エドワードと僕が森から出てキャビンが見えたとき、まさか待ち伏せされているとは思わなかった。黒くて大きい鳥が、攻撃するかのように急降下してきたが、エドワードが腕を上げると、その鳥は腕にとまった。チビットは、どこからどう見ても、地球にいる普通のカラスだった。彼は、まるでエドワードがそこに居ないかのように、僕の方を見た。
「どうした?」
エドワードは、恐怖を露わにした僕の顔を見て、聞いた。
「それがあなたのルームメイトなのですか?それと一緒に寝るのですか?寝ている間に目を食われる恐れはないのですか?それか、悪人に変身して病原菌をばらまいて戦争を引き起こしたりする恐れはないのですが?寝ている間に目を食うとか?あなたが失った愛をなじるとか、寝ている間に目を食うとか?ツン、ツン、ツンと…」
エドワードの目がまん丸くなった。
「君の世界にはいったいどのような鳥がいるのだ??」
「チビットもいます。寝ている間に目を引っこ抜いて食べるチビットがね。多分、一晩映画をみて過ごさなきゃ分からないかも。」
「そういったタイプの映画を気にいるとは思えない。それに、君はちょっと考えすぎだ。」
彼はくるりと回って、死の黒い鳥を連れて入った。
僕は慎重に後に続いて、エドワードが自分の飲み物を入れた。彼が、粘土でできているような瓶を棚に戻したとき、他にもたくさん瓶があるのを見た。その戸棚がどうやってそれらの重さに耐えているのか、想像できなかった。カラスは読書用椅子の後ろにとまり、キャビン全体がより神秘的な雰囲気になった。戸棚の本やビン類を近くで観察すると、まるで「森の魔法使い老人」と叫んでいるようだった。
「何か飲みたくなったら、水と、お茶とジュースがあるので、どうぞ、ご自由に。無くなったら知らせてくれることと、これにだけは触らないように。」
と、他の瓶と似ているガラスの水差し(カラフ)を指差して、彼は言った。
「これは、ミルワイドベリーのジュースだ。とても良い酸化防止剤で弱っている胃にやさしいが、君に飲ませたとき、君は吐いたし、熱も上がってしまった。君の熱を下げておくにはスープ以外、何もなかった。」
エドワードが僕の看病をするのに本当に苦労したのだと、初めて思った。多分僕を二日間生かしておくために、凄く心配して、出来ることを全てやってみたのだと思う。クソっ、僕の母親は僕が怪我しても看病してくれたことが無いぞ。
彼に感謝の気持ちを伝えたかったが、照れ臭かった。それよりも、僕のことを熱心に…、死を思わせる真っ黒な丸い目で見ていたチビットに注目した。
「彼は君を驚かそうとしているだけで、君に興味を示しているだけだ。」
と、つんとした自分のペットのすぐ下にある赤い椅子に座ろうとしながら、エドワードは言った。僕はリビングの反対側の椅子に座った。「チビットは、ディヴィーナ以外の訪問者にフレンドリーでない。彼女は、動物を含む誰にでも愛されている。チビットはとても興味深くて賢いよき友だ。話すことをよく聞いているし、理解していることも間違いない。」
「あなたは、ここに一人でいて、退屈しないのですか?」
と、僕は聞いた。
彼は肩を上げた。
「私は、時々、意見交換のため近所のマグスたちの訪問を受けることがある。ディヴィーナは数ヶ月おきか、数日おきの好きな時に、出入りしているし、数十年ごとに、他のガーディアン達の近状を知るために訪問することもある。私は長いこと生きているし、その大半が一人きりだった。それで、周りに人がいることが苦になってしまった。仲間が欲しいとは思わないが、時々来る訪問者を断ることもない。」
「あなたは、私がいることで病んでしまうと思いますか?」
「私は弟子や子供がいることで疲れたりしない。君は?君は私といることで病んでしまうと思うかい?」
僕は彼の飲み物を見下ろした。
「僕は偉そうな人に失望する癖がある。僕はそういうのが好きじゃない。僕は母に多くの責任を負わされたにもかかわらず、敬意をもって扱われたことが無いし、何らかの機会を与えることなど無いに等しかった。」
「責任と機会は紙一重だ。」
「母は、それらを交差させないためのコツを持っていた。また、私はそれを上回るとても不愉快な義父が3人いた。酔っ払いが二人、薬中が二人、全員が暴力的だった。それの繰り返しで、義兄弟は、小さいものや弟たちを拷問した。ああ、それにあの恐ろしい寄宿学校の先生たち。偽りの希望を伝えた。母は、他の誰よりも良いと思い込んでいる自己顕示欲の強い15人の女性家庭教師と傲慢ないじめっこでいっぱいの学校に代わるようなものだった。僕がどこへ行ったのか、いくつになったのか、どれくらい遠くにいるのか、殆どの人が僕より良いように見えたし、僕を振り回した(あれこれ指図をした)。
「それがどれだけ腹立たしいか見えるようだ。」
「あなたは、そのような問題があったことがありますか?」
エドワードはニヤニヤ笑った。
「私は君の世界の最も年老いた人よりも遥かに年上だし、私の世界では、年老いた人たちは協力し合うが、それでもなお、私よりも大きく素晴らしいと思っている。でも、私には両親がいない。ロネスと私は生まれた時に両親を亡くした。私たちはドゥランで育ち、ガーディアンになるために十分な年齢になった時に分かれた。私たちは移動をすることを学んで再開するまで、30年かかった。」
彼はそう言って再び肩をすくめて、明らかに彼の穏やかな声を上げていた感情を振り捨てようとしていた。
「あなた達は一卵性双生児なのですか?」
僕は慎重に尋ねた。もちろん、彼を混乱させたくなかったが、僕は前任者のロネスについて、聞きたかった。僕は彼の責任下にあった本を継承した。そして特に、彼の兄弟が僕にゼロから教えてくれることになったので、少なくとも、彼の名に恥じないようしたかった。
「そうだ。私たちはとても近かった。少なくとも、時々はね。」
彼は無表情を保とうとしていたが、うまくいかなかった。
「約3年前、私たちは酷いケンカをした。彼は去り、彼を再び見ることが無かった。彼が殺された時、最初は理解していなかった。私は彼の死を感じ取ったが、何を感じているか分からなかった。そんなにショックを受けるべきではなかった。」
彼の口調には怒りがあった。
「私はいつも神々が何らかのゲームをしていると感じていたし、自分はただの捨て駒だと思っていた。私がやるすべての事は彼らのためであるから、彼らも私の兄弟が殺されたとしても、私に言う必要はないのだ。私は自分自身が彼の本を探し出しても良いかと聞いたら、少なくとも、彼らはそれを認めた。」
「大丈夫ですか?」
と、聞いた。
彼は怒りと苦痛と戦っていた。彼は目を閉じ、一息ついて飲み物の残りを飲み干した。
僕は感情的になっている人の扱い、特に感情的になっている男性の扱いは、苦手だったが、誰かが話すことを必要しているときは分かったし、そうすることについては、何の問題もないと思っていた。それは、持っている問題に対してのフィードバックだと思った。僕が心理学の学位を得ていたので、僕の友人の多くは、彼らに健全なアドバイスをすることを期待していた。僕は実際に心理学を愛していたが、それを仕事にしたくなかった。よりによって、めちゃくちゃな幼少期をおくった僕が他人の生活を正す手助けをする?目の不自由な人が目の不自由な人をリードするようなものだ。
彼は目を開けて悲しい笑みと言ってもよいあいまいな表情をした。
「ああ、大丈夫だ。」
と、彼は答えた。
僕は彼が急にトーンを変えたので驚いた。彼は立ち上がってカップをテーブルの上に置いた。話はそこまでだというのが明らかだった。
「これからどうするつもりですか?」
「薪を片づけに行く。君は、今日学んだことを練習しなさい。」
「あなたは、あの湖へ自分で行けと言うのですか?」
「君にとって大事なのは、影響を与えかねない私なしに、学んだことを実践することだ。」
と、彼は言った。
僕はまばたいて、自分を見下ろした。
「僕は悪くないのだけど。」
「私は、少なくとも20回ほど君を温泉に投げ入れようと思った。私は匂いに敏感なのだ。」
と、彼は主張した。
「その上に、その悪臭では、ディヴィーナに良い印象を与えることが出来ないぞ。」
彼にポイントをつかれ、僕は怒って落し戸に向かった。それを上げようとしたが、膝の上までしか上げられなかった。エドワードが僕の横に来て僕の手をはらい、全く支障なく、それを持ち上げた。僕は彼がニヤッとしたのを無視した。
「また言うが、君はじきにここの重力に慣れる。」
僕は階段を下りて、自分のベッドの横にあるドレッサーの前に立って、一番上の引き出しにきちんとたたんで入っていた僕の最後の洋服を見つけた。緑のTシャツと青いジーンズをもって、ぎこちなく階段を上がって、空っぽのキャビンへ戻った。エドワードは静かに外へ移動して薪を集めていた。チビットは扉があいたままの自分のカゴの中にとまっていて、いつものように、死の視線を送った。
目を溶かされたくないので僕は急いで出ることにした。エドワードは僕が森に入り始めたのに気づいていなかった。だけど、僕がガラガラ草にちょっとつまずいたとき、彼がニタニタ笑っているのをみた。僕はイライラしながら立ち上がり、力強く踏み歩いたが、4歩先で再び転んだ。
でも、すぐに歩きやすくなり、流血することも少なくなった。同じ濃いオレンジ色の樹木の側を3回目に通ったとき、僕は方向を変えたら、すぐに温泉を見つけた。水はとても穏やかで、虫もおらず、静かだった。僕は清潔な衣類を水の中にあった岩の上に置き、腕から包帯を外した。歯の痕がくっきり残っていたが、血は流れず、見にくい瘡蓋がかぶっており、数か月前のもののように見えた。それぞれの猫がどこを噛んだかよく分かった、やつらが掴みきれずに引っ掻いた痕も見られたが、どれももう血は出ておらず、化膿もしていないようだった。数日前に起こったことだと思うと、それは驚くべきことだった。
次に、僕は汗まみれで血まみれの服を剥ぎ取り、水に入る前に燃やしたと思われる部分がかなり酷い悪臭を放っていると気づいた。でも、僕はそれらを燃やすようなことは何もしなかった。一方…
僕は自分の衣類から数フィート離れたところに座り、エネルギーに集中した。僕は自分の周りに雲のようなものがあり、自分の意思でそれを衣類に押し込んでいるのを想像した。衣類が高温になると心に描いただけでも、めまいがした。
僕は、めまいが激しいときに、大きいお湯の塊に入るのはとても良いこととは思えなかったので、しばらく待つことにした。空気が少し涼しく、より快適になってきて、太陽は日焼けの心配をするほど空高くなかった。僕に起こったすべての事を考えるには非常に良い機会だと思った。
そして間もなく吐き気もなくなったので、僕は温泉に入り、慎重に自分の足場を調べた。
お湯はとても温かく、僕の手足全体のひっかき傷等に沁みることはなかったが、筋肉痛にはとても良かった。何か所か浅いところや深いところがあったが、水位は殆どの場所で僕の肩位あった。温泉床は滑らかな小石でできていた。僕はキズの汚れをこすり落とそうとしたが、また汚れがたまるのではないかと気づいた。頭の中で計画しながら自分の汚い服を、自分自身の匂いよりも水の匂いになるようにゴシゴシ洗ったあと、グルグル回し、乾燥させるために岩の上に置いた。
僕が服を着ようとしているときに、誰かが視野の隅に入った。僕が振り返ると、約1,8メートル先にある大きくて平たい岩の上に、足を組んで座り、僕を観察している娘がいた。運よく僕はまだ水の中に入っていた。彼女は7、8歳くらいで、白いレースのナイトガウンを着ていた。彼女の髪は長く、ホワイトブロンドに水色のハイライトが入っており、彼女の深い青色の目に良く似合っていた。彼女の人間離れした白い肌は、薄暗い日光に輝いて見えるようだった。彼女は好奇心で眉をひそめたが、僕が見えていないようで、どっちかというと、自分の考えに深く入り込んでいるようだった。僕は少なくとも一分ほどは固まっていたが、僕たちは一切動かなかった。
すると、彼女は僕の後ろの何かへ視線を変えたので、反射的に彼女の視線を追った。森しか見えなかった。彼女の方を見ると、既に去っていた。それとも、元々そこには居なかったのか。
「僕は大気汚染不足で頭が変になってきたのか。」
僕は声に出していった。
「僕はきっと ‘自分自身に話しかける’あれなのだ。」
僕は大胆にも、太陽がいつ、そしていかに早く沈むか知らないままそこに留まった。僕はきっと暗闇では帰り道を見つけきれなかっただろうし、エドワードが迎えに来てくれるのか、それとも自分で何とか生き残る術を学習させようとするのか分からなかった。でも僕は探しに来てくれると確信していた。何しろ、一日目に迷って我を忘れてしまったら、惨めなガーディアンになってしまう。僕は娘を見るなどの譫妄状態や独り言などを言い始める前に、せめて二日、新しい住まいで我慢しなければいけない。輝く人の幻覚…、幽霊のでる温泉だなんて…
僕は素早く出て、清潔な服を着た。そして洗って乾燥したあの汚れていた服を僕の負傷した足や腕に巻きつけた。それは不快だったが、もう怪我をしたくなかったので、保護するには役立にたった。それから僕は森を歩き始めた。僕の迷わないと言う決意をよそに、自分が家に戻れたと気づいた時、太陽はもうかなり沈んでいた。幸いなことにエドワードが見当たらなかった。僕は、混乱していたし、トラブルにあったことを彼に知ってほしくなかった。僕は汚れた服を脱ぎ、ポーチへ行った。僕はノックするべきか、そのまま入るべきか、それとも両方するべきか分からなかった。5分ほど、どうしようかと決心がつかずそこに居ると、エドワードが面白がりつつもイライラした様子でドアを開けた。
「ノックする必要はないので、ただ入りなさい。」
僕はうなずいて入った。
「君はやけに長いこと外出していたが、どこで時間の大半を失ったのだ?」
「いや。」
彼は信じられないと言った顔をした。
「多分半分くらいだけです。温泉の方へ降りて行ったら、女の子を見た。きっと幽霊だったと思う。」
「本当か?きっと彼らは君に興味を持っているのだろう。君は私が教えたことを実践してみたのか?」
「はい。僕は再びそれを行うことが出来ませんでした。」
「練習し続けなさい。今の君はまだ頭がいっぱいだと思う。」
と、彼は言った。
僕は、自分で火起こしを試みたことについて、言うべきかどうか迷ったが、言うことにした。僕は暑くなり、吐き気がしてきたことを話している間、彼は思慮深く聞いていた。
僕が説明を終わると、彼は、
「止めて良かった。」
と、言った。
「君は効率的にエネルギーを加熱していたのだが、自分の中で加熱していたのだ。」
「ああ…」と、僕は言った。
「それは酷い結末に至ったかもしれない。」
「そうだな、きっと君は深刻なダメージを受ける前に気を失っていただろう。」
彼はテーブルまで行って、小さな粘土でできた薄茶色の壺を取って、僕にくれた。
「君の腕はだいぶ良くなったようだが、寝る前にこれを塗りなさい。」
と、彼は言った。
ふたを開けてみると、初日の夜、僕の腕に塗ってくれたのと同じ軟膏が入っていた。
「新鮮なものの方が良い。ウィグノックの木の樹皮は可燃性ではないが内側の木材はよく燃え、しかも長い間燃える。私は医療的効果がある樹脂を剥がし、中身を薪として使っている。」
「樹皮が山火事などから樹木を守るなんて、賢いですね。あなたはこれから肉の下ごしらえを教えてくれるのですか?」
と、僕は聞いた。
「君が何時に戻るか分からなかったし、長い間あそこで座って待っている訳にもいかなかったので、もうできている。君はもう空腹かい?」
「そろそろ空腹のはずだけど、そうでもないです。」
「多分食物の質だと思う。君たちの‘ファストフード’よりもヨーキーの方がよっぽどいいと思う。」
「れき死動物の方がファストフードよりもましです。轢き殺されたのは本物の肉ですからね。」
「君は冗談を言っているのか?あの食べ物は非衛生的に見えた。」
「その日にもよります。料理は、月・水・金に調理されるので、それらの日の早い時間に行けば、安全です。もし日曜日の夜遅くに行ったりしたら、多分その後は、救急外来まで運転する羽目になると思います。」
「それは覚えておこう。以前、ロネスが地球のファストフードについて気を付けるように言っていた。」
「僕が働いていたハンバーガー屋は、ファストでもフードでもなかった。あなたは風呂に入りますか?」
と、僕は聞いた。エドワードは椅子の上から今着ている服とそっくりな衣類の束を持った。彼は僕が帰ってくる前に準備していたようだ。
「もう直ぐ日が暮れるのでは?」
「ああ、そうだが、暗くても自分が進む道は見つけることが出来るし、十分な月明りもある。下の階にある私のベッドの下に汚れた服を入れる袋がある。明日、洗濯の仕方を教えるとしよう。君の世界には洗濯機があるので、洗い方が分からないのではないかと思う。」
「ええ、分かりません。僕はコインランドリーを利用していました。」
「…それは?」
「広いところに洗濯機が沢山おいてあって、コインで払って使うことが出来るのです。あなたの本を見ていいですか?」
「もちろん。」
彼は窓の外を見て太陽の沈み具合を考慮し、テーブルの上にあった小さいランタンを持ち、ふたを開けて灯心を押した。彼が手を離すと、灯心に火が付き、部屋を明かりで満たした。
「ありがとう。」
と、僕は言った。
彼はうなずき、一旦ドアへ向かったが、立ち止まって僕の方を向いた。
「私のベッドの下に安全装置のかかった銃が一丁置いてあるのと、ストーブの後ろにもう一丁、安全装置のかかっていない銃がある。どちらにも装填されている。それに、小屋には斧が三本と多くの鈍器が置いてある。それに、念のために言っておくが、もし飛び上がる必要があったら、あの垂木は十分君の体重を支えることが出来る。」
僕が目を大きく見開くと、彼は断言した。
「あなたは、僕が銃二丁、斧三本、多数の鈍器と隠れ場所が必要になると思っているのですか?」
「いいや。もし何かが襲ってきた場合に備えて言っているだけだ。時々ヴァンパイアや飢えた動物、酔っぱらったマグスとかがここに来てトラブルを引き起こすことがある。滅多にないが、君はそういうものを引き付けてしまうかも知れない。私はすぐに戻ってくる。」
「急ぐことはないです。でも、行く前に…ヴァンパイアはどうやって殺すのですか?」
と、聞いた。もちろん、アンデッドというものは存在しないので、本気ではなかった。それにエドワードは、ヴァンパイアについては冗談を言っていると思ったが、その他の二つ脅威はあり得ると思った。
「目の間に銃弾一発、心臓に杭を一本、生きたまま焼く…か、単に逃げる。君は逃げながら助けを呼ぶのだ。すぐに帰ってくる。
と言って、出て行った。
僕はランプを持って下の階へ降りた。
エドワードのベッド下にあった袋に僕の服を入れた後、本棚へ向かった。
エドワードが持っている本はその殆どが僕には読めない言語で書かれていた。いくつか、エドワードの言語と思われる手書きでタイトルなしの物もあったが、僕はグリモアだと、かなり確信していた。ところが、エドワードは英語の本も数冊持っていた。そのうちの一つは世界の宗教についてのもので、それらのカバーには、「第二千回の誕生日おめでとう」というロネスのメッセージがあり、自分の名前の下に日付を書き込んでいた。僕はなぜロネスがわざわざ英語で書いて、サインはエドワードのように書いたのか、不思議に思った。まあ、二人ともドゥランで育てられたと、エドワードが言っていた…でも、彼らがスドで名前をサインしたのならば、それは、その言語が2千年以上あるということだ。
いくつかの本は、アングロサクソン(古英語)で書かれた歴史や詩集だったが、それらもロネスからの贈り物のようだった。僕が認識した名前はシニウルフ、ケドモンと、ベーダ。現代英語で書かれた本の殆どが魔法についての物だった。いくつかは聖書だった。アレイスター・クロウリーとH.P.ラヴクラフトも見覚えがある。手書きの古ノルド語で書かれた本が二冊あり、そのうちの一冊はセイズについてだったので、僕は、両方とも魔術に関するものだと思った。
現代英語の本はいずれも実際の話ではなかったので、僕は一冊持ってベッドルームを後にした。
僕は、常に僕の事を観察しているチビットに注目するまでの数分間、キャビンの中を散策していた。僕は彼の邪悪な視線から逃れるために外へ出た。太陽は既に沈んでいたが、見上げると光をたっぷり発している巨大な白い月が出ていた。僕は冷たくなった薪の近くに座りに行って、芝生に背中から倒れた。月明りは僕の目には非常に明るかったので、横を向くと…まだ月が見えた。月が二つある!横に見えるのは、真上にあるのよりかなり小さかったが、それでもなお、そこにあった。
「僕は地球にいないのだ。」
僕は感傷的にささやいた。僕は自分の国から出たことも無かったのに、突然、別世界の異国の空を見上げている。日本のような世界で、沢山の幽霊がいる温泉、ウィザード達や牛のようなヨーキー、そして擬視する不気味なカラスがいる世界。あまりにも多い重力と多くの月がある。
自分の人生において、その一瞬が最も場違いにいると感じたときだった。地球では少なくとも何を期待しているか分かっていたし、何を期待されているかも分かった。少なくとも、地球では都会に住んでいたし、仕事も、アパートもあったし、学校へ行っていた。それが僕の人生の全てだったし、居場所もあった。友達や家族もいた。
エドワードとロネスにも、二つの世界で離れて生きていくのは辛かっただろう。
2本の木が揺れ始め、森の影に乱れがあった。それらの木は巨大だったにもかかわらず、それよりも大きいが強い何かがいた。僕は影の動きを見ることができ、それが巨大に見えた。
動くな、動いたら彼は君を見ることが出来る。自分に言い聞かせた。それとも、T-Rexなのか?僕は危険を引き付けると言ったエドワードが正しかった。僕は小さくて無防備でジューシーな動物の匂いがしなければいけない。多分それはただのエドワードかも知れない。若しくは、エドワードのペットのトロールかも。早く!死んだ振りをするんだ。その代りに、僕はゆっくり座った。僕は銃を持ってきていなかったし、この重力で走れば、きっと小屋に行きつくまで何度も転ぶだろう。ホラー映画に出てくる女性のようにね。そういった考えが僕を地面にくぎ付けにした。その後、動きが急に止まり、巨大な形状は小さくなり、離れていった。
僕は、さっき木を揺らした何かがいた数メートル離れた森からエドワードが出てくるまで、しばらくそこに座ったままだった。僕は飛び上がって、馬鹿みたいに木々を指差しながら彼の方へ走っていく衝動を堪えた。
「あなたはアレを見ましたか?」
と、僕は聞いた。彼は混乱して眉をひそめた。
「向こうの森の中に何かがいた。それが木を揺らしていたのです。」
彼は僕の前で止まった。
「君は夜なのに銃を持たずここに来たのか?全ての大きい捕食動物は夜行性だ。」
と、まるで僕が非常識だと言わんばかりに彼は言った。
「あなたは銃を持たずにあっちにいたではないですか。」
と、僕は指摘した。
「私は人間でもないし、また、モンスター用磁石でもない。君を生かしておくのは挑戦的になるようだな。」
と、予想するように言った。
何度も夜中に外へ追い出された経験が、皮肉で攻められても、僕が返答せぬよう堪えさせた。彼は僕に、夜が危険だって言ったことが無いのに、どうして僕に怒ることが出来るのだろうか?僕は、夜出歩くモンスターは人間でしかないヒューストンから来たんだ。
僕はいかに不快を明らかにしたか確かではないが、彼はため息をついた。
「座りなさい。」
僕が座ると、彼は僕の近くに座り、汚れた衣服を膝の上に置いた。
「私は、数回地球から弟子を取っている。そして彼らは自分の影を恐れる孤児たちだった。」
彼は身を乗り出し、移動させた丸太に火をともした。
「私は君が中にとどまると思って警告しなかったので、申し訳なかった。」
彼はグリルを調整してから座った。
「どうしてあなたが手を振れなければ火が付かないのですか?」
と、僕は聞いた。
「火と土を操るには、膨大なエネルギーが必要となる。望むものに触れることで、そこにエネルギーを集中させる手助けをするのだ。」
「そのようにして、あなたの周りの物を爆破しないようにするのですか?」
「そうだ。誰でも魔法を学ぶことが出来るが、一部の人々にはそれが容易になる。我々が使う魔法のエネルギーはノミナルエネルギーと呼ばれ、実際の世界によって生成される。それぞれの本はそれらの世界への移動のみならず、魔法を保護している。」
「だから、もしそれらの本の一つが破壊されたら…」
「世界も破壊される。それは、神々と彼らの世界、そして魔法の間にある微妙なバランスだ。私たちはそのバランスを保護するためにここにいる。」
「僕が覚悟していたよりプレッシャーが多いですね。僕は自分自身が、明白に変わるか大きな転換をしなければいけない時に、なぜあなたは水を制御することを教えているのですか?」
「転換は、私の兄弟を護ることはなかった。4つの基本要素をマスターすることは、他の魔法を学ぶ時の基礎となる。ウィザードにとって、僅かなエネルギーをコントロールするのは容易になるだろう。しかし、君は一つか二つの要素で苦労するだろう。」
「それで、あなたは火と土、または空気と水のどれに優れているのですか?」
「私は土に優れている。多分君もそうなると思う。大半のウィザードにとって空気の扱いは難しかったが、ロネスはいつでも空気に優れていたので、それは奇妙だった。彼はまるで仕事外で芸術作品を創造しているようだった。彼は多くの魔法の本を書いたが、魔法よりも哲学のようだった。彼はあらゆるものについて学ぶのが好きだった。彼が一番好きだったのは、学ぶことだった。
「あなたは?」
「私は知りたいが、私は彼よりもずっとせっかちでね。」
「僕は心からあなたのその物の見方に同意します。僕の人生はずっと、使用することはないと思われるピタゴラスの定理や戦争の歴史、筆記体などを学ぶことを余儀なくされてきた。物理、心理学、古代言語など…それらについて学ぶのは楽しむようなものだった。僕が学んだ重要なことは、全て自分自身で経験を通じて学びました。継親は悪、小さい犬は悪、年上の兄弟は悪であることを僕は学びました。あなたはロネスより年上ではありませんよね?もしあなたが年上であれば、あなたは悪に見えません。」
「私は知らないが、私は一度、狩猟用のおとりとしてロネスを木に結びつけたことがあるので、そうかも知れない。」
彼はいたずらっぽく笑った。僕は、見つけるすべてのロープを隠そうと、頭の中にメモを取った。」
僕は咳払いをして続けた。
「僕は自然の法則を含む、殆どの法則が不公平だと分かった - 男の子は女の子よりも動物に対して残酷だし、女の子は何よりも男の子に対して残酷だし、虫刺されはかゆいし、濡れたプラグをソケットにさすのは良いアイデアではない--。」
「君は何度感電したことがある?」
と、エドワードに遮られた。
僕は考えていることを声に出して、指を数えた。
「6歳の誕生日、学校の修学旅行…、教師会合…、7歳の誕生日…、ステーシー・ブリガンとお泊りのとき…、テレビルーム…、ステーシーの地下室…。」
僕は思い出に微笑ながら。
「ヴィヴィアンの家と…、雷が落ちたとき。」
「9回も!?」
「その殆どがちょっとした感電だったけど、それらの内、三回だけERに行く羽目になりました。」
「そして、そのうちの一つは、君の心臓を停止させた。」
と、彼は指摘した。
僕は下を見た。
「現在は…、二回です。」
僕は彼の視線を感じることが出来た。
「修学旅行での事件は科学博物館に行ったときに起こったので、僕はいつもついていなかった。以前、僕は狂犬病を持っていると確信していた犬に噛まれたことを覚えています。」
「噛まれたのか?」
と、彼は聞いた。
僕は視線を上げて彼を見た。
「いいえ、僕が打っていないと思っていただけで、その犬は狂犬病の予防接種を受けていました。しかし、犬の所有者は僕にかなり怒っていたので、彼女から狂犬病をうつされるのではないかと思いました。動物園へ行ったのも修学旅行の一度きりで、アリゲーターの穴に落ち、その後、ホッキョクグマのところにも落ちた。幸いなことにクマたちは泳いでいたし、アリゲーターはエサを与える飼育員を追いまわしていた。なんて、皮肉なんだろう。」
「君を動物園へ連れて行ってはダメだと、忘れさせないでおくれ。」
「そして、僕は海への修学旅行では溺れ死ぬところでした。二回も。その上にカニにまではさまれました。先生は僕に水辺へ行ったり、砂に触れたりするなと言い、水分補給をさせるため実質的に僕の喉に水を流し込んだ。彼女は再び弁護士と交渉したくなかったようでした。」
「君はいったいどうやって生きていることが出来るのだ?」
「ERへ3回、CPRへ二回、そして、自分の勤務時間帯に患者を死亡させるはずがなかった不気味な医者。彼もまた、弁護士と交渉したくなかったようです。だから、僕はいくつかの医療事故にあいました。」
「骨折はどれくらいあるのだ?」
と、彼は聞いた。
「ひびを含まず、全ての指、それも大半が二回以上…、両腕、それに加え、右腕には怪物猫に二回噛まれたし…、足の指も一本を除き…、両足、そのうちの一方は前に話した義兄弟のジェイコブに粉々にされて地獄へ送られたのと…、両脚…、肋骨数本…そして、頭蓋骨も本当に酷い割れ方をした。母は、もう病院からの請求を払わないと言ったので、もうどこも怪我してはいけなくなった。6歳で生命保険を気にするなんて、どれだけ思わしくないか分かりますか?」
「生命保険とは?」
「もし僕が死んだら、彼女は大金を受け取るのです。あなたは分かりますか?僕はいつも誰かが外で待ち伏せをしていて、殺されると思っていた。きっと母は、神が僕を試しているか,罰しているかで、もし僕の行いが悪い場合は、地獄へ落とすと言うだろう。おそらく僕が信じなかった理由は、僕はもう既に大半の時間地獄で過ごしていたためと、もう誰も、神でさえも、それ以上悪くできないと思っていた。」
「タィアマトは、君や他の誰かを殺めたことが無い。彼女はそういった方法はとらないと、ロネスに聞いたことがある。しかし、誰かがいたかのように思える。けれども、私は不運の兆候を見ていないので、君の不幸は微妙に聞こえる。」
「あなたと知り合ってまだそんなに長くないし、僕がここで過ごした大半の時間は寝ていました。僕が近くにいると、何かと起こりやすいのです。ボルトが緩んだり、ロープがプツンと切れたりね。母のボーフレンドの何人かは、僕がポルターガイストに悩まされていると思っていた。僕は最も従順な犬に嫌われたので猫を飼っていたのです。」
「実はそれは奇妙だ。殆どの犬はウィザードが好きだ。君の免疫システムはどうだ?」
「僕は以前、喘息と二重肺炎の上に、水痘、腺ペストと耳感染症にかかっていたと、確信しています。母は、鳥インフルエンザの話を聞いたとき、週4回学校へ登校する以外、外出させてくれなかった。僕の免疫システムのせいで母は僕を外国へ行かせなかったし、僕の部屋を病院のように常に清潔にさせた。僕より運の良いはずの黒猫を轢いたこともある。」
と、僕は不満を言った。
エドワードは面白がって見ていた。
「もしかすると、君はここで良い運を持っているかもしれない。」
彼は自分のバッグからウィグノットの樹皮を一つ取り出し、僕に渡した。
「君は、これを少し、常に持っているといい。キャンディーのように食べるといい。」
僕はそれを取って半分に割り、半分を口に入れた。アメリカの大部分で樹皮を食べることに難色を示すが、少なくとも中華料理屋の外ではヨーキーを食べている。
「あなたは僕よりずっと年上なので、はたしてあなたより長生きできるか自問しています。」
「私たち二人とも不死身だ。私たちは殺害されない限り死なないし、私は君に殺されないようにした方が良いと思うが」
と、彼は言った。
僕は彼が正しいと知っていた。
「あなたは結婚したことありますか?」
と、僕は聞いた。
「あなたは長いあいだ生きているし、子供もいました。あなたは女性を愛したことは?それとも…、子供を持つことを義務付けただけですか?」
彼は炎を見ながら思慮深く、眉をひそめた。
「両方をちょっとずつかな。愛したことはある。好きで仲良くなった女性も数人いる。そして愛を見いだす前にも子供が数人いた。」
彼は自分の本を取り出し、あるページを開き、スドではない日本語や中国語に少し似たサインを指差した。
「人間のミリア。彼女は魔女ではなかったが、未来のビジョンが見えるということで、彼らは彼女を魔女と見なして火あぶりにした。その頃、私はロネスを訪問していた。ロネスは女性に対して本当に紳士だったので、助ける機会があれば、あきらめなかった。私は、人間はいつも腹立たしく残酷だと思っていた。彼らは滅多に本物のウィザードを火あぶりにすることはなかったし、たまたまそれを行ったとき、偶然にも、その人はまだ自分の能力を発見していなかった。ミリアは自分の能力を否定したことが無かった。彼女は勇敢にもその罰を受けたが、必ずしもそれに値するわけではなかった。」
「彼らは彼女を持ち上げ、首にロープをかけた。私たちの目はくぎ付けになり、私の中で何か…彼らに彼女を殺させてはならないと思った。今でもその理由は分からないが、それを絶対に起こさせてはいけないと思ったのだ。ロネスは誰かを助けに行っていなかったので、私は彼女を助けるために、あの人々の前に立ち上がった。しかし、必要とする時に運がついてきた。彼女は直ぐそこでビジョンがあったのだ。彼女の肌は青ざめ、白目をむいて…、彼女はまるで発作を起こしているようだった。彼女はまるで私の事を知っているかのように、私の名前を呼んだ。それは人々を怯えさせ、何人かは逃げ出した。誰もがとても驚き、反応できぬくらい混乱していた。私は皆の気が動転しているすきに立ち上がり、ロープを切って彼女を下した。ビジョンが終わると、彼女は気を失った。私は彼女をそこから引っ張り出し、誰にも追われずロネスの家へ戻った。
「ロネスは、私はバカだと何度も言ったが、それと同時に、なぜ私がそうしたのか分かっているようだった。しかし、それからずっと後まで、その時の彼の視線の意味が分からなかった。彼女は目を覚ますと、私がそれについて話す前に、私の本にサインしたいと言った。その後、長い間、彼女は私と一緒に暮らすことになり、それは素晴らしかった。私は彼女といて幸せだったし、時々口論になっても、大抵子供に関係することだった。彼女には二人の子供にしか恵まれなかったが、どちらも、彼女に多くのトラブルを与えた。しかし、約20年経つと、彼女は落ち込むようになった。私は不死身だが、彼女は年を取り続けた。」
彼は解読できない表情のままだったが、彼の声は落胆していた。
「彼女は私の元を去り、彼女が齢を重ねるのを見ることはなかった。彼女に見える全てのビジョンにもかかわらず、私には彼女がいない方が良いのだと、彼女は信じていた。私は彼女が去らないように懇願した。彼女は何年も後に、一人ぼっちで死んだ。私はもう二度と他の人間を愛さないと言った。」
「私が若い頃の人生は違っていた。私は女子に囲まれていたわけではなかったし、心痛を含め、そこにあったものを探求する機会も与えられなかった。私がミリアに持っていた感情はとても最も強い種の愛情で、私は数年の間悲惨な状態だった。実際には鬱状態に陥り、ロネスが私の面倒を見ていた。しかし、私は生活を維持することを学んだ。私の命が尽きるまで、それは続くと思っていたが、それは私の世界を離れることになり、その世界の全員を危険に晒すことになる。結局、他にも愛する女性が現れ、齢を取るごとに深く愛し、彼女らが去るか亡くなるときの損失は痛みを伴うものとなった。」
数分沈黙が続いた。僕は彼が愛した女性たちの話題に戻したくなかった。それは、聞きたくないからではなく、ただ単に、悲しい思い出を蒸し返したくなかったからだ。彼は長い人生において多くを失ってきた。愛する人達の中で死ぬはずがなかったのはただ一人、ロネスのはずだった。ロネスはつい最近殺されて、僕はそれを思い出させる人だ。その考えは僕を惨めにさせた。僕たち二人は惨めに座り、きっと彼は僕よりはるかに強く惨めさを感じているだろうし、僕は惨めさよりも罪悪感によるものだった。
「君は、何か興味をそそるような本を見つけたのか?」
と、彼は自然な声で聞いた。僕は火を見ながら頭を振った。
「いいえ。興味が無いわけではないですが。ロネスは宗教関係が好きだったのですか?」
と、僕は聞いた。
彼は僕を見て、
「ああ、彼はそれら殆どに魅了されていた。彼は、神話や宗教、哲学などが魔術よりも好きだった。彼は、それらが人々について学ぶには最善の方法だと言っていた。」
「聞きなさい。」
彼の声色が少し低めに変わり、炎をじっと見つめて言った。
「君の人生で何が起こっても、あの本を保護することが最優先だ。ロネスはいつも愚かなリスクをおかしていた。彼は頻繁に自分とあの本を危険に晒していた。でも、最終的には、それが彼の死を意味しても正しい判断をした。君もいずれは同じような判断をしなければいけないことになる。」
「はい、知っています。それが実際に何を意味するのか分かりませんが、何をすべきか分かっています。」
僕たちは同時に立ち上がった。エドワードは祈るように両手を合わせ、手をパッと素早く開けて、炎へ向かって何かを押すような動作をした。火は怒っているように動き、消えた。
「ナイス。」と、僕は言った。
「あなたは、いつもそうやって弟子たちに誇示するのですか?」
「新米の弟子は、常に、簡単なトリックで畏敬の念を表す。私は火を消した以外、何も特別なことをしてない。私の弟子たちの大半は若者で、魔術が得難いものだと感じると、すぐに興味を失う。
彼はポーチの方へ向かったので、僕は彼に続く前にランタンを手に取った。
僕はあとどれくらい自分の体を支えられるか分からない脚でベッドへ向かい、彼は、自分の汚れた服を片づけてから読書をするためにそこに残った。入浴したのは良かったが、筋肉痛が激しかった。僕は座って靴を脱ぎ、エドワードがそれで躓かないように、片づけた。チビットさえも音をたてず、辺りは真っ暗で静かだった。
僕は本について、いずれその本を護るために自分の命を危険に晒すであろうことなどを考えた。僕が何をするにしても、本にとって何が最善なのかを考慮しなければいけない。でも、それを苦に思えないのは何故だろう?
* * *
僕が夢の中に引き込まれるまでにそう時間はかからなかった。どっちにしても、この夢にはヴィヴィアンや母、大学に関係するものではなかったので、普通ではなかった。それに、エドワードやヨーキー、チビットやロネスとか、不気味な温泉も出てこなかった。
目が慣れてくるまでの数分間、真っ暗闇だった。それにしても、床や壁が見えず、ただ、僕と明かりの間に背の高い男のシルエットがあった。そして、なぜもっと早く気付かなかったのかが分かった。彼はたった今ランタンに火を灯したのだった。彼については、光との位置関係から、彼は僕から目をそらし、向こうを向いたとしか判別できなかった。
「君は確信しているのか?」
彼の声は冷たく落ち着いていて感情を示さなかったが、それと同時に、深く威嚇するような声だった。
僕はあたりを見回すことが出来ず、動けないようだった。とても鮮明だが、何も、室内の温度さえも、感じることが出来なかった。
「はい。ご主人様。彼らのうちの二人がいました。」
新しい声は、軽く心配そうだった。子供の声だった。
「地球の本はガーディアンがいます。シオが地球のガーディアンを殺したと言っていましたが、彼はもしかしたら嘘をついたのかもしれません。彼が殺したのが本当にガーディアンだったと、ご主人様は信じておりますか?」
「私はシオのことを信用していないが、彼が殺したマグスはガーディアンだった。きっと新たなガーディアンがいるのだろう。こんなに早く一人発見したとは、失望するが、私はもう一人のガーディアンに興味があるのだ。二冊の本が一緒にある。今はそれを探し出す絶好の機会だ。」
「でも、ご主人様…二人のガーディアンですか?あなた様がご一緒できないとなれば…、私たちは負けるかもしれません。」
と、子供が不安そうに言った。
「君は分からないのか?一人はまだ新人で、まだ子供だと言っていいほどだ。もう一人のガーディアンが両方を護っているはずだ。それは、その二人のガーディアンと二冊の本が脆弱になっているということだ。シオに探すように言うのだ。彼には、攻撃せずに、私たちに報告するように言うのだ。」
「彼は何処から探し始めるべきですか?」
「どこからでもいい。彼は既にガーディアン一人を倒しているのだから、彼らを探すことが出来るはずだ。もし、私が探している二人じゃなかったとしても、ガーディアンの本を奪って私に返すように言いなさい。さあ、すぐ行って!」
その男は肩越しに僕の方をみたが、彼の顔が見える前に僕の体は痛みで焼けるようだった。
* * *
僕は夢から目覚めて起き上がったが、悲鳴を上げるための息さえ全くなかった。僕は体全体で息苦しさを感じ、痛みさえ鈍ってきた。数秒後、僕の体を締め付けていた何かが僕を開放し、僕は痛む肺で一生懸命冷たい空気を吸い込んだ。僕はダラダラと汗をかいていた。
部屋は太陽の光で明るくなっており、自分の位置を把握するのに時間がかかった。ただの夢と分かってから、ドキドキする心臓を落ち着かせようとした。本棚を抱えていたエドワードが、まるで僕がおかしくなったかのように、慎重に僕の方へ向かってきた。
僕がパニックに陥らないように、用心深く
「いったい何を見たのだ?」
と、聞いた。
チビットが金切り声をあげていた。僕は耳をふさぎながら、後ろへもたれかかった。
「それをオフにして!」
と言って、泣いた。
エドワードは見上げ、
「黙れ!」
と言った。彼の声はそんなに高くなかったが、深く権威を持っていた。それはうなっているようにも聞こえた。そして鳥が静かになった。エドワードが少し屈んでウィグノットの皮を少しくれたので、きっと僕がどんなに恐ろしく感じたか知っていたようだ。僕はそれを震える手で、弱々しく口まで運んだ。
「君は何を見たのだ?」
彼は、冷静に再び尋ねた。
「僕は夢を見たのです。ただの夢。ここでいったい何が起こったのですか?」
本がたくさん落ちているのを指差して、聞いた。
彼は、ベッドの僕の隣に座った。
「何を見たのか私に話しなさい。」
「僕は、どこかの部屋で男性といたのですが…、その人は僕に背を向けていた上に反対側に光があったので、顔は見えませんでした。彼は誰かと話していました。彼女がどこ居たのかは見えなかったが、子供だと言うことは確信できます。彼は、若いのともう一人、二人のガーディアンについて尋ねていました。その少女は、彼に僕たちのことを話していました。彼女は僕の事を知っており、あなたが一緒にいることも知っています。そいつは、私たちの本が一緒にしてあることで脆弱になっているから、彼女にシオという名の誰かを僕たちの所へ送り込むように言っていました。多分、そのシオがロネスと会ったのだと思います。シオが僕たちを見つけたら、攻撃せずに報告するようにと言っていました。少女は、彼がそこから離れることが出来ないことと、二人のガーディアンを相手にすることについて心配していましたが、彼は、僕たちは問題ではないだろうと言っていました。彼は顔をそむけたが、その前に彼の顔を見ることが出来て、痛みを感じ、目が覚めました。いったいここで何が起こったのですか?」
「私は、小屋が震えているのを感じて目が覚めた。君はエネルギーを吸収してのたうち回っていた。君はガーディアンとして、本に危険が迫っているときに先見の明がある。君はヴレチアルを見たのだ。でも、君が彼を見ることが出来たということは、彼も、君のことを見ることが出来る。君が見られないために、本が君をそこから引っ張り出したのだ。」
僕は、ほぼ平常に戻っていた。
「どのようにして彼らは本を追跡することが出来るのですか?」
「サーヴァントや私と同じように、やつらは本の匂いを追跡することが出来るのだ。しかし、至近距離でないと機能しないので、私のテリトリーの近くにいない限り、見つけることはできないだろう。」
「忘れていました。では、それらの本は臭匂いがするのですか?」
「いや、それらの本は、異なったオーラを持っており、おそらく大型動物を遠ざけ、小さいものについては気にしないようにするのだろう。君が初めて近づいたとき、君は逃げたくなったか?」
と、彼は尋ねた。僕はうなずいた。
「それは、身を護るためだったのだ。君がそれを取りに行って、ガーディアンにならぬままキープできたのは…、不思議だ。しかし、その一方、引き取り手の無い本は見たことが無い。君がガーディアとなるか否かに関わらず、それに署名しなければいけないと思う本能は強かったのではないかと思う。
「あなたは、僕を護って指導することによって大きなリスクを負っているのではありませんか?」
「君と君の本を無防備にしておく方がさらに危険だ。それについては、君が本に署名する前に考えた。彼らがどのようにして世界間を旅するのかは、本当の謎だ。」
「男は、それが問題ではないように言っていた。彼らはロネスのところまで行った。ヴレチアルが本への道を見つけたら?もし見つけたとして、どうして彼はこれらの本を欲しがるのですか?」
「全ての神々が彼に注目し、拘束状態にしている。もし彼が本なしで手下を移動させる方法を見つけたとして、彼はもっと多くの世界をコントロールするために、更に本を欲しがるだろう。ロネスについては…、可能性が最も高いのは、間違った人に署名させたことかも知れない。」
「でも、あなたは?」
「私は信頼の問題がある。」
僕は眉を上げた。
「あなたは、かなり早く僕の事を信用しました。僕が奴らの味方でないと、どうやって分かるのですか?もしあなたより先に本を見つけていなくて、本に署名するためにバカなふりをしていたら?」
彼は笑った。
「君は賢い。しかも偏執的だ。」
僕が偏執的だからといっても、僕と僕の小さい本を捕まえようとする邪悪な神がいないとは限らない。
「私もそれについて考えた。ロネスと私は新しい名前が署名されるたびに、報告し合って、理由も話していた。彼の本に人間は二人しかいなかったし、彼らは君が生まれる数百年前に亡くなった。君が人間だと言うことは明確だし、ヴレチアルに使えるために地球から去ることが出来ない上に、彼の本に自分の名前がある以上、元へ戻って彼を殺すこともできないと分かっていた。」
「では、あなたは、ヴレチアルのサーヴァントたちは彼の本に署名したと思うのですか?」
「移動するにはそうするしかないと思う。」
「そういうことなら、彼らの名前があなたの本にはないので、心配することはないと言うことですよね?」
と、聞いた。彼は、うなずいた。
「ロネスが自分の本を手放したことがありますか?」
「ない。」
「あなたは、彼が新しい名前について知らせていたと言いました。シオのことを聞いたか、見た覚えはありませんか?」
と、僕は尋ねた。
彼は考えながら頭を振っていた。
「名前の90%は読めないが、彼はシオについて話したことが無い。私たちは、お互いの本に慣れ親しんでいたので、君がここに来た最初の夜に、君が寝ている間に調べてみた。」
「ロネスは地球で殺されたのですか?確かに?」
「そうだ。彼の体が見つかることはなかったが、彼が亡くなったときは地球にいたと、ドゥランの神、エロノが言った。私がロネスのボスと話したとき、彼は他の従業員といたようだが、同じ時期に二人ともいなくなったと言っていた。私は彼の家にも言ったが、床に落ちていたギター以外に、どこも荒らされていなかった。彼はテキサスのオースチンに住んでいたので、君を早く見つけることが出来たのだ。けれども、人口の多い都会で君を追跡するのは困難だったと言える。」
「あなたは、その従業員も調べたのですか?」
「調べた。不審なところは何もなかった。その従業員は新卒で、キャリアに着く前に車の修理をやってみたかったようだ。」
「夢の男は、シオがガーディアンを殺したと言っていたので、ロネスが地球にいたとして、シオの名前が彼の本に無かったとすれば、彼は人間であるか、神はサーヴァントが移動できる方法を見つけたかのどちらかです。」
彼はため息をついた。
「神々はその答えは単純だと言うが、それについてガーディアンに話すことはあまりない。君の本なのだから、君の本能に従うといい。もし君が安全でないと感じたら、君はそれを護るために全ての手を尽くさなければならない。」
彼はバッグを取って、中から僕の本を出した。
それは無害に見えたが、皮肉なことに僕やエドワード、僕の世界の人々や今までそれに署名した者を全て殺しかねない。彼は僕に本を渡した。原子爆弾よりはるかに害をなしえるものにしては、非常に軽い。
「君の本能はそれをどうすべきか示しているか?」
と、彼は尋ねた。
僕は、柔らかい黒皮のカバーに軽く指をなぞらせながら考えてみた。
「僕の本能はあなたを信じるべきだと言っています。」
驚いたことに本を手放したくなかったが、彼に渡し、彼はそれを自分のと、一緒にしまった。
彼は自分のベッドに戻り、イモの袋のような服を抜いだが、一瞬ためらったように眉をひそめた。
「君は何か食べる必要があるか?」
「目覚めてから数時間は空腹を感じないので、すぐには食べられません。どうして僕は魔術を感じられないのですか?ガーディアンは自分の魔術を感じ取ることが出来ると、あなたは言いましたよね。でも、僕にはできない。」
「君にもできるが、トライしていないだけだ。君はガーディアンかも知れないが、それと同時に、可能性を秘めているが、まだ訓練を受けていないマグーでもある。君が魔術を感じ取ることを覚えたら、常にそれを認識することも覚えるだろう。」
「どうしてヴレチアルと少女は英語で話していたのですか?」
「実際には、英語で話していない。それは、君の本がそのように聞こえるようにしていたからだ。」
彼はバッグを持って上がって行った。
僕は、立ち上がる前に足の状態を確認したら痛いと気づいたが、大事はないようだ。体の他の部分の痛みで集中するのに少し時間がかかった。階段まで行き、うめいた。これを一段一段上がれと?僕は、必死に立ち上がろうとしながらも這いずりつつ、彼にその状態を見られぬようにして階段を上がった。そうして上がりきれたが、ドアの所に着くと、エドワードは既に森に向かって出発しようとしていた。僕はドアを閉め、急いで彼の後を追った。
僕は走るのが得意ではなかった。三回目に僕が躓くと、彼は歩く速度を落とした。
「雑草があるところでは足を上げて歩くように。それらを踏まないようにね。」
僕は彼に言われたようにしようとした。本当に。先史時代のシダのような、恐ろしげなガラガラ草は、僕の足に絡まって、動けば動くほど酷くなっていた。僕はうめきながら転んだ。
エドワードはため息をついて、シャツの後ろを引っぱって立ち上げ、更にガラガラ草から引き離すために力いっぱい引っ張った。
「せめてまともに転ぶことは覚えたようだ。もし手をつくようなことをすれば、君の手首を傷つけただろう。転ぶときには、腕の上に倒れるようにしなければいけない。」
そして彼は僕に自分の肘から手首までの間を指して見せた。
「下して…」
僕は息が詰まった。彼は僕を解放し、僕は何とか難を逃れた。僕は咳き込んで首をさすった。
「このような服を着ているときに、今のようなことをしないでください。」
「どうも君が転ばなくなるまで、服が沢山必要になるようだな。君はそれまで衣服を何枚も破いてしまいそうだ。」
「僕は森の中を歩きなれていないし、しかも、90キロ以上の体重では無理です。普通、僕はこんなに不器用じゃないです。あなたは、あの木の皮を余分に持っていますか?」
と、僕は聞いた。
彼は、バッグの中から少し大きなかけらを取り出し、僕にくれた。
「君は呑み込んでいないよね?君には強すぎるかもしれない。」
「僕は見かけによらずそんなに弱くありません。僕はよく適応していると思います。でも、皮については、食べていません。」
それは独特な食感で、噛むと繊維が壊れ、噛み続けるとスポンジ状になり、融合して粘着性のあるガムのようになる。それは樹液の種類だと思うので、間違いなく、自分の胃の内壁に付着してほしい物ではなかった。
エドワードは肩をすくませて僕を見た。
「君は凄く早く適応している。少なくとも、今もう歩いている。君の体調が十分良いと感じたら、明日にでもアノシイへ行くことが出来る。つまり、もし、ディヴィーナが君の近くにいても自分をコントロールできるならの話だがね。」
「いいですよ。なんとかできるようにします。」
「初めて彼女にあったとき、私は別のマグスと死の決闘をしている最中で、戦うのは容易ではなかった。ロネスは私が合理的な行動を取り戻すために彼自身が私と戦った。彼女は考えるのを困難にする傾向にあるし、彼女がとる行動はそれを更に悪化させる。君の足にそれが無い方が転ぶ数も少ないのでは?」
と、僕の靴を見ながら忠告した。
僕はすぐに、選択の余地がなくなるだろう。
「あなたは、ディヴィーナについてかなり前から知っているような話しぶりですが。」
「そうだ。私は今から約70年前に彼女と知り合った。」
彼は、僕の信じられないような顔を見て、笑った。
「彼女は非常に強力なので、彼女に会ってから一度たりとも彼女の年齢を見ていなかった。実際には、彼女はポーションに卓越している。もし、女性が絶対欠かさずに持っているものがあるとすれば、それらは、プランとポーションとアリバイだ。」
僕たちはあまり転ぶこともなく温泉についたが、僕の腕はひっかき傷で赤くなっていた。いつも僕たちが来る場所ではないと気づいた。ここはもっとでこぼこしていて、流れも速く、それを越えるように自然の岩でできた橋があった。エドワードは橋の方へ向かっていたが、彼は袋の中から洗濯板を取り出すまで観察していた。それはガラス製で、片側がうね状になっていて、木製のフレームがついていた。彼はそれを半分くらいまで水につけて岩によりかけて、シャツを一枚袋からだして、うね状の面でこすって洗い始めた。どのようにして使うのか、すぐにわかった。
「僕はあなたが魔術などを教えているように、見ているべきですか?」
と、尋ねた。
彼は見上げて、心配なのか分からないのか、しかめた。
「これは、壊れにくいのだが、きっと君は何らかの方法で壊すか、水に落ちるか、それとも両方ともやると確信している。」
僕はあきれた。
「僕は火をつける時に火傷を負ったり、薪を割るときに自分の頭をかち割ったり、チビットのカゴを掃除している間に食べられたりするかも知れない。更に言うと、穴に落ちて転んだり、怪我したり、頭を割ったりしないために森に近づかないようにしたとしても、自分がどれだけ運が悪いか知っている。だからと言って、全てを恐れるわけにもいかない。それは、無意味でしょう。」
彼はため息をついたが、洗濯を僕に任せ、彼は干す方にまわった。エドワードは服を干すため二本の木に長いロープをはっていた。彼は、どうしても僕の首の高さにならぬよう、高くすると言い張った。なぜそうするのか分かったとき、がっかりした。きっと僕が森であんなに不器用でなければ、わざわざそうしなかっただろう。こんなにばかげた重力があるのは僕のせいではないが、それでも、ぼくは洗濯物をこするあいだ座っていたので、重力のせいで落ちることはなかった。僕は重力が嫌いだ。水も、洗うのもね。
洗濯が全て終わると、僕はあの少女がいないか、辺りを見回した。もちろん、彼女は僕の空想の産物だと思うが、自己紹介しない理由はないと思ったし、僕の頭の中にいる全ての人たちを知っておいた方がいいと思った。
「エドワード?」
彼は、ため息をついた。
「君は、私の名前がそれではないと覚えているよね?」
「キウィヤミなんとか。ここの精霊たちはあなたと話したことがありますか?」
彼はひとつの岩の上に腰かけた。
「確かではない。彼らが話しているのは聞いたことがあるが、何を言っているのか、誰と話していたのかは定かでない。たいてい、ランダムな言葉が聞こえるだけだ。そういえば…」
と、彼は言って、期待しているような感じで僕を見た。
「スド語で、‘はい’は、なんと言うのですか?」
「モワ。‘いいえ’は、‘ラボノラ’だが、たいてい‘ラバ’と発音する。‘いいえ、ありがとう’は、‘ラバヤン’。‘いくらですか’は、‘ミタワ’。」
と、彼は続けて、多く単語やフレーズを異なった言い方で教えてくれたが、僕は頭が痛くなった。いくつかの言葉しか思い出せなかったが、その他は、きっと必要な時になんとなく思い出すだろうと、期待する。
僕の貧弱な脳みそを言葉攻めにしたあと、彼は水の術を練習するよう要求した。心を集中させるのに時間がかかり、エネルギーを感じるまで、さらに時間がかかった。でも、感じることが出来てからは、言うまでもなく、自分の中で感じることが出来た。
別に水が魚のおしっこだと考えなくても、以前一度やったことがあるからコントロールできると分かっていたので、ただ単に、水が自分に触れてほしくないと思うだけでよかった。エドワードが言ったように、水に関しては、単純だった。魔術で良い結果を得るためには、順を追ってそれをする必要があったし、それによって僕の本を護ることが出来るようになる。
「では、何かを爆破させる前にエネルギーを放出するのだ。」
と、エドワードが言った。
僕は目を閉じて、自分の中にあるエネルギーにフォーカスした。
「どうやって?」
「排出しているのを想像するのだ。しかし、想像することは君の選択肢だ。」
と、彼は言った。
ということで、僕は、アニメで登場人物の悪臭を表現する臭さの放出線や太陽の下で蒸発しているような場面を想像した。そうすると、僕の中のエネルギーが次第に細くなっていき、やがて消え去るのを感じることが出来た。
「もういい。もしエネルギーを全部放出してしまうと、攻撃されたときにどうにもできなくなる。エネルギーは、君がガーディアンの夢を見たときに家を揺らしたり、ディヴィーナをみてバカなことをやったりしない程度に放出すればいい。」
「どうしてあなたは僕のエネルギーがどれくらいあるか分かるのですか?」
「私は、第七感のようなものがあって、君よりエネルギーを感じ取ることが出来る。自分の周りの領域や人にどれくらいのエネルギーがあるか、どれくらい蓄積されているか、感じ取ることが出来るのだ。」
「第七感?第六感はなんですか?」
と、問うた。
「書籍とその健全だ。もう一度やって。」
僕はあきれて、もう一度やり始めた。三回目はもっと早かった。その後、エドワードはもう一度やるように言ったので、四回目と五回目をやったが、前よりも確実に早くできた。五回目に自分の足を乾燥させた後、自分の中からエネルギーを放出されるのが難しくなったと感じた。少ない影響に留まらせるのにかなり努力した。
僕は疲れきっていた。
僕は言われずにもう一度やり始めたが、エドワードに止められた。
「もういい。すぐに休みなさい。また新しいことを見せるとしよう。弱るまで何か一つの事を練習するのはよくない。魔術で消耗して体を壊してしまいかねない。」
「でも、僕は不死身です。あなたはいつもやっているのに、健康そうです。」
「私のパワーは、年齢と知恵と共にやってきたものたが、それには、自分自身を無理なく動かすよう学習した。君は、自分自身の限界や、どこまで我慢できるか学習する必要がある。私は魔法を教え、どのように作用するか教えることが出来る。大半の魔法の基本は同じだから、一つの魔法で覚えたことを、別の術で応用することが出来る。私は魔術の事を‘魔法’と言うのは好きじゃない。」
「でも、あなたは魔術のエネルギーを集めて、物事を起こすのですか?とても簡単そうに聞こえるのですが。」
「そうでもない。ノミナルエネルギーは君の精神でコントロールするものだ。君はそのノミナルエネルギーを直接コントロールして、四大元素をコントロールすることが出来る。その他の魔術は、エネルギーを使って物をコントロールするのに使われる。電気はノミナルと物理的エネルギーで作られた要素だ。魔法には、儀式のような物理的ルートを必要とするものと、念じてコントロールできるものがある。君は何を覚えたい?」
僕は自分を止められなかった。
「念力で物を爆破させてみたい。」
「何か他の事を。」
「透明人間になることが出来るようになりたい。」
「何か他の事を。」
「三メートルぐらいの距離から誰かを持ち上げ、窒息させながら、‘あなたの信仰の欠如は、邪悪だ’、と言いたい。」
「他の事を。」
「僕は…」と言いかけたが、彼の不満そうな表情を見て、言うのを止めた。彼はまだそういうことは教えてくれないが、選択肢を与えてくれていた。
「僕は、物を持ち上げたい。例えば…、テレパシーの様に。」
「テレキネシスと言いたかったのでは?」
「そう。それもです。出来るとよさそうだし、容易に覚えられそうです。」
「簡単とは言えないが、単純だ。いいだろう。私たちが歩いて家に帰っている間に休みなさい。空気と重力については、どのように調整している?」
「重力には適応していますが、筋肉痛が激しいです。空気は濃くて澄んでいて、良いです。僕は地球の空気が汚染されているとは思っていなかったのですが、都会に住んでいたので、慣れていたようです。」
「私が聞いたことのある世界よりは悪くないようだ。」
と、彼は言った。
僕はそれらがどういった世界なのか聞こうとしたが、彼は質問を察したようで僕をさえぎって、
「君が知っているドゥランと地球、それと、ディオス、ムロ、ヴァイグダ、マルタ、エネプ、カフーンとスクレブ。ヴァイグダに関しては、地球が正に愚かに見えさせる。ロネスと地球について学ぶのは容易だったが、地球以外へはあまり長い期間をかけて旅行したことが無い。私はドゥランが好きだ。
「あなたはマイノリティーとなるでしょう。」
僕はバンドについて言った。
彼は、仏頂面で僕を見たので、僕はため息をつきながら、彼が衣類をたんで片づけるのを手伝い始めた。僕のシャツはドゥラン用の生地で作られていないので、残念ながら、伸び切っていた。それらを終わると、エドワードはリュックを持ち、僕たちは帰路に着いた。
森の中には目立って区別できるものは何一つなかったが、エドワードは何の問題もなくしっかりした足取りで進んでいた。すごく疲れていたが、道中はなんとか自力で立っていることが出来た。
家に着くと、エドワードは僕に待っているように言ったので、彼は家の奥へ入って行っている間、僕は暖炉の前に座った。彼は数分後に戻ってきて、僕の前に大きな石を置いた。僕は眉をひそめた。
「ヨーダ、あなたは家に石を保管しているのですか?」
彼は、目をむいた。
「君がある方法で家全体にこれらを配置すると、脅かす勢力から守ってくれる上に、誰かが信用できないと君に警告し、幸運を招いてくれる。さて、それには風を動かすか、岩を動かすかの二つの方法がある。今日は、多大なコントロールする力が必要なのと、大きなターゲットが必要となるので、風を使う方法は教えないでおく。」
「僕は…。」
「いいや、君は逆立ちしなくても良い。」
と、彼は答えた。僕の目は大きく見開いた。
「私はスターウォーズを見たことがあるし、ロネスはそれに夢中だった。彼はかつて、それは人間の最大の良いアイデアだと言及したことがある。彼はいつか自分のパドメ・アミダラに出会うのが大きな夢の一つだった。彼はとても執拗だった。」
「‘スターウォーズ’に取りつかれるのは、無理もないです。悪く思わないでください。僕はスターウォーズオタクでも何でもありませんが、トレッキーでもありません。僕は完全なフーヴィアンです。」
「よかったね。さあ、よく見て。」
彼は岩の一つをくれたので、手に取った。
「重くはない。」
と、彼は言った。
僕は彼を見た。
「う…、重いです。」
彼はため息をついた。
「いや、重くない。君の手が脳に重いと伝えているだけで、君の手は間違っている。私は君のためになるべく簡単にしようとしている。君の脳は身体のみならず、全てをコントロールするノミナルエネルギーを司る精神までもコントロールしているのだ。解ったか?」
「はい。脳が体と精神を司り、それによってエネルギーや全てをコントロールする。」
「はい。」
脳は神そのものだ。
「君の脳は君の体に、その石には重みが無いと思わせなきゃいけないのだ。」
「どうやって石に重さが無いと思えばいいのですか?」
「想像力を使うのだ。」
僕は息を吸って数秒考えたが腕が痛くなったので石を下した。僕はこれまでにいったいどれだけの先生たちが授業中に僕を罰するため、痛みに耐えられなくなるまで腕を差し出すように言ったか思い出した。僕は、二つの石を両手に取り、腕を差し出した。学校で起こったように、僕の腕は直ぐに痛くなった。それからは、僕の手にある石のつるっとした感覚を無視することができた。
「オッケー。」
「では、石が浮いて自分の手から離れていくのを想像するのだ。それらは重さが無いので出来るのだ。君がそれを持ち上げると願えばそう出来るし、それを見ることも出来る。エネルギーを吸収するのだ。それらの石は物理的なエネルギーだから自分で蓄積したノミナルエネルギーで動かせる。」
僕の周りのエネルギーを感じることができたので、ゆっくりと石を浮遊させるところをイメージングするまえに。それらを集めた。5分経ち、更に10分、15分経過し、まだ自分の筋肉が焼けるような感覚や柔らかくて冷たい石を感じることができなかった。それにイライラさせられたし、僕の腕はとても疲れていた。
「目を開けなさい。」
と、エドワードが言った。
僕はゆっくり目を開け、石に集中するよう注意した。目を開けると、腕の痛みがほとんど消え、石を持つ感覚も一緒に消えたので、僕は上を見た。両方の石が僕の手から数メートル上の方向に離れていた。確かに手に持っていない感覚はあった。すると、両方とも地面に落ちた。僕が落してしまったことでエドワードが失望していたかは、分からなかった。
「どうして今回は水を操るときよりも時間がかかったのですか?」
「難しかったか?」
「なぜですか?」
僕はそれについて真剣に考えたが、エドワードは数分経っても筋肉一つ動かさなかった。
「水の場合は、少ないエネルギーを要して、もっと簡単だった。それに、水は、そうであればいいなと望んでいた動きをするような感じだったが、石の場合は、僕の望みどおりに動かしたような…。しかも、僕がイラついたときに従ったような感じでした。」
「それは君がそれに集中し、更に要求していたからだ。君は私が持った他の弟子達の大半よりも遥かに覚えが早い。君は間違っていない。水は君が望むように動くのだ。4大元素は、他の魔術と比べると、誰かに従いたいように感じる。」
「それでは、他の魔術を使わなければいけないということですか?」
「それは、主観的だ。大半のマグスにとって、4大元素は常に彼らの力となるのだ。ある者にとっては、ポーションが強みだったり、あるいは、マインドコントロールが強みだったりする。それに、一部の人々は、自分が選択したキャリアに沿ってそのパワーを発達させる。例えば、私が知り合ったある女性は、幻想型魔術に天性の才能を持つことに気が付き、そのスキルを磨いて、これまでに知られている中でも、ドゥランで最も成功した暗殺者となった。」
「彼女に何が起こったのですか?」
と、僕は聞いた。
「彼女は私を暗殺するために雇われた。」
「あなたは彼女を捕えたのですか?」
「いや。彼女と結婚した。」
僕は、彼が話し続ける間、空いた口がふさがらなかった。
「彼女を変えることができないと分かってから、自分の意思で私の元を去るか、私がカンジイまで引きずって行くか、どっちかだと、彼女に言った。彼女はそれを拒み、その後6年間、他の囚人を殺し続けた。」
「何故彼女と結婚したのですか?」
「じつは、それはロネスの責任だった。彼は、何らかの理由で僕に対して怒り狂っていて、彼女の事を知るや否や、私のふりをして彼女と結婚したのだ。まさか彼女に、実はあなたは別の世界にいる私の双子の兄弟と結婚しているなんて言えるわけがなかったのでね。」
ロネスは生まれつきトラブルメーカーだったように聞こえる。
エドワードは3つの石を積み重ねた。
「君は物を浮遊させること出来るようになったので、何でも浮遊させることができる。しかし、君が浮遊させた石の皮肉な点は何か分かるか?」
と、彼は聞いた。
そう。僕は出来たんだ。それについても考えた。
「石も地の一部だから、水のように容易にできたのだと思います。」
彼の笑みは明らかで、僕の進展に満足しているようだった。
「いいだろう。」
と言いながら、彼は立ち上がった。
「君の言うとおりだが、それと同時に間違いでもある。もしこの石が自然の物だったらそうかもしれないが、これらは、人造の物だ。」
僕は注意深く見て悔しそうにしたが、それとは逆に、思いっきり笑っている自分がいた。
僕が中に入るために立ち上がったとき、6メートルほど後ろに立っているディヴィーナに気づいた。彼女は以前と変わらず信じられないほど美しかったが、微笑んでいなかったし、僕を見てさえもいなかった。
「キロ、悪いニュースよ。マレットの船が故障して、次にアノシイへ向かう船は3週間以上も先にしかないそうよ。ミジイの西の方へ向かう船に乗らなければならないわ。」
エドワードはため息をつき、僕は新しい暴言を覚えることができると思った。それに、ディヴィーナは僕に配慮して英語で話していると思った。
「それはつまり、アラドリンを通過しなければならないってことだな。」
と、エドワードは不満そうに小さな声で言った。
「アラドリンとは何です?」
と、僕は慎重に聞いた。
彼は、
「とても危険な場所だ。」
と、言って僕を見た。
「君のリクエストが当然のように叶えられるようだな。」
ディヴィーナが近づいてくるにつれて、彼が言っていることに集中できなくなった。
「どのことですか?」
「君は真剣に君の精神の力で何かを爆発したいと考えていたか?」
「時間が無いわ。ミジイへ向かう船は3時間後に発つわ。」
ディヴィーナは続ける前に僕をちらっと見た。
「ミジイの後、こっちへ戻る前にモシとゼンジイへ行くらしい。もしあなたが前回の事の後でアラドリン通過を拒否するならば、多分私たちはゼンジイまでしか行けないので、そこでマグワイへの交通手段を見つけるしかないわ。」
「モシからマグワイへ?」
アドワードは苦痛に近い顔をした。
「では、トギで船に乗ってブロンの沼地を通らなければならない。そこで捕まったり、狩られたり、盗まれたりするかもしれない、もしすごく運が良ければ食われたりはしないかもしれないが。マレットが船の修理をするのを待つことも出来る。」
ディヴィーナは彼の数メートル前で止まり、迷っているように唇を噛んだ。彼らは僕のために英語で話しているのが分かったので嬉しかったが、全ての名前や場所が僕の頭から吹き飛んだ。
「船はダセキクマのブロックにあたったのよ。特にショモジイにいる間は修理するまでに暫く時間がかかるわ。それに今は乾季だから、ブロンは乾いているかもしれないわ。」
「そうだが、それによってトギを通り抜けるのが更に困難なのだ。アラドリンを通らなければならない。アノシイへ行く価値はあるか?」
と、エドワードが聞いた。
「あなた方二人の事を決めることは出来ないけれど、私は行く必要があるの。もう数週間前に行くべきだったのに行く機会がなかったので、これ以上先延ばしできないわ。」
と、ディヴィーナが言った。
僕は今までアノシイの事をショッピングセンターか何かのように思っていたため、何がそんなに重要なのかと思った。
「君はアラドリンを一人で通過してはダメだ。我々が何をしているにしろ、その子は森に弱いので、今すぐ発たなければならない。」
と、言いながら彼は家の方へ向かったで、僕は侮辱されたように感じ、ディヴィーナの方を見た。でも、僕はただ混乱していただけだった。
彼女は僕に微笑んだ。
「単語リストを作ってバッグに入れておくといいわ。その中から、毎晩エドワードにその単語が何なのか、どういう意味なのかを聞いて行くといいわ。」
と、彼女は言った。
エドワードは数分後に自分の衣類をしまっている袋に似たような袋を持って戻った。
「自分に必要なものを持ったか?」
と、彼はディヴィーナに聞いた。
彼女は肩の上から指差し、そこで彼女がちょっと変わったバックパックを持っているのに気づいた。バックパックの様な肩紐があるが、よりトートバッグに近い形で衣類袋の様な布ではない素材で出来ているようだった。
それは彼女の顔から注意を逸らし、彼女の体…、彼女の服に目が行った。彼女の桃色のホルタ―トップは、かろうじて彼女の体の前部分を隠していて、3本のストラップで結ばれていた。そのうちの2本は背中で結ばれ、もう一本は首の回りで結ばれていた。バックパックで隠された部分以外、彼女の背中の完璧な肌が露わになっていた。彼女は黒くて光沢のあるタイトなパンツを着ていた。彼女の黒皮のブーツは膝まで達していた。
「君は確かに準備が出来ているのか?」
と、エドワードは僕に聞いた。
「アノシイを見るのに3週間待ちたくないのは確かです。」
二人は少し離れたが、ディヴィーナがエドワードに意味深な笑みを送ったのが見えた。
ディヴィーナは自分が来た森の方へ出発したが、エドワードは僕にバッグを渡し、3つの石を持って家に戻った。僕は何をすべきか分からず二人を目で追った。
ディヴィーナは止まり、安心感を与える笑顔をくれた。
「彼はチビットを外に出しているだけよ。行きましょう。すぐ私たちに追いつくわ。」
それは、彼女の後について行くのに必要な励ましだった。森に着くと、少しペースを落としたが、僕は彼女の前では転ばないと決めていた。それは、10分ぐらいしか続かなかった。ディヴィーナはエドワードがしたように、軽々と僕のシャツの後ろの部分を引っ張ったのだが、彼女に窒息させられるところだったことなどの動揺にうまく対処できなかった。
終わりのない森の中を20分ほど歩き続けた後に、
「本当にエドワードは私たちが何処にいるのか分かりますか?」
と、僕は聞いた。
「彼は知っているわ。まだ彼の土地の外周にすぎないわ。」
「あなたの土地は何処ですか?どこに住んでいるのですか?」
と、知らない単語をいっぱい言われないことを期待して聞いてみた。
「私はロヌス近郊に住んでいるのよ。キロの土地から北へ約1時間半の所よ。つまり、私が言いたかったのはドンなので、地球の1時間より長いわ。キロはショモジイの東側に住んでいるの。アノシイはショモジイから南東にあるわ。そして、私たちは北西のミジイに向かっているの。」
「へえ。では、アノシイに着くまでどれくらいかかりますか?」
「それは場合によるけれど、キロは、多分、アラドリンでは休憩さえ許してくれないと思うわ。」
「そこで何があったのですか?最後に行った時にいったい何が起こってあんなに神経質になったのですか?」
「アラドリンはとても危険な生物が多くいる森で、土地自体非常に危険な場所なの。最後にそこを訪れたのは2人の旅行者を連れて行ったときで、1人は食われてしまい、もう1人はスパイクが敷き詰められた穴まで追われて死んだわ。キロの腕は折られて危うく食われるところだったわ。でも、一番気に食わないのは、どのようにしてそこから逃れることができたのか分からないことなの。それに、私の痕跡を見失い、私を助けられないと思ったの。」
「もしスパーパワフルなガーディアンが危うかったならば、あなたはどのようにして助かったのですか?」
彼女の表情は深刻だった。
「私はロネスがそうだったように、生き延びる傾向にあるの。」
僕は眉をひそめた。
「あなたはロネスを知っているのですか?親しかったのですか?」
と、聞いた。彼女はうなずいたが少し歩く速度を速めた。もしかしたら彼女を動揺させたのではないかと思った。先ほど2人の旅行者が死んだ様子を話したときには無関心の様子だったので、てっきりディヴィーナは死に対して動揺するような女性ではないと思っていたため、奇妙に思った。その一方、彼女はエドワードととても親しいようだったので、もしかしたらロネスとも親しかったのかも知れない。
僕はしばらく経ってから森の中を歩くコツをつかんだ。森の端に着くまで約1時間はかかり、僕はそれまで既に息を切らしていたので、しゃがんだ。やっと草が無くなって平らな地面に出くわし、僕たちは大型船と小さなドックがあるビーチに来たようだった。砂の色が普通の砂の色より暗くて赤っぽいこと以外、海は地球のものとそっくりだった。
乗客数が30人くらいで思ったより少なかった。一部はビーチで社交的にしていたが、大半が既に乗船していた。タイタニックの小さいバージョンの様な船だ。
「ふむ…、氷山はあるのですか?」
と、聞いた。
「もちろん。」
と、彼女は答えた。
あの船に乗りこんでいいことが起こるとは思えない。
「でも、私たちが行くところからは遠いわ。」
「それはあまり重要ではないのでは?きっと氷山が彼の方に向かってくるさ。」
ディヴィーナの横に現れたエドワードの大きい声にはちっとも驚かなかった。実際に現れたわけではないが、彼が僕たちに近づいてくるのに気づかなかった。
「人々が私たちの部屋の前を何度も通らなくてもいいように下に部屋を取った。」
「どうやって部屋が取れたのですか?今ここに着いたばかりですよね?」
と、僕は聞いた。
「坊主、君がここにたどり着くまでに私は昼寝したり数冊の本を読んだり、朝食を食べるなどをして、更に部屋を取りに行って戻ってくることができるのだ。」
僕は彼の事をあざ笑ったが、彼はニヤニヤしただけだった。
ディヴィーナは、
「行きましょう。」
と言って、自分の腕を僕に回したので、僕は別に彼女を拒否しようとしていた訳ではないが、彼女について行くしかなかった。彼女は僕を船の木の甲板まで連れて行ったのだが、そこは砂浜から見たときよりもデッキから見た方がかなり大きかった。そして、僕は船酔いするのではないかと思った。
すると、エドワードが先に立ち、僕たちは甲板の下へ行った。部屋はシンプルな暗めの木材で出来ていた。廊下には4メートル半くらいの感覚で小さな蝋燭が設置されていたが、それらが溶ける様子はなかった。各蝋燭の右側には引手のあるスライドドアがあった。
僕たちはやっと一つのドアの前で止まり、エドワードはドアをスライドして開けた。その部屋は10x6で壁が暗めの木で出来ているため、少し小さく見えた。壁に沿って約1メートルの高さのベッドがあった。ブランケットと枕はシモジイにある僕のベッドのものとそっくりだった。ベッドの横には、平均的な4人がけのカードテーブルよりも小さめの木製の机と椅子があった。机の上には消えたランプが横にして置いてあった。遠い方の壁には60x60センチの窓があり、木製のシャッターがついていた。
「止まっていないで入りなさい。」
と、エドワードが言った。
僕は入って、通路を開けるためにベッドに座った。ディヴィーナは僕の隣に座り、エドワードは自分の荷物をいじっていた。彼は衣類を取り出して僕に渡した。
「これに着替えなさい。君は視線を集めている。」
僕は期待しながらディヴィーナを見たが、彼女はただ微笑んだだけだった。
「外に出ないのですか?」
と、聞いた。
「何故?何か隠すものがあるの?私はもう男の持ち物を見たことがあるわ。」
僕はただじっと彼女を見つめていたが、彼女は立ち上がってもう何も言わずに出て行った。エドワードは再び荷物をいじり始めたので、僕は素早く服を着替えた。
僕はエドワードの服をよく見なかった。ベージュのシャツとダークブラウンのスラックスは僕の肌と競合するようだった。僕が小さく見えるくらいそれらが大きすぎたことは言うまでもなかった。大きさに関わらず、とても着心地が良かった。シャツは少し伸びているようだったが、見た目は丈夫で柔らかくて軽かった。
エドワードは自分のものとそっくりなブーツを取り出し、それらが服に合うことは期待できなかった。それでも、彼はそれらを僕に渡し、僕は文句を言わずに履いた。それらは分厚い皮で出来ていたが、僕が思ったよりもフィットした。
「君は今ここで使わなくてもいい。ミジイに到着する少し前でもいい。」
「森では、誰もいないならば、自分の靴を履いてもいいですか?」
「いいや、君の靴はあそこでは絶対にもたない。まだ君の足にあることに驚いているくらいだ。」
それから、エドワードはバッグから本を一冊取出して座った。もう何もすることがなかったので、僕は寝転んで空想にふけった。