第九章

僕はこそこそと自分のことをしていていたが、大勢のイラついた声が聞こえる部屋の前で立ち止まった。突然ドアが開いて人が飛び出してくるかも知れなかった。その人が僕に話しかけない限り、大丈夫だろう…。僕は静かに違う方向へ向かった。コーナーを曲がろうとしていたら、誰かにぶつかってしまった。彼は僕よりも重かった(そして岩のようにどっしりしていた)ので、僕の方の被害が大きかった。しかし、見上げると、二人とも地面に倒れていたことがわかった。

彼は、

「イテ、イテ、モシ イテ」と言った。

彼は既に立ち上がっていたが、息を切らしていた。僕のほうがどんくさかったが、立ち上がると、彼のことを認識した。

「すみません。」

と、僕はうっかりと言葉を発してしまった。そして、フリーズした。彼は、夕食時に話しかけられた黒髪で紫と青い目の人だった。それなのに、僕は英語を発してしまった。彼は眉を上げ、僕は全てがぶち壊れるのをまった。

僕たちはお互いにびっくりして見つめあった。

すると、彼は手をゆっくり差し出し、

「ロゲ。モカテ イシテ・ㇾ モルドン。」

と、言った。

僕はときに賢い人間ではないが、そんなに鈍いわけでもない。僕は彼の手をしっかり握り、彼のきつい握り方にうめき声を出さぬよう気を付けた。

「ログビ。 モカテ ヤヌトゥス・タイ ディーラン。」

と、発音を真似ようとせずにゆっくり言った。

「ケドセ メ セケマス?」

と、彼は聞いたが、僕は何も言わなかった。すると、彼は再びしかめた。

「モド テ レキリス?」

彼は疑い始めていたので、僕は致命的な決断をした。もし、彼が皆のところに行って言いふらしたとしても、僕の運が良ければ、誰も彼のことを信じないだろう。僕がラッキーなのは、みんなが知っていることだ。

僕はため息をついた。そして、自分自身を指して、

「僕は…」「話…」と、いいながら古典的な話せないというジェスチャーをした。

「ラバ スド。」

彼は眉を上げたが、すぐに素敵な笑顔を見せた。

「セモ デ…」

と、言いながら僕を指さして

「ラバ…」

と、言いながら、自分の口に手をおいて、

「ダカ ゴラメ?」

だから、前にあった時に話さなかったのかと聞いているようだ。彼は、僕が唖者ではないことに気付いていたようだ。僕はうなずいた。

「はい。モワ。」

人々は恐れるとエドワードは言ったが、彼の場合は、はむしろ、楽しんでいるようだった。

「はい。」彼は僕を真似するような形で言った。

「ミカ ソラ ラバ?」

と、聞いた。

「ラバは、ノー。ラバ。ノー。」

「私…」 

と、いいながら自分を指した。

「話す…」

と、言いながら話すジェスチャーをした。

「英語。」

「私…話す…スド。」

と、私が使った表現で発音も真似して言った。

これで、僕たちは友達になった。夜が明ければ僕たちは二度と会うこともないだろう。彼は僕よりもずっと若かったし、僕たちはろくに話すこともできなかったが、外国人と仲良くしてくれる人と出会うのはとても嬉しかった。

「モルドン!」

男が僕の新しい友人を呼んでいたが、イラついているようだった。

モルドンは驚きと恐怖で目を見開き、僕の腕を掴んで廊下の方へ引っ張った。イラついたエイリアンと出くわすよりマシだと思い、彼に続いた。僕たちは次のコーナーを曲がるまで走り、しゃがんだ。彼は僕を見る前に、コーナーを覗き、低く笑った。

「テラ ア ケサト。」

彼は自分の後ろを指して言い、コップを持つようなしぐさをした。

「…クソ デ ヅマガ…」

彼はポケットから紺色の小さい瓶を取り出し、コップに注ぐ真似をした。

「それは、なに?」

と、聞いた。

「スイア クソ」

といいながら、古典的な眠たいというジェスチャーをした。そして、「待って」か、「しかし、」と言うように、一本指を立てた。

「シモ カゴサ イエド…」

と、言いながら、酔っぱらいのようにわざとよろめいて見せた。僕は、彼が何を言いたいのか理解できたと示すために、うなずいた。

「ヤブハ ミエゲーテ。」

訳すると、彼は誰かを眠らせるために眠り薬を使ったが、うまく効かずに、被害者が激怒した。

「だれ?」と、聞いた。

彼は眉を上げた。

「誰だった?」

と、言って廊下を指さした。

彼は少し考えて、自分を指さして

「イシテ・ㇾ。」

そして、廊下を指して、

「イシテ。」と、言った。

「ああ、君のお父さん。夕食のときに隣にいた男性ですか?」

と、言いながら彼を指して、自分のすぐ横のスペースを指し、スプーンで食べるようなしぐさをした。

彼はうなずき、次に僕の横のスペースを指した。

「ダッテ スモケ?」

僕は、エドワードのことを聞いているのだと推測した。僕は、横を指し、

「キロ ヤトゥヌス・マル。僕は彼のことをエドワードと呼びます。」

「エドワード。」

と、彼は繰り返した。

「あなたのお父さん?」

と、聞いた。

彼は、言語を素早く理解できるようだ。

「いいえ。ラバ。私の先生。私の師匠…」

僕は先生を示す方法が思い浮かばなかった。するとエドワードが温泉で教えてくれた ‘ウィザード’という言葉を思い出した。

「ヤベのプロフェッサー。彼は、僕にヤベを教えてくれる。」

と、言って、自分の隣を指さし、そして、僕は自分の頭を指さした。

彼は、

「ヤベのハソ?」

と、聞きながら、僕を指さした。

僕は頭を振った。

「ウィザード。ヤベ。」

「オト モ ヤベ」

と、彼は自分を指さして言った。

翻訳:彼もウィザードだ。

それで、僕たちはそのようにして色んな事柄を身振り手振りで話し続け、単語や言葉を止めることができなかった。話題を変えるのが困難だった。

モルドンは指を立て、何かを聞くようにして黙った。もちろん、彼の聴覚はとても優れていた。その5分後、彼の父親が再び彼の名前を呼んだ。彼は聞こえるには十分な距離にいるようだが、どこから聞こえているか判別するには十分でなかった。でも、モルデンには十分だったようで、彼は右側の廊下を走って行った。僕はついていったが、迷ったり他の人の方向へ行ったりしないか心配だった。

僕たちは廊下の突き当りの部屋に着き、モルドンは迷うことなく入った。僕は入ることに抵抗はなかったが、彼がドアを閉めたときに、何らかの理由があって入るべきだったと思った。僕たちは銃器類の部屋にいた。彼は数分のあいだ父親の気配を聞いた後に振り向き、辺りを見回し、一方の壁に向かっていき、木刀を二本手に取った。彼はそのうちの一つを僕に向かって投げ、僕はそれが地面に落ちる前にキャッチした。

僕は、すかさず

「ラバ、」

と、言った。

「そう。」

と、彼は答えた。

「ラバ。」

「はい。」

僕たちは話しながら立ち上がった。

「カデ?」

「よし。」

と、僕は答えた。彼は自分が持っている木刀を振り、僕もそうした。それらは、お互いにぶつかり合うのではなく、自分たちの腕にあたった。あまり力を入れてはいなかったが、お互いに木刀を放し、あたった腕をつかんで、唸った。

「ううっ…」

僕は彼がどのように唸ったか聞こえなかった。

僕たちがあきらめるには1分もかからなかった。モルドンは十分に訓練しているようだったが、木刀にはなれていないようだった。僕にしてみれば、彼は、まるで木刀を握ったことがなかったように見えたが、エドワードが使っていたテクニックを知っているようだった。

ということは、僕たちは他にやることを見つけなければいけなかった。彼がエドワードのするように拳を上げると、僕は驚いた。サゴは、原始的な取っ組み合いさえあれば、アルコールやスポーツがなくても楽しめるようだ。僕が拳を上げると、彼はエドワードのように腕を下げた。

「オテゴ ニダ」

と、彼は言った。

彼は注意深く近づいて手を差し出し、僕の肘を押し、次に、拳を僕の顔の近くまで上げた。

僕は同意し、彼は少しバックして再び拳を上げ、武道をやっているようなポーズをした。

「よし。」

と、彼は言った。

「カデ」

と、僕は言った。僕が最初のスイングをすると、彼は腕でそれを止め、返してきた。彼はエドワードほど早くなかったので、僕は防御することができた。僕のテクニックは何よりも防衛だったし、彼はどちらかというと教科書の型どおりで、動きは知っているが、使いたくないようだった。それに彼は、多分自分の体格ゆえに、剣よりも自分の拳を使うのがうまかった。

意味のないパンチをした後、僕たちは暫くそれを続けていたが、10分後には戦っていた。僕たちはどちらもそれには得意ではなかった。彼は僕より早く、強かったがエドワードの様ではなかったし、僕の方が少し大きかった。エドワードとディヴィーナと特訓するより楽しかった。あまり学習することは無かったが、せめて恥ずかしいとは思わなかった。

僕たちがそれを続けるには疲れすぎたと感じるまで、そう長くかからなかったが、息を整えようとしている間に僕たちは笑っていた。笑いが少なくなってくると、僕たちは立ち上がった。僕は少しの間部屋を見回した。

彼の拳が後ろから素早く襲ってきたが、僕に向かってきていると気づく前に僕はそれをかわし、振り返って腕を掴んだ。すると、次の瞬間彼は地面に倒れていた。僕は素早く彼を離した。

「悪かった。」

と、言った。

僕は自分が、今、何をしたのか分かっていなかったが、何一つ考えずに素早く動いてこのような反応が出来るとは思っていなかった。

彼は寛大に

「ゴジェナイ。」

と言って、僕が差し出した手を取った。彼は僕の異常なほどの機敏さに混乱しなかったようだ。仮に彼が攻撃したとしても、僕の反応は、長年過ごした寄宿学校で体に染みついたものだった。ただ、これほど素早かったか思い出せなかった。

僕はなるべく分かるように身振り手振りで、

「もう行かなきゃ。寝ているエドワードが起きるかもしれない。」

と、言った。

彼はうなずき、

「じゃあね。」

と、言った。

「ベド。」

僕はそこから抜け出して部屋へ戻った。

僕は少し落ち着くためにドアの前でいったん止まって、起こさないように静かにした。細く不明瞭な目つきで睨みつけるエドワードにドアはスライドして開いた。ディヴィーナはベッドに座り、微妙ににらんでいた。

「僕はトイレに行ったので。」

「一時間以上も?」

彼は強い口調だった。

食事はとてもまずかった。

「じつは、迷ってしまったので。あなたを起こしたくなかったし。あなた達が起きる前に帰って来られると思ったのです。」

エドワードはため息をついた。

「入りなさい。」

と、彼は言った。

僕はまるで生きている爆発物のように彼の前を通り過ぎ、彼はドアを閉めた。

「君は何らかのトラブルにあったのか?」

「注意していたので、問題ありません。心配させて申し訳なかったです。」

「もちろん、私たちは心配したわ。君がどれだけついていないが知っているし、もしや、事故で船から落ちたのかと思ったわ。」

と、ディヴィーナが言った。

彼らが僕のことを子供のように扱うのは嫌だったが、彼らに比べると、僕は確かにまだまだ子供だった。書物がとても未熟な誰かの手に渡るのは、エドワードにとってはとても恐ろしいことだと思う。それに、彼は、常に自分の兄弟は亡くなったとのだということを念頭においておかねばならなかった。

「すみません。」

と、僕は急に言って、ディヴィーナの侮辱よりも、ロネスの事について心を乱した。

「寝なさい。もっと言い聞かせたいところだが、明日になってミスをしないためにも君には休養が必要だ。」

と、エドワードが言った。

僕はうなずいた。僕はエドワードにベッドを使うように言いましたが、彼は人が大勢乗っている船で横になって眠れないと言ったので、僕がベッドに入った。そしてディヴィーナが僕の隣で横になったのが、僕の大きな喜びとなったの。彼女の髪についた甘いお香の香りを嗅ぐことができ、さらに、彼女の体の温もりも感じることができた。僕が心を落ち着かせようと気をそらしていると、思考はロネス殺害の復讐を願うディヴィーナの方へ戻った。それで、僕は、彼女は自然死の事をどう思っているのかと考えた。不死の人たちは、自然死についてどう考えているのだろう?

僕は自然死についてどう思う?

 

*         *         *

 

目覚めると、ディヴィーナが僕の顔にかかっている髪をよけるようにブラシングしていた。僕のすぐ近くにいる彼女を見るために目を開けると、彼女は微笑んだ。

「もう行く時間よ。」

と、静かに言った。

僕はうなずいたが、微動だしなかった。

「エドワードは方向について船長と話しているわ。」

男が方向について聞いている?ドゥランは本当に不思議なところだ。

「どうして僕は夢を見ないのでしょう?」

と、僕は聞いた。

彼女は眉を上げた。

「僕の書物にサインしてからは、2回ヴレチアルとの夢を見ただけです。あなたの夢を見るのを期待しているのに、全然見ないです。」

彼女は静かに笑った。

「ガーディアン達は夢を見ないのよ。」

「全くですか?」

と、聞いた。

彼女は頭を振った。彼女が再び僕の目から髪をよけたとき、手をリラックスさせて僕の頬の上においた。数秒経って、彼女はちらっと僕の唇を見て視線を戻した。それは彼女が僕にキスしたという明確な兆候だった。彼女の顔が僕のから数インチになるまで、彼女は非常にゆっくり身を乗り出して近づいた。彼女の香りで僕はめまいがした。そして、彼女のベリーピンクの唇はどんな味なのか想像した。

すると、ドアがスライドして開き、エドワードが入ってきた。ディヴィーナは即座に僕を放して起き上がった。エドワードは自分が見たことを悟り、明らかに驚いてドアの所で固まった。

「何か邪魔をしたかな?」

ディヴィーナは僕たちを見ることなく

「いいえ。」

以前、彼女は僕が彼の弟子だから僕にキスをすると彼に言ったはずだが、そうしようとしていたところを見られて恥ずかしそうだった。

「あなたが知りたかったことは、分かったの?」

と、ディヴィーナは聞いて、自分自身で強制的に彼の目を見るよう仕向けた。

「分かった。」

と、彼は答えた。そして、他に何も言わずに自分のバッグを持って出て行った。

「彼女はキスしようとしていたのか…?」

僕は、止まっていた。

「いいや。」

と、自分に嘘ついた。僕は彼に罪悪感を持ってほしくなかった。それに、彼女が僕にキスすることを恥じているなら、二度とそれについて触れようとは思わなかった。僕は女性に拒絶されるよりも、自分を制限した方がいいと思った。

空は白んでいたが、太陽はまだ水平線から覗いていなかった。地球を見ることは出来なかった。不安になる気まずい沈黙のなか、エドワードは自分のバッグを持ち、僕たちは部屋を出た。

甲板に着くと、ディヴィーナは日の出を見るために横に傾いていた。エドワードは彼女と合流した。サゴは僕が知っている人間よりも自然を楽しんだ。殆どの人間は、下船するのを急いだはず。更に、殆どの人は自然風景を見るためにヒューストンへ行かないだろう。

僕は後ろの方にいながら、一日中黙っていなければならないので、心の準備をしていた。

二つの満月の不気味な光と太陽が昇る真っ赤な光の下に浜辺が見えた。海の音はうるさく、風が強かった。ここはミジイとショモジイよりも寒かった。浜辺の側には家や木々があり、まるでエドワードの森にある木の小さいバージョンだった。殆どの家が小さく、庭は高い木のフェンスで区切られていた。昔ながらの家で平和な感じだった。

僕は背中をトントンとたたかれ、飛び上がるくらい驚いた。気を取り直して振り向くと、モルドンだった。

「やあ。」

と、彼は言った。

僕は、

「やあ。」

と、答えた。

エドワードとディヴィーナは衝撃を受けた。それは、面白かったと同時に悲しかった。

「ここで何をしているのだい?」

と、聞いて痛ましくサインをしていた。エドワードは一歩前に出たが、ディヴィーナはそれを阻止するように彼の胸に手を置いた。

「バイバイと言いたかったのだ。」

と、彼は言った。

僕は微笑んだが、僕の視野の隅でエドワードが更に緊張するのが分かった。彼はディヴィーナをすり抜けて、モルデンから数フィートのところで止まった。モルデンは軽くお辞儀をして手を差し出し、エドワードはそれを振った。彼の態度は敬意を表していたが、思ったより服従するような感じではなかった。称号や魔法に基づく社会では、若いウィザードは傲慢になるか過度に従順になるかのいずれかだと気づいた。

「ロゲ。モカテ イシュテ・レ モルドン。」

モルドンは直立し、エドワードの目を見たが、敬意を表していた。

「モカテ ヤトゥヌス・マル キロ。ログビ。モエ ディヴィーナ。

とディヴィーナを示し、彼女は微笑んだ。モルドンは注意をエドワードへ戻す前に彼女に軽くお辞儀をした。

「ハソ ゴ イングリッシュ チョナス オ サゴ ダカナイ」

と、重々しくモルドンに言った。

「彼は何と言ったの?」

僕は、英語の分かるエドワードやディヴィーナではなく、モルドンに聞いた。僕は笑いを含むようにしていたディヴィーナを見た。

「私はサゴのように英語は話せません…。あなたは今行くのですか?」

彼は空を指差して、

「テツジ ソンマダ。」

と、言った。

「モワ。僕は皆が起きて、僕が何らかの過ちを犯す前に行かなければならない。僕はそうする。」

と僕は手でサインしながら言った。エドワードが僕の言ったことを訳してくれた。

「またその辺で君に会うかも知れないね。」

僕はサインするのを諦めて、エドワードが訳してくれた。

「モワ タトエ ミセ。」

「彼はそう願うと言っている。」

と、エドワードは言った。

「君は昨夜何もなかったと言ったではないか。」

「僕は、何の問題もなかったと言いました。友達を作るのは禁止だとは誰も言いませんでした。」

と、弁解した。

エドワードは怒っているようではなかったが、我慢しているようだったので、僕は彼に対して怒ることができなかった。僕はため息をついた。

「すみません。僕のやったことは愚かで危険だったと分かっています。僕たちは出会いがしらでぶつかり、僕はつい口を滑らせたのですが、彼はちっとも動じなかった。それで、話し始めて…。」

「では、君は自分の周りで腕を回したりして、そいつと話したのか?」

「う…、そうです。それと、あなたに教わった言葉も使いました。」

と、僕は言った。

彼はディヴィーナを見て、数秒後、彼女は僕と同じように注意しなから彼のリアクションを待っているのだと気づいた。すると、突然、彼は僕たちの期待を裏切って、笑い出した。そして彼は、僕が知っていた他の人たちと違って、怒りに押されることが出来ないということに気づいた。

「君は本当に変わったやつだ。つい最近、君はドゥランで最も珍しい植物に足を切られるところだったし、それに続いて、長いこと既に絶滅したと思われていたウィルスに感染した。そして、その数時間後に、この大勢乗っている船の中で、明らかに異国の言葉を話しても疑いを持つような反応をしない唯一の人物に出会った。」

「エドワードは何と言っているの?」

と、モルドンが聞いてきた。

「ジャダカ。」

と、エドワードが短く言い、続いて自分のバッグを持ってタラップへ向かった。

「さあ、もう行かなきゃ。」

と、ディヴィーナが言った。

僕は残念に思いながら、

「ベド。」

と、言った。

「バイバイ。」

と、彼は答えた。そして僕は向きを変えて、去った。

 

*         *         *

 

誰もいない土の道路を下りていく間、エドワードは不審に思えるくらい機嫌が良かった。危うく僕にキスをするところだったことの当惑を乗り越えたディヴィーナだけが、その機嫌の良さについて聞くための十分な度胸があったようだ。

「キロ?どうしてそんなに機嫌がいいの?」

「すまんね。私は幸せになる許可を得ていないことを忘れていた。」

と、エドワードが返答した。

ディヴィーナはため息をついた。

「私は、どこかこの辺で泊まった方がいいのではないかと思っていただけよ…。」

彼は坂の下の方にある家を指差した。

「これがアキアの家だ。」

ディヴィーナは、夢中で笑った。

「ねえ、ヒロクはいると思う?」

エドワードはちょっと考えた。

「多分彼は学校に行っていると思う。彼は個別指導か何かに受け入れられたようだ。」

「そうか。あなたを見てワクワクするだろうと思ったのに。」

と、残念そうに言った。

僕は彼らがいったい誰について話しているのか興味津々だったが、彼らの話に割り込みたくなかった。でも、彼らが英語で話していたので嬉しかった。

「それ以上に君に会えるので興奮しているだろう。」

と、エドワードは言った。

「あのお祝い事に彼を連れていなかったことをまだ怒っていると思うわ。」

「君はちゃんとした理由があったのだし、それに、アキアも彼を連れて行かぬように言ったのを知っている。」

「そうね。でも、同意する前に、まず話の全容を知る必要があったわね。でも、彼らが何処に向かっているか知っていれば、きっと同意しなかったわ。」

「そこに行くには許可が必要であった上に、女子が誰一人行かないことが分かった時、君は何か裏があると考えるべきだった。」

「オッケー。お二人は誰について話しているのですか?」

と、僕は聞いた。

ディヴィーナの笑みが大きくなった一方、エドワードは眉を上げたので、面白かった。

ディヴィーナは一歩下がって僕の腕に自分の腕を巻きつけたが、エドワードの方は憤慨して歩きが早くなった。

「その昔、キロはアキアという女性と知り合ったの。その当時、病を患っていた友人の代わりにあるクラスで教えていたのだけど、彼はアキアしか眼中になくて、クラス全体の前で自分がどれだけ愚か者か自分を晒してしまったの。そして、授業が終わってすぐにアキアに名前を聞いて、彼女をデートに誘ったの。もちろん、学校で男女交際は禁じられていたけれども、どうすることも出来なかったようね。」

エドワードは少し恥ずかしそうだった。

「そうすると、彼らは秘密のデートを繰り返して情熱に燃え上がり、両親を欺き、数週間後には結婚するために駆け落ちしたの。」

「両親…、彼女はいくつだったのですか?」

「21歳。でも、皆、22歳にならないと大人として認められないわ。」

「彼女は私に22歳だと言ったのだ。」

と、うなった。

「そのせいで、アキアは学校を止めることになって、父親は勘当すると言ったの。でも、情熱が冷めてしまって秘密でなくなると、キロとアキアはそれぞれの選択肢について話したの。アキアは講師免許を持っていたけれども、彼女の父親が、彼女が学校をやめる前にキロと付き合っていたことを学校側に言うと、それも取り消されてしまったわ。でもそれには別の選択肢もあって、キロは魔法関係に使うためだと学校の理事会に主張し、彼らは結婚を解消し、その後、アキアは講師免許を再取得してキロは禁固10年の刑罰を受けたわ。でも、彼はその後3人の命を救って自由の身になり、自分の地位を取り戻したの。」

「学校で女子と付き合っただけで10年も?」

「彼らは終身刑となるカンジイへ送ることも出来たわ。ただ、彼の地位を考慮して慈悲を示したの。」

「でも、彼らはあなたがガーディアンだということを知っているのですか?」

と、聞いた。

「私が神々と何らかの関係があると分かってしまったら、きっと安らぎがなくなるだろう。」

「では、ヒロクとは誰ですか?」

彼女の笑みはさらに広がった。

「アキアとキロの息子よ。」

僕たちは小さな家に到着し、キロはまだ低い太陽を見た。その家はその他の家と似ており、白いペンキと茶色の屋根、平凡でそんなに頑丈ではなさそうだった。そして、上には心地よさそうなウッドデッキがあった。ドアは、殆どの家と同じように振うに開き、スライドドアではなかった。

「彼女は起きているかしら?」

と、ディヴィーナが聞いた。

エドワードは確信が無いようだった。

「多分起きてないだろう。もし起きていたとしても、こんなに朝早く邪魔されたくないかも知れない。」

彼の声は疑問を感じさせた。

「彼女はあなたがこの町に来ていながら、立ち寄らなかったと知ったら、きっと、激怒するわ。せめてノックしましょう。もし出なかった場合、失うことは無いわ。」

彼はポーチの方へ向かったが、立ち止まって僕とディヴィーナの方を見て眉を上げた。

「そして、彼は?」

と、エドワードが聞いた。

「彼がどうしたの?私たちが計画したことだけ実行しましょう。彼が話すべきことを言ってあげるわ。」

「そして、ヒロクが居たら?もしかしたら、とてもフレンドリーでこの地域を案内したがるかもしれない。」

ディヴィーナはため息をついた。

「あなたは、物事を複雑にしているわ。私たち二人はこれから法的な用事があって、誰も来ないうちに先方につかなければならないから、先に行くと言うわ。そうしたら、あなたは、好きなだけ彼らと話したらいいわ。でも、私たちはそのために、本当に早く出発しなければならないわ。学歴のわかる書類を手に入れなきゃいけないことを忘れないで。どれだったかしら?」

「コニックス・テンだと思う。そんなに難しいことではないはずだ。」

「私立校のだったら偽造することが出来るわ。多分もっといい肩書でも手に入るわ。」

「いや。それはとてもリスキーだ。」

彼は僕に厳粛な視線を与えた。

「ディヴィーナに違法なことをあまり君に話させないように。それらは楽しいことのように思えるかもしれないが、君にはそれにうまく対処できる運が無い。」

「やってみますが、僕は何が違法なのかよく分からないです。」

「それは良いことだ。君の用紙を受け取りに行った時に新しい法令リストを貰うのを思い出させてくれ。もし君が捕まったら、君が法的な身分を持っていないことがばれてしまう。」

言い換えると、僕は存在しないってことだ。

「彼の事だからね。」

と、ディヴィーナが言った。

「私が何もしなくても十分トラブルに巻き込まれる可能性があるわ。あなたが彼の年齢ぐらいで、まだ自分の魔法がいかに強力か発見している頃は、どのような人だったの?」

「君が正しい。」

と、彼は言って、僕に最も深刻な視線をおくった。

「もし、何かが15秒以上君を笑わせるようだったら、君はそうする許可を得ていない。」

僕たちが後ろに離れて待つ間、エドワードはドアへ向かい、軽くノックした。

数分過ぎた。すると、窓のカーテンが非常にゆっくりと動き、女性の顔の一部が見えた。カーテンは元に戻され、今度はドアのカギを回す音が聞こえてドアが開き、中から4~5フィートくらいの健康的で穏やかそうな若い女性が出てきた。肘くらいまで伸びた明るいオレンジ色の髪がアクアマリン色の瞳と色白な肌を際立たせた。彼女は光沢のある青と紺色の半袖ブラウスと短パン姿だった。僕は彼女が25歳以上であるとは思えなかったが、そうすると、ヒロクは、最高で4歳くらいと言うことになる。

どうやら僕の目は大きく見開いていたようだ。

「彼女は見た目よりかなり年上よ。魔法の使い過ぎは体を崩してしまうけど、正しく使えば、体を健康的で若く保つことが出来るわ。特に女性の場合はね。それに、サグの寿命はもっと長いのよ。」

と、ディヴィーナは僕の頭の中で言った。

エドワードを見て彼の腕の中に飛び込む前の女性の顔の嬉しさは明らかだった。彼は彼女をしっかり抱いた。抱き合って放すまでに数分が経過していた。そして彼らがキスしたので、僕は目をそらした。

ディヴィーナもそうした。

「彼らの情熱がすべて消えたわけではないわ。」

「ハソケ オン オト コアヒガ?」

と、アキアが聞いた。

ディヴィーナと僕は、引き返すことにした。僕はその場にいるだけで邪魔者だと感じた。兄弟を亡くしてから、エドワードは僕と地球を助けることしかしていなかったので、彼が中に入りたそうな素振りをしたら、僕はディヴィーナと一緒に彼の邪魔にならないような計画を練ろうと思っていた。

「モワ」

と、彼は彼女の頬を優しくなでながら質問に答えた。

彼らはとても親密だった。彼女の視線が彼から外れてディヴィーナと目が合うと、笑顔がほころんで、彼の横を通った。ディヴィーナも彼女の喜びに答えて彼女の方へ向かい、その途中で二人は大親友のように抱き合った。彼女たちはスド語で楽しそうに話していたが、エドワードが僕の隣へ来たので、アキアの注意を引いた。彼女は僕に上品な笑顔を見せた。

エドワードは自分の手を僕の背中に回し、前へと押した。

「自己紹介をして、君は彼女よりも身分が低いと言うことを忘れないで。」

と、彼は僕の頭の中で言った。

「ロゲ。モカテ ヤトゥヌス・タイ ディーラン」

と、僕は言った。

彼女は僕に微笑んだが、それはディヴィーナのように僕を熱く感じさせなかった。

「ログビ。モカテ イウヴェ・ジョ アキア。ボヒデ イエ アキア。」

‘モルダテ ボヒデ’と言いなさい。

と、ディヴィーナが言った。

僕は即座に言われたことを言ったら、彼女の笑顔が増した。

「アレ ワ チャド アナノ ニ ミエマー」

と、彼女はエドワードに言った。

ディヴィーナが笑っている一方で、エドワードは引き裂かれた感じだった。

「彼女は君がキロの子供だと思っていて、彼は拒否すべきか否か分からないのよ。これは、見ものだわ。」

ディヴィーナは期待するような視線をエドワードへ送ったが、彼女は頭の中で彼に話しかけているのかと思った。彼は堅く決心したようにうなずいたので、彼女が言ったことは明らかに助けになったようだ。

「シャ アノ。」

と、彼はアキアに言った。

確信は持てなかったが、彼女が言ったことを訂正しているようではなかった。

再びドアが開き、男性が出てきた。彼は僕と同じくらいの年齢で、明らかにエドワードの子供だった。ダークブラウンの髪に黒に近い目の色とコーカサス系の暗い肌。彼も、僕が初めてエドワードと出会ったときに感じた強烈さを持っているようだが、彼は僕より大きくなかったので、同じようなインパクトはなかった。彼の笑顔は少し奇妙だったが、誠実そうだった。

エドワードと彼は、僕に注目する前に数分の間、当たり障りない会話をしていた。彼の声はエドワードと似ていたが、早口だった。彼の笑顔が消えた。

「モカテ ヤトゥヌス・ケ ヒロク。」

そう。アキアは25歳より随分年上だった。

「ロゲ。モカテ ヤトゥヌス・タイ ディーラン」

彼は、冷笑した。

「ニゼー イル ベンジョキ ヒソ?ヒャコ ヒソ ダトア サイソ ヨウ ノノド セ。」

「ヒロク!」

エドワードは大声を上げた。アキアの目が大きく開いた。

地球では良くあることだったので、僕は侮辱されているのがよく分かったが、面と向かって侮辱したサグ人は彼が初めてだった…。しかも、僕には彼が何を言っているのか分からなかった。それよりもショックだったのは、エドワードが声を荒げたことだった。

「彼の笑みに答えて次のように言うのよ‘タタケ モエ イソ ノノド スドダク。ブロミ ウク ソ?’」

僕がそうすると、ヒロクは威嚇するような表情になった。ヒロクの視線は、何度もエドワードに激しくにらみつけられた後では、ちっとも怖くなかった。ヒロクは良く似ていたが、エドワードのにらみつける視線は、長年生きて得たものだった。

「ジョドゥマデ ミコ シペ。」

エドワードは自分の手で目をこすり、アキアはあまりにも恥ずかしくて話せないようだった。僕は、このエスカレートしている状況を好ましく思わなかった。

「‘ジョドゥマデ ミコ アサノ’と言って。」

僕がそういうと、ディヴィーナは静かに笑った。

それはあっと言う間にヒロクの注意を引いた。彼の怒りは嬉しさに変って、僕を押しよけるようにして横を通って行った。彼は必要以上の力で彼女に抱きついた。僕は即イラついて、僕が言えるようなことをディヴィーナに言ってほしかった。それより重要なのは、先ず彼を自分から遠ざけてから、僕に何か教えてほしかった。僕は唸っていることに気づかなかったが、自分の息づかいが荒くなり、殆どうなっている状態だった。

ディヴィーナは穏やかな笑顔を保ちながら軽く礼儀正しいハグをしたが、彼が期待していたよりも早く彼を優しく押し返した。それは僕のその一日の機嫌を取り戻すには十分だった。彼はまだ近くにいて、自慢げに話していた。僕はそれを止めたくて、自分が何をしているか気付く前に、彼らの方へ進んだ。

エドワードが僕のシャツを掴んで数歩引き戻した。

「ディヴィーナは彼の衝動的で傲慢なところよりも君の礼儀正しさと自制心のあるところの方がよっぽど好きなのだ。」

と、頭の中で言った。

「ヒロクは、4歳のころからディヴィーナに見込みのない片思いをしているが、彼女の心を射止めることは無いだろう。彼女は実際的に彼の事を甥っ子のようにしかみなしていない。」

僕の怒りの大半が消えてしまった。どっちにしても、ヒロクよりも僕の方がディヴィーナに近しいところで生きていたので、少しぐらい楽しませてあげよう。神よ!僕は少年に戻ったようだ。

アキアはエドワードに、

「アレ ワ ギョイジョ イラ。」

と、言った。それはエドワードをかなり明るくした。

「君はとても行儀が良いと、彼女は言っているわ。」

続けて何か長い言葉を早口で言ったが、ヒロクの表情がだんだん悲観的になってきたので、どうも彼女は僕たちにもう出て行くべきだと言っているようだった。

エドワードは同意して、僕をヒロクの方向へ向けるようにして、

「アヤマル。」

と、言った。

「‘それ’をヒロクに言うのよ。」

ディヴィーナはイラついたトーンで言った。

僕はその言葉が言えなかった。ただヒロクの思い上がった顔を見ることしかできなかった。

「言いなさい。」

と、彼女は要求した。

すると、なぜその言葉が言えないのか分かった。それは、モルドンが僕とぶつかったことを謝るのに言った言葉だった。エドワードは僕がさっき言ったことについて謝罪してほしいようだったが、僕には出来なかった。

ディヴィーナが僕の頭の中でため息をついた。

「もう遅いわ。‘イグノ コヨタ ミー アンタ キウフェス スマス’と、ゆっくりしっかりと言いなさい。そして、何かつぶやいているように低い声で言うのよ。」

僕にはそっちの方がはるかに魅力的に聞こえた。

「イグノ コヨタ ミー アンタ…」

エドワードは僕の口を叩いて今にも飛びかかりそうなヒロクから遠く引き離した。僕はそれが気にいった。ディヴィーナはあからさまに笑って、アキアの顔が赤くなった。

「モシ イテ。 モシ イテ。」

と、エドワードは言っていたが、誰も彼に注意を払わなかった。

彼は唸って、僕はヒロクの手にかかる方が師匠の手にかかるよりも安全だと感じた。僕は呼吸を整えるためにエドワードの手を引こうとしたが、そうするたびに難しくなっていた。ディヴィーナは何かわからないことを彼に言って、彼は僕を放した。僕は唾をのみ、ヒロクは前よりも近況しているようだが、笑顔が戻っていた。

「カダ ミド サガタ コタキ ムダ アイト セツアイ ムダ ゲンジヤ ヤベ キヨ タバト と、言いなさい。」

と、ディヴィーナが言った。

「ディヴィーナが君に言わせようとしていることを言うな。」

と、エドワードは僕が何か言う前に言った。

僕は板ばさみになっていた。僕が死ぬほどキスしたいディヴィーナの言うことを聞くか、これからずっと一緒に生活して魔法を教えてくれるエドワードの言うことを聞くべきか。僕が口を開けようとしたら、ヒロクがなにやら荒くてしわがれた声で全く分からないことを言ってきた。

エドワードはため息をついた。

「さあ、今度は言うのだ。」

僕が言うとヒロクの顔が赤くなった。僕は本当に楽しんでいた。

ヒロクの怒りはくすぶるように彼の脳を越えて早く言い返そうとしていたが、アキアが彼の報復を恐れて、

「ナオカ ハヌ。」

と、言った。

ヒロクは僕を見た後にエドワードに視線をやってからくるりと回って、入って行った。

僕はアキアに

「モシ イテ。」

と、心から言った。

彼女は僕に微笑み、

「ゴジャネ。ベド。」

と、言った。

そして彼女はディヴィーナを抱きしめてから僕を抱きしめた。彼女は紛れもなく綺麗だった。しかし、僕には比べられるような姉がいないのだけれども、きっと、彼女を抱きしめるのは、一番上の姉を抱くようなプラトニックなことだと思う。続いて、彼女はエドワードの方へ行き、彼らは長いキスを交わした。僕たちは別れの挨拶をして、道路を下り始めた。

アキアがドアを閉めると、エドワードはディヴィーナの背中をトントンとたたいた。

「ディヴィーナ、よくやった。」

彼女は笑って、僕の腰に腕を回した。彼女は以前にも何回かそのようにしたことがあったので、僕も彼女に腕を回してもいいという確信があったので、慎重にそうしてみた。彼女は嫌がらなかった。彼女はとても温かくて、僕の横にしっかりはまった。僕はベタベタしてくる女性も知っていたが、ディヴィーナはそうではなかった。

「彼が全部やったのよ。彼も、とても良くやったわ。」

と、褒めた。

エドワードも同意を示してうなずいた。

「あなたは、良い息子を持っていますね、エドワード。」

と、僕は皮肉って言った。

彼は眉を上げた。

「私は本当に彼に何が起こったのか分からない。あのような行動をとったのは初めてだ。」

「父親にやきもち焼いたのよ。」

と、ディヴィーナが言った。僕たち二人が彼女を見ると、彼女は笑った。

「キロ、彼はあなたがいないのを寂しく思っているのよ。それなのに、あなたがこのディーランと一緒にいると分かってからは、ディーランがあなたの息子だと仮定し、その彼と過ごす時間のほうがかわいそうな息子のヒロクと過ごす時間よりも長いと分かったからよ。いったい何を期待していたの?あなたは彼らがどのような行動に出るか知るのに十分な人数の子供を持ったのではないの?」

「エドワード、あなたには何人の子供がいたのですか?」

「う~む…、彼らの内の数人は私の子供ではないと思うので、確信は持てない。」

「どっちかと言うと、数えきれなくなったって感じね。」

「あのク…」

と、つい口から暴言が出そうになったが、最後の一瞬で止まり、エドワードの息子を侮辱しては行けないと思って、

「ヒロクはいったい何と言ったのですか?」

「彼は、君が弁護士かその類かと聞いてきた。要は、君は青白くて明らかに体力使うような仕事をしてなさそうだからね。そして君は、そうでないと答えた。その白い肌は母親譲りだと言って、その後、彼に、どこの日焼けサロンに行ったのか聞いた。すると彼が、君のなまりが変だと言って、君は彼の服が変だと言った。」

「本当に?」

「そうよ。彼の学生服だったの。気づかなかったの?」

と、ディヴィーナが聞いた。

僕は頭を振った。気づいていなかったのだ。アキアの服に見入ったということは言わなかった。彼女に抱きしめられたときには何も感じなかったし、ディヴィーナの方が僕のタイプだが、アキアはまだとても魅力的な女性だった。

「オッケー、それで、キロがあなたに謝るようにいったので、私はあなたに言うべきことを2回も言ったのよ。なぜ私が言った通りに言わなかったの?」

「僕には言えなかったのです。僕にはあなたが何を言って欲しいのか、分かっていたのです。なぜならば、モルドンが僕とぶつかったときに言った言葉だったからです。だから、それは言えなかったのです。」

エドワードは笑った。

「それもいいことだ。もし言っていれば、いい結果にはならなかっただろう。でも、アキアも彼に身のほどを思い知らせてほしかったようだ。」

と、彼は言った。僕は正しい決断をして良かったと思った。

「しかし、君たち二人が体を張って闘いそうになったのは面白かった。彼は僕の注意を引くためで、君はディヴィーナの注意を引くためにね。」

そんなに面白くなかった。

「君が彼に謝罪するのを断った後、君の母親が絶対に謝らなくていい相手は…」

「ディヴィーナ、そこまで説明しなくていい。」

と、エドワードが注意した。

「僕は知りたいです。」

と、反論した。

「キロが正しいわ。ちょっと悪意がこもっていた。私も言い過ぎたと思ったわ。すると彼が、自宅で教育されて育ったママっ子のあなたからは何も期待していないって言ったのに対し、君は自宅で母親に教育されたわけではないが、自宅でキロに教育されて、そのキロは沢山の魔法を教えてくれたので、彼の途方もなく小さすぎる脳みそを、そうしようとせずにも爆発させることが出来ると言った。あなたは彼の小さい脳みそを強調したのだけど、それよりも、君のキロの呼び方がとても近い家族関係で使われる言い方だったので、そっちの方が効果的だったわ。君があんなにたくさんの事を全部復唱できたのでとても感心しているわ。」

「君たち二人ともよくやった。あまりにも良すぎたので、後でもう一度彼らを訪問し、謝罪する必要がある。私は本当に君たちが仲良くなることを期待していた。」

「僕は、そうしたかった。」

「分かっている。彼は君を侮辱したので、君は報復するしかなかった。君のせいではない。誰かに責任があるとすれば、それは私にある。私はもっと頻繁に彼を訪問すべきだった。」

僕たちは角を曲がり、その道の先には地区と街を区切る大きな鉄の門扉があった。街の建物は住宅とは全く違っていた。それらの建物は全て背が高くて頑丈そうな木で出来ていて岩で囲まれ、内側に開く大きな木の門があった。

建物の大半が店舗で、そこの人々はお店を魅力的にするために品物を展示する準備をしていた。ここの店舗は、安くて面白い商品が密に詰まった屋台があるミジイの屋外市場とは全く似ていなかった。

10分後、街の別の場所に着き、そこの店舗は規模が小さくてお互いに近く、セレクトされた商品見本が芸術的に窓や店舗前に飾られていた。本屋から魔法グッズなどのお店まで、何でもあった。僕が前を通ったお菓子屋さんは、今まで見た中で最も魅力的なお菓子屋で、そこには、動物型で飛んだり跳ねたりする小さいお菓子から、色の変るペロペロキャンディーまで、素晴らしいお菓子があった。若い娘が手に持って出た紫色でキラキラするアイスクリームは、彼女がなめるたびにモスグリーンの色に変っていた。

あまり時間が経たないうちに、人々が朝の買い物に訪れ、それらのショップは彼らに働きかけた。突然、通りには店舗の従業員で溢れ、お店には品々が展示されていた。往来する人々はTシャツからチュニック(エドワードが着ているような)まで、様々な衣類を身に着けていた。ビジネススーツに非常に似たものもあったし、更に、古代ローマやギリシアスタイルのドレスや、驚くことに、着物に似ている衣類を着ている人もいた。

一歩進むごとに辺りに肉を調理するスモーキーな匂いから果物の甘い香りやお香の複雑な香りがした。雑音にも圧倒された。人々の話し声に、お店の宣伝や音楽と時折群衆の中から聞こえる奇妙な音。そして全てがカラフルだった。

僕の横を通って行った男性は、暗い雲のような物が入ったガラスの球体を持っていた。その球体の奥で稲妻のような光がついた。エドワードは僕が不思議そうにしているのを見て笑った。

「子供のおもちゃだ。本当に興味深いものは奥にある。」

僕は辺りを見回し、僕たちの英語に誰かが反応していないか見回したが、誰も気づいて無いようだ。僕はあたりを観察するために後ろに残るようにしていたが、エドワードとディヴィーナは歩く速さのペースを維持した。僕は小さい竜の形をした像を持った幼い少女とすれ違った。僕はちゃんと見ていなかったので、てっきり竜の置物かと思ったが、少女の隣にいた少年を焼きそうになるくらいの火がそれの口から噴きだした。

全員、なめし皮の黒のドレスパンツと長袖ドレスシャツに黒いベスト制服を着た8歳ぐらいの少年グループがいた。彼らはいくつかの本を持って他の人と目を合わせぬようにして歩き、とても厳しそうな女性がついており、先を急がせていた。買い物客の大半は急いでいる女性だった。数少ない子供たちのほとんどは、全てに興奮していた。数少ない男性も必ず一人ではなく子供や奥さんと一緒にいて、箱やバッグなどの荷物持ちをしていた。

僕はついつい気を取られていて、僕より2フィートくらい背の低くて長い白髪頭の貧しそうな老人にぶつかったが、彼は直ぐにバランスをとり戻し、僕は凍りついた。僕はある交差点にいたが、エドワードとディヴィーナが目の届く範囲にいなかった。

一分ほど周りを見回し、とおりは更に混雑して来て僕は忙しそうな人々の真ん中にいた。僕はやや走りながら真っすぐ進んだが、彼らを見つけることが出来なかった。僕は異界で迷子になり、そこの人々との言葉を話すことができなかった。僕は普通に振る舞おうとしていたが、それはストレスを更に増して、気が付くと息が切れていた。僕がエドワードとディヴィーナからどんどん離れている可能性が高かった。もし彼らが気付いたとしても、どこを探していいか分からないだろうし、僕が間違った方向に進んでいたら、探すのを更に困難にしていた。

たくさん考えた後、僕は二つの店の間にある細い路地を見つけた。そこの壁の一方に座り、エドワードかディヴィーナがいないか探した。約20分後、僕はパニックを起こし始めた。僕が言葉を知らない不慣れの地で迷子になるのは一つの事だが、僕が言葉を話せないがために実験台にされるのは全く別の事だ。もし僕がドゥランの人でないと分かった場合、サゴの人が実際に何をするのかエドワードは教えてくれなかった。しかし、それはきっとセイラムの魔女裁判が遊びのように見えるようなのではないかと想定できる。

僕は非常に軽い口笛に驚いた。僕は下を見るべきだと機転がきく前に、辺りを見回した。そこに座っていたのは、誰もが怖がることのない動物だった。それは小さい耳と猫のような顔をしていて、フクロモモンガに良く似ていた。そして、毛は長くてダークブラウンだった。それは、頭を横に傾けて僕に前足を近づけた。足には小さな爪があって、4本指の間に水かきがついていた。

「ねえ、そこのキミ」

僕は優しく話しかけた。それはその頭を反対側にゆっくりと回した後、前方に素早く動いた。歩くとき、それの横腹は爬虫類のように折れ曲がった。尻尾は体の他の部分の2倍の長さがあって、とてもふさふさしていた。それの背中から地面までは約6インチくらいの高さだった。

「君は僕を食べるつもりかい?」

と、僕は優しく話しかけた。それは、僕の組んだ脚の近くで止まったので僕は手を伸ばした。それは前足を持ち上げ、それを僕の手のひらに乗せた。暫く僕の臭いをクンクン嗅いだ後、それは口を大きく開き、たくさん並ぶカミソリのような歯を露わにした。

オッケー、それは多分僕の賢い動作ではなかったようだ。

僕は、それを驚かせて攻撃してこないように、あえて手を引いて隠さなかった。すると、その小さい生き物はとても小さいベロを覗かせて紛れもないあくびをしてから口を閉じ、僕の手の上に飛び乗った。それは重さが無いないくらいとても軽かった。僕たちは数秒見つめ合っただけで、それは少しためらいながら僕の腕へと登ってきた。そして僕の顔を見て固まり、まるでそうしていいのか伺っている様子だった。数秒後、それは僕の腕を駆け上がり、左肩に止まった。それ生物の爪は尖っていたが、とても軽いのでちっとも痛くなかった。すると、それは前足を伸ばし、僕の頬に触れた。

「やあ」

と、僕は言った。

それは呼吸と口笛の間のような、シューという音を発して、驚くことに、僕の唇を舐めた。

そして、

「やあ」

と、繰り返した。その声は小さくて吠えているように甲高かった。僕の目が大きく見開くと、それの目も大きく見開いた。

僕は何か言おうと口を開けたが、他の人たちのところで繰り返してはいけないので、うかつにも英語を教えるべきではないと気づいた。人間にはオウムがいるので、ここに話せるリスネコがいたとしても、たいしたことじゃないと思った。続いて、それは前足と僕の首に巻き付けていた太い尻尾を外した。僕は小さい生き物を怒らないように頭の中でメモをとった。

「君はしばらくの間、僕と一緒にここで待ってくれるのかな。」

それは、僕の肩に頭を置いたので、まるで理解しているようだった。

「君に名前を付けてあげよう。いい?君は男の子?それとも女の子?」

それは答えなかったし、僕は見たくなかった。

「僕はただ、女の子として呼ぶとしよう。ドゥランでのいい名前は?そういえば、昔、僕のクラスに日本人の女の子がいて、シノブと言う名前だった。その名前はここの現実にあっていると思う。だから、君の事をシノブと呼ぶとしよう…、もちろん、君に異論がなければだけどね。」

彼女は僕を目でちらっと見たり、頭を持ち上げたりしたが、何も言わなかった。

「オッケー、では、シノブで決まりだ。」

彼女は目を閉じ、僕は後ろに頭を寄りかけた。

「ここで君に会えるとは、驚きだ。あなたの頭は良くなったようだ。」

僕はびっくりして立ち上がり、路地の入口に立ち止っている男性を見た。シノブはちらっと上を見たが、あまり気にすることじゃないという結論についたのか、頭を後ろに向け下に置いた。僕はその男性がナノだということに気づくまでに数秒かかった。あの不気味な家ではとても恐ろしく見えた容貌も、陽の光の中ではオープンでフレンドリーだった。彼は笑っていたし、それは十分に本物に見えた。

その男は僕より幾つか年上に見えて、僕より数インチ背が高かく、体重も数ポンド多いようだ。彼の頭髪はダークブラウンで、ゴールドのハイライトが入っていて、深い茶色に金箔が入っているような目の色と良く似合っていた。彼はベージュのチュニックと茶色いズボンに黒いブーツを履いていた。僕の注目を集めたのは、彼の細い腰に巻かれたストラップの先についていた奇妙なオフオレンジ色のバッグだった。

「あなたはナノ。」

と、僕は目につくオレンジ色から目をそらしながら言った。

「そう、私です。そしてあなたは、ディーランですね。」

「どうしてあなたは僕が誰だか知っているのですか?」

「私は、あなたが何なのかも知っています。私はハジ・ナノ、ディオスのガーディアンです。私はロネスの友人でしたし、今はあなたの友人でもあります。もちろん、あなたが良ければですが。」

「これは、‘私は友好的に来ました’のガーディアンバージョンか何かですか?そうであれば、いくつか改善しなければいけないですね。」

彼は笑った。

「私は類似性を見ることが出来ます。さあ、歩きましょう。」

そう言って彼は、僕が何か答える前に路地の奥へと歩き始めた。僕は彼から来る多くの事を予測した。

「どうやってディヴィーナと知り合ったのですか?」

と、僕はついて行きながら聞いた。

「彼女は私の友人です。キロが彼女と知り合って間もないころ、彼女に紹介してくれた…。彼の意図するところではなかったようですが、彼女が自己紹介をしたのです。どっちにしても、彼女からロネスが亡くなって、あなたが新しいガーディアンだと聞きました。まだ信じがたいです。私は頻繁に地球を訪れていたので英語が話せるのです。」

「どうしてあなたは僕を探しに来たのですか? どうやって僕を見つけたのですか?」

「あなた、お腹は空いていますか?」

と、彼は聞いた。僕はハイとうなずいた。

「では、昼食をとりましょうか?」

と、彼は聞いたが、彼はまた、答えを待たなかった。

僕たちは路地を出て人通りの多い別の通りに出たので、僕は黙ってついて行った。この人たちの前でしゃべらないのは難しかった。僕は色々質問をしたかったのだが、彼もディヴィーナとエドワードのように隠そうとするのか分からなかった。

小さいお店などは興味をそそるものだったし、僕はそれらを覗いてみたかったが、ナノは凄くお腹を空かせているようだった。通りの終わりの方に、大きな屋台があり、そこでは異なるソースを添えた蒸しケバブの大皿が提供されていた。

そこの料理人は痩せた男性で、頭髪が紺色、目は鮮やかな赤褐色で僕ぐらいの年齢のようだった。遠目に見ると、とても良くできたカラーリングのようだったが、眉毛も同じ色だった。彼はクリーム色の長袖シャツを着ていた。料理人の後ろには大型グリルがあり、その上には大きなガラスのパネルがあった。カウンターの右端には金属製の小さいレジのような機械が置いてあった。

料理人はナノに何かを聞いて、ナノは注文する前に僕を見た。

「君はチェックカードを持っていますか?」

エドワードとディヴィーナの声を頭の中で聞いてからは、もう驚くようなことではなかったはずだが、僕はまだ慣れない。

僕はチェックカードが何なのか知らなかったが、真っ先に頭に浮かんだのが、ディヴィーナがレストランでくれたあのカードだった。僕はそれを首にかけていた小銭袋から取り出して彼に渡した。彼はそれをレジの投入口に差し込んだ。グリルの上のガラスパネルが真っ黒になり、スドの白い記号が出てきた。

ナノがカードを返してくれている間に、ナノがいくつかの銀のコインと交換した白い小さい箱に、調理人が何種類かのケバブを詰めた。調理人がお釣りを返し、彼らは挨拶を交わした。僕たちはそこを出てから人通りもなく店舗も締まっている通りに入った。その通りの端には何組かの家族が訪れていた大きな湖があった。僕たちは皆から話し声が聞こえないくらいの距離を置いて座り、ナノが箱を開けた。彼はケバブを一本取り出して一口食べたが、僕は座って待っていた。

「君は話すのが好きでしょう?」

「はい。とても。僕はエドワードの助けが全くいらなくなるくらいスドを学ぼうと思います。さて…、あなたは、偶然僕に出会ったわけではないですよね?」

「いいえ、もちろん違う。君は地球の新しいガーディアンです。私は特にあなたについて色々聞いて以来、お会いしたかったのです。」

「ディヴィーナからですか?」

「あなたは何故神々が本を使うのか知っていますか?」

急に話題を変えた?

「いいえ。」

「あなたは、なぜ本に署名することでパワーが与えられるのか知っていますか?」

まるで何日も学校を休んでしまって勉強に送れてしまったかわいそうな児童のように感じながら、

「いいえ。」

と、僕は言った。

彼は顔を曇らせた。

「あなたは、神々とそれらの書物についてどれだけ知っているのですか?どれだけ解るのですか?」

僕は肩を上げた。

「あまり知らないです。」

と、認めた。

「それが、あなたに会いたい理由の一つでした。」

彼は僕を見てため息をついた。どうも話は長くなりそうだった。

「あなたは、魔法が何か知っていますか?」

「ノミナルエネルギーです。」

「ガーディアンや魔法、ノミナルエネルギーなどには、多くの異なる用語があります。でも…、あなたは、ノミナルエネルギーが何だか知っていますか?」

「物理的ではないエネルギーであるが、物理的エネルギーに影響を及ぼすものです。」

「数ある中のですね。ノミナルエネルギーは物理的な物に直接的影響を与えることが出来ませんが、物理的エネルギーを操ることが出来ます。しかし、それは宇宙の非物理的対象、例えば、精神や心などを変化させることが出来ます。ただ、普通の人々は、それらのエネルギーを操る方法を学ばなければいけないのですが、ガーディアン達と、少なくとも、彼らの子孫は自然に操ることが出来ます。」

「分かりました。でも、それが本と何の関係があるのですか?世界からパワーを引き出すことが出来るのならば、どうしてガーディアンには本が必要なのですか?」

「それらの本が、世界のパワーなのです。それらは、エネルギーの物理的な表れに近いものです。人々は世界からパワーを引き出すことが出来ますが、それらに署名することによって、はるかに強力に引き出せるようになるのです。例えば、人々がフィルターを通して水を吸っているとイメージしてください。本に署名すると、ストローでフィルターの中を突いているのです。つまりあなたは、早く、そして簡単に魔法を取得できるようになるだけではなく、それははるかに強力なものだということです。ただし、君がパワーを使うように、パワーも君を使っていることになる。宇宙はバランスが取れており、神々でさえもそのバランスは乗り越えることは出来ない。きっとあなたが良く知っているのは、‘全ての行動には、等しく反対の反応がある’という言葉だと思います。それは、魔法でも同様です。そしてそれは、私たちをあなたへと導いたのです。」

「え?僕が何ですって?」

「ディーラン、あなたは特別なのです。各ガーディアンは本を護るために生まれたか、創造されたのです。あなたは、あなたが持つパワーが故にガーディアンとして生まれたのです。だからこそあなたは不運に見舞われているのです。つまり、それは、宇宙がバランスを保とうとしていたからです。今、あなたが地球のパワーと結びついたことによって、あなたが成長するにつれて運は向上してくるはずです。」

「いったい僕のパワーのなにが特別なのですか?」

「進化とでも称しましょうか。あなたは、神々が意図していたものではなく、彼らは好ましく思っていません。あなたは偉大な資産となるか、恐ろしい脅威となるかも知れないのです。そして神々を何よりも心配させているのが、異なる世界において複数の人が予言しているだけでなく、外世界のエンティティがあなたの力を予言していることです。」

僕はそこで彼をさえぎった。

「なんてこった…、僕が今まで聞いた中で、それは一番不可思議なことです。それは、ガーディアン達や神々、ドゥランなど全てをしのいでいる…くそっ。僕はそれらの予言でいったい何を行っているのですか?」

「異なる言い伝えがある。彼らはあなたの事を、パワーのしもべと呼ぶ。ガーディアン達はパワーによって創造されるが、あなたはパワーそのもので創造されるという。あなたが異なる世界のパワーを一つにして、神々の間で戦争を起こすと信じる者がいる。また、あなたが世界そのものを一つにして、神々の支配下に置いて生きている者と死者のパワーを指揮すると信じている者もいる。さらに、あなたがヴレチアルと組んで、彼にパワーを与えると聞いたこともあります。でも、そのような言い伝えで共通するのは、あなたが素晴らしいことか恐ろしいことをする力を持っているということです…。あなたが素晴らしいことをしても、恐ろしいことをしても、何もしなくても、全て見られているということです。それらはあなたの選択となります。」

「あなたは、どうして私だと分かるのですか?」

「あなたの父親が言ったからです。彼は全ガーディアンがあなたを守ることを願っていましたが、神々がそれを許すはずがなかったのです。」

「あなたは、私の父親を知っているのですか?」

「はい。彼はとても力のある人でした。彼はあなたが特別だと知っていましたが、あなたと一緒にいるわけにはいかなかったのです。」

「あなたはきっとフェイスブックで凄く人気があるのでしょうね。なぜエドワードは教えてくれなかったのでしょう?」

「誰?」

と、彼は聞いた。

僕はエドワードがドゥランのガーディアンだということを説明しようとしていたが、彼はもしかしたら僕が誰の事を言っているのか分からないのではないと気づいた。

「キロです。彼は今、ディヴィーナのように、新しいニックネームがあるのです。それを周りに広めるのを手伝ってください。」

「なるほど。私が知る限り、彼は知りません。あなたの父親は多くのガーディアンに隠したようです。」

「これから僕がどうしたらいいのか、どうやったら分かるのですか?」

「あなたが知っているとは想定されていません。だからこそあなたには友達がいるのです。私たちは、あなたが友達を選ぶときも悪い方に行かぬよう見守っていました。自分の本能を信じなさい。」

「あなた方、ガーディアン達はジェダイ的すぎです。」

「あなたが何のことを言っているのか分かりません。食べなさい。」

僕はまだ食べ物に手を付けていないと気づいた。この様なことを聞いた後にどうやって食べろと?僕は食べ始めていたと思っていた。ベタベタする茶色いソースの肉は香ばしくて後味が苦かったが、僕は赤黒いソースを食べてみたら甘かった。次のダークブラウンのソースは照り焼きに似ていて、辛くてしょっぱかった。

シノブが僕のことを見ていたので、僕は肉を一切れとって彼女の方に差し出した。すると彼女は口を開け、実害のなさそうな小さい歯が光った。

「わたしだったら気を付けますが…」

と、ナノが注意した。

僕は彼を見て、シノブが僕を傷つけるはずがないと言おうとしたときに彼女は僕が差し出した指をパクッとくわえた。僕は歯の無い歯茎を感じてショックを受けた。彼女は格納式の歯を持っていたのだ。サンドペーパーのような小さな舌が肉を口の中へ運んだ。そして僕の膝に飛び乗り、口の中でお肉を転がしているようだった。

「そんなに熱くないよね?熱い?」

と、聞いた。

彼女それを飲み込む前に1分ほど口の中で転がし続けていた。そして、悲しそうな目で僕を見上げた。

「君が好きなものを見つけようね。君はカラスを食べたことがあるかい?」

「その子はどれくらい前から持っているのですか?」

と、ナノが聞いた。

僕が耳を撫でてあげると、彼女は僕の手を頭でつついてもっと撫でるようにねだった。

「あなたが僕を見つける少し前にこの子に会ったのです。」

彼女は僕の膝の上でボールのように丸まって、僕の手首を尻尾でピシッと打った。

「あなたはそれが何なのか知っていますか?」

「見当もつきません。僕が彼女を見つけたので、きっと信じられないほど危険な生き物ではないかと思います。それに、彼女は時々狂暴かも知れませんが、僕の事が好きのようなので、僕にはそれで十分です。」

と、言いながら僕はもっと串を食べようとしていた。

「きっとキロはそれについて何か言うことがあるでしょうが、それは私の義務ではありません。あなたは、私が言っていることなどを信じますか?」

と、彼は聞いた。

僕は肩をすくめた。

「誰かが素晴らしいことか恐ろしいことをやるという話をあなたが聞いたというのは、確かです。そう言ったことは地球でよくありました。それらのことを僕がやると信じるか?全部の世界を僕が支配すると?そして僕が神々の脅威となると?それは、ちっとも信じません。僕は、自分が飼っているいまいましい猫にエサをあげることさえ面倒くさいと思っているのに、なぜそんなにパワフルになろうと思うでしょう?」

シノブはまるで僕が言っていることを理解しているように見て、それが何であろうとも、自分の食べ物を気にしているようだった。

「君は心配しなくていい。もし君にエサをあげるのをあまりにも怠るようだったら、僕を食べてもいいからね。」

と、僕は彼女に言った。彼女は同意してまた頭を下した。

「僕は本当にあまり喋るべきではない。」

「あなたは、あなたに有利な決定を下せない場合のみ、自分のパワーをどうするか決めればいいのです。それはあなたにとって難しいことでしょうし、理解できないかも知れませんが、あなたが人生で間違った選択をしないためにも、あなたはそれを出来ると知っておくべきです。」

「僕はそれを信じていないだけで、否定はしません。そこには違いがあります。僕は運命を気にしません。ただ自分自身の人生を生きるだけです。僕を助けようとする人たちには何の問題もありませんが、その人たちが彼ら自身の価値観や何らかの利益を得ようとして僕を操ろうとすれば、それは問題になります。人々は僕に僕の人生をどうすべきか意見する権利はありません。でも、僕はヴレチアルを倒すためにエドワードとディヴィーナを手伝います。そうして、エドワードの弟子となります。それ以降ことは、僕もまだ決めていないので、誰にも分かりません。分かりますか?」

「私はあなたがまだ非常に若いか、あなたの人生のビジョンはディヴィーナの様にとても楽観的なのかのどちらかだと理解します。あなたはいつの日か、多くの経験を積んで、私たちの誰よりも賢明な人になると、私は思います。あなたが全ての人の人生を選択する前に、あなたがもっと思慮分別に富んでいることを願います。あなたのパワーが増すほど、あなたをコントロールできる人は少なくなりますが、あなたは彼らを支配できるようになります。あなたは、あなたの人生がどのように展開するか選択できますが、あなたが大幅に他人に影響を与えることを覚えておいてください。」

「僕は他人に影響を与えたくありません。」

「あなたは他人を助けたくないのですか?」

「あなたは、私がエドワードと知り合う前に何処にいたか知らないでしょう。僕は最も惨めな仕事をしながら、就職戦線でもあまり見込みのない分野で学位を取得しようとしていました。僕が飼っていた猫はネズミよりも酷いルームメイトだったし、僕を虐待していた母は齢を取ったら僕の所に転がりこむことを期待していたし、ガールフレンドに関しては、電話で別れ話が出来るような関係だった。僕は彼女の事が恋しいと思ったことすらない。僕の人生は本当に成功しているとは言えませんでしたが、少なくともそれは自分自身でした。どうやってその世界で他人を助けるべきなのですか?僕が他人に代わって選択する権利はどのようにして与えられるのですか?」

「あなたは、子供が攻撃されていれば、助けに行きませんか?」

「もちろん。子供は自分自身を守る術がない。それは、違います。」

「では、もし、とある路地で子供を殴っている男を見たとして、その子が彼の子供だったら?何の権利があってあなたは彼を止めますか?彼の子供でしょう?あなたとは関係ありませんよね?」

「あなたの言いたいことは分かりますが、同じことだとは思いません。それに、それは運命とは関係ありません。」

「それは全て運命と関係があります。あなたは父親に虐待されている誰かを知っていますか?」

と、彼は聞いた。

僕は先ず本能的に答えようと思ったが、口の中に食べ物が入っていたので、考えた。

「どうしてあなたはモルドンの事を知っているのですか?」

「あなたは、彼の最後を見ていません。あなたの人生で、あなたに教えてくれる人や導いてくれる人など、多くの人に出会うでしょう。そして、あなたの助けを必要とする人は更に多いでしょう。彼の家族は非常に影響力があり、彼は将来、ドゥランの運命を決定づける困難な選択を迫られることになります。」

と、彼は言った。彼は串の入った箱を閉めた。

「では、私はそろそろ行きますが、その前に、あなたに私の本にも署名して頂きたい。」

「何故ですか?」

と、僕は疑いを隠さずに聞いた。

彼は笑った。

「それは通常の反応ではありませんが、あなたからは他に期待していませんでした。誰かが本に署名すると、その本ときずなを結ぶことになります。どのような魔法を使っても、本が属する世界の影響を受けることになります。本に署名することで、あなたは違ったきずなをその世界と結びます。世界はあなたの魔法に影響を及ぼしませんが、あなたに影響します。あなたは、サインしたそれぞれの本のガーディアンとなるようなものです。

「なぜ私はより多くの本に署名したいと思うのですか?」

「それは、あなたが宇宙と結ばれるほど、あなたがバランスに反しないからです。もしあなたが私の本に署名したら、私はディオスのときと同じように、あなたが危機に直面したときに感じ取ることが出来ます。ディオスの魔法はあなたを助けることが出来るし、あなたはディオスか私が必要としているときに感じ取ることが出来るようになります。」

「でも、僕はエドワードの本に署名しましたが、ドゥランが危険に晒されていると感じません。」

「ドゥランは危険に晒されていません。地球は晒されています。ドゥランはとても強力なので、まだまだ落ちません。地球のガーディアンは最近殺されたので、今脆弱な状態なのです。それで、私の本に署名しますか?」

「僕はすべきでしょうね。でもそれって、僕を更に大きな標的としませんか?僕がより多くの世界と結ばれて、敵が僕の魔法を使えるようになったら、彼らは僕が結ばれている世界の魔法を支配することになるのではありませんか?」

「今あなたはそれを理解しました。それはまさに、あなたが無能だった場合に起こり得ることです。その場合、私はきっと、あなたを私の本に近づかせないでしょう。」

と、彼は言って、自分の本を差し出した。僕は彼が何処から本を取りだしたのか見なかった。

僕はためらいがちにそれを受け取った。まるで急にヴレチアルが僕を見つけて、すぐ横に出現するような感じだった。僕は表紙を開き、数ページめくった。エドワードの本より名前が少なかった。その本で最も一般的に使われている言語をよく知っていて不気味だということに気づくまで、しばらく時間を要した。

「これは、フサルクです!それに、ボビレスもここにある!」

「どうして知っているのですか?」

と、彼は聞いた。

「僕は心理学を選択する前に古代文字関連の何かを学びたいと考えていたのです。」

「おそらく、別の機会にあなたはディオスを訪問したら良いと思います。私たちの技術は地球のそれよりも良いとは言えませんが、私たちの魔法は偉大で、私たちの文化は神秘的です。これを、オープンな招待状と思ってください。」

彼は僕に羽を渡した。それは、エドワードの芯なし鉛筆と同じで、羽にインクは無かった。」

僕はいくつもの署名があるページを見つけ、そこに自分の署名をした。暗赤色のインクが白い紙に書いた僕の丸っこくて非女性的な文字に現れた。僕は本を彼に返し、彼は署名を確認した。彼が見ると、文字の色が紺色に変った。

彼は眉をひそめた。

「ふむ。興味深い。」

「なんですって?」

すると、突然、僕が自分の本に署名した時のように、僕の胸で痛みが爆発した。その時、僕の背中はアーチを描き、体が痙攣し、僕の頭はズキズキして視界は光で満たされた。

僕がエドワードの本に署名した時よりもはるかに酷かった。僕は息ができなかったし、したくもなかった。僕の体は締め付けられるようで、血は熱く、頭は前例がないくらいガンガンしていた。僕は自分の体全体が脈打つのを感じたが、耳元で雑音しか聞こえず、まるでテレビチャンネルが無いところにチャンネルを切り替えたような感じだった。僕は半狂乱していなかった。パニックを起こさなかったし、死を恐れることもなかった。僕ははたして何か考えることが出来たか、全く分からなかった。

僕はナノが僕を起こして座らせているのを感じた。僕の体はとても鈍く、まるで何日も眠り続けた後のようだったが、痛みは消えていた。眩しい光は青い空へと消えて行った。それを遮るのは、心配そうな表情をしたナノの顔だけだった。僕の腕の一部に刺し傷があり、ドゥランの印のすぐ近くにあった。

「このようなことが起こるはずだったか、私には分かりません。もう大丈夫ですか?」

と、彼は聞いた。

「ええ、たぶん大丈夫です。確信は持てないですが、全て機能しています。心拍数はゆっくりしているし、呼吸も普通です。血流で体中がジンジンして変な感じがします。鈍いし、不快です。」

僕は汗でびっしょり濡れていると気づいた。

「僕は…」