であって、弁護士のように書く必要はないのだと思うわ。」
僕が彼女と話すのは最後となるかも知れないのに、彼女の機嫌が悪くて少しがっかりした。僕はエドワードがいるリビングの方を見ると、僕に注目してないのが分かった。
「先週末、チェルシーと観た映画はどうだった?」
彼女は一瞬止まった。
「素晴らしかったわ。そこに誰がいたと思う?」
そして彼女はその一日の出来事を離し続けた。五分後、彼女が一息ついたとき、話に割り込むことが出来た。
「楽しい一日だったようだね。ねえ、僕の母の新しい恋人についてだけど、ちょっと聞いてくれる?」
「いいわよ?」
彼女は僕が急に母親とそのアホな恋人について話し始めたので、驚いたようだった。
「彼がどうしたの?まさか、またあなた悩ませるために戻ったのではないでしょうね?私、接近禁止命令を申請することが出来ると思うわ。」
「いや、そうじゃなくて…、彼が事故に合ったんだ。彼は今ダラスの病院にいるので、母の所へ行かなければならないんだ。僕は今夜発って、多分、一週間以上戻れないと思う。ドリアンを自由にしようと思う。それに、職場から給料の小切手もまだもらっていない。もし君が取りに行ってくれるようなら、君に取っておいていいから。そうしなければ、無駄になってしまう。僕の部屋は散らかりっぱなしなので、いつか消毒しなければならないので、だから僕が帰ってくるまで入らないでください。」
「オッケー、では戻ってきたときにまた会いましょう。本当に大丈夫?」
「ああ、大丈夫になる。では、もう行かなきゃならないので、またね。」
僕は電話を切って、ため息をつき、振り返って飛び上がった。かろうじて男らしくない悲鳴を挙げぬよう堪えた。エドワードが1フィートぐらい後ろに立っていた。
「ジーザス!やめてください!まるでヴァンパイア見たいだ。」
エドワードは笑った。
「いや、違うよ。近々本物のヴァンパイアを見せてあげるよ。」
「そういうものは存在しない。」
と、エイリアンに向かって言った。僕は引きずるようにしてリビングへ戻り、自分の持ち物をビニール袋に入れた。たった一枚のスーパーの袋に自分が大切だと思うものがすっぽり入ってしまうのを見て、悲しくなった。更に悲しくなったのが、そこに、自分の持ち衣装の殆どが入っていたということだ。
「そんなに沢山物を持っていく必要はない。服は一つも持っていく必要が無い。私たちはアノシイイに寄っていくつかのものを手に入れなければならない。そのような変わった服を着て歩くのは賢明でないので、私のものをいくつか貸すこともできる。向こうの人々は君が他の世界の者だと知ってはいけない。しかし、君はなぜ彼女に一週間ほど留守にすると言ったのだ?」
「そうとでも言わなければ、彼女は明日にでも僕を探しに来ると思います。僕の部屋はまだ僕の匂いが残っているし、もちろん本の匂いも残っているでしょうから、ここに来るのは、今僕と一緒にいるのと同じくらい悪いと思います。」
エドワードはうなずいた。
「君は非常に賢い。本にサインをする覚悟はできているか?」
「多分。」
「行く準備はできたか?」
と、彼は聞いた。
僕はドリアンが出るためにドアを開け、それから閉めて鍵をかけ、自分の書類や歯ブラシと歯磨き粉と着替え二枚を持った。
「できる限りで準備した。では、私たちはどうするのですか?」
「君は、君の腕の印を覚えているか?」
「ええ、意外と覚えています。」
「では、それに集中するのだ。全てを忘れて、印に集中しなさい。まだ君にどうやって一人で移動するのか教えている暇はないので、私が二人分やる。」
彼は僕からバッグを取った。
僕はうなずいて、目を閉じた。数分後、僕はその印以外、頭の中を空っぽにすることが出来きるようになった。実際には疲れ果てていることが、その助けになった。
そうすると、僕は空気のように軽くなったと感じたが、落ちているようにも感じた。風はなかったが、まるで強い風が僕の顔に向かって吹いているように、息が出来なかった。僕は落ちる感覚が嫌いだったが、全体的な感覚がいい気持ちだということに驚いていた。僕の体はそう痛くなかったし、落ちている感覚の時のように胃が無くなるような感じはではなかった。僕はもう疲れていなかった。
それが終わった。痛みや疲れと、なまりのように重いような新しいレベルの感覚があっという間に襲いかかってきた。力強く地面に落ちた。息ができると気づくまで1分かかったが、それでも、まるで半分水に浸かって息をしているようたったが、冷たい湿気が僕の肺の痛みを和らげた。
エドワードは僕を仰向けにしたが、暗かったのでよく見ることが出来なかった。僕は外の柔らかい濡れた芝生の上にいた。
「来なさい。君は中に入って、体を乾かさなければいけない。」
僕は座ろうとしたが、体がとても重く、疲れていた。その瞬間、僕はドクゼリを誤って飲んだ時よりも悪い状態だった。エドワードはため息をついた。
「それなら、いい。とにかく、寝なさい。」
それなら出来る。エドワードは僕を抱き上げ、僕が気を失っていく間に、きしみながらドアが閉まる音が聞こえた。