第六章

太陽の位置と、朝の肌寒さから、朝の9時頃だと思った。

人々は大きなグループになって砂浜へ向かっていた。エドワードは頭をかすかに振り、少し待つように言ったので、僕たちは船がゼンジイへ向かって出発するのを見ていた。

天気はすっきり晴れて、風は穏やかで、聞こえるのは海の音だけだった。それは不気味だった。片側の遠くにとても大きな森があり、砂浜には誰一人いなかったし、見える限り砂浜と海と森だった。まるでホラー映画から出てきたような光景だった。まるで僕の心配を助長するかのように、ディヴィーナのブラウスが黄色くなり始めていた。

「行こう。」

と、エドワードが言った。

ディヴィーナは僕の腰に腕を回し、僕たちは海から遠ざかって行った。草もなく、砂の上を歩くのは困難だったが、少なくとも、歩く先には根っこや枝などが無かった。

先ず、急に僕たちの前に壁があるということに気づいたのは、歩き始めてから15分くらい経ってからだった。それは黒っぽい大きな石が完璧に組み合わさった十フィートくらいの高さの壁だった。あと数分の距離なのに、なにもないところから急に湧き出たようで、心配になった。壁に着くと、それぞれの石にスド語で何か書かれていた。

僕がそれらの意味を聞く間もなく、エドワードは壁沿いに歩き始めた。そしてエドワードが注意深くなった部分に着くまでの約十分間は、静かに歩いた。

「これは本当に気に食わないな。」

と、彼は言った。

彼は壁に手を押し付け、目を閉じて力強く押した。数秒後、石のブロックの隙間から冷たい青い光が漏れ、あっという間に壁中に広まり、スド語で書かれている言葉は明るく、火のように黄色くなった。すると、突然、硬い石が真っ直ぐ二つに割れ、完璧に垂直で5フィート離れており、その間が砂に沈み、戸口を明らかにした。ディヴィーナは、入口の方へ僕を押した。

僕は、多くの和風の古い家で構成されている、小さくてかなり立派な地域を目の前にして、細かくカットされた草の上に立ち止った。いくつか小さな家があったが、とても大きな二階建ての家もいくつかあった。どれもボロボロにはなっておらず、荒らされてもいないし、明白な危険はなさそうだったが、嵐の前の静けさの様にあたりの空気は淀んでいた。見る限り、人や生命体がいるような気配がなかった。

ここは、何か異状で鳥肌が立った。

エドワードとディヴィーナが明らかな不快感を示し、同時に僕を前へ押した。僕たちが通った二つの小さな家の間にある路地は、住宅が並ぶ5フィート幅の通りに突き当たった。いくつかの家の間には土道があった。エドワードは僕たちをその一つから連れて下り、また似たような通りに出て、その後、土道を三つ通って、やっと風景が変わった。道中誰も見ることなく、物音も聞こえなかった。

約3フィートの石垣に並行した水路に行きついた。水路沿いに灰色がかった白い重そうな霧がかかり、その前にあるすべての物を隠した。僕たちのいるところから約30フィートのところに金属と材木でできた橋があった。僕は本当に川を渡りたくなかったが、エドワードは僕を橋の方向へ押した。ディヴィーナは後ろについてきていたが、彼女のブラウスはゆっくりと霧の色と合わせるように変わっていった。

ディヴィーナは、無理強いせずに彼女の腕を僕の腕に回したが、エドワードはどんどん進んでいった。僕は霧の冷たさで震え、橋の入り口で足を止めさせた。僕は水と水草のようなものの匂いを感じた。ディヴィーナの温かさと応援は、僕の背に走る鳥肌を止めるには十分ではなかったが、僕は彼女に、自分が全くの弱虫でないことを示そうと決心していた。

いや、僕は弱虫と思われるよりも、‘驚いた猫’といわれる方がまだましだと思っていた。

僕は一歩先に進み、彼女はつかまっていた手を少し緩めた。そして、僕たちは霧の中に入った。

僕は何も見えず、何も聞こえなかったが、水の匂いを感じていた。僕はきっと獣に囲まれて、牙で捕まえられようとしていても、分からないだろう。数分後、何の前触れもなく僕の不安が掻き立てられ、ディヴィーナが立ち止まったので、僕も止まった。彼女は僕を下へ引っ張りおろし、数秒後、何かとても大きなものが僕たちの頭上1フィートくらいのところを飛んで通過した。それは、ゆっくり動いていたが、僕が霧を通してみることができたのは、それの後尾の方で、大きなエイのようだった。

それが通り過ぎてから、僕に立ち上がるようにと、ディヴィーナが合図をし、僕らは川沿いを急いだ。すると、霧が急に晴れ、エドワードがそこにいた。

彼は、

「君は、大丈夫か?」

と、聞いた。

残念ながら、ディヴィーナが、僕を放した。

「素晴らしい。では、他のところへ行けますか?」

と、尋ねた。

そして、彼の向こうを見た。僕たちは、今、日本のお寺のような大きな建物や小さな建物が多くある場所にいた。それらは、主に朱色と金で、一つ一つ違っていた。

「ここは本当に日本のような世界ですね。あなた方は日本人のガーディアンを見つけるべきでしたね。ここは、いったい何ですか?」

「大きなものはお墓で、小さいものは精神的なシンボルだ。こことミジイの大半では、それぞれの物、無生物であっても精霊が宿っていると考えている。これらが、それを表している。人々は自然やその他の物に対して優しくないといけないということを思い出させるためだ。多分、私が長く生き過ぎたのかも知れないが、彼らには失望させられた。」

と、エドワードが言った。

「不死身なものよ。」

と、ディヴィーナが言った。彼女のブラウスは濃い灰色になっていたので、僕は、きっといい傾向だろうと期待した。それに、ここはそんなにおどろおどろしい場所ではなさそうだった。

ここの建物は、美しい日本庭園に囲まれており、芝生は完璧に刈られ、小さい池があり、その池は素晴らしい花で囲まれていた。僕には理解ができない色の花もあったし、色が変わる花、形が変わる花などもあった!僕たちは、特に大きな花の近くを通っていた。幅一メートルくらいで、長くて、細くて、先端が尖って、鮮血のような花びらがあったが、それが突然揺れたあと、僕たちに近づいてきた。

ディヴィーナは、危うく僕に触れようとした花びらをむしり取った。その他の花びらは、身を護るようにボールのように丸くなった。その花は、ただ興味津々で僕たちに近づいてきたようで、そのあと少し悲しそうな感じだった。僕たちが歩いている間に、ディヴィーナはバッグから小さい瓶を取り出し、花びらを折りたたんで瓶の中に滑らせてから、瓶をしまった。すると、彼女は少し立ち止まって青くて透明な花を撫でると、その花が大きく開き、彼女のためにその花びらを露出した。

巨大な墓を通過した後、僕たちは別の川に出くわした。その川は浅くて幅が広く、透明な水と岩盤によって、いくつもの小さな滝ができていた。その川を渡る自然の橋もあった。

川の向うはとてもきれいだった。そこは市場の地区だった。おもちゃから食品に至るまで、いろんなものを販売する建物や屋台があった。視界の限り市場で、見る限り町中が大きな迷路のようだった。至る所に人がいた。ドイツ語のような言語が群を抜いて高く、いろんな種類の食べ物のにおいでよだれが出てきた。

「君が美味しそうなにおいだと思う食べ物があったら、言ってね。」

と、ディヴィーナが静かに言った。

僕はうなずいた。市場の人々の大半はユニフォームと思われる砂色のチュニックにルーズパンツと、変ったモカシンのブーツを履いていた。子供の数は少なく、男性と女性の数は等しいようだった。

探査するにつれて、ディヴィーナは僕と同じくらい見る物すべてに興味を持った。今、彼女のシャツはダークブルーになっていた。僕たちはお互いにいろんなものを指差し、観覧するのに長い時間立ち止まったりした。宝石店、衣料品店、お菓子屋、石材店等、想像できる物全てあった。残念ながらエドワードは先を急いでいたようで、僕たちを急かした。ディヴィーナは、人が二人すれ違えないくらい色んなお菓子が積み上げられた小さい菓子屋の前で止まるように彼を説得した。カラフルなお菓子の大半は、小さな透明な器に試食できるようにしてあった。それらのお菓子の大半はネバネバとグミの間のような一風変わった質感だった。

クマさんのサクランボグミのようなもの以外全て素晴らしい味だった。いや、あれはサクランボの味がしなかったし、きっとろうで出来ている。そこから先、トマトやカイエンペッパーのような独特な味の赤いものは控えるようにした。ディヴィーナは笑いすぎて、他の客の目を引いたが、何の助けにもならなかった。

「少しとってもいい?」

と、エドワードに聞いた。

子供っぽいとは分かっていたが、僕は甘党だし、ここは試すものがいっぱいある全く新しい世界だ。

「君にはよくない。」

と、彼は顔を曇らせた。

「これは、僕がいつも食べ物について愚痴をこぼさないようにできますよ。」

と、僕は申し出た。

「では、君が気に入ったのなら、好きなだけ持っていくといい。このようなお菓子は、ミジイにしかない。」

と、エドワードが言った。

僕は沢山とった。僕たちがお店をでると、エドワードはかつての不安を取り戻した。

「キロ。」

と、ディヴィーナが何か欲しそうに、子供っぽく呼んだ。彼は、彼女を見ようともしなかった。

「少しディランを楽しませに連れて行ってもいい?」

僕の目は、見開き、心臓は高鳴った。ディヴィーナと二人きりでその辺を散策するなんて、期待するものが多かった。もちろん、エドワードといた方が安全だったし、ディヴィーナは僕に対して、一度、魔術を使ったことがあるが、ディヴィーナが入ってきたと同時に合理主性は出て行ってしまった。

エドワードはため息をついて暫く考えた。

「いいだろう。でも、君は目を離してはいけない。君は彼が新生児のように守るのだ。」

彼女は微笑んだ。

「では、彼を生け贄にしても…」

「ダメだ!ちゃんと見ていられないのなら、手を握るっているのだ。もし、トイレに行くようなら、君はドアの前で待っているのだ。もし、彼に傷が一つでもついたなら、君を責めるだろう。」

彼は、無限に続けるようだったが、ディヴィーナは彼女の美しいスド語で止めた。彼女の言い分を聞いてから、彼は僕をみてうなずき、振り返って、行ってしまった。ディヴィーナは僕に微笑んで、

「君は真っ先に何をしたい?」

と、尋ねた。

「食べたい。」

と、答えた。

「そうだと思ったわ。では、露店ではなく、レストランのようなところを見つけましょう?そうすれば、色んな軽食とか、いろんなお土産を買うことが出来るわ。エドワードは、きっとあなたがスド語をよく覚えて、もっと訓練を受けるまで、何処へも連れて旅行しないと思うわ。だからこそ、君は今のうちに楽しむべきだと思うのよ。」

僕は、何を言っていいか分からなかった。誰かに楽しむ以外のことをしなくていいと言われるなんて、僕には全く新しかった。彼女は僕が不安げにしているのを見て笑い、一つの屋台へ向かった。僕はみんなの邪魔にならないようにしようとしていたが、上手くいかず、誰かの袋に引っかかり、次の瞬間、皆躓いて、僕の上に倒れてきた。僕はエドワードにどうやって謝るのか聞いておけばよかった。あれこれ言われ、中には不愉快な態度をする人もいたが、謝っているような人もいた。

ディヴィーナは屋台で買ったばかりの本にちらっと目を通す前に、僕の腕をつかんで、人ごみの中から引っ張り出した。それは光沢のあるペーパーカバーの本で、表紙に巨大な朱色と金の寺院の形をした建物の写真があった。

「それは、観光ガイドですか?」

と、尋ねた。

ディヴィーナは笑った。

「ここは、地球とは全然違った世界かも知れないけど、人間が良いアイデアだと思うものは、ここにもあるのよ。学校もあるし、動物、家や娯楽などもあるし、私たちは、私たちの仕事を容易にする方法を考え出す必要があるの。それに、地球はアジアや北米などと言った地域に分かれていて、お互いかなり異なっているでしょう。ドゥランでも、地域によってずいぶん違うのだけど、それぞれの主要な島は非常に一貫しているの。シモジイの殆どがキロの領土と同じよ。小さな町や村がいくつかあるけど、それだけなの。なぜならば、みんな似たような生活をしているし、同じような食物が島全体に渡って生息しているので、文化全体が非常に似ているの。」

「その一方、ミジイのような地域がある。西ミジイは、露店が多く、簡単にお金も手に入るし、信じられないほど安価な発明品もある。東ミジイは、素晴らしい温泉や小さい古風な村、素晴らしい食べ物と、とても美しい景色がある。ミジイの北、中央、南は、それらが混合したところよ。」

「ゼンジイは娯楽に特化した島。その場所全体が豪華で、気候も素晴らしい。あなたがどのような風景が好きであっても、ゼンジイにはそれに似たような場所がある。永遠にそこで住むには高価すぎるので、多くの人が一つの理由でそこを訪れるので、識別可能な文化は少ししかない。」

「アノシイは文化が入り乱れている場所。土地全体が便利な生活をするためにあり、ショッピングやバカンスに利用されている。世界中の異なる文化、食糧や商品がアノシイに集まるの。」

「では、あなたは何処が好きですか?」

と、僕は尋ねた。

ディヴィーナは肩をすくませた。

「私は自分が住んでいる場所を愛しているのだけど、旅をするのが好きなの。私は多様性が好きなの。キロも好きよ。ただ、問題は、彼がもう全てを見たってことかしら。それで、あなたは?」

「僕はよく分かりません。僕はあまり変わった場所を見たことが無いのです。ただ、イギリス、日本とカイロには、いつか行きたいと思っていました。僕は、ハワイのビーチや500ドルの食事にはあまり興味が無いです。」

「君がスド語と守備の魔術を覚えたら私と旅行しましょう?」

「それは素晴らしいと思います…あなたは地球も訪問したいと思いますか?ドゥランの方がよっぽど面白そうですが、僕はまだ地球で見たい場所や文化があります。」

と、僕は言った。

「ドゥランの後でね。キロの墓をあまりにも早く掘る必要はないわ。では、小さいレストランと、マーケットでお土産をいくつか買いに行きましょう。その後、西ミジイへ行きましょう。」

と、彼女は提案した。

完璧のようだった。

「そんなに時間ありますか?」

と、尋ねた。

彼女は笑って、

「もちろん。君は、私がキロへ君を返すって聞いた覚えある?私は一晩中君を預かるつもりだし、彼も知っているわ。キロの所へは明日の朝になってから合流しましょう。」

「それは、高くつくような気がする。」

と、僕は自分のより良い判断に対して、言った。本当に、僕は彼女に一晩中ついて行きたかった。しかし、彼女は笑顔でためらうこともなく、僕に腕を回した。

「いいわ。私が一緒にする昼食や夕食など、全て払うわ。そして、あなたが好きなものを買えるように、少しお金もあげるわ。」

そう言って彼女は25セントくらいのサイズの黒いコインを一掴み取り出した。それを僕に渡そうとしたが、僕は受け取らなかった。

「気にしないで、そんなに大金ではないわ。それに、お金はいっぱいあるの。私、シモジイではお金を使ったことが無い上に、とてもいい仕事を持っているの。」

彼女は僕の手をとり、コインを手の上に乗せて、その上に指を閉じた。

それで僕が不快感を持ったとしても、断るのは失礼だと思った。それに、僕は何らかの方法でお金を貯めて、また僕たちがどこかに出かけた時におごればいいと思った。

「オッケー。ありがとうございます。どのような仕事をしているのですか?」

と、コインをどこに入れようかと、ぎこちなく持ちながら、尋ねた。

でも、今回は彼女の表情がよく分かった。

「それは、別にいいから。ほら。」

と、彼女は言いながら小さいレザーの小銭入れをバッグから出した。細い紐がついており、首に吊るせるようになっていた。

「しばらくの間、ここに君のお金を入れなさい。」

僕はお金を入れて、首にかけた。

「とにかく、お店の使い走りが、下の方の通りにある小さいレストランを提案してくれたわ。」

と、彼女は言いながら僕の腕に自分の腕を回し、僕を人けが少ない通りの方へ引っ張っていった。

「お店の使い走り」と、僕はスド語で何というのだろうと考えながら、小さくつぶやいた。僕は、彼女に聞いてもらおうとは思っていなかった。

「店主と言いたかったの。私の英語はいいとロネスは言っていたわ。」

「では、僕たちはなぜ人が驚くのを気にせずに英語で話し続けているのですか?」

彼女は顔を曇らせた。

「誰が聞いているの?君は人々がしらばくれるのを見て驚くと思うわ。」

と、彼女は言った。その言い方が気になったが、

「あなたは、魔術を使っているのですか?」

彼女はため息をついた。

「キロに言っちゃダメよ。彼は心配性だし、君は目立つし。君は不審者よ。」

「僕は偏執病的であって、不審者ではない。」

と、訂正した。

僕たちは似たようなお店の間にある木でできた和風の建物の前で止まった。木の引き戸があり、書面で覆われた符号があったが、それらはちょっと変わっていた、いつも見かけるような物より、もう少し複雑に見えた。

「これは、スド語ですか?」

「いいえ、ここで一番使われているヴィド語よ。しばらくしたら、君もそれらの違いが分かるようになるわ。これは、メニューの見本なの。多分、ここよ。私が話すまで、何も話さないことを忘れないで。」

彼女は戸を開け、僕たちは入った。

中に入ると、外からの見かけよりもはるかに広い場所だったが、それほど魅力のある場所ではなかった。入口の両側に約4フィートある真紅のドラゴンの木製彫刻があった。そのレストランはお香のいい香りがしており、少し煙たく暗い雰囲気で、グラスハーモニカのような音がする音楽が低くかかっていた。4つの主要な壁は平らで黒く、床は暗く柔らかい木材で、天井は低く、(普通の)照明はなかった。

照明は、壁や彫刻の目など、全体に散らばっている小さくてカラフルに光る球体だった。それらの小さくて光る球体が入った装飾された紙ランプが天井から吊るされており、ランプに装飾されたパターンが三次元で表示されていた。

左側には、ゆっくり赤から青に変わっていく薄暗い照明に照らされたガラスのバーがあった。その後ろにはガラスの箱があり、そこにはワインの瓶に入った色んな飲み物が置かれていた。かぶり物なしの忍者のような服を着た男性が、白い布でワインの箱を拭いていた。

そこには小さなラウンドルームが10か所あり、それはテーブルと椅子をかろうじて置けるくらいのスペースで、それぞれにハーフサイズのドアと模様のついた紙製のロールカーテンが下がっていた。各ブースには3フィートある石か木製の神秘的な彫刻がドアの右側を向いて置いてあった。どの彫刻も、あの輝く小さな球体が目となっていた。

ディヴィーナは僕をバーへ引っ張って行き、そこには、長細い溝がある金属と黒いボタンが、ガラス全体に均等な間隔で配置されていた。ディヴィーナと僕はそのうちの一つに近づき、ディヴィーナがボタンを押すと、僕たちの正面の約1平方フィートくらいのガラスのセクションが明るくなり、パソコンの画面のように乳白色になった。言葉が画面上にひらひらし、ディヴィーナはタッチパネルのようにガラスに触れた。すると言葉が明るくなり、小さくて水色の長方形が数インチ離れて隣り合わせで出てきた。

彼女が左側のボタンを親指で押すと、それは赤くなった。彼女は僕の方を期待するような眼差しでみたので、僕は腕を伸ばし、もう一つのボタンを親指で押した。赤くならなかったので、ディヴィーナは眉をひそめた。すると、約一分後、やっと赤くなってきた。僕が親指を離すと、画面が変わり、再び色んな横並びになって、その上に何か書いてあるワインの瓶に入った飲み物を表示した。

「私たちのために飲み物を選ぶわ。」

僕は陽の光のように澄んだ声が頭の中で聞こえたが、彼女の唇は動かなかった。ケースの男性は掃除をしていた手を止め、ディヴィーナの方へ振り返って何かを言ったが、箱の上の白いマークに黒い字で何か書いてあるのを指差した。ディヴィーナはかるくお辞儀をして、何か答えていた。すると、彼もお辞儀を返した。

彼女は説明してくれなかったが、多分、魔術を使わぬように言われたのではないかと思った。彼女はガラスの上で指を滑らせ、それと共に瓶が動き、新しいドリンクが現れた。彼女は何かを呟きながら瓶の一つを軽くたたいた。その他の瓶はなくなり、彼女が触れたものは磁気を帯びたように6インチほどの高さに浮いて、彼女の横に文字が現れた。彼女は画面が瓶に戻るまで、瓶を押した。それからボタンを押し、画面が明るくなり、小さなカードが出てきた。

僕は質問をしたくて必死になっていた。ディヴィーナはカードを取り、一つのブースの方へ連れて行った。ドアに切り込みがあったので、引っ張って開けると、小さい円形のテーブルを囲むクッションシートがあった。ディヴィーナが片側に座り、僕が反対側に座り、紙のロールカーテンを下してため息をついた。

「やっと話せるわ。君の指紋に異常は無いし、あの男性はバーで魔術を使わぬように言ったのと、飲み物はノンアルコールよ。」

彼女は僕が質問する前に、僕の三つの主な質問に答えた。

「あなたは、僕の考えを読むための魔術を使わずに、どうして僕の聞きたかったことが分かったのですか?」

「君が考えた時点で、そう顔に書いてあったわ。」

「あなたは、僕の顔を見ていなかったでしょう。」

と、僕は言った。

「私は非常に良い周辺視野を持っているの。さあ、あなたは何を食べたい?」

と、彼女は聞いた。彼女はわざと話題を変えようとしていたのか、僕が疑いぶかいのかのどちらかであった。

「何か地元の物で、美味しい物とお肉。」

と、僕は言った。僕は突然のドアノックに驚き、肘をテーブルに打ちつけた。残念ながら、僕が暴言を吐いた瞬間にディヴィーナがロールカーテンを上げた。

バーの男はラミネートされていないようだが、光沢のあるメニューをディヴィーナに渡すとき、僕を心配そうに見た。それには、たくさんの料理の写真と様々な色で書かれた単語があった。そして、バーで選んだ飲み物の瓶と幅の広いショートワイングラスを2個、彼女に渡した。彼は出て行き、ディヴィーナはカーテンを閉めた。

「すみません。」

「大丈夫よ。彼は君がただ訳わからぬ音を発したと思っているわ。」

彼女はメニューを僕の前に置いた。

「これらのどれか、いけそう?」

そんなに何回も行ったわけではないが、写真の大半が地球のレストランで見るようなものだった。ハンバーグやフライドポテトは無かったが、それが何の肉なのかは分からないが、ステーキはあった。選択肢の多くは、肉の塊とカラフルなソースだった。スープやパスタ、魚、野菜、赤いソースがかかったオムレツと、寿司の様な物もあった。

「どれも不味そうではないですね。あなたは何か選びますか?」

そう聞きながら、メニューを彼女の方へスライドした。彼女は、数分メニューを見ていた。

「ヨクスは、どうかしら?」

これは、どのようなところにでもあるけれど、味付けは大きく異なるわ。ミジイでは、特に美味しいわ。タノシイでも、ヒットしているわ。向こうでは、殆どのレストランにあるの。」

彼女はもう一度メニューを見た。

「西ミジイにしかないフガンもあるわ。」

「よさそうですね。」

「毒もあるのよ。」

「え?」

「あなたに害はないわよ。」

と、彼女は笑った。

彼女はドアの横の小さなスリットにカードをさした。

「今は、静かにして。」

ドアにノックがあって、数秒後にディヴィーナはカーテンを開けた。彼は僕が注文するものだと思ったのか、何か尋ねたが、ディヴィーナは簡単に答えた。

「キヨデ ヨクス エド フガン イル イイェト。」

「アラソネ ヨクス エド フガン ゴゼナイ。」

と、彼はお辞儀をしながら言って、下がった。

ディヴィーナは再びカーテンを閉めた。

「君は、私が言ったことが分かった?」

と、彼女は尋ねた。

僕は頭を振った。

「私は、ヨクスとフルガンを二人前と言ったの。」

「もし、君がカードを使うレストランに行ったら、彼らは、あなたに見合った量を給仕してくれる。もし、私がフガンを頼まずにヨクスを二人前頼んだとしたら、それを二倍にして出してくれるわ。カードに記載されている情報は、あなたにちょうどいい分量を見積もるの。私は、あなたが船で食べたときの量を基準にして情報を出したわ。また、カードは、君が間違ってアレルギーのある物を注文した場合にも役立つわ。」

「しかし、あなたに有毒なものを注文してもらおうとしているのでは?」

「地球で、彼らはまだアルコールを飲んでいるわ。それは体に良くないけれども、まだ購入することが許されているわ。ドゥランにも、体を害することなくいい気分になれる方法を見つけるまでは、アルコールがあったわ。彼らは体にいい植物で、リラックスできて、物事がそんなに悪くないと思わせる飲み物を作っている。実際にはまだワインもあるけど、アルコール度数がとても低くて、それを飲んで酔うのは不可能に近いわ。」

「なぜあなたは飲むのですか?」

「人によってはステータスなの。どっちにしても、フガンという毒のある魚がある。毒のある袋は取り除かれるけれど、肉に少し残っているわ。その毒は、リラックス効果があって血圧にいいし、魚の肉は心臓と皮膚を癒すのにとてもいいわ。」

「では、僕の不運のせいでその毒袋が破れて、彼らがそれに気づかなかったら?」

と、聞いた。

彼女は肩をすくめた。

「そうすると、君は死ぬわ。」

彼女は僕の表情を見て笑い、室内が少し明るくなった。

「心配しないで。彼らは必ず料理をチェックするわ。」

彼女は瓶を開け、ワイン色の飲み物をグラスに注ぎ、続いて期待するように、僕に一つ渡した。

僕は、酷く不味いものを飲ませられたり、船を吹き飛ばすくらいの危険物を取り扱ったり、超パワフルであるガーディアンと戦うよう騙したりする、その冷酷でとても美しい女性を信じる理由がなかった。僕は、ほんの少し口にしたが、ベリーと緑茶と何かを混ぜ合わせたような味がすると思った。とても美味しかった。ディヴィーナは、自分の分を少し飲み、僕たちは数分沈黙して座っていた。

「エドワードの名前は、どの言語に属するのですか?」

と、僕は聞いた。

彼女は見上げて

「何が言いたいの?」

「彼の名前はキロ。スド語で書いてあるのは知っていますが、スドの名前か知りたかったのです。僕は、北米の名前であっても、他の国々由来のものをたくさん知っています。」

「まあ、ある地域の古い家系の名前でない限り、殆どの名前がスド語よ。殆どの主要領土には、ヴィドにしてもモドにしても、主要の言語があるのだけど、アノシイでは、皆が学校で習うスド語を使うの。キロの名は、とても古いスド語で、モド語と同じルーツを持っている。彼の本来の名前はキミヴォだった。新訳では、キロサドだわ。ヤトゥヌスは、多くの場所で高貴な名前だけど、他では悪名高いのよ。」

「改革前、つまり、 約二千年前、世界は主要領土に分かれ、それらはニアスと呼ばれていた。その言葉は、組織体や統一体を意味するの。改革後、人々は、そのように言うのを止めて、今では、ユダス、リエム又はクラ、つまり、三つの異なる言語で大きな領土と言う意味。改革前、各領土は宗教によって分割・開発・支配されていた。彼らは、皆、12の神を崇拝していたが、多くの人がマイナーな神々を崇拝していた。トゥモルジイは雨と太陽の光を与えてくれた天空の神々を崇拝していた。ゼンジイは土地を崇拝し、ショモジイは四大元素を崇め、全ての命を大切にすべきだと感じていたバンジイと協定を結んでいた。バンジイとミジイは生命の無い物にでさえ、尊敬すべき精霊が宿っていると信じていたが、ミジイはサゴ以上に動物と自然の繁栄を信じていた。あなたは、今、それら全ての影響を見ることが出来るわ。ショモジイは、まだ、野生で美しいけれども、致命的要素に支配されているし、トゥルモジイは、まだ天に支配され、ミジイは野生の生物や肉食植物がいるので、サゴが生きるには、とても危険な場所のままよ。」

「カンジイは誰に支配されていたのですか?」

「規律と秩序。実際にまだそのままだけど、神々の支援なしなの。実は、アゼスの反乱について話さなきゃいけないのを思い出したわ。」

「改革前、どの領土にも二つの有力な家族がいて、一つは政治、もう一つは宗教で有力だった。それらの家族は、衝突を避けるために、お互いに結婚するようにしていたが、うまくいかず、それが原因で賄賂や殺人などが発生した。そのころ、ショモジイの宗教家家族の姫が、政治家家族の王子と結婚する準備を整えていた。ネファール王子は次の王位後継者で、彼の父親はもう死ぬ寸前だった。レイラはネファールと共に育ち、兄のように愛していたが、彼と結婚するより死んだ方が良いと思っていた。彼女には冒険心があったが、誘拐される可能性があるので、探険を一切許可されなかった。実際に、彼女の妹は、彼女を殺そうとしたために斬首された。レイラは父親の船で逃げだし、バンジイに降り立った。キミヴォ・ヤトゥヌスはまだ若い王子で、王位継承3位だった。彼はキロではないわ。」

と、僕の目が大きく見開いたのに気づき、彼女は言った。

「別のキミヴォ・ヤトゥヌスですか

彼女は笑った。

「キミヴォの一番上の兄と、姉は最近疫病にかかったが、キミヴォは王座には着きたくなかったので、逃亡するつもりである船に乗った。そこで、彼は可愛らしくて小さいレイラに出逢った。彼らは恋に落ち、二人で旅発つことを決めた。彼らはトゥルモジイへの道を発見し、そこで暮らすために農場を作った。三年後、結婚してまだアツアツの二人は、双子の男の子を授かり、一人には愛の神の名を与え、もう一人には、自由と精霊の神の名を与えた。でも、それは彼らの平和の終わりだった。

「若い疫病もちの男が彼らに出会い、助けを求めて来たので、彼らはもちろん、助けた。レイラは、自分自身で彼が完治するまで看病をし、その後、彼は何も言わず、何の伝言も残さず発ってしまった。二週間も経たないうちに、ネファールは小さな軍隊を引き連れてきて、レイラに自分の妃として戻るように要求した。助けた男がレイラの顔を知っており、レイラが誰と何処にいるか告げたのだ。彼女が断ると、彼はキミヴォを殺した。レイラは捕まり、ショモジイへ連れて帰られたが、彼女の子供達は二度と見つからなかった。ネファールは、数千人の前で大きな結婚式を準備した。しかし、彼と結婚する前に、彼女は自分の民に向けて、自分の自由と精神を見つけたと言った。そして、彼女は自分のパワーを呼び覚まし、自分の命を絶った。」

「自分の自由と精神?」

と、僕は聞いた。すると、ふと僕の頭によぎったのが、

「キロは、神の名にちなんで名付けられたのですよね?エドワードとロネスはキミヴォとレイラの子供達だったのですか?」

ディヴィーナはうなずいた。

「キロサドはキミヴォから由来し、父親とマイナーな自由と精神の神にちなんで命名された。だから、今はキロの後にキロサドがつくの。彼の母親と父親のストーリーは、あなた方のロミオとジュリエットのようなものよ。有名で、美しくて悲しいストーリー。キロは与えられた名前はありがたく思うけど、その愛と損失のイメージが嫌なの。」

「結婚が失敗した後、戦争が勃発した。有力な家族が一歩引いて、最終的に世界が統一された。各領土に王がいるけれども、民が民のために支配し、宗教は選択自由となり、各自好きなように表現することが出来るようになった。」

「キミヴォとレイラは、世界をより良い世界に変え、今ではエドワードとロネスがガーディアンとなっている。」

と、僕は締めくくった。

「今は、あなたもそうよ。」

「もし、エロノとタィアマトがエドワードとロネスを受け止めていなかったら、彼らはどうなっていたのでしょう?」

「ネファールはその場で殺していたか、自分の子として育てていたかでしょうね。誤解しないでほしいけど、戦争が終わった後も、ドゥランが現在のように平和になるには、数百年かかったのよ。」

「でも、戦争は平和をもたらさない。人々が平和を求めて戦争するべきだなんて、僕には信じられない。」

「私も同意するけど、彼らは、平和のために戦っていたのではなく、当時の物事が好きではなかったため、戦っていたの。彼らがケンカするのを止めた時に平和が訪れたのよ。カンジイは、本来、改革と戦争のカオスに抵抗しようとしていたのだけど、彼らは世界を支配して、厳しい法律で改革し、政府と宗教は一つのユニットとして、無条件で全てをコントロールすることにした。この攻撃が、アゼスの反乱として知られているの。」

僕が新しい情報を吸収し理解するまで、僕たちは暫く沈黙した。

「皆同じ通貨を使うのですか?」

と、僕は聞いた。

彼女は、僕が話題を変えたので笑った。

「ええ、でも、その価値は住んでいる場所よって違うわ。例えば、ショモジイではあまり価値が無いけど、アノシイではとても価値があるわ。ほどほどにね。」

と、彼女は言って、僕の飲み物を指差した。

僕は気づかないうちに殆ど飲み干していた。

「喉が渇いているのです。」

ディヴィーナはカードをスロットから引き出し、僕に渡した。

「ほら、これを持っていて。きっと、いい思い出になるわ。私のカードは、有効期限が一年だから、もう期限が切れているの。これに私たち二人の分を記録したわ。君がセルフサービス、ホテルやレストランなどを利用すると、カードを要求されるわ。どこかにカードを差し込むところがあるから、そこであなたが購入や利用したものが記録されて、そこから退出するときに払う金額が記されるわ。」

2分ぐらい沈黙があったので考えをさまよわせた。

「あなたが知り合ったとき、エドワードはどのような人でしたか?」

彼女は肩をすくめた。

「彼は友好的だったわ…とても、友好的だった。彼はケマック・デォルダ以来最高の魔術師だと思っている小娘に何か教えていたわ。」

「誰が…」

「ケマック・デォルダとイーダス・ソラ兄妹は、私が知る限り、ドゥランで最強とされていた二つの軍隊の支配者だったの。ガーディアン達が生まれるはるか前に、ドラゴンが天空を支配し、全ての人が魔術を習得する可能性があったころ、イーダスは魔術を使う人々を虐殺し、鎮圧しようとした。ところが、ケマックは、自分の軍隊を集結してドラゴンの助けを借りて自分の妹を殺した。しかし、彼は魔術と宗教は関連しているものと考えていた。彼の戦いから出現したのが、あの二つの支配者家族よ。」

「なぜドゥランにはドラゴンや魔術戦争があるのに、地球では…アーサー王が?僕は、なんか騙されたような気がする。」

彼女は笑った。

「何れにしても、私はエドワードと小娘の事を話していて…、エドワードは、彼女を手放す準備ができていたけど、彼女は彼に途轍もない片思いをしていたの。」

彼女は悪そうにニヤリとした。

「それで、私は彼を手伝って、彼女を追いだしたの。彼は、彼女がとても濃い恋心を抱いていたなんて気づいていなかったわ。それに、彼は直ぐかっとなる気性で、ある女の子のためにマグスを相手に喧嘩したわ。彼は、彼女が誰だったのか教えてくれなかったけど、彼が女の子を連れているのは見たことが無いわ。」

僕は笑うつもりじゃなかったし、ましてや高笑いするつもりもなかった。彼らは、70年間も友人なのに、彼女は、エドワードが彼女のために戦っていたと、分かっていなかった。

「すみません。続けてください。」

彼女は、僕に別のグラスに注いでくれた。

「ありがとうございます。」

「彼と話すのはとても面白かった。彼が見たものなどについてではなく、彼がそれらをどのように捉えているかなど、彼は、ときどき少し間抜けに見えたけど、しばらくすると、それは過ぎ去った。キロはとても賢くて、紳士的で、非常に賢明だったわ。その一方、ロネスは面白くて、やんちゃで、頑固だったわ。彼は本当に女好きだった。私たちが初めて会ったとき、真っ先に口をついた言葉は、‘君の彼女?’と、キロに聞いたの。キロが違うと言うと、ずっと私を口説いてきたわ。彼はクリスマスのプレゼントに…」

といいながら、彼女はまた笑った。

「ま、なんでもないわ。」

僕は、なんだったのか言って欲しかった。でも、その一方、彼女の甘い声を聞いて楽しんでいたので、ただ話し続けて欲しかった。

「ロネスはドゥランが好きでしたか?」

「彼はここで育ったので、よそで長い間過ごして戻ると重力が気になったみたいよ。彼は、地球の女の子たちの方が楽しいと言っていたわ。文化も好きだったみたいだけど、人々の行動があまり好きではなかったみたい。戦争はどれも宗教とお金に絡んでいるし、不寛容といじめとかもある。それに、彼らは少し幼稚だけど、魅力的だと思っていたみたいよ。」

「エドワードとロネスに比べると、彼らは子供ですよ。」

「私に比べると、あなたも、子供よ。」

「申し訳ありませんが、あなたは70歳以上あるようには見えません。」

彼女は笑った。

「優しいわね。ありがとう。キロのネガティヴで古臭い考え方に触れる前に、このようにお話ができるのは素晴らしいことだわ。あなたが私に慣れたら、きっと良い友達になれると思うわ。」

「そうですね。‘彼女はなんて美しいのだ’と、思って2分経ちました。」

と、言って、ウインクしながら僕の飲み物を遠くへやった。

「ちょっと飲みすぎたようです。」

ディヴィーナは笑って、再びグラスを満たした。僕は筋肉痛が無くなったと気づいた。ドアノックでハッとして、僕たちがレストランにいたことを思い出した。この飲み物は、ディヴィーナのような魅力的な女性と、このような狭い場所で飲むものじゃない。

ディヴィーナは、再びカーテンを開け、ウェイターが大きな料理皿二つ、葉野菜の付け合せが盛り付けられている普通のサイズのお皿二つ、大きくて白いとりわけ用のスプーン二本、白いクロス二枚と、木製の箸二膳を持ってきた。僕が使えるお箸があったので、嬉しかった。男は何か言って出て行った。ディヴィーナはカーテンを閉め、小さい方のお皿を一枚僕の方へ押した。

一つのお皿には、本当においしそうな調味料たっぷりの血のように赤いソースの中にお肉が入っており、もう一つの皿には、魚の切り身が葉野菜で装飾され、木製の小皿が乗っていた。各皿に三つ仕切りのソース入れがあり、赤・黒・白のドレッシングが入っていた。彼女は、片方の皿の一つを手渡し、僕の皿と自分の皿にお箸で魚の切り身を数切れ取ってくれた。僕はスプーンで赤いものを僕の皿によそった。

「魚が、フガンですか

と、聞いた。

「そう。まずそのまま食べてみて、その後からソースを付けてみて、どちらがいいか味見をしてみるといいわ。

僕は箸で魚を食べてみたが、普通の魚と大した違いはなく、少しバターっぽくて甘く、識別できない何かの味がした。次は黒いソースにつけてみた。辛めで醤油が効いた照り焼きのような味だった。赤いソースは甘酸っぱく、素晴らしい後味がした。白いソースは、ジャスミンと緑茶のような味だった。僕は赤いソースが気に入った。

ヨクスは、似たような赤い色のソースがついていたが、こちらはもっと濃い味だった。本当にいいお肉で、柔らかくて、葉野菜と混ぜるとよく合った。

「あなたは神々の事を少し知っていますよね?」

と、聞いた。

ディヴィーナは少し驚いた様子だった。

「多分、少しだけね。どうして?」

「もし、全ての世界に、各世界で生じた人間のような生物がいるのならば、進化論にはどのような影響があるのですか?」

「何も。それを維持するには、突然変異を要するわ。その様に考えるといいわ。人間と猿は共通の祖先がいる。突然変異した遺伝子が猿となり、また別のより良い突然変異をした遺伝子が人間を作り出した。その様な微妙な変異が繰り返し、完璧な人間を作り出したなんて、驚くべきことでしょう?」

「完璧?」

「サメ。あれらをより完璧にできる?あなたが嫌いであっても、ゴキブリは、もう一つの例だわ。その他にも、完成しつつあるにもかかわらず、何にも役に立たないだろうと思われるものもいるわ。」

「では、神が進化を進めているのですか?もし、うまくいかなかった場合、どうなるのか、神の気が変わるのですか?」

と、聞いた。

彼女は肩を上げた。

「それらは死滅するわ。あなたは、恐竜たちに何が起こったと思うの?」

「では、タィアマトは、あれらが上手くいかなかったからと言って、全部処分したのですか?」

「多分、彼女が期待したように上手くいかなかったのだと思うわ。それか、恐竜にとって現実的な未来が見えなかったとか?」

「それは、残酷です。」

「そう?もし彼らを処分していなければ、人間は存在しなかったと思うわ。」

と、彼女は言った。

僕はそれについて数分考えた。それは特に、人間が多くの生き物を絶滅させてきているので、厳しい真実だった。

「気分はどう?」

と、ディヴィーナが聞いた。

「良いです。全ての痛みが無くなりました。」

「重力や書物、あなたのエネルギーの流れは?」

僕は自分の中にエネルギーを感じることが出来たが、それは驚くほど低かった。僕は簡単にエネルギーを吸収し、本当に気分が良かった。エネルギーは、心地よく温かかった。

「僕は、重力についてすべて忘れて、今は書物のことも心配していないし、エネルギーも違うように感じます。」

「エネルギーは、君のハッピーなムードやリラックスした状態を反映しているの。それに、ここを出たら用事を済ませなきゃいけないわ。」

リラックスして気が散っている今の僕には、完全に無害なことのように聞こえた。

「OK。あなたはどんな子供だったのですか?幼少期はどうでしたか?」

と、聞いた。でも、歓迎されない質問だとすぐに分かった。

「私の幼少期は、関係ないじゃない?かなり昔の事だし、現在とは全く関係ないわ。」

と、彼女は言った。

「でも、あなたの幼少期が今のあなたを形成したのです。分かりました。あまり良くなかったのですね。」

「いいえ。本当に。私たちは生き残ったけど、時には、そうでなければ良かったと思うこともあるわ。私は、最年少だった。」

「状況がつかめないのですが、生き残ったとは?そして、最年少とは?」

「私には多くの兄弟がいたの。仲がいいとは言えなかったわ。あの当時。私は何に立ちしても無関心で、何も持っていなかった。いつも、他の兄弟に馬鹿にされていたわ。一番上のお兄ちゃん以外はね。彼だけは私に優しかったわ。彼は、いろんな意味で、私たちの中で一番強くて、私たちとは違っていたわ。」

彼女の悲しげな声は、エドワードのロネスに対する悲しさとはまた違っていたし、僕が理解できるよりもはるかに強かった。僕の背に寒さが走った。自分自身の悲しさを理解できないかのように、彼女の気分で変わるブラウスの色も変わらなかった。

「私は、そのことについて話したくないわ。幸せな幼少期ではなかったし、兄弟たちの陰を避けて自分の新しい人生を作ったの。」

僕たちは何も話さないまま、30分後に食事を終えた。幸運なことに、彼女の機嫌はその間に良くなっていた。ディヴィーナはカードを差し込み、数秒後ウェイターがドアをノックした。彼女はカーテンを開け、何かを言って黒いコインをいくつか渡した。よく見ることは出来なかったが、彼はコインをいくつか返した。

そのあと僕たちは、店を出た。

「あの黒いコイン一枚で、あれだけの食事を払えたのですか?小銭ではなかったのですよね?

彼女は肩を上げた。

「私にとっては、そうよ。」

僕たちはその通りを下っていき、行くにつれてお店が少なくなってきた。空っぽの屋台や以前屋台があったと思われるスペースがあった。ときどきすれ違う人々は、何かを恐れているか、迷っているか、何かを恐ろしいことを企んでいるように見えた。

「ドゥランには、マフィアなどあるのですか?」

と、聞いた。

ディヴィーナは僕の背中をトントンとたたいて、

「もちろんあるわよ。でも、心配しないで、ここからそんなに遠くないわ。」

と、嬉しそうに言った。

そう、僕は、それが心配だったんだ。

「それに、私たちは…」

僕はさえぎって、

「僕たちだけの秘密に?」

「よく私の考えていることが分かったわね。」

と、彼女は言って笑った。

彼女にはラッキーなことに、僕はまだあの夕食時の飲み物の影響下にいたので協力的な気分だった。でも、もしかしたら、彼女は最初からそれを意図していたのかも知れない。

僕は大きな声で吠えられて驚いても、女の子のように悲鳴を上げるくらいリラックスしていなかった。約10フィート先に大きな動物がいた。真っ白な短い毛でグレートデーンのような細く長いフォルムだったが、馬のような大きさだった。

「聖なる地獄よ!アレは何だ?」

「しーっ!驚かしてはダメよ。」

と、ディヴィーナが言った。

「僕が驚かす?」

その動物は、自分の待ち伏せポイントである老朽化した二つの建物の間から急襲して、僕たちから1フィートの所で止まった。僕は、地球にいたころから犬とはトラブル続きだったので、この犬のような獣も同じだと思った。

でも、やつは唸っていなかった。細い鼻と犬のように尖った牙を持っていたが、獰猛ではなさそうだった。耳はやや後ろに傾いていたが、ドリアンが興奮した時のように頭にくっつくような感じではなかった。それは、僕の方に身を乗り出したが、僕は用心して手を差し出してみた。彼は僕の手を嗅いだ後、手を横に押してよけて、頭を僕の胸にぶつけた。甘えてきているようだったが、大きすぎて痛かった。僕は、共通の友好を示す行動だろうと期待しつつ、それに食われないように、耳を撫でてあげた。

「これは何ですか?」

と、聞いた。僕は彼に鞍がついているのを見て少し安心した。誰かが彼に鞍を付けることが出来たのなら、そんなに悪いものではないだろうと思った。

その一方、人によっては雄牛に乗る人もいるので…

「これは、トクアミよ。これらは、家畜の哺乳動物で、殆どがモキイで飼われている。お金持ちがあまり歩きたくないときや荷物を運ぶため、旅行用や作業用に飼っているの。でも、完全に家畜化されている訳ではないの。これらは、本当にパワーのある者にしか従わないのよ。」

その動物は、僕から離れ、ディヴィーナの匂いを嗅ぎ始めた。僕はそれのしっぽに触るところだった。ディヴィーナは笑って、ポケットに手を入れ、乾燥肉スティックを取り出し、トクアミに食べさせた。

「あなたは、いつもポケットに犬のえさを持ち歩くのですか?」

と、聞いた。

「普通は、バッグの中にお肉を持ち歩いているわ。もし捕食動物に襲われたら、十回中九回は、食べ物で思い止まらせることが出来るわ。」

「残りの一回は?」

彼女は今まで見たことの無いような真剣な顔で、

「私が殺す。」

と、言った。

僕たちはトクアミを残して去った。暫くすると、窓が閉ざされて木が朽ちている古くて大きな日本家屋のような家に着いた。静かに真っ直ぐ通り過ぎようと頼み込んでも、ディヴィーナはそこの前で立ち止まり、僕の方へ振り返った。

「あなたは、僕に外で待っていてほしいのですね?」

と、聞いた。

「そう。でも、何が起こっても、絶対に逃げないでほしい。そして私は、何も間違ったことはしていないから、そんなに落胆した目で見ないでいいわ。」

馬鹿げていたが、彼女を信じていいだろうと思った。彼女は、入って行き、後ろのドアを静かに閉めた。僕は、ちょうど雨雲が太陽を隠して辺りを暗くした時に振り返って通りを見下ろした。

「すばらしい。」

通りにいたわずかな人たちは去り、風が吹いた。つい30分前、確かに空は晴れていたが、以前見たことのあるホラー映画のスタートがこのような状況だったことは気にしないようにした。

僕は、こっそり何かが近づくのを防ぐために背を壁につけた。数分後、大雨が降ってきたが、雨よけのようなものは何もなく、あっという間に凍りつくような冷たい水でびしょ濡れだった。でも、何らかの理由で、僕の服(エドワードの服)は防水のようで、多少は快適だった。

突然遠くでハイエナの笑い声のような音がした。それは、あまり気にならなかった。気になったのは、全て静まりかえる前に聞こえた短くて甲高い声だ。僕は血が凍りつくような静けさの方が、その後に聞こえたこの世のものとは思えない遠吠えよりもましだと思った。さらに遠吠えが増えた。この遠吠えは絶対にオオカミのものではなく、はるかに恐ろしい声で、それは近づいてきていた。

きっとディヴィーナは、僕が襲われる可能性など計算していなかっただろうし、外で何が待っていようと期待していなかっただろう。僕は、中にいる者の方が外にいる者よりもはるかに危険だということをわかっていても、扉を開けて中へ転げ込んだ。その部屋は古く朽ちていて、照明もその朽ちているところが見えるに十分なほどしかなかった。風が吹き、扉が突然閉まり、部屋の中は真っ暗になった。

僕は、屋根に振り落ちる雨音や家をきしませる風の音以外の音が聞こえないか、数分の間、耳を澄ませていた。別の部屋で話し声が聞こえたので、音のする方の壁まで進み、ドアノブを見つけた。ほんの少し開けると、ディヴィーナが大きな革製の椅子に座っているのが見え、その反対側にさらに大きい椅子に男性が座っているのが見えた。彼らは、妙な赤い炎がともっている明るい暖炉の前で話していた。ディヴィーナは陰になって良く見えなかったが、男性の方は見ることが出来た。彼は気味悪い人で、その黒髪や黒い眼と悪意に満ちた顔は、この家によく似あっていた。

僕には関係ないのだが、僕は生まれつきのおせっかいなので、数分聞き耳を立てていた。彼らはスド語とは違った別の言語で話していたが、気づかれたくなかったので、ドアを閉めて正面玄関の方へ向かった。外で食われてしまいに行く前に、常識的に、朽ちている建物の中を探検しようとは思わなかった。しかし、ディヴィーナがここに何の用事かあるのか、少し気になった。

何の前触れもなく、僕の足の下の床が抜けて、僕は暗闇の中に落ちた。

僕は、何フィートも上にある穴がどんどんかすんでいった。数分の間、僕が聞こえて感じるのは、自分の高鳴っている心臓の音だけだったが、その後、頭がガンガンしてきて、頭皮から温かい液体が流れ出るのを感じた。僕の足が急に熱くなったが、どっちの足なのか分からなかった。僕も視界がかすみ、僕が気を失って消えた。

 

*         *         *

 

僕の目が覚めると、長い間気を失っていたのだと、分かった。僕の頭が傷ついていると分かっていたが、僕は、全身なんともなかった。僕の額には濡れた冷たい布があった。

「気分はどう?」

世界で最も美しく輝かしい声が静けさを破った。

「完璧です。」

と、僕は満足げに言った。僕はこの平和な幸福感を打ち砕かれたくなかった。ディヴィーナは僕の横にいて、僕の髪を彼女の指でとかしていて、彼女の顔はあまりにも近く、彼女の温もりを感じることが出来た。

部屋は暗く、僕は羽とサテンのシーツで作られたベッドにいるようだった。僕は座ろうとしたが、ディヴィーナは僕の胸を優しく押さえて止めた。

「もう少し休みなさい。あなたは頭に大怪我をしたのよ。」

ああ、なんて美しい声なんだ。

「僕は、何か薬を?」

と、聞いた。

「いいえ、あなたは治癒の魔術をかけられているの。もう完治していると思うけど、なにも急ぐ必要はないわ。ただ、リラックスして。」

と、彼女は優しく言った。僕の体は、言うことを聞いた。

僕の人生で、一度も痛み止めの薬にハマったことはないけど、それに夢中になりそうな気がしたのは確かだ。

「ここは何処ですか?」

と、聞いた。

「西ミジイのホテルにいるわ。あなたは、6時間ほど気を失っていたわ。あと約5時間後、夜が明ける前に発ちます。あなたがお風呂に入ってホテルを満喫するには十分時間があるわ。あまり考えないで、ただ、出来るだけ全てを満喫するのよ。」

「あなたが話していた男は誰ですか?」

と、聞いた。

彼女はため息をついて

「今は、関係ないわ。」

と、言った。

「どうでもいいから、言ってください。」

僕に焦点を合わせようとしたが、目がちっとも協力してくれなかった。

「彼の名はナノよ。彼と話し合うことがいくつかあったの。彼には、いつ何処で誰かと会えるかという情報をあげなければいけなかったの。でも、その情報は彼の仕事関係なので、あなたに言うべきことではないわ。」

「あなた方には、電話が必要ですね。」

と、僕は言って、再び目を閉じた。

「それは、あなたの仕事と関係しているのですか?」

「私の仕事よ。私は人と会って情報を伝えたり、アポイントを取ったり、誰を信用すべきかすべきではないかなどのアドバイスをするの。私は色んなことを聞くの。ときにはポーションを作るのも仕事の内よ。たまには、彼らのコンパニオンとして邪悪な計画をうっかり口に出すのを待ったりするわ。」

「では、あなたはスパイですね。雇われスパイかな。面白そうだ。」

それが、僕が眠りにつく寸前の最後の考えだった。

 

*         *         *

 

あまり時間が経たないうちに、僕はもう一度目覚めた。ディヴィーナは、僕の隣でこっちを向いてうつぶせになって、リラックスして眠っていたが、いつも通りゴージャスだった。僕は、一日中そこで、ただ彼女を見て過ごせると思ったが、それは不気味だっただろう。

部屋は暗く暑くて、聞こえるのは小さな滝の音だけだった。僕は、ゆっくり座った。そこには、床まで下げたベッドに黒いサテンのシーツが敷かれ、4つの豪華な枕と、厚くて柔らかくて血のように赤い毛布があった。右側から数フィートの所に、四脚でマホガニーの枠がしてある小さいガラスのテーブルが置いてあった。

テーブルの上には、浅いポットの中にきちんと置かれた小さくて黒い石の土台の上に乗せられた2フィートくらい高さがある犬のような動物の彫像が置いてあった。その動物の目はガラスでできていた。でも、これの興味深いところは、その動物の口が開いており、水がそこから石まで流れていたことだった。僕はそれに触れてみたかったのだが、宗教や哲学的アイテムだったかもしれないので、そうするのはとても失礼だと思った。

その彫像の横に、5インチぐらいの幅がある半透明の大きな蝶が止まっており、各翅は8セクタあった。各セクタの色は違っており、翅に沿って輝く細い線が入っていた。蝶は遠くへ飛ぶ前に輝く翅を数回羽ばたかせた。その部屋にはもう5羽いて、部屋の明かりは殆どそれらからの光だった。

それ以外の明かりは、1フィートくらいの球体3つからの光だった。ベッドの両側、枕元に二個、そして一個は部屋の一番遠い角に位置していた。ベッドの僕がいる側の明かりは、鈍化した溶岩のような赤と黒の明かりで、まるで動いているようだった。ディヴィーナがいる側の明かりは、薄緑の中に赤い太くて長いテープが中に入っており、その中で蛇のようにゆっくり動いていた。部屋の向こう側の球体は明るく、黄色い炎の球のようで、真ん中が赤かった。

僕は毛布を自分にかけて、足を床に下した。とても柔らかくて柔軟性のある木の床で、壁の岩とは対照的に見えた。自分の力を試してみて、僕の足はしっかりしていたので、ディヴィーナを起こさないようにベッドから出た。

気を失わないか確認するようにちょっとの間立ち止まり、日本風の紙で出来た戸の方へ向かった。僕はスライドさせて戸を開けると、三つの扉がある廊下があった。一番近い扉が開いており、風呂場より少し大きな部屋があったが、僕は屋内トイレを見て感動した。実際に、ただのアメリカのトイレの一つのように見えた。隣の扉に行ってみると、洗面台とお風呂があった。洗面台は黒い大理石でできており、銀の蛇口があった。ノブのようなものが見当たらなかったので、その下に手を差し出してみた。温かいお湯が出始め、手を引くと、それは止まった。洗面台の上には2フィート位の丸い鏡があった。

僕の頭には白い包帯が巻いてあった。僕は、パックリ開いた傷があるか、痛むかなど考えながら、ゆっくり外した。でも、痛くなかった。僕の額は何ともなかったので、後頭部を怪我したのだと気づいて触ってみると、乾燥した血と長い傷跡があった。ディヴィーナがどのような治癒の力があるのか知らないが、地球上で過ごした子供の頃には、きっと凄く役に立っただろうと思った。

その横にある風呂は、床に低く組み込まれていたが、深くて、両脇に吹き出し口のある浴槽だった。浴槽の内部にはシートがあって腰かけられるようになっていた。浴槽の一番遠い縁に銀色のボタンのセットがあって、その横に何か書いてあり、丸棒上の緑色の石鹸を置くくぼみがあった。

ここを出るように言われても、きっと無駄だっただろう。僕は来ていた僅かな服やボクサーパンツを脱いで入った。自動的に温かいお湯が蛇口から出てきたので、僕は腰かけて溜まってくる水に足を浸けた。僕は腰かけシートや背もたれ部分が固いかと思っていたら、クッション状の物だった。お湯が臍のあたりまで溜まると、ボタンを全部押してみた。蛇口からでるお湯が香りのよいものになり、異なるボタンから異なる香りがでて混じりあい、とてもいい匂いになったが、どれも、女性らしかったので、ボタンをもう一度押すと、それらは止まった。石鹸を手に取ると、驚きはしなかったが、ミントと緑茶の香りが少しした。

僕は注意しながら髪を洗った。お湯が僕の胸元に達すると、お湯は自動的に止まった。体を洗った後、僕は腕をお風呂の縁に置いて、指がしわにならないように気を付けて、頭を後ろにふんぞり返った。

次に見たのは、ディヴィーナが僕を揺すって起こしているところで、僕は数時間眠っていたように感じた。

ディヴィーナは、既に着替えており、彼女は、肩の部分に網目メッシュと腹の部分に金色の書き込みがある体にぴったりした黒の長袖シャツを着ていた。彼女のズボンはタイトで、黒くて光沢があった。

僕は彼女を見て、自分が裸で風呂に浸かっていることに気づくまで、しばらく混乱していた。

僕が慌てて何かで隠そうとするのを見て、

「リラックして、男が持っているものは全て見たことがあるわ。」

と、彼女は、言った。

「急いで服を着て、出来るだけ早く行かなければならないの。」

彼女のズボンがどれだけ彼女の体のカーブをきれいに見せているか考えている間に、彼女は出て行った。僕が浴槽から出ると、浴槽内のお湯は自動的に排水され始めた。

洗面台に置いていた僕の服は、そこに置いたときよりは清潔な匂いがして着る時に柔らかく感じたが、靴だけは心地悪く、大きいままだった。

僕が廊下に出たと同時に、ディヴィーナは僕を正面の重たい扉の外へ連れて出た。

「朝食は?」

と、僕は懇願した。

彼女は扉を閉め、僕を前へ押し続けた。

「途中でね。私達は、遅刻しているの。とてもね。」

雇われスパイが、寝過ごした?

僕たちは、床から天井まで色やデザインが驚くほど豊富なパターンで飾られた長くて狭い廊下を通っていた。ディヴィーナはガイドしなかったが、僕は左へ向かい、彼女はついてきた。多くの扉や、空の部屋の前を通った。そのうちの一部屋は、訓練室のようで、きれいな床と壁には武器が飾ってあった。全部屋が左側にあった。右側にあった扉の前に来ると、ディヴィーナはそれを引いて開け、僕を外へ出した。

外はまだ暗く、早朝の冷え込みが強かった。僕たちの前には美しい庭があったが、二つの月の光で不気味に見えた。そして、そこは石垣に囲まれていた。そこには長い小川ときれいに整えられた芝生や樹木、面白い花と小石がひいてある小道があった。僕たちが小川の方向へ向かって歩きはじめると、一度ホテルの方を振り返ってみた。日本の小さなお城のようだった。

木の橋の真ん中あたりで、魚が見ることができると思い、下の流れを見下ろした。

「ごめんなさいね。本当に時間が無いの。」

ディヴィーナがそう言って、僕の腕にやさしく触れた。

「ちょっと見たいだけです。きっと、シモジイには変わった種類の魚がいるはずです。」

「シモジイ、ミジイとトゥモルジイには、あまり魚がいないのよ。殆どが両生類か巨大な海洋動物よ。」

彼女はリュックに手を入れて小さい黒いビニール袋を取り出し、僕にくれた。中にはベーコンのようなものが入っていた。彼女は水中に投げ込むよう合図したので、僕は自分の手に取り、いくつか手すりの上に投げた。

巨大な鋭い牙を持つサンショウウオみたいな生物が暗闇から飛び出て来て、いくつかの干し肉のために戦った。僕は残りを投げ入れ、やつらは、食欲旺盛なピラニアのようにそれを食べた。

「やつらは、素晴らしい。では、このホテルは肉食サンショウウオがいる堀で守られているのですか?」

と、聞いた。

「ここの両生類は、全て肉食なのよ…。ちょうど、あなたが知っておくべき事だわね。」

と言って、僕の腕をとり、引っ張った。

僕たちは木でできた門をでた。塀の向こう側には、木や石でできた小さな建物がいくつかあった。土道がそれらをブロックに分けていたが、道路は狭かった。ディヴィーナがリードし、僕は静かに続いてその地域を通った。人や動物の気配が無く、早朝の2時か3時頃のようだった。僕たちは、白くて大きな建物に着くまで30分ほど歩いた。

「僕が気を失っている間、あなたはどうやって僕をここまで連れてきたのですか?」

と、ディヴィーナに聞いた。

「助けがあったの。」

彼女はあいまいな感じで答えた。

そう、それで説明がつく。

僕が扉を開けたとき、僕はつまずいて止まると、まさかドゥランで地下鉄の駅を見るとは思っていなかったので、ぽかんとした。

「どうしたの?」

と、ディヴィーナは、扉の外へ押しながら聞いた。

「なんでもありません。」

と、僕は言った。

グループで待っている人やサービスカウンターに並んでいる人がいたが、ディヴィーナは私たちが向かっている場所を正確に知っているようで、彼女は僕たちを階段へ導いた。下の階は、小さな路線の地下鉄のようで、電車もとても小さかった。ディヴィーナは、複雑なウェブを作るような単語や記号交わったカラフルなラインがある黒い大きな表示板を見ていた。僕たちは、線路をたどった。各セクションは二つの列に分かれており、地図の小さい部分を表示するような記号でマークされていた。

ディヴィーナは、その内の一つ、既に24人立って、疲れて待っている場所で止まった。右側の柱に男性が寄り掛かって座り、腕の中に女性が寝ていた。疲れた感じの母親が片腕に眠った赤ちゃんを抱き、もう一方でやかましい双子の女の子を捕まえていた。殆どの人がトートバッグのような旅行バッグや、トランクに似たような物を持っていた。

大きな笛が鳴り、皆、線路から一歩下がった。赤ちゃんが泣きだし、母親は赤ちゃんをあやす為に女の子たちを放した。居眠りしていた女性は目覚め、彼女と男性は眠そうに注意していた。僕は慎重に線路の近くへ移動し、両側を見下ろした。

道路には、普通の電車のようにレールが無かったが、扁平梁があった。僕は、磁気浮上(マグレブ)用のレールだと認識した。

「ゲノシ ナイ。」

と、ディヴィーナが言った。

彼女がいま言った言葉が分からなかったが、ある考えが浮かんで、彼女の横に戻った。

「今は何も心配することはないので、リラックスして。これは、ジグと言われる物よ。早いローラーコースターの様なものだと思って。」

ディヴィーナは、保証するように言ったが、それは僕を更に心配させた。僕はローラーコースターが好きだが、彼女が僕を励ます必要があると感じたことが心配になった。

やっとそれが視界に入った。とても細くて翼の無い飛行機にいていた。ジグは長く、白色の個体で、小さかった。スナップ音と共に上半分が開くにつれて圧力放出の音が聞こえ、飛行機のような席が30席ほど一列に並んでいる内部が見えた。最後尾には、荷物を置くための大きく開いたスペースがあった。ジグに降りなければいけないほど、レールが低かった。人々が乗り込み始め、皆が落ち着いた頃にディヴィーナが席を選び、僕はその後ろに座った。僕はいろいろ聞きたくて舌がうずうずしていたが、頑張って黙っていた。

僕の席は快適だったが、シートベルトが無いことが気になった。数分後、笛が鳴り、上半分がゆっくり閉じて、僕たちは暗闇に浸した。僕は窓の小さなカーテンに手を伸ばし、覗くために少しだけ開けた。それが動き始め、あっという間に加速した。トンネルに入り、また真っ暗になった。

旅行中には、ほとんど会話が無く、大半の音が遮断されていた。僕たちはとても早く移動していたが、乗り心地は良かったと言える。多分2時間ぐらいかかったのだろうが、僕は始終空想していた。旅行中見る物は沢山あったが、その多くが似たようなものだった。やっと減速し、止まってから上部が開くと、最後に見た駅と全く同じだった。

誰もが急いで降りたが、ディヴィーナは時間を要した。彼女が階段へ向かって移動するまで、僕は数分、足を伸ばしたりしていたので、僕は急いで彼女の後を追った。ここはもう一つの駅よりも、人が少なかった。

僕たちは数分後外に出て、ショゴのストリートマーケットだと分かった。陽はまだ昇っていなかったが、その日のお店を準備する人たちの活動があった。前の駅のように、ここも外から見ると、大きな白い建物だった。

「大丈夫?」

と、ディヴィーナが尋ねた。

「ええ。あれは、どれくらいのスピードで移動するのですか?」

「地球だったら、時速450キロくらいよ。」

それは、一時間に約280マイルということで、マグレブにしても良かった。

「あなたは何処に衣類をしまっているのですか?」

と、聞いた。

彼女は眉をひそめ、説明を求めているようだった。

「あなたはいつも着替えているけど、その小さなバッグしか持っていませんよね。」

「私はバッグの中に多くの物を収めることが出来るわ。」

いったいどの様にして、あの小さなバッグに詰め込むんだろう?中が広くなっているのか?いや、彼女が美しくて、パワフルでクールな上に異次元工学的バッグを作ったとは、想像できない。SFの話では彼女のような女性が存在すると示唆しているが、現実にはがっかりするものだった。

僕たちは、男がケバブを調理している小さな露店で休憩するまで一時間ほど歩いた。ディヴィーナは6本注文して、僕に3本渡した。各串に小さい練り物が4個刺さっていた。それが出てきたとき、フレーク状の甘い物に見えた代わりに、パンはとても柔らかく豊かなバター風味がした。中にはあたたくて柔らかいステーキが入っていた。

浅い川に着いたとき、空が白んできて月が沈んで行った。墓地の美しい花たちは月明りで不気味だった。僕たちは霧の川に着き、霧はほんの僅かな月明りで光っていた。ディヴィーナは速度を落とさず、僕の手をつかみ冷たい霧の中へ連れて行き、僕は背後で何かが動くのを感じ、ケバブの串を落とした。僕は何も考えずに、それを拾おうとディヴィーナの手を離した。

彼女はスド語で何か叫んだが、何か大きな動物の恐ろしい金切り声が聞こえなくなった。ばかでかいエイが急襲してきて、僕はかろうじて地面に身を投げ出して転がることが出来た。鋭く尖った物が、数秒前に僕の頭があった近くの木に深く刺さった。僕はてっきり尻尾が刺さって動きが取れなくなっていると思ったら、数回引っ張るとそれは外れ、そいつは再び襲ってきた。

すると、突然空中に炎が上がった。そいつは悲鳴を上げ、数回に渡って僕を尻尾で刺そうと、危険な試みをした後、後退した。ディヴィーナは僕の腕をつかみ、起き上がるのを手伝い、僕たちは霧の外へ走った。

「私たちは、結局、君の運の悪さでトラブルに巻き込まれたようね。」

僕は、それについて何も言うことはなかった。

そこの住宅は前のように人気が無く、僕たちも長居する気はなかった。ほんの数分後、僕は誰かにつけられているような気がした。僕はためらいつつも、振り返り始めたが、ディヴィーナは僕の手をつかみ、近くに引き寄せた。

僕たちが壁に着くと、ディヴィーナはちょっと休憩し、僕は子供のグループに目をやった。彼らは全員黒い服を着ており、暗い表情をしていた。ディヴィーナが実際に何をしたか見なかったが、僕の周辺視野で彼女は壁を押したように見えた。前のようにそれは戸口のように開いた。僕たちは砂漠を通り抜け、背後で扉が閉まるのを見て初めて救済されたように感じた。

「あの子供たちは何が欲しかったのですか?」

僕は、‘地獄のように恐ろしげな’と、‘身の毛が立った’という言葉を言わなかったので、3ポイント加算。

「私たちと遊びたかったのよ。」

と、彼女は答えた。

僕は鳥肌が立った。

今、空は明るくなっていた。暫く砂漠を歩くと、僕は壁が消えたか見るために振り返った。その後、森が見えて、数分後、海とエドワードの前にいた。

エドワードは根気よく僕たちが彼の所に着くまで待っていた。彼の厳しい視線から、僕の怪我の事を知っていると思ったので、僕は言い訳を考え始めた。

「君はどこを怪我したのだ?」

意外なことに、彼は心配しているようではなく、ただイライラしていたようだ。きっとディヴィーナが助けてくれたと知っているのだろう。

「彼の足首と腕よ。でも、大丈夫。」

と、ディヴィーナが言った。

僕は本当に彼女のパワーを子供のころに使っていたかった。

エドワードは、頭を振った。

「実際に、私には急用ができたので、彼を連れて行くには素晴らしいタイミングだった。数名の若いウィザード達が、世界を破壊する可能性のある古代の怪物を解放しようとしていたのだ。」

「どの怪物を?」

と、ディヴィーナが聞いた。

「アバッドン。」

「どのようにして?」

ディヴィーナは、突然、興味持って尋ねた。