第三章

目が覚めた。既に後悔している。僕の心臓は頭にある様で、胃はグリーンピースのように縮み、体中が痛み、腕はかゆかった。もう月曜日だっけ?またルイス教授の授業で寝ちゃったのか?

僕の額にそっと当てられた冷たい濡れた布が頭痛を緩和してくれ、自分に何が起こったのかゆっくり思いだした。僕はパッと起き上がり、後ろへ倒れた。それは、単に手を上げて顔から布を取るのも困難だった。朝の柔らかい光が部屋いっぱいに差し込み、遠くに未知の鳥たちの鳴き声が聞こえた。

部屋は小さく暗かったが、壁の上部にある2x3フィートの窓から十分な光が入っていた。家具は少なく、むき出しの壁で質素だが、地下室よりも居心地が良かった。僕はツインサイズのベッドにいて、薄茶色のウールと短毛のあいだの何かでできた毛布を掛けられていた。ベッドはフラシ天のようで柔らかく、バネではないようだ。部屋の反対側に誰もいない、似たようなベッドがもう一つ置いてあった。僕のベッドの横には、約3フィートの引き出しが3つ付いた小さな漆黒のドレッサーがあった。もう一つのベッドの横には赤いマホガニー色の似たようなドレッサーがおいてあった。僕のベッドの足元から5フィートくらいのところに、隠し扉につながった木製の階段があった。ドレッサーの反対側の壁の真ん中にモカ色の大きな本棚があった。

僕は、自分の新しい重さに対応しながら再び座った。めまいが過ぎた数秒後には、そんなに困難ではなかった。腕には包帯が巻かれていたが、体の他の部分より痛くなかった。怪我と言うよりも痛みだった。そこに僕の服はもうなかったが、たぶん自分が流した大量の血でダメになったのだろう。その代りに足元にシャツとジーンズが畳んでおいてあった。気を付けて着替えていたが、動くたびに僕の筋肉は悲鳴を上げた。

僕は立ち上がり、多少ふらついたが、階段にたどり着いた。扉を押し上げるのに奮闘して息が切れた。そこの空気自体が濃く、湿度が高いようだったが、酸素が薄いわけではなかった。

僕は、絵のように完璧なシンプルで快適なキャビンに入った。床や壁、天井やドアも暗褐色(ダークブラウン)の木材でできていた。高くも広くもない12x12位のキャビンだった。僕の左奥の壁には真鍮のノブがついた重そうなドアがあった。ドアの左側には、外側に耐久性のシャッターがついた大きな窓があった。ドアの右側には空の大きなケージがあった。

僕が立っていた隠しドアの前には直径4フィートの暗褐色の木材できたテーブルと、それに合った木のイスが周りに3脚あって、テーブルのセンターには奇妙な真鍮のランプが置いてあった。テーブルの向こう側には薪ストーブがあった。僕の右側の壁には、棚やキャビネットのコレクションが置いてあった。

ストーブの横には、暗褐色のベルベットを張ったクッションの大きな安楽椅子があった。それの反対側には古い本、小さな壺や瓶などが沢山並んだ本棚があった。透明な瓶の一つには、小さい骨が詰め合わせてあった。

トイレは何処だろう?エイリアンもトイレに行く必要があるよね?僕は頑張って体勢を真っ直ぐ保つようにして、ふらつきながら、ゆっくりドアまで行きついて、ドアを開けた。僕は明るい光にうめき声をだし、かなりの大きさのポーチの方向へつまずいて出た。僕がこれから生きていく世界を初めてみた瞬間だった。

キャビンは深い森の中にあった。僕が言った深い森とは、熱帯雨林のような深い森の事だ。木々はとても大きく、枝も高かった。その大半が緑の色んなトーンの葉に木の幹は茶色かったが、その中で一本が完全に銀色だった。とても美しかった。

森の中の草の方が、空き地の方の草よりも背が高くて約1フィートぐらいあり、普通のよりも色が濃く、青っぽかった。空はまさに紺碧の色で、太陽は地球と同じように暑く輝いていた。気候は暖かく澄んでいて、空気は変な感じだったが、僕の肺には心地よかった。それか、僕の気の毒な肺は、単に再び酸素を吸うことが出来て喜んでいるだけかも知れない。

僕の左側から4メートルぐらい先に、知り合ったときと同じような服を着たエドワードがいた。彼は薪割をしていたが、全然違和感がなかった。僕を立ち止まらせたのは、切られた薪の皮は茶色かったが、内側は明るい緑色だった。

彼は薪割を止めて、僕を観察した。彼の眼は以前のように冷たくも深い茶色でもなかった。日中の明るさのせいなのか、それとも自宅にいるからか、彼はとても親しみやすく見えたので、これから彼と何年も同居しなければならない僕は、ホッとした。

「僕はどれくらい気を失っていたのですか?」

と、聞いた。僕の声はかすれていたので、もう一度言ったことを繰り返さなければいけないと思った。

「二日間だ。でも、もう既に立っていることに驚いた。」

彼の前に行くために石段をゆっくり降りているのを、彼は心配そうに見ていた。

「ここの重力はもっと重いと言いましたよね?」

「嘘ついてはいない。ドゥランは同じ密度でサイズが大きいので、こっちの質量が大きいのだ。」

「だから重力が増す。」

と、結論を出しながら、うなずいた。

「君はじきに慣れるだろう。」

と、彼は保証した。

彼が何かを噛んでいることに気づき、自分の小さくなった胃の事を思い出した。

「なにか食べるものはありますか?」

「どうも君は、ヴォルクラムやミルワイドが嫌いのようだ。」

と言って、変な顔をしたので、笑うところだった。

「ムルクなら気に入るだろうが、この時期には希少だ。ここを終えたら何か探しに行くことが出来る。」

彼は割り終わった薪の山にかがんで、薪の皮切れを取った。

「待つ間にこれを噛んでいなさい。君のめまいに効くはずだ。腕の具合はどうだ?」

僕は腕の包帯を見た。

「実は、すっかり忘れていました。痛くないです。」

僕は木の皮を擬視した。

「これは、なんですか?」

「ウィグノットの木の皮だ。それは優れた医療特性を有するが、次第に味を覚えるものだ。君の腕に塗った薬にそれの葉を使った。」

用心しながら、小さな切れ端を口に入れた。

「ミント」

と、僕は言った。今まで口にしたことのある皮のうちでは、一番良かった。エドワードは肩をあげ、薪割を続けた。また切らなければならない大量の木が積まれていた。

「それの他に斧はありますか?」

と、僕は聞いた。

彼は僕をちらっと見て、薪割を続けた。

「肉体労働にはまだ早すぎる。君が覚えていないのなら、君が誤って、どのようにして自分自身を料理したか思い出させてあげようか。」

と言って、彼は止まった。

「君を休ませるつもりはないが、完治した時には、今までやったことの無いようなキツイ肉体労働をする心の準備をしなさい。」

「僕の母にも同じようなことを50回くらい言われた。あなたは、彼女よりひどくないはずです。」

と、僕は言った。彼は笑い顔でそのまま、薪割りを続けた。きっと彼はあの作り笑いの表情をつくるのに長いこと取り組んだと思う。

「あなたは、正確にはいくつなのですか?」

「きっと君がなれるよりもはるかに年上だ。」

僕はポーチの階段に座り、エドワードに質問した。僕が思ったより早く材木の山は減っていったので、ずいぶん少なくなったころ、僕はこのウィグノットの皮が本当に好きだと感じていた。

ドゥランの他の土地について聞いたら、僕が覚えていられないほどの地名と特徴を教えてくれた。ショモジイ、アノシイとカンジイの他に、バンジイイ、トゥモルジイイ、モキイイ、ミジイイとゼンジイイがある。ゼンジイイはドゥランのハワイのような場所で、常に素晴らしい天気とビーチのあるパラダイスだ。要は、あまり行くべき場所ではないようだ。バンジイイは、軍事エリアで厳格な規律のある場所。そこの学校に入学するのは難関で、膨大な学費も必要だった。一般的な人々は無神経で、うぬぼれていて、疑わしい傾向にあった。モキイイは、唯一王国のある国だが、エドワードの説明からすると、非常に中世のようだった。それと、ミジイイはバンジイイの反対で、ショモジイのようなところだが、ここのように多くのマグスや不安定な気候はなかった。

暴風を伴う嵐、雨の嵐、吹雪、砂嵐、放射線の嵐や火の嵐を含む不安定な気候以外には、それらの場所すべてのうち、ショモジイが一番楽しそうだった。ここには幾つかの小さな村があるが、少ないうえに、お互いに遠かった。

僕はキャビンの反対側にアネックスがあることを知って、びっくりした。それは腹立たしかった。エドワードにバスタブの場所を聞いたとき、もっとびっくりした。

「バスタブとはなんだ?」

と、無邪気に尋ねた。

僕はまた我を失うところだった。

「バスタブは水を入れて自分の身を清潔にするものです。石鹸や他の裳を使うって、知っているでしょ?」

彼は薪割りを止めて、僕を見た。

「冗談でしょう?」

「もちろん。バスタブが何か知っている。」

神よ良かった。

「ただ、うちにはバスタブが無いだけだ。ショモジイには配管が通っていないので、皆、入浴するお湯は自分で温めるのだ。」

「では、僕はもう二度と温かい湯には浸かれないのですか?」

僕の焼かれた心臓が砕けそうになりながらも、聞いた。

「僕の土地には温かくて清潔な温泉がある。」

と、彼は言った。彼は割り続け、もうあと少ししか残っていなかった。」

僕はこのアノシイで、服以外に何が必要なのか考えたが、一つのことしか思い浮かばなかった。

「アノシイにケチャップはありますか?」

エドワードが切り終えた時に聞いた。せめてトマトくらいはありますか?もう何か食べられますか?

彼は明るい空を見上げながら、斧をキャビンの壁に立てかけた。

「よし。」

僕は、彼が家の中に入り、2丁の散弾銃を持って出てくるまでしばらく待った。僕の視線で彼はしかめた。

「君は散弾銃のバレルを動物に向け、引き金を引くだけだ。地球で君たちも銃を持っているのは知っている。」

「ええ、あります。でも…、あなた達は配管がないのに、ハイパワーな銃を持っている。皮肉だと思っただけです。」

「君はわたしがどのようにして狩りをすると思っていたのだ?」

「魔法?」

僕の口から愚かなことを言ったので、エドワードは呆れた。本当にいくつかのことは世界共通ではないようだ。

「何を狩るのですか?特に目星がついているのですか?」

「いや、特には決めてない。ただ、撃つ前に私に聞くように飛んでいるものは気にしなくていい。」

「長い狩りになりそうです。」

僕たちは森へ向かった。多くの鳥がいたが、見た限り、虫はいなかった。鳥は小さいものや大きいものがいて、殆どがとてもカラフルだった。小さい鳥はコウモリのように木から木へ飛び、大きい鳥は鷹のように木々の上を舞った。エドワードはそれらを指さし、名前をつけるのが好きのようだったが、僕は一つだけしか覚えられなかった。真黒なフェニックス。

だいたい一時間ほど歩き続け、僕は散々エドワードに歩く音がうるさいと言われて疲れたので、僕たちは木に腰かけた。

「君がもっと静かだったら、動物たちも戻ってくるはずだ。いや、本当に、君は踏み方を改善しなければいけない。」

「この世界は重すぎるし、自分が既に歩けていることにさえ驚いている。どうやってこれに慣れるのですか?早歩きさえできないので、一人狩りすることも出来そうにない。これでは、自分の骨構造が壊れてしまいます。」

「君は文句を言いすぎる。我慢するのだ。重く感じるのはあと数週間続くだろうが、君の世界へ帰ることになったら、きっと前よりも軽く感じるはずだ。」

「あなたの本を見てもいいですか?」

彼は肩をすくめて、バッグから本を取り出した。彼は縫い付けられていないバッグの紐を取り替えたようだ。僕は本を広げ、名前を見た。

「地球の神…、彼の名前は何でした?」

「彼女の名前は、ティアマトだ。」

と、彼は答えた。

僕は目をまるくして彼を見た。

「どうした?」

彼は僕の反応を見て、びっくりして聞いてきた。

「彼女のことを聞いたことがあります。」

「彼女について聞いたことは、何一つ信じてはいけない。私は一度も会ったことはないが、彼女は一番温厚な女神だと聞いたことがある。彼女は自分のガーディアンを拷問しないし、他の神よりも人々のことを気にかけている。彼女と知り合ったロネスは、彼女について悪いことは一切言ったことがない。」

「僕の世界の神話でティアマトはタラッテーとして知られていて、カオスのシュメールドラゴンであるのと、海水の擬人だとされています。彼女と淡水の擬人であるアプスが、最初の神々であるラフムとラハムを創造し、彼らはより多くの神性を持ちました。それで、アプスは失望し、子供たちを始末する決断をしました。

それを実行する前に彼はエアと言う神に、寝ている間に殺されてしまいました。だけど、ティアマトは怒り、彼女の子孫を始末する決断をしました。彼女は獣軍団を作り、彼女の新しい夫、キングーという神にその軍団を仕切るよう説得した。彼に天命の書板を授けたのです。天命の書板を持つ者は宇宙を支配すると信じられていた。」

「神々はティアマトを倒すことが出来ないと知っていたので、エアの子であり嵐の神であるマルドゥクを、彼らの最高支配者となる約束で買収し、彼女の軍団と戦い、破壊するように仕向けた。彼は勝利し、彼女の体は二つに引き裂かれ、それぞれが天と地の素材となった。そしてキングーの血から、人間を創造した。彼は天命の書板を取ったが、それをアヌに贈った。」

僕はエドワードに擬視されたのが分かった。はじめてみる反応ではなかった。人々は、通常、僕がただのオタクなのか、熱狂的な歴史マニアなのか理解できなかった。それで、僕がどれだけ事故や自然災害に巻き込まれやすいか知ると、皆が、僕を避けるようになった。

「君は…」

「僕は心理学、哲学、神話が大好きです。」

古生物学や古代の経典と、同様にね。

エドワードはしばらく考えた。

「私はこの話の人間バージョンを、ここ数百年聞いたことが無かった。もちろん、ドゥランバージョンの方がはるかに良いと思うが、そちらも、同じくらい間違っている。多分本当の事は、物語が語るように、神々の間でも不評のようだ。」

「ティアマトはドラゴンではなかったが、彼らは最も美しい生き物だった。彼女は彼らを守りたかったのだが、人間はどうしても殺したがった。ティアマトは、賢く、創造性豊かで、ドラゴンたちを死守していた。それが、一部の人には彼女は混沌としていると言うには十分だった。彼女は聡明な子供のようだった。彼女は色んな種を、論理的ではなく、機能しないから撲滅するようなタイプだった。」

「本来、天命の書板は、5冊組の本だった。彼女は全知の神として、知識を自分だけに留めたくなくて、自分の世界と共有しようと考えた。人の学習力が十分進んだ頃に彼女は地球へ行き、自分の知識を分け、4人の人間に各部分を与えた。各人が全てを覚えるには、知識が多すぎた。彼らは、それぞれの知識を彼女が授けた4冊の本に纏め、彼らに全てのエノク語を与えた。それが、天命の書板だ。」

「でも、あなたは本が5冊存在していたと言いました。」

彼は無表情で擬視したので、僕はハッと気づいた。

「本!ティアマトの本が5冊目だったのですか?」

彼はうなずいた。

「人間に知識を与えた後、唯一彼女が触れなかったことが、どのようにして神々が創造されたのかだと、彼らは気づいた。彼らはそれについて聞いたのだが、彼女は教えてくれなかった。彼女は人間を好奇心旺盛にしたため、彼らは常に質問をしていた。ティアマトは失望し、天命の書板を持って地球を去った。人間たちは、他の人々に知識を教えていったので、神々を怒らせてしまった。

アプスは悪魔で、人間を殺すと決断していた。アプスはティアマトの夫ではなく、大敵だった。彼女は人間4人に途轍もないパワーを与えたのだ‐それは、ガーディアン達のパワーよりも強いものだった。そのうちの一人、君たちがキングーと呼ぶ者がリーダーで、彼女は彼に自分の本を授けてしまった。彼らの知識とパワーでアプスを撲滅した。」

「アプスの仲間は恐怖に襲われ、その子供のマルドゥクにティアマトと人間の後を追わせた。ティアマトは人間が殺害することを覚えてしまうので、マルドゥクとは戦いたくなかった。それで、彼女が人間から永遠に離れるとした場合、彼女は4人を連れて神々の国へ発つことを条件に彼と取引をした。」

「天使たち!」

と、僕は言った。

「その通り。その4人は多くはないが、自分自身の子を授かった。時々地球を訪問し、人間たちは彼らを天使と呼びはじめた。」

「マルドゥクもティアマトと人間たちを相手に戦うのを恐れ、天命の書板を受け取ることを条件に取引に応じた。ティアマトは、そこに条件をもう一つ加え、彼は地球に残って他の神々から人間を守るようにと言った。彼は合意し、ティアマトは、4人を連れて旅立った。」

「では、彼女は人間を守るために悪魔をおいていったのですか?」

「神話によると、彼女には型破りな同盟者が沢山いたそうだ。でも、マルドゥクは好ましい悪魔ではなかったし、ティアマトに嫉妬していた。彼はティアマトが恐ろしい生き物だという話を沢山した。年月が経ち、キングーの娘が地球を訪れ、マルドゥクに会い、彼はあっという間に恋に落ちた。彼は天命の書板を彼女に贈り、彼女はそれをティアマトに返した。」

「確かに、その話の方がもっと良い。」

僕は数分で吸収した。

「彼女に会ったことが無いのに、なぜあなたはそんなに知っているのですか?」

「ガーディアン達でさえ神々の事を全て知っている訳ではない。今の話は、私とロネスが寝る時に聞かされた色んな話の一つに過ぎないが、この話が地球やドゥランで語り継がれている話よりも、正確だと思う。サゴでさえ神は12人しかいないと知っている。ドゥランでは、12と言う数字は魔法の数字とされ、子供たちの12歳の誕生日は特別なものとされている。」

「だからティアマトは、他の神々の上にいるよりも、人に力を与え、味方をすることを望んでいた。その様に神々がお互いに対抗するのは珍しいことではないですか?」

「私が知る限り、とても珍しい。彼女は他の神に比べると、ときにはとても純粋で、陽気で、ナイーブな子供のようだが、ある時には、他の神よりもとても強力で、致命的で、美しく、賢く見える。」

それについて暫く考えた。

「他の神々は、どのような感じですか?」

「私が今まで会ったことのある神はドゥランの神、エロノのみだ。」

彼は僕が持っている本のページを最初の方までめくり、一頁目の名前を指した。ヘブライ語のようだった。

「これがティアマトのサインだ。各神は自分の本にサインするのだが、他の神は誰もこの本にはサインできない。神々がそれぞれの世界を行き来するために本を必要としない。」

僕たちはしばらく沈黙した。最初は心地よい静けさだったが、次第に自分の人生がとても変わったものになるという考えが湧いてきた。僕は文化や言葉、食べ物について何も知らない…。ヴィヴィアンにも電話することが出来ない。

「ヴィヴィアンは熱帯雨林が大好きだった。きっとここが気に入っただろう。きっと僕が帰らないと知ったら、怒るだろうな。」

エドワードが眉をあげた。

「彼女は怒るのではなく、混乱すると思った。彼女の事を愛しているのか?」

僕は木に頭を寄りかけた。

「言ったことはないが、多分そうだと思います。」

「君はまたいつか恋に落ちるだろう。そして、初めて誰かを老齢で失ったときに不死がどういうことか気づくだろう。」

「時は偉大なヒーラーだが、それよりも大盗人だ。力と歴史を与えられ、人生は世界の喜びで満ちるだろうが、その楽しみや喜びを作った全てをはぎ取られると、魂は空っぽになるだろう。」

僕はエドワードのしかめ面を見分けることが出来なかった。

「あなたはテラピストを探そうと思いました?」

僕は笑った。

「あなたは不死とどのように向き合っているのですか?」

「他にどういうことが出来ると言うのだ?成す術はないので、受け入れるしかない。」

彼は、シカの大きさで牛に似たような生物がいる森の奥を指差した。その生物は牛のように白黒の模様があり、牛の形をしていたが、小さく、痩せていた。

「アレはヨーキーだ。彼はタフで甘いが、満足できる。」

「ヨーキー?僕の母もヨーキーを持っていたが、やつは僕を食べようとした。」

彼のびっくりした顔を見て、笑うところだった。

「僕の世界でヨーキーは、小さい犬のことです。」

彼は銃を生物に向けて持ち上げ、それは僕に向かって吠えていたように聞こえた。僕は引き金を引こうとしたが、動かなかった。エドワードが銃で撃ち、その動物は一目散に走った。

僕は銃を下げて調べてみたが、なぜ撃てなかったのか分からなかった。エドワードがゆっくり手を伸ばし、引き金の後ろにあり小さいボタンを押した。

「これは、セーフティーロックだ。これを押したままだと撃てないのだ。」

「なぜ銃にはセーフティーロックがあるんだ

僕は屈辱を感じながらうなった。

「そのほうが安全だろう?さあ、ヨーキーを持って家へ帰ろう。」

「僕は逃げたと思ったのですが、当たった確信があるのですか?」

彼は機敏で軽快に前進し始めたので、僕は自分が尚更不器用に感じた。

彼はやっと、

「私は決して逃さない。」

と、言った。

確かに、その動物は撃たれたところから数フィート先にいた。遠くから見た時よりも、シカに似ている。それの毛は長くて、大きい黒い斑点のある白色だった。死に間際の動物の苦しみを見るのは辛いが、運よく、動物は既に息を引き取っていた。

「なんだ?まさか死に影響されるのか?」

エドワードは僕の表情について聞いてきた。きっと、同情心が顔に出ていたのだろう。

もちろん、そんなことはないし、僕は両手を広げてそれを歓迎する。

「いや、ただ、ヴィヴィアンが樹を抱くような環境保護に関心のある人で狩猟には反対していたので。」

それに、公言してはいないが、自分も反対だった。ただ、僕はスポーツで狩るのと、食料にするために狩るのは違うと思っていたが、やはり、動物の死であっても、死には違いないので、その原因とはなりたくなかった。しかし、飢えるも嫌だった。そもそも僕はベジタリアンじゃない。

エドワードは、理解したとうなずいた。

「これは、君の世界が愛して止まないスポーツハンティングではない。肉は必要な食料の一部だが、君は魚の方がいいのかな。」

と、彼が提案した。

「僕は魚が嫌いだ。」

「まあ、いいよ。ショモジイ近辺にいる大きな海洋生物を恐れて、この辺に魚はいない。」

彼は、軽々とヨーキーを担いだ。

僕の新しい住まいへ戻ったとき、エドワードはヨーキーをさばき始めたので、僕は焚火の準備をした。エドワードがドゥランにはマッチやライターは存在すると言ったが、マグスの大半は魔法を使うので、彼はどれも持っていなかった。だから僕は木の棒を使った摩擦式を試そうとした。しかし、すぐにそのようなものはないという結論に達した。棒を擦りつけるだけでは、実は、火を起こせないので、祖先たちは間違っていたんだと思った。

エドワードは乾燥して冷たい薪を見に来た。

「なぜ火を起こしていない

「きっとこの薪には欠陥がある。きっと可燃性ではないだ。」

エドワードは燃やすはずの薪で囲まれた大きな岩の上に肉の山を置いた。そして、グリルを取って一番上に置き、その上に肉を並べた。そして、彼が手をそこから離すと、突然、薪が生きているかのように炎が上がった。彼は何の苦労もなく火をつけたのだ。

「自慢げに!」

彼は笑いながら火の回りに置かれた木の輪に座った。

「大半の人にとって、火を起こすのは簡単なことだ。特に、君のように感情的な人にはね。」

僕は彼をにらんだが、無視された。

「全てのモノに君が知っている物理学的エネルギーのような、魔法のエネルギーが存在する。そして君の心はそれをコントロールすることができて、自分の周りにインパクトを与えることが出来る。しかし、君はすべきことに魂を込めるので、その魔法は君自信の形を作る。だから、君が誰かを殺すために魔法を使ったら、君自身の魂を傷つけたり破壊したりすることになる。」

「では、私が殺したあの魔物は?」

「あれは人ではなく、魂の無い愚かな殺人鬼だった。君はまだまだ磨かれていないパワーを持っているので、それをコントロールしなければならない。エネルギーは、君が頭でコントロールしていない時に、君の感情に反応している。」

そのあいだに、ヨーキーが焼けたので、僕は大きな塊を手に取ったが、ドゥランには、変った食べ方があるのではないかと思って、食べるのを待った。彼は肉を口へ持って行き、食べる前に何かつぶやいたようだが、その一方で僕を無視した。彼は食べる時に話さないようだ。

その食べ物は固くて、脂肪が無く、煮えているにもかかわらず、とても赤かった。エドワードはガラスの皿とナイフは持っていたが、フォークは無いようで、食べ物が熱くても気にしないようだった。それは、エドワードが言ったように甘かったが、彼は塩辛くしたと言ってくれなかった。僕の目は涙ぐんで、空腹にもかかわらず、食べるのを止めた。

「何か飲み物はありますか?」

「水やミルワイドのジュース、カミツエのジュースがある。君はミルワイドに対するアレルギーがあるようなので、それはお勧めではない。ちょっと待っていなさい。」

彼は立ち上がってポーチの方へ向かった。

「ひょっとしたらね。そうした場合、君は動物に食われるだろうから、逃げるんじゃないよ。」

と、彼は言った。彼が中に入っていくとき、僕は仏頂面をした。しばらくすると、彼は素焼きの大きな黒い瓶と揃いの小さいカップを二つ持ってきた。そのうちの一つを渡してくれたとき、僕はその石のような重さに驚いて、瓶の重さを想像した。

「昼間の明かりはどれくらいなのですか?」

「ドゥランの時間は、君の世界とは違う。君の世界は時間と分に分かれているが、ここでは、ドンとドゥネドと言う。それらは、時間と分と解釈してもよい。比べるのは困難なので、君はそれらの長さを覚えなければいけない。地球では12が時間、10がカウントのベースだが、我々は両方とも10単位だ。一日には20ドンあり、ドンには50ドゥネドある。また、ドゥランの回転は地球よりも遅いし、地球よりも大きいので、ここの昼間は地球よりも長いことになる。年月に関してはドゥランも地球もほぼ同じだが、地球時間の観点で言うと、ドゥランの方が少し長くなる。その期間には、昼間10ドンと、夜間10ドンがある。

「僕は、まるで幼稚園に戻ったような感覚です。」

「君はじきに慣れる。そして準備ができたと感じたら、アノシイへ発つことが出来る。」

「どれくらい掛かるのでしょう?」

「そんなに掛からないだろう。私は…、私たちが住んでいるところは、アノシイとショモジイの間にあるシジョウ海からそんなに遠くない。そこに着いて必要なものを手に入れるまでには数日かかるだろう。」

「僕はお金など一切持っていない。ドゥランのお金はね。」

「私が持っている。」

と、彼は言った。

僕は炎を見つめて、不快感を隠そうとした。僕はお金を借りることが大嫌いだ。自分のお金を持たずに育ったため、僕は生きるために何が必要で、お金なしで何ができるか身をもって覚えた。お金は食料と住まいのためで、パソコンを持つのも良かったかもしれないが、学校の図書室に良いのがあった。僕が初めて持った唯一のパソコン、それを買うお金を貯めるのに一年費やしたが、母のギャンブルの借金のため没収されて売られてしまった。僕はくだらないものを溜めないよう学んだ。それでも、僕らそれを断ることが出来なかった。

エドワードは僕の表情を見て笑った。

「私は長年生きている間に、一生涯に必要以上のお金を溜めてしまった。それに、君は私の弟子となるので、お金を稼ぐことはできる。」

「僕はどのような仕事をするのですか

と、僕はしきりに聞いた。

彼の顔から笑顔が消え、肩を振った。

「大半が家事と庭作業だ。家をきれいに保ち、洗濯や薪割を手伝うなどの雑務をこなすのだ。そして特に、勉強に集中してほしい。」

「難しくなさそうです。」

「これは、私が魔法を教える代わりに君が重労働をするような、通常の見習いではない。私の最優先課題は、君と君の本を守り、君自身が自分の世界を守ることが出来るよう準備することだ。君の最優先順位は、生き残るために必要な能力を身に着けて地球を守ることだ。」

「僕は自分の活動の中で、魔法の練習をしていいのですか?例えば、魔法で薪割をするとか?」

と、聞いてみた。

彼は、肩をすくめた。

「飲みなさい。」

僕は彼が飲み物を入れるのに気が付かなかったが、見たときには、なにやら濃くて金色の液体が入っていた。

「これは本当に安全ですか?」

「それを知る方法は一つしかない。」

僕は彼が冗談を言っていると思い、ほんの少量だけ飲んでみた。それはジュースのように甘かったが、僕の知っている果物のどれでもなかったし、実際の温度よりも冷たく感じた。エドワードは自分のものを飲み干して、再びカップを満たした。

「これはアルコールではありませんよね?」

「ドゥランにもアルコール飲料はあるが、酸っぱくて美味しくない。これはカミツエのジュースだ。君は大きくてくるりと巻くような葉っぱで、私たちの靴に纏わりついていたハーブを覚えているか?」

「ええ。僕が走っていたら、かなりのキズを負っていたかも知れないやつですよね。」

「あれは、カムドカまたは、ガラガラ草と言う。そのまま食するには甘すぎるが、根っこから良い飲み物を作ることが出来る。」

僕はその濃い飲み物をもう少し飲んでから、食べ続けた。死なないと分かってからは、美味しい飲み物だと思った。肉は、予想していたより満腹にしてくれた。

「僕はこの重力に少し慣れてきたと思います。それに、僕はどのようなところか気になるので、早くアノシイへ行きたいと思います。」

「君は前回のキロの弟子よりも好奇心旺盛だ。」

僕の心臓は口から飛び出し、固くて冷たい地面に落ちたようだった。

「そして、不器用だ。」

絹のようで陽気な声は、本物とは思えない、全体的にとても美しい女性のものだった。彼女の艶のある黒くて長い髪は、彼女の磁器のような肌とクリスタルのような青い目とは対照的だった。彼女の完璧に対照的な顔立ちは柔らかくて若かったが、女性の優美な美しさを兼ね揃えていた。彼女は、背丈がヴィヴィアンのように高くなく、わずか5、6フィートで、痩せているのではなく、スレンダーでがっしりしていた。

彼女にぴったりとした紺色のタンクトップは、厚い、伸縮性のある綿で作られているようで、かろうじて、彼女の丈の短い黒の短パンに届くようだった。ブーツはひざ上まで長かった。

僕の右側から現れた彼女の体の温もりを、僕は、まだ感じることが出来た。彼女は、人間にしては完璧なほど美しかった。それに、まぬけな二人と話すには美しすぎた。僕は直視しないようにした。少なくとも努力した。OK、エネルギーの無駄になるので、そんなに努力していないかも。

彼女は笑顔をためらった。

「まさかだけど、あなたは女性と話せないとか言わないわよね?」

「ディヴィーナ、彼が心臓発作を起こすようなことはしないでくれ、また一からやり直すのはまっぴらだ。」

彼女が笑顔をエドワードに向けたので、僕はやっと息ができた。

「彼は、今、大規模な感電から回復しているところだ。」

「彼は元気にしているように聞こえたわ。」

「ここへ何をしに来たのだ?」

「私はただハイキングをしていてあなたの声が聞こえたので、ちょっと寄って訪ねようと思ったの。」

彼は、疑っているように目を細めた。

「君が私の土地で‘ただハイキング’をしているわけがない。」

彼女は、彼の遠回しな非難を無視して、僕に眩しいほどの笑顔をむけた。

「彼は、前の弟子と違って、とてもキュートだわ。」

彼女はもう一度彼の方を振り返り、僕は自分の心臓の鼓動が不規則になったのが分かった。

「すべての新しい弟子に幸運のキスをするという、私たちの取引を覚えている?」

僕の心臓は

エドワードの声に不安がよぎった。

「まだだ!君は以前とても健康だった弟子をキスで殺すところだった!」

何と言う死に方だ…

「あなたは歳が増すにつれて、つまらなくなってきたわ。」

と、彼女は言った。

エドワードは手を伸ばして彼女の腕をつかみ、僕の近くではなく、自分の近くに座らせた。彼は、目が眩むような彼女の美しさには免疫があるようだ。

僕は立とうとしたが、すぐに切り株に姿勢を正して座りなおした。

「やあ。」

と、言った僕の声は震えてうわずっていた。彼女の唇のあいだから歯が輝き、僕は気を失うかと思った。彼女の歯まで、美しかった。

「では、君は、女性と話せるのね?」

「多分ね。」

と、もごもご言った。僕は彼女の眼を見つめることが出来なかったが、もう体が重いとは感じなかった。とても軽く感じた。彼女は信じられないほど美しかったが、僕は自分の反応にも戸惑っていた。僕は、もともと女性とスムーズに話せなかったが、普通はこんなにバカっぽくなかった。でも今回は、運よく、感電したことを理由にできる。

「私はディヴィーナよ。キロの弟子となれたようなので、おめでとう。彼はそう簡単に人と近づかないし、弟子を取ることも滅多にないのよ。彼はとても良い調教師 - つまり、教師よ。ドゥランには慣れてきた?」

「どうして僕がドゥランの者ではないと知っているのですか?」

と、僕は聞いた。

「あ、そうか、僕が英語を話しているからか。どうしてあなたは英語を話せるのですか?」

「彼女は魔法に優れているので、必要以上に多くを知っている。それに、とてもお節介なので、厄介な状況に陥る傾向にある。」

「私はそんなにお節介ではないわ。ただ興味深いことに関心があるだけよ。」

と、彼女は言った。

「あなたがこっちに来る夢を見たので、会いに来たのよ。私は千里眼ではないけど、物事が起こるのが見えるの。あなたが使った稲妻の術も見たわ。見事だったわ。」

彼女は、注目しているような感じで、ひざに肘をついて手の平に顎をのせた。僕の顔は、彼女の唇のようなベリーピンクになったと思う。

エドワードはイライラしているようだった。

彼は、

「食べなさい。」

と、僕に言った。

ヨーキーの小さい塊をとったが、食べられなかった。近くから観察されていたので、ディヴィーナから目を離せなかった。

彼女はエドワードの方へ振り向き、

「彼は訓練されたら途轍もないパワーを発揮できそうだし、私の本にサインすると更に強力になるわ。特に、ピュアなままでいればね。」

「ピュアでいればとは、どういうことですか?」

失っていた声をだして、聞いた。

彼女の笑顔で、また歯が光った。

「知っているでしょ。穢れの無いまま。童貞。」

僕の顔は新たなトーンの赤に染まった。

「そんなことを知っているのですか?」

「もちろん。別に恥じることはないわ。あなたの年齢でまだピュアな男は珍しいわ。それって、自制心の現れよ。」

「それか、社会性が無いか。」

僕は、自分の食べ物に言った。

ディヴィーナが大笑いしたので、僕の心臓は喉まで飛び上がった。彼女に対しどのような弱みがあるにしろ、きっと僕の心臓に悪いものだと思った。

「幸運のキスをしてあげるから、早く治したほうがいいわ。」

「たった一つだけ?僕って本当に運が悪いようだ。」

と、言った。言うべきでないと思ったが、脳から口へのフィルター(思考回路)がショートしたようだった。

「それについては、また考えなければね。」

エドワードは、

「では、君は私たちと共にアノシイへ行くのかな?」

と、そのアイデアにはあまり乗り気でないような感じで、聞いた。

「どっちにしても、行かなければならないの。それに、あなたが新人君を驚かさないことを確認したかったの。」

「君、彼には気を付けるんだ。彼はまだ自分の感情をうまくコントロールできないので、今のままでも、君に抵抗するために自分のエネルギーをすべて費やすことなく、トラブルに巻き込む可能性がある。」

僕は侮辱されていると分かった。ただ、ディヴィーナが足を組んで座り、彼女のシャツが伸びて、ぴたりと胸を強調したときに気が散っただけだ。

「私は、まだキュートなあなたが誰なのか聞いてないわ。」

と、彼女は言った。

僕は自分の名前を思い出すまでの数秒の間、ちらっとエドワードを見た。彼のイライラした顔が面白かった。

「僕はディーラン。ディーラン・カーターです。」

「ディーラン・カーター、君は期待できそうね。」

と、彼女は言った。

エドワードはイライラしながら僕を見てうなった。

「え?なぜ?」

と、僕は聞いた。

「君は、とても容易く君の本当の名前を教えてくれたわ。」

僕が瞬くと、彼女は笑った。

「もし、私が密かにガーディアンだったとすると、君の本を見て、名前を見つけだして、消すことが出来るわ。そうすると、君は存在しなくなるの。私は、君はそう簡単に自分の名前を教えるべきではないと言っているの。それは君のアイデンティティであり、君が魔法を学ぶとより一層強くなるわ。もし、君がとても力の強いウィザードとなった場合、他のウィザードが君のフルネームを知っていたら、それを使って君を操ることが出来るわ。」

「でも、僕はあなたにフルネームを言っていません。」

と、僕は言った。そして何かを聞きたそうにエドワードをチラリと見た。

「僕はドゥランの名前の仕組みを知りませんが、僕の出身地では、名前が三つ、四つあります。僕は、自分のミドルネームをあなたに言っていません。それに、あなたが僕の名前を消しに行くならば、なぜ自分自身のだけを除外して全員の名前を消したりしないのですか?」

「神だけが、心を失うことなく、世界を操ることが出来る。でもそれは君の師匠が教えるべきではないかしら。」

「でも、ヴレチアルは二つの世界を持っています。」

「まず、彼は最初の一つの世界を支配しようと思って、心を失ったのよ。ヴレチアルは、精神異常者と言ってもいいわ。」

と、彼女は説明した。

「でも、彼が他の神々の名前を消去したのなら、なぜその神々は消えなかったのですか?」

「それは、彼らには通用しなかったからであって、おそらくガーディアンには効くわ。でも、実際には、ガーディアンが死んだり名前が消されたりした場合、彼らがどうなるのか、分からないの。私の知っている限り、死んだのはロネスが初めてよ。」

「エロノは、私の名前を消すと言って脅すのが好きのようだ。私は不死身なので何が起こるか分からないが、その危険に晒される必要はない。」

「あなたは知っているはずでしょう?」

と言って、ディヴィーナはエドワードに非難するような視線を送った。

「彼はここに来てから大半の時間は意識不明だった。彼に何かを教えようとするたびに、無関係な質問をたくさんして、主題から外れてしまう。」

ディヴィーナは彼に微笑んだ。

「何が言いたいか分かるわ。彼はただ好奇心旺盛なのよ。それに、キュートだわ。彼に、スドのねばねばした場所で役に立つようなことを少し教えてあげるといいわ。」

彼女はそう言って振り返った。

「私の後で繰り返して。」

彼女がスドで何かを言ったのを僕は擬視した。彼女の口から放たれた言語は、彼女の声のために作られたもののようだった。

でも、心中では必死だったにもかかわらず、僕の声は自分自身より確信していた。

「僕はそのゲームを知っています。これは英語で何を意味するのですか?」

エドワードはニヤニヤ笑い、ディヴィーナは目をぎょろつかせた。

「気にしないで。君は前回のキロの弟子より疑わしいわ。」

そして彼女は再び笑いました。

「君はいい楽しみとなりそうだわ。」

さて、ハードルはセットされた。彼女は立ち上がり、伸びをすることを期待していた。でも、彼女はしなかった。

「さて、もう行かなきゃ。でも、アノシイへあなた達と一緒に行けるよう、間に合うように戻るわ。じゃあね。」

彼女は、僕の顔から数センチの所まで自分の顔を近づけてきた。彼女の甘い吐息でめまいがした。

「君は直ぐに良くなるわ。」

僕は、うなずいた。

エドワードは立ち上がり、彼女は姿勢を正した。

「気を付けてね。」

と、彼女はエドワードへ言った。

「君もね。」

彼女は、僕たちを取り巻く森の方へ歩きだした。僕はエドワードが座ったのをちらっと見て、ディヴィーナが座っていたところへ戻った。彼女は去った。

エドワードはため息をついた。

「彼女の事、どう思う?」

と、彼は聞いてきた。

「彼女は、非常にきれいです…、全てが。」

エドワードは笑った。

「そうだ。彼女はちょっと可愛いが、君は彼女の誘惑に負けないために、相当頑張っただろう。彼女は愛らしくて優しいが、彼女を射止めることは決してないだろう。ディヴィーナは魔法の才能があり、若いころから自分の美しさを使って欲しいものを得ることを学習している。彼女は人を巧みに扱い、自分が得するためには、男を使うことに躊躇しないだろう。」

「あなたは、彼女を射止めようと試みたことがあるのですか?」

と、聞いた。

「長年経つが、ない。彼女は私にとって、友人の娘のようなものだ。不死身の男にとっても、彼女はあまりにもワイルドすぎる。ごちそうさま。」

と、彼は言った。僕の脳裏からディヴィーナの声を消し去ることが出来なかった。

食事の後、僕のレッスンに戻った。僕は楽しいことを始める前に、いろんな要素を把握しなければならなかった。エドワードは、動物の残った部分を家の裏の納屋のようなところに入れて、コンビネーションロックのようなもので鍵をかけた。僕たちは温泉へ向かって一時間のハイキングを始めた。エドワードが後ろから僕を押していてくれなかったら、歩く速さも半分だっただろう。

20分経った頃、僕はガラガラ草につまずいて止まったが、40分後には、もうそれらにも減速するほど邪魔されなかった。僕は地形や重力に多少慣れてきたようだ。エドワードは、もちろん、空気や光のように静かだった。

森が大きな流れによって開けて明るくなったとき、僕は困惑した。水はクリスタルのように透き通り、川底は大きく滑らかな岩で覆われているのが見えた。それは、向こう岸まで3.6メートル(12フィート)くらいの小さな川のようで、水は非常にゆっくりと穏やかに流れていた。そして渦を巻き、両側の視界に入らなかった。その運河は大きな岩に囲まれており、エドワードはその一つに座った。彼がブーツのひもを解き始めたので、僕は近づいて、休息する機会に感謝した。

「その…それを脱ぐといい。」

「これはスニーカーです。それに、とてもいいものですよ。」

今となってはボロボロだ。新しい世界に来てたった一日で、靴がボロボロになり、かろうじて履けている状態だった。しかも、左側には穴が開いてしまった。

エドワードは水に足を突っ込んだが、一分後に足を上げたときには、乾燥していた。

「やってみなさい。」

「何をやってみろと?」

僕は、冷たいものだと期待しながら、水に足を浸けた。暖かかった。本当に温泉だった。

「その中に、僕の足を食おうとするような何かがいるのですか?」

「いいや。水の中にある全てが君の足より美味いと思う。」

と、彼は言った。

僕はできるだけ威圧的ににらんだが、彼は気づいていないようだった。

「この水は、水の住人達には暖かすぎ、陸上動物はここを避ける。」

「なぜですか?」

水は僕の筋肉痛に良く効いたので、リスクを冒してもいいかと思った。

彼はニヤニヤ笑った。

「森の精霊たちは、誰をここへ立ち入らせるか、えり好みする。」

「あっ…、僕は招待された覚えがない。」

彼はズボンをまくり上げ、足をさらに浸けた。

「精霊たちは、ウィザードが好きだ。君が許可されていなかったら、もうとっくに分かっていただろう。君はこの水を肌に感じることが出来るか?想像できるか?

「ええ、濡れているように感じる。濡れているように感じるものですよね?」

ともかく、異国の水だった。

「そうだ。だが、君には足が濡れていないと想像してほしい。この水が君の肌に触れていないと想像してほしい。そうさせないで。君が君の意思で雷を操ることが出来たなら、水でも出来る。君の心は複雑だが、水はシンプルなので、なんてことない。ただし、水をどこかへ移動させようと思わず、ただ君に触れさせないようにしなさい。水は何で構成されている?」

「水素と酸素。」

「いいや。エネルギーだ。魔法では、水が何でできているかは重要でない。水はシンプルだ。二種類のエネルギーでできている。君が魔法のエネルギーを感じ取れるのは、君がウィザードだからだ。それを制御する。何も考えなくていいが、それを制御するだ。」

僕は固い岩の上に横たわって、水が僕に触れることができないと想像してみた。でもそれは愚かな幻想だったので、僕は魔法の思考から離れた。心でエネルギーを制御する。エドワードが水から出した脚は乾いていた。僕は自分の意志で雷を制御できた。半焼けになった僕のかわいそうな脳みそ。

「僕が出来ないのは、きっと脳みそが焼けてしまったからかも知れませんね。」

「君はできる。できないと思っているなら、きみはただのバカだ。ただやりたくないだけだ。理由を作って、それを信じるだ。」

「宗教のようなものですね。分かりました。」

僕は馬鹿げた可能性を想像し、それに賭けてみた。その水は、魚のおしっこでできている。最悪なことに、僕は、シモジイで風呂に入るつもりはない。僕は、既に暖かいその水が、黄色くて生暖かいおしっこだと想像した。僕は本当に足を水から出したくなったが、エドワードが、水に戻してしまったと感じた。

だから、それが僕に触れることが出来ないし、僕はそれを本当に望んでいないと、想像した。でも、何も起こらなかった。

「君はエネルギーを使っていない。君はウィザードなので、感じ取ることが出来るはずだ。君が何を感じているか知る必要がある。とてもリラックスできる瞑想を練習しよう。」

と、彼は言った。

僕はその響きが気になった。

「君の足を水から出して、胡坐をかきなさい。」

「なぜ?」

と、聞いたが、彼の言うとおりにした。

「それを実行する方法に過ぎない。」

「まさか、僕が…横になっていると、効果ないのですか?」

「君は走り出す前に歩くことを覚えなければならない。それは簡単なことではない。」

と、力説した。

それは面白い。僕は座って何もしないことは、比較的簡単だと思った。それは、アメリカ人の生まれつきの才能だった。

「心を完全に無にするのだ。自分の息にだけ集中しなさい。」

それで僕たちはそこに静かに座った。僕は必死に足が痙攣していると伝えたかったが、彼はとても深く瞑想しているように見えたし、僕は簡単に窒息させられる距離にいた。それでも時間は延々とすぎ、集中し続けるのがだんだん難しくなってきた。

「エドワード、あなたは本当にこれを楽しんでいるのですか?」

と、僕は低い声を維持しながら聞いた。

「はい。」

彼の声は、議論するにはあまりにも落ち着いていた。数分後、僕は足を組んだまま横に倒れた。エドワードが反応しなかったので、僕は再び集中しようとした。

僕は、自分の周りに空気のような、空気ではない何かがあるのを感じた。それは新しいが、馴染みのある感じがした。それは、僕が知っているものとは比較できない、まるで、なんでもないようだった。それ自体に意味があり、他のどの感覚にも適合しない第六感だ。

僕は起き上がって座り、足を水の中に戻して、もう一度、魚のおしっこだと想像した。

そうして、僕は水が自分の肌につかぬよう、両方のエネルギーに心を集中した。

僕は、水が肌に触れないようすることを望んでいた。それが、僕がやるべき仕事だった。そして、僕の足は濡れていなかった。僕は素早く足を水から出して、確認した。エネルギーは僕が望んだことをやっていると、想像しているだけではなかった。僕がエドワードを見ると、彼は全く驚いていないようだった。僕は突然成功の喜びを感じ、数秒後、温泉の真ん中から破裂(バースト)して大量の水が空中で3メートルほどの波を作った。そして、それが落ちてきて、エドワードと僕をずぶぬれにした。

「僕がやったのですか?」

「そうだ。」

エドワードはいらだちながら言った。

「ごめんなさい。僕は、ブーっと息を吹きかけても水を動かすことが出来ないのに、いったいどうして何もやっていない時に爆発するのですか?僕はそういうことをやりたくなかったし、想像もしなかった。」

「君はエネルギーを取集するのに心を許したが、それをどのように放出させるのか分からないのだ。君が何も考えていなくて、それを制御していないときに、それは君の感情にやたら反応するのだ。ただ単にエネルギーを集めるだけではダメなのだ。君の体と心は集めたエネルギーを処理することができなければならない。君はあまりにも多くの魔法を使いすぎて、自分自身を殺しかねない。しかし君は徐々に、非常に強力になることが出来るだろう。君が生まれつき収集できるエネルギー量の限界値は非常に高いので、君はそれをコントロールすること学ぶ必要がある。もちろん、君がどれだけ強力なのかは、魔法が君に対してどう反応するかによるし、それを君がどれだけコントロールできるかによる。」

「ディヴィーナは、僕が他の本にサインすると更に強くなると言いました。」

「君がサインした各本は、君にパワーを少し与える。それによって、君が更に多くのエネルギーを扱うことになるが、自動的にそれらを制御できるようになるわけではない。君が自分の本のガーディアンとなった場合、君の限界値はとても大きくなる。そして、私の本にサインすることで、パワーがさらに増した。ただ、アノシイへ行く前にどれだけ感情を制御できるようになれば十分なのか、強調して言えない。前にも言ったように、向こうで魔法は容認されていないので、見逃してくれないだろう。もしディヴィーナが私たちに同行したら、君が魔術をコントロールできないのではないかと、心配だ。」

「どうして彼女はヴレチアルと本の事を知っているのですか?」

「彼女は何かを聞くには都合のいい場所と都合のいい時間に現れる傾向にある。それに、彼女は男たちをうまく騙して、自分の聞きたいことを言わせる才能もある。更に、彼女はとても賢い。私のところにガーディアンが訪問しに来ると、必ずと言っていいほど、彼女はそれを嗅ぎ付けて現れる。彼女の土地は私の土地からそんなに遠くないのでね。私の知る限り、ディヴィーナは4冊の本にサインしている。彼女は危険を回避して自分の形跡を消すことに長けていて、必ず脱出計画を持っている。」

僕は彼女のサインを見たくて、彼のバッグを見た。きっと、彼女の声と同じくらい美しいのだろう。

「彼女はドゥランと地球の本にはサインしていない。」

「もし彼女があなたの本にサインしていないのならば、どうやって他の世界からここへ戻れるのですか?」

「彼女は移動しない。私が知る限り、他の本にサインするのは、彼女の脱出計画に過ぎないし、緊急事態に陥った時のためにサインしたのだ。もし、彼女が素早く脱出しなければならない場合、4つの世界から行き先を選べる。それにディヴィーナは彼女の本名ではなく、彼女が使っているニックネームだ。殆どの強力な、もしくは傲慢なウィザードは、自分を守るためにニックネームを使っている。」

「どうも彼女はどちらのカテゴリーにも当てはまるようですね。あなたは、ニックネームが無いのですか?」

と、僕は聞いた。

「あるよ。私の名前は、キロサドだが、私はキロだと言う。ただ、キロと言う名をあまりにも長い間使っているので、本当の名前と同じくらいのパワーがあるだろう。ただし、私はガーディアンで相当なパワーを持っているので、自分の名前で制御されることはない。」

「僕にもニックネームが必要ですか?」

「今それは重要でない。君はスドを覚えて、どのようにしたら役目を果たせるガーディアンになれるか学ばなければならない。最も重要なのは、ディヴィーナの前で我を忘れないようにすることだ。君は彼女が求める情報を持っていないかも知れないが、明らかに君が持っている何かを求めているようだ。」

僕は彼女にいくつか提案があった。

「彼女は本気で僕にキスすると言ったのですか?」

僕は、ばからしくも聞いてみた。エドワードはため息をついた。僕は、もう魚のおしっこと思わずに、再び足を水に浸けた。

「ああ、もちろん彼女は本気さ。以前、彼女がキスした私の弟子が、その後、朽ちたスナーブがいっぱいだった建物を爆発させてからは、彼女は私の弟子は、幸運のキスが必要だと信じている。キスされた時には、気絶しないようにしなさい。」

スナーブとは。いったいなんだ?

「とっとと済ませた方がいいですね。」

彼は、笑った。

「頭から離れないのか?そんなに単純ではないぞ。彼女はとても中毒性があるかもしれない。」

信じがたくはなかった。

「きっとチビットは戻ってきて家に入りたがっているだろうから、もうそろそろ帰らなければならない。」

「ドリアンが家に戻ってくると、必ず食べ物を欲しがっていた。」

と、僕は言った。

「チビットは、彼は生きたものしか食べない上に大量に食べるので、自分で狩りをして食べるから良い。君は今日より多くの食事が必要だと思う。」

「はい。普通、人間は一日に数回食事をします。」

「まあ、まだ十分ある。君はあとで肉の保存の仕方を覚えるといい。」

「それは、楽しそうだ。」

と、そっけなく言った。

以前、牧場の人々が食料を狩って保存しなければいけなかったことと、離れを持っていると聞いたことがあった。僕が彼らのような生活をするとは思っていなかった。もちろん、マグスになるとは、思ってもいなかった。