船に乗るのは面白かった。それに、船に乗るのは初めてだった。母は僕が絶対に船から落ちるだろうと確信していた。エドワードとディヴィーナは、この私たちの小さい船室で、言葉のことで不必要な問題が起こらぬよう、交代しながら僕の子守りをすることになった。
ドゥランには三つの言語しかなく、どれも英語とは似つかぬものだったので、エドワードは僕に話せないふりをするように言った。それで、彼らは言語障害にするか、聴覚障害にするか、それとも両方にするか話し合った。僕が聞こえないふりをしていて何らかの音に反応したらまずいし、話せないといいながらうっかり何かを話したら同じことになる。
それよりも、僕を隠すことにした。
ディヴィーナは大半の時間、自分のリュックに入っていた本を読み、エドワードは大半の時間を自分の短剣研ぎに費やし、予期せぬ音に身をよじった。人で混んでいた船で、予期せぬ音は多かった。
「ロネスはどういう人でしたか?いつの時代に生きて務めたのですか?」と、エドワードのあの静かな短剣研ぎに疲れて、聞いた。
エドワードはしばらく眉を上げ、研ぐのを止めた。
「彼は多くの趣味と能力を持っていた。ロネスは、自分の住居であるトレーラーの隣に車を3台収容できるガレージを持つようなタイプだった。1980年製のコルベット、1967年製のクーガーXR7-GTと、1952年正製のスチューデベーカー・コマンダー・リーガルクープを持っていた。彼は、オックスフォード大学、東京大学と立命館大学など、それ以外にも思い出せないいくつもの大学に行ったが、その三つがお気に入りだった。数年で博士号三つ、修士号五つ、学士号四つとそれに付随する学位をとってコレクターのようだったが、小さな車の修理工場に働いていた。彼はいつもみすぼらしい服装をして、大抵薄汚れて穴が開いていたし、自分の髪の色に飽きる度にカラーを変えていた。
彼はキューティーという大きい犬とクジョという小さい犬を飼っていたが、両方ともかなり昔に死んだ。彼は、私より先に死んだら、ミイラ化してほしいと言っていた。それは、彼が殺された…状況によって叶えることができなかった。彼はいろんなカルトを初め、多くの人に自分は冷蔵庫の中の食料にカビを生やす神だと信じさせた。彼はかなり説得力があった。
「あなたは?」
私にもいい時はあったが、多くの場合、何かを信じさせるためや、私の言うとおりにさせるために脅したりした。彼は、私たちをいろんなトラブルに巻き込み、彼の味方であろうが敵であろうが、関係者全員を騙していた。興味深いことに、彼は料理上手だった。他のみんなは、彼のことをその場しのぎで生きていると思っていたが、私は、そうではなく、自発的ではあるが常に良い将来のために何かを計画し、働いていたと気づいていた。彼は、私が知っている全ての異なった世界の言語より地球の多くの言語を知っていた。彼はユニークだった。」
「彼は凄かったようですね。どの料理が好きだったのでしょう?」
僕の質問のせいなのか、自分の記憶を辿っていたせいなのか確信できなかったが、彼は、目をクルクル回した。
「ピザ。彼はピザと、名前を思い出せないソーダが大好きだった。彼は、齢を取るごと若くなって、思春期まで戻った。彼が思春期の頃は、良く働く金持ちで、家庭を持っていた。彼が亡くなったときは、ソーダ中毒で、給料から給料の間をギターと車でしのぎ、週末は自宅に入りきれなくてガレージにあったテレビでテレビゲームをして遊んで暮らしていた。彼はいつも面白くて周りを盛り上げていた。彼の人生で、一度もさようならと言ったことが無かった。」
「ディヴィーナは、彼とも友達だったのですか?」
「そうだった。どうして?」
「ここで彼の事を話題にしたとき、あまり気に入らなかったようなので。」
「ディヴィーナとロネスは、どちらかと言えば友達だったが、彼が亡くなったことで彼女が悲しんだかと言うと、そうでもない。彼女は、死を長い不在の期間としか見なしていない。彼女は、とても近い友人が亡くなったときでも、その人がどこか遠くへ引っ越しただけで、その人が戻ってこようと決めたら、また一緒に出掛けたり、お互いを訪問したりすることが出来るという風に振る舞うのだ。私は地球へ行く前に、彼女へ、ロネスに起こった出来事を伝えた。彼女は私にとって残念だと悲しんでくれたが、どうしてそんなに悲しんでいるのかは、理解できなかったみたいだ。私は、彼女がそれを理解したのか、また、彼が戻ってこないと知っているのか、分からない。」
その後、彼はまた短剣を研ぎ始めたが、僕はそれについて考えた。
もし彼女が分かっているとしたら?
僕は以前、さまざまなタイプの防御機制について読んだことがあり、その大半が愛する人の死に伴ったものだった。否定は、痛みに対処するには悪い方法だ。
彼女がもし彼がいないのを寂しく思っていて、僕が悲しませたとしたら?
僕の旅の仲間たちは誰も会話したくないようだったので、すぐにそのさえない考えは消えて、アラドリンがどれくらい悪いのか想像した。すると、僕は朝食を取っていないことを思い出し、アノシイに着くまで数日かかるのに、ずっと…おあずけかと思った。
僕は海で栄養失調になって死んじゃうのか。それを考えると、気が滅入った。
* * *
退屈して自分の頭の中で数独をしたりして過ごし約5時間経ったころに、エドワードが室内に入ってきて、ディヴィーナは立ち上がった。
「今、食事が出された。」
エドワードが言った。僕は一歩前に飛び出たので、彼は眉を上げた。
「君のはここへ持ってきた方がよさそうだ。」
僕は急に頭を振ったので、痛くなった。
「退屈は僕の周りでなにか悪いことを起こしてしまう。幻覚が見え始める前に早くこの部屋から出ないと。それに僕が干からびて死んでしまう前に何か食べなきゃ。僕は…、」
「わかった!ただ、誰にも、何も言わないように。誰かに何か尋ねられたら、下を見るか、聞こえなかったふりをしなさい。私は本気で言っているのだ。声や音をたてないように。分かったか?」
僕は思慮深く、「う~」と言った。
ディヴィーナは僕の腕をつかみ、自分の方へ振り向かせた。彼女は、高さ3インチ、直径1インチぐらいある紺色のスプレータイプのガラスの瓶を持ち上げた。
「これを持って、口をあけなさい。」
と、彼女は言った。
悪い予感がしたが、ディヴィーナが言ったので、僕は良い犬がやるように、言われるとおりにした。彼女は、注意しながら、僕の喉に冷たい水のような液体をスプレーした。僕の舌に触れた少量のそれは、今まで味わったことのないような酷いものだった。僕は喉が詰まって咳き込んだが、その嫌な液体がのどに張り付いているようだった。
「それは何ですか?」
と言いながら、咳き込んだ。
エドワードは今までにやった中で、一番ひどいことをやり始めた。カウントダウンを始めたのだ。
「ちょっとした自家製のお薬よ。」
ディヴィーナは、楽しそうに言った。それは、ポーションだった。男性に半ば強制的に無理強いするのは女子を幸せにするらしい。
カウントダウンが終わると、エドワードはディヴィーナを見た。
「それはどれくらい効果あるのだ?」
と、彼は彼女に聞いた。
彼女は微笑んだ。
「私が彼に解毒剤を与えるまでよ。」
彼女の笑顔が曇り、ベッドの横にあるバッグに目をやった。
「持ってきているはずよ。」
彼女に何をしたのか聞こうと思って口を開けたが、何も出なかった。僕の声は出なかった。呼吸も過換気もできる(たくさんやってみた)が、音を出すことが出来なかった。うなることさえも出来なかった。
エドワードは肩をすくめた。
「持ってきていないとしても、きっと、彼がしばらく質問をせずにいることで傷つけることはないだろう。」
僕は傷つくからって、一生懸命頭を振ったが、どっちも気づいてくれなかった。エドワードは出て、ディヴィーナは彼女の武器と僕のと、一緒に包んだ。僕は怒りを表そうとしたが、彼女の不自然なほどの美しい笑顔でくじけた。
「私はエドワードを助けただけよ。ちゃんと解毒剤を持ってきているわ。これで何かが漏れることないわ。来て。」
僕は大いに安心して、彼女の後に続いた。デッキへの帰り道をみつけ、そこには既に20人ほどの乗組員がいたが、その半数は僕の二倍くらい大きく、年齢は全員僕の倍ほどあるようだった。まだ陽が高かったので、ランプなどはなかった。ディヴィーナは僕を引っぱってエドワードの横に座らせて、まるで過保護な両親のように、僕の反対側に座った。不満を感じたが、文句を言えなかった…、つまり、身体上、文句を言うことが出来なかった。
皆が話していたのは、僕が滑らかで柔らかい感じだのスドでも、硬く聞こえるドイツ語のようなものでもなかった。エドワードが教えてくれたスド語の言葉をいくつか聞き取れたが、それ以外は何を話しているのか見当もつかなかった。
彼らのボディーランゲージも不思議だった。誰一人とお互いの事を触らなかった。もし僕が話せたとしても、適切な会話ができていたとは思えなかったが、僕以外の誰もが話題から外れていなかった。男性陣は、映画で見たような荒っぽい船員ではなく、彼らは上品だった。もし、誰かが声を上げたとしても、その人はディヴィーナへ申し訳ない視線を送ってから静かに話を続けた。
しかし、彼らと人間の間に見た代々の違いは、その外見だった。彼らはヒューマノイドである一方、一部の人々は変わった色をしており、3人は白髪だった。彼らは真っ白な髪になるような年齢には見えなかったので、ドゥランの人々の自然な髪の色だと思った。その他に珍妙だったのは目の色で、複数の人たちの目が紫色だった。他の惑星では、色々違うだろうと思っていたが、人間に似た若い、白髪で紫目のエイリアンを見るとは思っていなかった。
「ヤトゥヌス。」
僕は、エドワードを苗字で呼びながら近づいてくる男に気が付いた。そして、皆がシーンとなったので驚いたが、エドワードは素晴らしい笑顔で立ち上がった。その男は、エドワードよりも全方向に数インチ大きかった。船の男性陣の大半が労働者にすぎないようだったが、エドワードは彼が捕食者のような目つきだった。僕たちの前にいた男はボディーガードのようだった。
その男は強力そうな体格で、平たい頭に、四角い顎のライン、そして使い古されたお札のような色をした目は小さかった。彼の鼻は、数回粉々にされたようにつぶれており、唇の上にある傷跡で彼の無精ひげが偏っているように見えた。彼はノースリーブの黒いシャツの上に閉じた灰色の革製のベストを着て、デニムに似た黒いズボンに黒いブーツを履いていた。全体的な印象は、おとり捜査中かリタイヤしたギャングのようだった。
「ハーデ。ノンジデ イメダェ」
と言って、エドワードがあいさつをした。ハーデはエドワードの前に座った。そして皆が、前よりも静かに話し始めたが、数人がその男に密かな視線を送った。エドワードはまた何かを言って、僕ははっきりと僕のファーストネームとディヴィーナの名前を聞いた。
彼は僕たちを紹介したが、僕たちのいずれかの事を指したり示したり叱ったことに気づいた。僕は、僕なりに一生懸命色んなルールやタブーを吸収しようとしていたが、全て地球と同じだった。
ハーデは、ディヴィーナに何かを言い、彼女は同じことを言いかえした。彼が僕に話しかけたとき、エドワードは少し前に身を乗り出し、静かに僕の沈黙を説明した。ハーデは、気の毒そうな表情でうなずいたが、明らかに話題を変えた。皆が楽しんでいる間、僕は取り残された。僕はただ夕食が来てほしかった。
やっと夕食が届き、僕の年頃くらいの男性3人が料理の入った大きな器や大皿を運んで入ってくると、皆が起立したので、僕も立った。彼らは食卓の上に全て置いて出ていったが、その間、皆静かに立ったままだった。その3人の男性は、3回料理を運んで戻り、最後にやっと食事に必要なお皿やその他の食器などを運んできた。彼らはそれを配り終えて、出ていく前に何かを言った。皆が着席し、僕は目の前に置かれたものが何なのか検討した。
深緑の皿は、エドワードが持っている瓶と同じ粘土素材のものだった。黄褐色の布があり、エドワードのバッグに使われているような布だが、厚みがあった。長い柄の先端に少しカーブした平たいスプーンが付いていた。反対側の先端には鋭いスパイクのようなものが付いていた。食料が逃げ出そうとした時のためかと、想像した。
食べ物自体、とても恐ろしいものだった。料理の一つは、茶色のドロドロしたペーストの上に、なにやら動くものが乗っていた。その他に緑のものや、赤いもの、黒や青いものもあった。唯一食べられそうなのが、肉の細片がたくさんのった料理だった。
彼らは非常に丁寧に、料理をお互いに渡し始めた。初めて僕の方向に向かってきた料理をエドワードから受け取ったが、それはあの踊る茶色いペーストだったので、自分がそれに食われる前に、すぐにディヴィーナに渡した。ディヴィーナは僕の明らかな恐怖にもかかわらず、ヘラスプーンをつかって、僕の皿に少量よそった。その行動は、エドワードが‘ミルワイド’と言う言葉を口にして、彼女が青いものを皿によそうのを止めるまで、何回も続いた。彼女はうなずき、自分の皿に少量よそってから次の人へ渡し、僕をその拷問から救った。
全ての料理が行き渡ってから、僕は皆が食べ始めるのを観察した。僕は、男性陣のスプーンの使い方を真似ようとしたが、到底できるものではなかった。ディヴィーナは完璧に使いこなしていたが、僕には理解が出来なかった。彼女がエドワードを見ていることに気づいて、彼の方を見た。彼は乾燥した肉を食べるのに手を使っていたので、それを真似ることにした。彼の方法の方がより簡単だった。
肉をスプーン代わりにして、何なのか認識できない色んな料理を食べてみた。アメリカ風中華料理のようだった。茶色いものの中にあったのは本当に肉片で、そのソースはとても甘かった。大半の料理が甘いか塩辛いかだったが、飲み物がひとつもなかった。ディヴィーナは脅すような口用でエドワードに何かを言い、彼は笑ったが、僕はきっと、彼の食べ方についてか、僕に悪いテーブルマナーを教えていると咎めたのだと思った。僕は、ただお腹が空いていたので、構わなかった。
非常に少ない会話を交わしながらたったので、意外と早くに皆が食べ終わると、3人の男たちが現れ、飲み物を持ってきた。僕はカミツエジュースを見つけて喜んだ。
しばらくハーデと友好的な会話をしてから、エドワードは席を立ち、別れの挨拶をした。ディヴィーナと僕も席を立ち、彼に続いて船室へ戻った。3名入ってとても狭く感じた。
「あなたは、ハーデ・ソ・イモと友達なのですか?」
と、ディヴィーナがエドワードに聞いた。
「彼はあとで演奏すると思いますか?」
「いや、しないと思う。」
彼は僕を見て、
「ハーデはアノシイでとても有名なミュージシャンだ。君は僕が想像したより、良くやったぞ。」
僕はディヴィーナを懇願するような目で見た。彼女は僕を哀れんで、自分のバッグの中を探って、数秒後、あの青い瓶にそっくりな深い赤色の瓶を取り出した。その解毒剤は、前に飲んだポーションと同じ味と感触だったが、僕の喉にあった何かを洗い流してくれた。
僕は咳き込んでゼーゼーと息を切らした。
「もう二度とやらないでください。」
僕の声は弱く、壊れているようだった。
彼女は、
「私は君が話せない時の方が好きだったわ。」
と、ものともせず言った。
僕は彼女を出来る限り、睨みつけたが、そんなにたいしたことなかった。
「もうそれを僕に使わないでください。僕はただ不意を打たれただけです。」
と、僕は言った。
彼女の微笑は確実に略奪的だったので、僕は凍りついた。エドワードが前からよけたので、僕はドアの方へ後退した。僕が一歩引くごとに、彼女は二歩進み、彼女の顔は僕の顔から数インチのところにあった。
「本当にそれだけ?」
彼女の甘い吐息は僕を惑わし、僕の目は無意識に閉じた。
「次回、君は私を止められるの?」
彼女の暖かい息が僕の唇の上を抜けて両方向に分かれた。僕の体内の血液が全て方向転換したようだった。僕はろくに考えることが出来ず、混乱していた。彼女の香りはエキゾチックで、毒のように甘かった。
「ディヴィーナ、やめなさい。君は彼に卒中を起こさせてしまう!」
僕はエドワードが言っていることをろくに聞き取れなかった。ディヴィーナは思ったよりとても軽く僕に伸し掛かっていた。僕は、足の力が抜けた。僕は彼女の方へ体を倒そうとしたが、ドアに捕まっているようだったし、僕の意思に反して、僕は地面へと滑り落ちた。
「ディーラン!大丈夫か?ディヴィーナ、お前は悪魔だ。おいっ!」
僕が頭をクリアにしようとしている間、彼は僕を揺さぶった。
僕は頑張って目を開いた。
「僕は、大丈夫です。」
と、立ち上がりながら嘘をついた。彼はディヴィーナの方へ向いて、うなった。人間離れした音だった。
「リラックスして、彼は大丈夫よ。」
彼女は彼に言ったが、もう笑っていなかった。
彼は僕をベッドの方へ押し、彼女を見た。
「彼は治癒しなければならないし、君は彼にそうさせなければいけないのだ。」
彼の声は脅していないが、低く、権威的だった。彼女はうなずき、彼は僕の横に座った。
「悪かったわ。彼がまだそんなに負傷しているとは気が付かなかったわ。」
「あなたは、植物の香りがする。」
と、僕は考えずに言った。ただ、それが変だと思った。
「私は、人々のためにポーションを作るの。」
と、彼女は説明した。
僕は聞くのを止めることが出来なかったが、彼女の香りに反応させたのは何らかの魔法だと思った。彼女は想像できないような美しさだったが、ヴィヴィアンも美しかった。ヴィヴィアンもいい香りがしたが、それによって目が回るようなことはなかった。魔法が原因なのか僕の問題なのか、どちらにしても、僕の突然で極端な反応を引き起こした。
「君は疲れているようだわ。」
と、数分経ってから、彼女は言った。
「昨夜、良く眠れなかったのです。」
「彼はガーディアンに関する警告の夢を見たのだろう。」
と、エドワードが言い足した。ディヴィーナは眉を上げ、明らかに何のことだか分かっていなかった。
「私たちの本が危険に晒されていると、それらは私たちを助けるためにビジョンを与えたり、未来を示したりする。」
「あなたの本はもう危機にさらされているの?」
と、彼女は聞いた。
僕は気を悪くしないようにした。
「僕のせいではありません。ロネスを殺した奴らが、まだ彼を追っているのです。」
「君はその責任者たちを殺したと思っていたわ。」
彼女は、この小さい船室を歩き回り始めた。
「なぜ君はそう思ったのだ?」
と、エドワードが聞いた。
「私は、地球に向かうことと、ロネスが殺されたと君に言った。それで、ディーランを連れて帰った。どこで私が誰かを殺したと聞いたのだ?僕は殺しの責任者さえ見つけることが出来なかった。私の知る限り、ヴレチアルの手下だった。」
彼女を大きく目を見開き、歩くのを止めた。
「いったいどのようにして暗黒の神が関わっているの?私は彼が…永遠に眠っていると思っていたわ。他の神々から追放されてね。」
「エロノは、ヴレチアルがロネスの本を持っていくよう手下を送ったのだと言った。ロネスが亡くなったとき、私は本を見つけ、地球の新しいガーディアンを見つけると、申し出たのだ。エロノは、その本が絶対にヴレチアルの手に渡らぬようにと、しつこく言った。」
「エロノと地球は何の関係があるの?地球の神が新しいガーディアンを代入するべきでは?」
と、彼女は聞いた。
「エロノは、タィアマトに誰それが何をしたと告げるよりも、本をヴレチアルから遠ざけておくことが大事だと決めたのだ。私はただ彼の命令に従い、本を見つけて、ガーディアンを探したのだ。だが、本は独自でガーディアンを見つけ出した。」
彼女は僕をよく見て
「本は、もっと経験豊かなウィザードを見つけることが出来たのでは?悪気はなしにね。」
「私は本能的に、本が見つけたしたのにはそれなりの理由があると思ったが、彼の素質に気づいたとき、私は何も主張することが出来なかった。」
「ヴレチアルが原因ならば、私たちには深刻な問題だわ。」
「ヴレチアルが長い間抑圧されているなら、なぜ彼を恐れるのですか?つまり、どのようにしてあなたは彼の事を知っているのですか?」
と、彼女に聞いた。
「ドゥランには彼についての話があるわ。どの世界にもあると思っていたわ。」
と、ディヴィーナは答えた。
僕は、あることを想像し、吐き気がした。もしディヴィーナが正しいとして、人間にもヴレチアルについての話があるとすれば、僕の母も正しかった。サタン。その可能性を考えると、体が震えた。
「その彼は、もしや、赤い肌に角があるわけじゃないよね?」
と、聞いた。
それとも、心理学の先生なのか?
エドワードは鼻息を荒立て、ディヴィーナはあきれた。
「彼は、神よ。どのような姿でも現れることが出来るわ。」
「神々は有体ではないのだ。」
と、エドワードは説明した。
「もし、彼が恐ろしい姿で現れようと思ったら、それはそれでいい方法のように思える。」
と言って、ディヴィーナの方を見た。
「でもそれは、私がロネスを殺した責任者を殺したと、君がそう思った理由にはならないぞ。」
「あなたは、ロネスが死んだから地球へ向かっていると言ったわ。私はあなたが復讐のために行くものと思ったの。それで、復讐したのかと。」
と、彼女は怒った声で言ったが、それは、別の感情を隠そうとし、抑圧されているように聞こえた。
「私は今まで君に復讐に意欲を示したようなことを言ったことが無いと思うが。」
「ロネスは偉大な人だったので、彼を殺した者は、永遠に不幸に苦しむべきだわ。」
彼女の目から涙が溢れた。
「彼の兄弟として、あなたも全ての人と同感だと思ったわ。」
彼女はドアが壊れるような勢いで開け、自分の後ろでバタンと閉めた。
エドワードはポカーンとした。
「彼女がそんなに彼の事を想っているとは、知らなかった。」
「僕の本を見ていいですか?」
と、聞いた。
エドワードは、自分のバッグから取り出し、渡してくれた。僕はベッドに横になり、本を胸の上でしっかり握った。本は暖かかった。エドワードはまだ座ったまま、彼自身の考えに深く入りこんでいて、僕は眠りについた。
* * *
目が覚めると、部屋はテーブルに置かれたランタンの明かりで暖かく輝いていた。外では大きな月の明かりが不気味な輝きを海に放っていた。エドワードはベッドの横に座り、ディヴィーナはまだ戻っていなかった。
「大丈夫ですか?」
と、僕は聞いた。
彼はため息をつきながら月を見上げた。
「彼らの関係がどうであったかなど、私には本当に関係ない。多分それよりも心配なのは、彼女の復讐への願望だ。私から見ると、彼女は、常に無邪気に見えたのでね。彼女がどれだけ彼の事を気にかけていたのか、そして彼女の想いに対して彼がどれだけ答えていたのか知りたいところだ。私は彼らがそんなにお互いの事を知っていたとは思えない。君は彼女の事をどう思う?」
「容姿端麗。」
と、僕は答えた。
彼は笑い、英語に精通していることを示した。
「そうだ。彼女は美しい。彼が彼女のことを好きだったとしても、驚くべきことではないと思う。皆、彼女の事が好きだ。もう一つ教えるから、ついてきなさい。」
彼が優美に立っている間、僕は不器用にベッドから起き上がりながら、
「何時ですか?」
と、聞いた。
僕が寝ついている間に横に滑り落ちていた僕の本を手に取って、エドワードへ渡し、彼はそれを自分のバッグの中へ滑り込ませた。
「日が暮れてから夜が明けるまでの間、大半の船員たちは寝ているし、その他の連中は甲板に出てくる必要が無い。」
二つの月が不気味な輝きをはなっている甲板に戻る彼の後に僕はついて行った。僕の幼いころの思い出が、船の端に行くのは非常に悪いアイデアだと警告したが、エドワードは、まさにそうするように言った。僕は強い風に備えていなかったので、ありったけの力で手すりを握った。
「今回は風が相手ですか?」
と、聞いた。
「そうだ。大半のウィザードにとって風を操ることは、最も難しいということを覚えておきなさい。」
それはまさに、僕が自信を高めるために聞きたかったことだった。
「先ずは、単に風を折ることから始めよう。君のエネルギーを集めるのだが、空気はデリケートなので、ほんの少しでいい。多すぎると、コントロールを失う原因となる。」
僕は、エドワードがもう十分だと言う前に、以前、水でやったときの半分ぐらいのエネルギーを集めた。
「水をコントロールするような感じですか?」
「正確に言うと、違う。心を無にして、目を閉じなさい。」
僕は、そうした。
「風が目に見える何かだと思いなさい。風が芸術的に周りを鞭打っているように想像し、それを君が望むように曲げたり、周りに塀やトンネルを作ったりして形にする。フォーカスして優しくエネルギーを与えるのだ。」
何時間も過ぎたように感じた。僕は風をコントロールし、望むように動かせると想像したが、風は僕に向かってくるだけだった。仮にコントロールできて、自分の行き先から避けるように曲げたりしたとしても、風は次から次へと向かって吹いてきた。でも、もし風を風よけにすることが出来たら…。そこで、僕は向かってくる風の渦巻きを作って、近づいてくる風に向かって曲げているのを想像した。僕は風が、流れるようなカラフルな光、または、黒の背景に輝く水を想像した。
思いがけないことに、風が折れる前に風が荒っぽく急に引くのを感じた。風が鞭打つような音が高くなっても、前に吹いていた突風の一部しか感じられなくなった。それがすり抜け始めたので止めようとしたが、エネルギーを増すほどすり抜けていった。
「もう十分だ。」
と、エドワードが言った。
その声が僕の集中を散らし、風は前のように吹くようになった。目を開けると、彼はディナーテーブルのところに座っていた。彼の所へ行ったが、自分の足がガクガクしているのに気づいて驚き、僕は冷たい木の上に頭を下した。
「君は強力なパワーを持っているが、十分にコントロール出来るまではほど遠い。君は直ぐ覚えるし、応用も非常によくできる。重力への適応はどうだ?」
僕は彼を見るためにゆっくり頭を持ち上げた。
「今はあまり体調がよくない。」
僕は、頭をもう一度下げるのもつらかった。
「でも、我慢できる。」
「君はエネルギーを使っていくにしたがって、それを得る方法も学ぶ必要がある。いくつかの呪文は直接何かにエネルギーを引き出すことが出来るが、それは通常、非常に危険だ。」
と、彼は言って、立ち上がった。
「今、君は寝るべきだ。」
僕はなるべく上品に立ち上がった。
「僕はもっと練習がしたい。」
「午前中に。今はベッドに就きなさい。」
僕は最初に頭に浮かんだ返事を飲み込んだ。僕は指示されるのが嫌いなので断ろうと思ったが、彼は僕に何かを教えるために雇われているわけでもないし、ましてや権威を示すために旅行しているわけでもない。彼は魔法が体に及ぼす影響をよく知っているので、僕の事を思って言ってくれているのだ。別に僕を支配しようとして、僕のすべきことを言っているのではない。
僕は頭を振った。
「分かりました。」
僕はベッドへ戻り、エドワードは本を読むためにそこに残った。ディヴィーナは僕が寝入る前に戻ってこなかった。
* * *
僕は風の音と、ディヴィーナのうっとりするような香りで目覚めた。そして、目を開ける前に、早朝の静けさを感じた。開け放った窓から、柔らかい明りが室内に広がった。
僕は早朝が苦手だった。その一方…
ディヴィーナは床に座っており、彼女は体をベッドに寄りかけ、頭は僕の枕についていた。そして彼女は素敵なシャツに着替えていた。黒い細めのシャツはノースリーブで首の周りにタートルネックのような襟が付いていた。そのシャツの大部分がサテンのような生地だったが、腹のあたりは、魚捕り網のような黒いネットでできていた。
彼女の呼吸は深く、唇はやや開いていた。彼女にキスをする想像を余儀なくされると思ったが、それどころか、ロネスの事を想った。もし彼女が本当に彼の事を想っていたならば…
「もし、彼女が知らぬ間に君が彼女にキスをしたことを知ったら、きっと気に食わないだろう。」
エドワードの声が僕の考えをぶち壊し、僕は心臓が飛びだしそうなのを何としてでも堪えた。ささやいている訳ではなかったが、彼の声は低く、静かだった。
彼の存在は完全に僕の注意から外れていたが (僕は彼の存在に全く気付いていなかったが)、彼は僕が寝入る前と同じ場所に座っていた。ディヴィーナに接近した時もまだ気づいていなかった。
「あなたは寝ないのですか?」
と、僕は囁いた。
「ディヴィーナは、長い間ここに居たのですか?昨夜、彼女と何か話しましたか?」
彼は頭を振った。
「彼女は私が眠ってから来たようだ。私は、彼女から再びその話をしない限り、もう私からは話さなくて良いと決めた。あと数時間で私たちはミジイに着く。君は魔法の練習をしなさい。なぜなら、私は向こうに着いたら、休みなくやるつもりだ。」
と言って、彼は出て行った。
僕は船員が起きている時間に風を操るのは賢明でないと思い、即興することにした。それに、彼はどの魔法を練習すればいいのか言わなかった。
昨日使った石よりは数段軽い自分のボロボロになった靴を探し、昨日の朝と同じ練習をした。集中してエネルギーを集めるまで、そんなに時間はかからなかった。僕は目を閉じて腕を伸ばし、靴が空中に浮き、引き裂かれてぶら下がった靴ひもを想像した。それと同時に、自分の手でエネルギーを押してみようと、試みた。数分後、手に皮の感触を感じていたが、僕は手を握ってみた。僕の靴は頭上60センチくらいのところで浮いていた。
僕は集中力を切らさないように注意しながら腕を下げた。それらは少し揺れ動いたが、空中に留まった。僕の目の前で動いているのを想像した。想像するだけではなく…、それが起こっているのを見ることが出来た。それらは、ただの靴で、僕はウィザードだから、僕に従った。空中に浮かせるのは容易だった。今度は、ポテンシャルエネルギーを運動に変えなければならなかった…
待てよ…、発想が間違っている。
靴が揺れた。
止まれ。
靴は止まった。
オッケー。僕は息を吸い込んで自分にエネルギーを取り込み、息を吐き出し、エネルギーを外に出した。僕の仮説は、それらに僕のエネルギーを注ぐのを止めたら、若しくは、十分に与えていなければ、それらは落下するのだろうと考えた。しかし、それを動かすために、必ずしも、もっとエネルギーを与えなければいけないといわけではない。つまるところ、僕は継続的に重力に逆らって行動していた。靴が下がり始めるまで、どれくらいのエネルギーを与えて軽くしたのだろう。
浮かせるのに必要なだけのエネルギーを与え、動かしているのを想像することに集中した。最初に試みた数回は何も起こらなかったが、その後、ゆっくりと従うようになった。実際には、空中に保持するよりも、移動させるのに多くのエネルギーを使った。面白い。
僕は靴を左右にゆっくり移動させるためだけに、かなりのエネルギーを使っていて、僕をくたくたに疲れさせていたが、引き戻そうとしたらそれらは沈んでぐらついた。
戦術を変えた。僕は自分が小さな小川だと想像した。僕は左手から自分の中へエネルギーを流れさせ、右手から外へ出した。驚くべきことに、自然な感じだった。一瞬でも僕の気が散ると、靴は危険なほど震えた。僕はそれらをコントロールしなければならない。そうでないと、アラドリンで食われる。この考えで靴が固まった。数分間ほぼ完ぺきなコントロールをして、僕はもっとできると思ったので、靴がお互いの周りを回っているところを心に描いた。
すると、それから数分後、それらはゆっくりゆっくり動き始めた。僕が速度を上げるように願うと、それらは速度を上げた。約10分後、両方の靴は均等に回転し、ちっとも弱まる気配を見せなかった。
すると、僕が何らかの反応をする間もないままドアが開き、エドワードが止めるように言った。彼が部屋に入ると、僕は靴と共に固まってしまった。彼は僕の靴を見たが、その顔からは何もうかがえなかった。
「君は昨夜練習したのか?」
彼はやっと僕の靴の事を聞いた。
「いいえ、昨夜は寝ました。僕はあなたに指示された時だけ、練習しています。」
彼は自分自身にゆっくりうなずき、続いて僕の方を見た。
「私は君がコントロール出来る以上の純粋なパワーを持っていると確信しているが、今では君の力とコントロールを過小評価していたのではないかと思い始めている。私が今まで持った弟子たちよりも遥かに早く学習し成長している。それに、これもね。」
と言って、まだ止まっている僕の靴を指差した。
「きっといつの日か、君の命を救うことになるだろう。今はまだ自分一人でこの本を護ろうとは考えてはいけないが、君がこれだけ迅速かつ正確に成長しているのは本当に驚くべきことだと、理解してほしい。もちろん、ウィザードは自然に魔術のエネルギーを感じることが出来る。それに、君の想像力は非常によく発達されなければいけない。」
「そう、僕はADHDです。僕の幼少期の大半は、起こるはずのないことを夢見て過ごしました。しかも、3歳の頃には、小さなダルメシアンを沢山持っていた。それらはあまりにも小さくて、僕にしか見えなかったのですけどね。つまり、それらは空想でしかなかったのだけど、僕には、他の人には小さすぎて見えないだけだと信じる方が良かったのです。そのうちの一匹が死ぬと、他の犬全部が葬儀に行った。それらは、悲しみに打ちひしがれ全部逃げてしまって、二度と見ることはなかった。僕は何か月も惨めだった。」
彼の視線の意味がよく分かった。
「君はそれが普通じゃないって分かっているのか?」
「僕が二年間一度も両手を合わせなかったときよりも、普通です。実際に、何かものを掴むときには、必ず片方の手を使っていました。あなたは片手で髪を洗うのがどんなに大変か知っていますか?」
「ああ、知っているよ。以前、腕の複雑骨折をしたとき、治るまでにまる一日かかったことがある。」
と、彼は答えた。
僕はあきれて、靴にフォーカスすると、驚いたことにまだ止まっていた。残念ながら、浮動の靴は、僕が実際に何らかにおいて中途半端だという事実よりも目立たなかった。
「それらを放っておいて、君のエネルギーを放出するのだ。」
僕はそれらにエネルギーを送るのを止めて、手からではなく、昔ながらの方法で自分の外へエネルギーを流した。昔ながらとは言っても、自分流だけどね。靴は直ぐに落ちた。
「あなたは早急に彼の訓練をしなければいけないわ。」
と、ディヴィーナが言った。僕は彼女の美しく優しい声を聴いて飛び上がるところだった。彼女は立ち上がり、枕を横へ押しながらベッドに座った。
「そのようだ。君はドラゴンの血を持っているかい?」
「乾燥したものなら持っているわ。この辺では手に入りにくい物よ。」
「君は、君の太陽のまじないを教えることが出来ると思うか?」
と、エドワードが彼女に聞いた。彼女はうなずいた。
「OK。では、後ほど戻ってくるので。」
彼は出て行き、ディヴィーナは自分のリュックを探り始めた。彼女は白い布と曇った瓶をいくつか取り出した。
「太陽のまじないとはなんですか?」
と、聞いた。このネーミングでは悪い物や危険なものではないと思った。
彼女は自分の需品をベッドの上にセッティングすると、彼女は最も魅了的な笑顔を僕に向けてきた。
僕の頭の中でアラームが鳴った。
「アラドリンの住民の大半が太陽光を恐れるの。私たちはそれを受けて、私たちと一緒に持っていくつもりよ。お守りの代わりに、分かるでしょ?」
太陽光の瓶詰。聞いた感じは悪くない。彼女は瓶と布を窓まで持ってきて、その後、広い窓敷居の上に布を敷き、その上にそっと瓶の中身の一部を振りかけた。その赤黒い粉末は、死んだ動物の山と腐った食べ物のような強烈な匂いがするものだった。
「それはなんですか?」
僕は息が詰まった。
「ドラゴンの血よ。本物のドラゴンの血ではないけど、色んな不思議な生き物たちの血を混ぜたものよ。それらを吸い込まないで、そうでないと体内を酸のように焼いてしまうわ。それ故の名前なのよ。」
僕は枕を手に取って口と鼻にあててフィルター代わりにした。彼女は瓶に蓋を戻すと、それを僕に差し出したが、僕には良識があった。
「僕が酸性の物を手にするのは良いアイデアとは思えません。毒性のある物や僕を食らおうとするものもですが。僕はそれらには向いていません。」
彼女の笑みは部屋を明るくした。
「君は本当に運の悪いタイプなのね?」
と、彼女は聞いた。
僕はうなずいた。
「いいわ。でも、きっと私の幸運があなたに移ると思うわ。」
その励ましで、僕はその瓶をいつ爆発するかわからない物の様に持った。実際のそれが起こると思っていたからね。
「小さい赤い瓶を取ってください。」
僕は酸性の血を置いて、丸くて小さい赤いガラスの瓶を取って、すぐさま彼女に渡した。
「まって、もし、仮に僕の悪運があなたに降りかかったら?」
「それでも私はカバーされているわ。私の回復力は極めて良いの。」
彼女はふたを開け、とても小さいスティックを取り出した。
「サンダルウッドよ。」
と、彼女は僕が聞く前に言った。彼女はそれをドラゴンの血の上に落とし、蓋を回して閉じ、僕に渡した。
「次はあのシナモン色のを」
と言った。
僕はサンダルウッドを置いて、シナモン色の丸い壺を手に取った。僕は私ながら一歩近づき…自分の靴に躓いた。僕はテーブルに向かって倒れ、壺は手から滑り落ちた。僕の視線が追いつかないほどの速さでディヴィーナは手を伸ばし、キャッチした。彼女はたじろいで目をつぶり、その体に緊張が走った。数秒後リラックスし、彼女は笑い始めた。
「え、なに?」
僕はたった今起こったばかりのことの訳が分からなかった。
「これは、爆発性が非常に高いの。血の混ぜ物は濡れたり吸い込んだりしない限り危険ではないけど、この壺一個でこの船を爆破できるくらいよ。」
きっと僕の目は野球ボールくらい大きくなっただろう。
「それは、ちっとも面白くないです!お願いですから、船が吹き飛ぶような物を扱わせないで下さい。」
彼女は笑い顔で布の方へ戻った。
「次回はそれを忘れないようにするわ。」
彼女の死に対する観念が普通でないから面白く思ったのか、自問した。それともホッとしたからなのか、どっちにしても、素晴らしい笑顔だったので僕の神経を落ち着かせるのにも良かった。
彼女は壺をゆっくりと開け、一つまみ取って、注意しながらドラゴンの血とサンダルウッドの山の上に置いた。それから蓋を閉め、注意深く自分のリュックの中に戻した。
「私のバッグはとても良く遮断されているのと、これに関してとても慎重に扱うの。ちょっとここまで来て。」
と、彼女は言った。僕は彼女の隣へ行き、彼女の甘い香りを無視しようとしていた。
「君はこれを使わないといけないわ。もし十分に強力でなければ、強化するわ。」
彼女は布の両端を合わせて固く締めつけた。その布は周りをロープでまいて縛ったように閉じたが、彼女はそういったことを一切やっていなかった。
「頭を空にしてあなたのエネルギーを集めて。」
僕はその様にした。しかし、考えを無にするのはまだ難しかった。特にディヴィーナが自分のすぐ近くにいると尚更難しかったが、エネルギーを集めること自体は、回数を重ねるごとに容易になっていた。
「太陽の光の暖かさを感じることが出来る?」
太陽の光が窓から入ってきていた。
「はい。」
「君が感じている太陽光が全てバッグから来ているように想像して。そして、実際にはついていないけれども、バッグは熱すぎて火がついていると想像して。強烈な熱さを感じたことがある?」
僕はうなずいた。
「では、その感覚を思い出して、その熱さをバッグの中に入れて。想像できる全ての熱さをね。」
僕は、とても近くにある彼女の体の温かさから意識を離そうと頑張っていた。そしてなるべく性的でない記憶に集中した。
母の最初の夫が、マッチに火をつけて僕を捕まえ、肌に押し付けるのを思い出した。そして風呂では熱いお湯から出ないように押さえつけられたことも思い出した。7月4日(独立記念日)にジェイコブと彼の友達たちに拷問されたのを思い出した。僕の幼少期は本当に悲惨だった。僕は全ての熱さを想像し、それを小さなバッグに押し込んだ。僕の体は内側から熱くなった。それはディヴィーナが隣にいたからでは、ない。僕は身をよじり始め、集中がゆらいだ。
「ダメよ。続けて。」
と、彼女が強く言った。
僕は過呼吸になり汗をかいていたが、僕はしっかり目を閉じて熱とバッグに心を集中した。
「熱すぎる。」
と、僕は弱った声で言った。僕の喉はカラカラになって暑かった。
「君は自分の中でエネルギーを温めているのよ。もっとバッグの中へ押し込むようにしなければいけないわ。」
彼女は僕を励ますように、僕に手をかけた。
僕は熱を外へ出すよう、力を入れた。数秒間、更に熱くなったが、少しずつ熱さが減っていった。僕は熱に集中し、遠くへ押すように集中したが、自分が弱ってきていると感じると、押し出しながら外からエネルギーを引き込むようにした。
「もっと。」
と、彼女は言った。
僕は更に頑張った。集中するのが容易になってきた。僕の心は独自に全てを遮断した。僕は目を開け、バッグを見た。僕はめまいがしたが、動くことが出来なかった。
「もっと。」
と、彼女は繰り返した。
僕は目を閉じ、更に頑張った。それをやらなければいけなかった。僕は、僕の本や僕の世界、そしてヴィヴィアン。それらを守るためにも、うまく魔術をやらなければならなかった。
僕は冬に服を着込んでいるのを思い出した。あまりにも寒くて暖炉の前で着替えなければいけなかった。ジェイコブは僕を暖炉の柵に向かって押したのを覚えている。誰が熱いと思っただろうか?地下室で電気系のトラブルがあったとき、床が濡れていたのを思い出した。ローマンキャンドルが故障した時のことも思い出した。3人の友達と激辛料理コンテストのことまで思い出した。
僕には出来る。僕はやる。
僕は思い出せる限りの熱さを加え、乾燥した酸や爆発物が沢山入った小さなバッグに押し込んだ。
「もう十分よ。ストップ。」
と、彼女は言った。
僕は痛みを遮断し、他の事、例えば、ディヴィーナの香りや理解できない彼女の声のことを考えようとした。僕はエネルギーを引き込むのを止めたが、それは、入り続けた。そして、自分の中で熱さが増して、震えはじめた。心臓の鼓動が早すぎて息をするのが難しかった。
「止めて!」
と、彼女は急いで繰り返した。
「止めようとしているけど。」
と、僕はうなった。多分、なにか冷たいことを考えると、今までやったことを元に戻す可能性があるだろう。彼女の香りだけでは足りなかった。僕はエネルギーを遠くへ押しやるのに抵抗があった。まるで何か間違ったことのようだった。エネルギーの流れを止めようと手を握り締めると、熱さが増した。それは効果があるということなので、良かった。うまくできなければならなかった。僕に何かを起こすことが出来るのなら、それを止めるのもできるはずだ。
僕は森でロネスの事について話して、ディヴィーナを動揺させて怒らせたことについて考えた。彼女は死について理解すべきだ。ようやく熱さが次第に消え、エネルギーが入って来なくなり、害を与えずに放出することが出来た。
僕の震えが止まって汗が引いてきたとき、ディヴィーナの方へ振り返った。
バッグを見た彼女の視線には驚きと悲しみのようなものが含まれていた。
「君はとても強力だわ。」
と、言った。でも、彼女の口調は安心できるようなものではなかった。
「あなたはそこにもっとエネルギーを注ぎ込んで欲しかったのですよね。」僕はまだ息切れがしていたが、心拍数はほぼ普通に戻っていた。
「まさか君にできるとは思っていなかったわ。君と初めて会ったとき、きっと訓練すれば強力で危険になるとは思ったけれど…、君の場合、未熟のままではおそらく更に危険かも知れないわ。」
僕はため息をついた。
「僕はもうガーディアンです。本を護るためにも強くなければなりません。僕は不発弾ではありません。」
みんなはいつも、僕が異常者か危険人物だと思っていた。僕がいくら隠そうとしても、小さい子供のときから物事は起こった。母は他人に僕が悪魔か何かだと言っていた。学校では、他の生徒たちが僕について色んな嘘の噂を広めはじめると、新しい学校へと何度も何度も転校するしかなかった。
僕はディヴィーナやエドワードにそのような目で見られたくなかった。僕は、特にここでは、普通か退屈なやつでしかないはずだ。
「分かっているわ。私が言いたいのは、そんなことじゃなくて…君が初めて本当の敵と戦うことになったら、我を見失ってしまうと思うの。」
「なぜあなたはそう思わないのですか?」
僕は、彼女の反応に注意しながら聞いた。彼女は肩を上げ、まるで彼女の心と体の間に見えない壁ができたかのように、彼女の表情は再び解読不能になった。僕は将来の参考のため、それを頭の片隅に保存した。
「僕は偉大な人たちの座に就くために力を付けようとしている訳ではありません。僕は、本当に誰かと戦うようなことにはなって欲しくないし、パワーを使いたいとも思いません。ただ、必要になった時のために備えたいだけです。」
「それを私とキロが助けようとしているの。私の疑問は気にしないで。私は君が不発弾だとは思っていないわ。」
「エドワードは?彼は僕が我を失って全てを破壊するとでも思っているのでしょうか?」
「彼は自分の子供達よりも、弟子たちに信頼をおいているわ。本当は子供を持つよりも、弟子を持つことを考えていると思うわ。君の安否を心配するならば、何としてでも君を助けようとすると思うわ。キロは自分の本能と心に忠実なので、君を弟子にしたということは、私にも意味があるわ。」
「ええ、まぁ、アナキンも訓練されるまでは良かった。」
と、僕は言った。彼女は眉を上げた。きっとスターウォーズを見たことが無いだろう。
「忘れてください。あなた達、魔法使いは、もっとテレビを見るべきです。」
「電気は魔術のエネルギーの周りではとても不安定なの。」
彼女は掴んだバックの開口部を自分の手首のあたりに置き、もう一方の手でひもを調整するような動きをした。彼女が手を上げると、そのバッグは見えない紐でぶら下がっていた。彼女にそのトリックを見せてもらいたかった。彼女は満面の笑みでバッグを吟味した。
「君は本当にいい仕事をしたわ。それに、初挑戦にして君がどれだけ正確に水をコントロールしたか、キロに聞いていたの。初挑戦で成功する人なんていないわ。それだけの力を持っているというのは、君がとても不運なことにも、説明がつくわ。」
僕が彼女の言いたいことを聞く前にエドワードが入ってきた。
「私たちは、思ったより早く着くようだ。」
彼はディヴィーナの手首の小さなバッグを見て眉を上げた。
「君はせめて彼にやらせようとしたのか?」
と、聞いた。
「彼は自分でやったのよ。」
と、彼女は言った。彼は彼女に懐疑的な視線をおくった。
「いいえ。私は本当のことを言っているのよ。私は彼に何をすべきか言っただけで、彼はやったの。彼は魔力に優れているわ。」
「彼は魔術全般に向いているようだ。一緒に来なさい。」
と、彼は僕に言った。僕が慰留を聞く前に彼は出て行き、僕は彼を追って行き、ディヴィーナはその後ろをゆっくりついてきた。デッキへ行くのではなく、更に下へ行き、複数のドアの前に着いた。
僕たちが入った室内は、全ての壁や棚に武器が置いてあって、広い練習場もある大規模な武器庫のようだった。エドワードはそのうちの一つの壁へ向かって行き、二本の剣を引き下して一本を僕へ投げ、僕はそれが危うく足に刺さる前にキャッチした。突然、僕はエドワードがやろうとしていることに気づいたので、受け取った剣をディヴィーナへ渡した。
「パス。」
と、僕は言った。
彼女は笑って壁に寄りかかった。僕はエドワードを見て、彼がふざけているのだろうと期待した。
「マジで。僕、刃物は苦手なのです。」
「爆発物もね。」
と、ディヴィーナは楽しそうに付け足した。
「でも、やってみたら?」
「君に近づくのはとても簡単だ。」
と、エドワードが言った。
僕は注意深くその長くて、重くて、尖ったものを下に置いて、頭を振った。
「いいえ、ごめんです。」
「手に取りなさい。君を傷つけやしない。」
と、ため息をついた。
「あなたがその剣で私を傷つけるかどうかは心配していません。僕にはプラスティックのバターナイフで切った傷跡さえあります!あなたがやれと言う魔術はやりますが、それは、トラブルに巻き込んでくれと言うようなものだし、トラブルは引き起こしやすいものです。この部屋は、あっという間もなく僕を死に至らしめかねない…そうすると、あなたの本にはガーディアンがいなくなります。」
ディヴィーナは僕の剣を取ってエドワードに近づいた。
「若造が自信を持つまで、私があなたとプレーするわ。」
ディヴィーナが剣を持ちあげたが、エドワードは自分のものを下した。彼女の服がゆっくりと光をおびた。
彼は眉をあげた。
「私は君とは戦えない。君は女性だ。」
ディヴィーナは、ただ笑って
「では、証明して。」
彼女の攻撃はあまりにも早すぎて、エドワードは防御する間もなかった。
彼は彼女を外へ押し出し、見えないほどの速さで剣を切り付けたが、彼女はもうそこにはいなかった。彼の後ろにいた。彼女の剣が彼に当たったが、彼は間をおかずに前へ転がりながら、彼女の足をはらおうとした。彼女は後ろへ飛び下がり、彼の胸に向かって剣を振り下ろした。彼は自分の剣を使って自分の胸から数インチのところで彼女の剣をはらった。彼は蹴ろうとしたが、彼女はそれを避けたので、力任せに彼女の足に向かって飛びかかった。
彼らはお互いの周りを回るような形で、始終お互いから目を離さなかった。僕は、ディヴィーナのシャツの色が黒から濃い桜色に変わったことに気を取られていた。
「君はいつの日か魔術を使わずに戦うことができるようになるだろう。」と、エドワードが言った。彼はディヴィーナを見ていたが、僕に言っているのだと分かっていた。
「敵が武器を持っていないことを祈るよ。」
そう願う。
「剣で戦うときは目で見ずに感じること。」
と、ディヴィーナは言った。
「相手のより小さくない限り、剣の大きさは大事ではない。大きすぎる剣は早く疲れるだけよ。」
「自分にとって一番良い武器は、使い慣れているものだ。」
エドワードは自分の剣を反対の手に持ち変えた。
「ロネスは10人の男を相手にしても曲げたフォークとブーツだけで勝つことができたが、家を出るときは必ずナイフを持って出た。戦いに使う武器は、鞭やナイフ、対戦用の斧や弓など、いろいろあるが、戦いの訓練を受けている者は必ず好みがある。君の場合、どれが武器であろうとも、必ず自分の武器より危険なものを持っている相手と出会うことになるので、自分自身の力を把握しておかねばならない。それは、いくら武器を持っていても、使えなければ何の役にも立たないからだ。魔術は武器ではない。」
「なんでも武器になり得るわ。」
と、ディヴィーナが反論した。
「不注意さえもね。」
壁際にある蝋燭が爆発して輝く炎になる前の前触れは、彼女の手の小さな震えのみだった。両者とも同時に攻撃した。
ディヴィーナは彼の左側に付こうとしたが、彼はとても素早く、彼女の前に立った。彼女は後ずさりをし、予測通り右から左へ動いていたが、彼はその手には乗らなかった。ディヴィーナは物事をそんなに容易にするはずがなかったし、エドワードはそれを知っていた。彼女は左右から剣で攻撃をし、前へ走り出る前に一歩下がるはずだった。彼女の剣は長いので攻撃するには一歩下がって態勢を整えるはずだ。彼女の剣はどういった訳か、木の床張りにはまったので、僕は下の階がないことを願った。
彼女の方が素早かったが、彼も十分に早かった。彼女が彼を部屋の角に追い詰めたことに僕が気づいたことに気付いた。彼は自分の剣を放し、顔を守るために腕を上げた。そして、目くらましによって彼女の手の動きが鈍ると、彼女のうえに飛びかかった。彼女は自分の顔と喉を守るよう手を上げたので、彼は腹部を狙った。彼女は体をくねらせて両足を上げ、立ち上がろうとした。強い唸り声をあげ、彼女は転げてエドワード倒し、彼の上に乗った。彼は顔を守ろうとせず、彼女の両腕遠ざけるためにしっかり掴んでいた。エドワードの方がはるかに強かったが、ディヴィーナは素早かったし、エドワードは女性を殴るのが好きでなかった。
エドワードが足を上に蹴り上げると、彼女は転がったが、彼は手を放していなかった。彼は座りながら彼女の腕をねじって体に巻き付け、彼女は体をうねらせたが、逃れることができなかった。彼はスド語で何かを言ったが、そのトーンから、彼女をからかっているようだった。きっと、まだ降参しないのかと聞いていたのだろう。
彼女は後ろへ倒れながら足を上げた。それをさせぬようエドワードは畑井側へ倒れたが、その時彼女の肘が音を立てて彼の顔に当たった。彼はディヴィーナを放し、両者とも武器棚へ向かって走った。ディヴィーナは斧を手に取り、彼を狙って投げつけたが、彼はそれを掴んでブロックした。斧は盾に深く突き刺さった。
エドワードは盾を投げ捨て、それぞれ自分の剣を取ろうと飛びついた。次の瞬間、両者の首に剣があてられていた…文字通りにね。エドワードはディヴィーナの刃がのどに当たらぬようガードし、ディヴィーナもエドワードの刃が自分の喉に当たらぬようガードしていた。どちらも、剣がのど元から数インチのところにあった。
数秒後、エドワードの力が勝り、ディヴィーナは後ろへ押された。彼女はエドワードの剣をくぐって、彼の腹部に蹴りを入れた。正直、僕は他のところではなく、胃の周辺に当たっていることを願った。その蹴りで彼の足は地を離れ、数メートル先まで飛ばされた。ディヴィーナは飛び上がり、再び剣で胸を攻撃したが、彼は防御する動きをしつつ、彼女の肘が下に向かってみぞおちに当たるのを防がなかった。彼の怒りの声が次第に痛みのうめき声に変わり、彼女を突き飛ばした。彼女は立ち上がり、彼が立ち上がるのを助けようと手を差し出したが、彼は既に立ち上がろうとしていた。双方とも息切れをしており、ディヴィーナは僕に微笑んだ。
「さあ、あなたのためにウォーミングアップをしたわよ。」
と、彼女は言った。彼女のシャツは赤から元の黒へ戻ろうとしていた。
「いえ、遠慮しておきます。」
と、僕は自分の目を頭蓋骨内に戻そうとしながら、言った。
彼女は異常な笑みと自信に満ちたような感じで、
「君は私のために戦える?」
と、言って剣を渡そうとした。僕は彼女の手と剣を押しもどした。
「いや、エドワード、僕は止めておくよ。」
彼女は僕の手を取り、剣を持った自分の手の上に包み込むようにおき、僕のすぐ近くまで傾いた。彼女の頬が僕の頬にふれ、僕の意識がかすんだ。彼女の胸が僕の胸に軽く押し付けられ、彼女のぬくもりが、もっと近くへ引き寄せてと言っているようだった。
彼女は僕の耳元で「お願い。」と、低い声で囁いた。
彼女の唇が僕の頬に軽く触れ、彼女の言葉に集中できなかった。彼女の声は魅惑的だった。
「オッケー。」
僕は、彼女の柔らかい体を押し付けられて、何も断ることができなかった。すると、僕は剣を震える手で持っており、彼女の体のぬくもりが消え、僕は息を取り戻していたエドワードに向かって押されていた。僕は自分の手にある剣とエドワードの手にある剣を見た。
「ええっ、待って、何?」
と、僕は泣いた。
エドワードは少し笑い、剣を持ちあげた。僕は頭を回し、目をつぶって自分の自身から身を守るようにしてゆっくりと剣を上げた。僕は、彼がゆっくり威圧的に近づくのを感じることができた。彼の剣は僕の完全に無防備で震え始めていた足に軽く当たった。弾けるような金属音がした。
「小僧、リラックスするのだ。」
と、エドワードは言った。
「僕はリラックスしています。」
と、僕はさらに震えながら、嘘をついた。子ども扱いされたのは気に食わなかったが、逃げられるものなら逃げようと思った。
「お願いだから、刺さないでください。」
「君が何をやっているか、見なさい。」
僕はゆっくり目を開けて、辺りを見回した。金属音を立てていたのは、壁においてある武器が僕と共に震えている音だった。それはとても異様だった。僕はさらに震えた。
「君はエネルギーを放出するか、コントロールしなさい。」
僕は体の機能にコントロールを集中していたので、僕は大半のエネルギーをなるべく早く放出した。武器の震えが止まった。
「すごいレッスンだ。もう帰ってもいい?」
「剣で戦えないなら、いったいどのようにして魔術で戦えると思っているのだ?武器が使えないなら、どのようにして恐れずに魔術ができると思うのだ?」
「僕は、魔術で滑って、誤って自分の喉を切ることはないと思います。僕が使う武器は一つで、痛みもそんなにないと思います。」
僕の理論的考えは、嫌みな忍耐で受け止められた。剣はとても重かったが、僕は持ちあげることができた。
エドワードは呆れて剣を下した。
「ディヴィーナが私と戦っているのを見て何を学習したのだ?」
デュラン人は、とても素早いということと、ディヴィーナを怒らせるべきでないということ。」
彼はため息をついた。
「僕は誰かが自分に向かって剣を投げつけているときには、盾を使う方がよっぽど有効だと思います。それに、彼女があなたの左手にいるときに、あなたの動作のスピードが落ちました」
彼は僕を見る前にディヴィーナに視線をやった。
「それで君は戦っているときに何をすべきだと思うのだ?つまり、私たちではない誰かが戦っているときに。」
僕はしばらく考えて、
「まず、だれかに戦わせてみることだと思います。それによって、その人の弱点や動き方がわかります。
彼はため息をついた。
「近い。普通は、最初に誰か他の物を戦わせるべきだ。戦うのは良いことではないし、ほとんどの場合、回避すべきだが、それにはいくつかの条件がある。本に有益な場合を除き、女性や子供を自分の代わりに戦わせないこと。もし君がガーディアンでなければ、女性や子供の命を守り、名誉や権利、愛する人を殺した相手に復讐するようにと言うところだが、君は第一に本と本を守る自分の命を守らなければならない。それに何をするにしても、女性に優しく頼まれたからと言って、戦うことに同意すべきではない。」
僕は背後でディヴィーナが笑っているのが聞こえたが、恥ずかしすぎて彼女を見ることができなかった。
「僕はできます…。」
「いいや。君は、本を守るためではない限り、戦うことをあきらめてはならない。」
そう言って彼は笑い、自分のバッグを軽くたたいた。
「それに、私は君の本を安全な自分のそばに置いている。」
彼は再び剣を持ちあげ、横に振り、僕に同じことをするように頭で合図をした。 僕はそうしたが、彼は拳を上げた。
「神よ…」
彼は、再びあの‘おもしろくない’目つきをした。
「悪いな、神の助手君。」
僕は両法の拳を上げ、ゆっくりと向かっていた。少なくとも剣で戦うことは出来る。それができなければ孤児院で生き残ることができなかっただろう。しかしエイリアンと戦ったことはない。僕は、この不器用さ故に自分と相手が倒れるまで戦い、何度も勝った。多分、運よく相手を巻き込んで倒したのかもしれない。でも、僕は運がいい人ではない。
僕は彼から数メートルのところで立ち止まった。数秒後、彼が拳を下した。僕は体を少し倒し、素早く彼の頬を狙ったが、彼は避けた。もう一撃しようとしたが、また避けられた。
「まさか、そのやり方で女子のために戦うのではないだろうね。」と、彼は言った。
「彼女を守るために戦ったことはないのか?」
ない。僕は彼の挑発を無視して、彼めがけてパンチを繰り返した。彼は、最終的に僕のことを助けようとしているのは分かっているが、ディヴィーナに帰ることを説得したかった。
「「君が私に勝てないことは分かっているが、やってみなさい。君は戦う経験がなければならない。君は異母兄弟と戦ったことあるか?」
すると、頭に僕を溺れさせようとして冷たいバスタブに押し込んでいるジェイコブの記憶がよみがえった。そのときは、僕の上からどかすために歯ブラシで彼の喉元を刺すことができてラッキーだった。鮮やかな記憶は薄れていたが、僕は弟にしたように、猛スピードでエドワードに襲い掛かり、押し倒していた。ただ違うのは、尖った歯ブラシは持っていなかったことだ。
僕は恥ずかしさで固まった。僕は転がって立ち上がり、彼のびっくりした目を無視しようとした。
「すみません。」
彼はゆっくり立ち上がった。
「私を倒したからって謝らなくていい。ただ、思ったよりも…」
彼の声はまだ信じられぬような感じで低かったので、少し気に障った。僕も彼と同じようにショックを受けていたので、彼に有利に解釈してもらった方が良かった。
「僕は本当にあなたを倒したわけではないし、あなたはただ道を開けただけだし、僕はあなたがやったよりもやり返そうとは思わなかった。」
「まさにそこがポイントだ。君が勝ったのは事実だが、君がそれを成し遂げたのは、君が襲い掛かるという兆候を全く与えなかったからだ。君は、十分によくやった。」
と、彼は疑わしげに言った。
僕は笑った。
「やばい。では、僕がやるべきことは、まず、か弱そうに見せかけておいて、次の瞬間、地獄を味わわせるくらい驚かせればいいのだ。」
彼は、非難の視線を浴びせた。
「それか、戦うことを学べばいいのか。僕たちは、もう暫く武器を取らなくてもいいですよね?」
「君が初めて私を倒すまではね。」
と彼は、同意した。ディヴィーナは笑い、僕はうめいた。彼ら二人は、僕には聞こえない何かを察知し、上に視線をやった。そしてエドワードはドアへ向かった。
「さあ、もう時間が無い。船が横付けしている。早く部屋へ戻って、自分の荷物を準備するのだ。私たちはすぐに追いつくから。」
僕はドアから飛び出した。
「迷うんじゃないぞ!」
と、彼は後ろで叫んだ。彼らが二人きりで何を話そうとしていたのかは、気にしないが、アリーナから出るのは良かった。
部屋に戻ると、僕は自分の古い衣類をエドワードの大きなバッグに入れた。その中には他にもからのバッグが入っていたが、その中の一つは空ではなかった。僕の靴は…破壊されていた。僕は窓の外へ捨てようと思ったが、それは海の怪物たちにとって気の毒だったので、僕はベッドの下に隠した。
エドワードは怒り任せにドアをバタンと開き、ディヴィーナは、彼のそばをかするようにさっと通り過ぎた。今、彼女の気分で変わるブラウスの色は赤っぽいオレンジ色だった!
「それについて、私はあなたよりハッピーでないけど、あの辺ぴな海辺にあるちっぽけなキャビンで、安っぽい船を待っていたくないわ!私は、少しでも楽しみたいの!イースト・ミジイは、退屈よ!」
と、ディヴィーナが文句言った。
「君はしたいことをすればいい。ディーランと私は海辺で日の出を待つ。君が街に行くのは、トラブルを求めているのと同じだ。」
「あなたがそう言うのは、人を嫌っているからよ。」
「私は、ショゴが嫌いだ。そこの住人も、食べ物も、土地も、全てぞっとする。ショゴでは、人を生け贄にする。しかも、ミジイの北部の民を生け贄にする。」
「それは、セオリーだけよ。どっちにしても、私たちはミジイの北部の人間じゃないから大丈夫よ。他に行く暇もないし、私はここの文化が本当に好きなの。静かで古風だし。それに、ディーランは色んなことを体験すべきよ。ショゴは、超自然的で美しい文化よ。」
と、ディヴィーナは主張した。
「う~ん。あなた達は、僕のために英語で話しているのだと思うけど、はっきり言って、何を言っているのかさっぱり分からない。だから…、一つヒントをもらえない?」
と言って、割り込んだ。
「船がアノシイへ向かって発つのは明日の日暮れまで延期された。私たちは森を通って利用可能なキャビンに泊まればいいのだが、ディヴィーナは私たちが今いるショゴの土地を探検する時間が欲しいようだ。」
と、エドワードが説明した。
ディヴィーナは、まるで何か僕にとって恐ろしいものをそっと壊すように、僕の腰に腕を巻きつけた。
「見て、私たちが森を通って行ったら、夜、船に乗るまで食料が無いのよ。私たちは、まず、食事をすべきだと思うわ。」
と、ディヴィーナが言った。
「ああ、僕は、食糧を得ることが出来る方と行きたいです。」
と、僕は言った。
エドワードはため息をついた。
「分かった。行こう。でも、君は私から離れるな。」
と、エドワードが僕に向かって言った。エドワードとディヴィーナはそれぞれの荷物を素早く準備し、僕たちはプラットフォームへ行った。多分、ディヴィーナは冷静になっていたのか、彼女のブラウスはまた黒に戻っていた。
出発やお別れのためか、まるで全ての乗客がデッキの上にいるようだったので、僕はまっすぐ正面を見て、全力で口をつぐむようにしていた。エドワードは、多分お別れの挨拶のためハーデに引き止められて少し遅れた。ディヴィーナは止まって、僕に急ぐようにつついた。言うまでもなく、僕たちはちょっとひやかす時間はあったので、彼らの会話に割り込むことができるまで彼女は辛抱強く耳を傾けた。ハーデは彼女に微笑んだ。理由は分からないが、それは、僕をイラつかせた。