僕は暗闇で目が覚めたが、今回は、美しい天使が僕のズキズキする頭を覗きこんでいる訳ではなかった。僕の目は自然に開いたが、乾燥してベタベタしていた。僕は石壁の小さい部屋にいて、唯一の光は僕の両脇でちらついている蝋燭の明かりだけだった。僕はベッドか床に寝ていると言いたいところだったが、それどころか、僕は水より濃いパールホワイトの液体が入ったバスタブの中にいた。ゾッとした。
「気分はどうですか?」
と、ナノが聞いた。
彼は低い椅子に座り、脚をまげてその下に差し込んだ。この不気味な環境で彼はミジイでそうだった様な悪党に見えたが、彼の目には心配しか見えなかったし、彼の座り方は威圧感を与えないように意図的にそうしたのだ。
「何か間違いがあったようです。」
「私が言える範囲では、何も間違っていませんが、でもこうなるとは予想していませんでした。」
「ええ。そしてエドワードは確実に何かが起こったことに気づいていて、彼は今正気を失っています。ディヴィーナはきっと彼に心配をかけている僕に怒っていると思います。」
ナノは眉をひそめた。
「彼が心配するのを良く思わないのですか?」
僕はため息をついて
「僕は誰かに心配されることに慣れていないのです。僕が子供だったらよかったのですが、もう大人ですから。まるで…」
「まるで彼らはあなたが自分自身の面倒を見きれないと思っているかのように?」
「正解。実際に彼らの助けが必要なので、この様に感じてはいけないと分かっています。僕たちは危険なものに遭遇しては右往左往し、これから更に酷くなると思いますが、彼らの助けを必要とする自分を情けなく感じます。」
「でも、キロが君をこの危険の中に連れて来たのに、君は彼に対して怒りを感じないのですか?」
僕は笑った。
「エドワードは僕をくだらない仕事やつまらない日常から引っ張り出してくれたし、さらにその先、将来たどり着く退屈な事務仕事や退屈な家族から救い出してくれた。彼は僕をこの魔法や危険で美しい猛獣の世界へ連れてきてくれた。僕の人生は安全だったかもしれないけど、とても退屈なものだった。それなのに、彼らの視線からたかが2秒外れただけで迷うなんて、ことを更に悪化させる。」
「でも、あなたは私に会わなければいけなかった。」
ナノの笑みはおかしくて、まるで違う人みたいだった。
「さあ、来てください。街を案内します。君が他のガーディアンに会わないように目を離さないことを約束します。」
「ええ、ガーディアンの間でホットポテトのように投げまわされるのは、まっぴらです。それに、僕が何物にも食われないようにしてください。きっとエドワードは僕に最後まで聞かせないでしょう。迷ったと言えば、シノブは何処でしょう?」
「君の小さいノーウェン?あの子は私たちと来ることが不可能でした。それに、あなたが近々戻るって約束したのでドゥランへ帰るのを待っていますよ。」
「僕が何かに食われたら敵を取ってくれる者がいると分かっただけでうれしいです。あと、この入浴液は見た通りの濃い物なのか教えてください。」
「そうではないです。」
「これは、鼻水かなにか!?けっこう濃いですよね。」
彼は笑った。
「君が君の師匠を途方に暮れさせる姿が見えます。さあ、服を着て下さい。」
立ち上がると、その液体は乳液の様な感触でぬるぬるした物ではないと分かり、感激した。僕がバスタブから一歩外に踏み出すと、ナノはベージュのタオルを解いて渡し、続いて服を一式くれた。僕はさっと体を拭き、服を着た。ダークグリーンのチュニックはサテンのようにさらっとしていたが、少し荒かった。パンツは深紅の同じ素材で出来ていた。茶色のベルトもあったが、ベルト通しが無いので、どうしたらいいのか分からなかったから、服の上からウエストに巻いて留めた。
「この素材はいいですね。」
「私たちはいいもの好きです。」
僕は立ち上がって妙な感覚に気づいて驚いた。
「重力が軽い。」
地球の重力を自分がどれくらい軽く感じられるか分からないので、地球と比べることはできなかった。でも、自分がドゥランにいるときよりも少し軽いことが分かった。
「それは私がドゥランを訪問するときに嫌うことの一つです。あなたのブーツはバスタブの横にあります。急いでください。」
僕は急いでブーツをはき、廊下へ向かったナノの後を追った。その通路は岩を掘ったもので、ブロックを積み上げたものではなかった。しかもどっしりした一つの岩だった。
「私たちは地下にいるのですか?」
彼に追いついたときに聞いてみた。
「はい。街全体が地下にあります。この地域は大半の人には住めない場所なので、全部の町がそうです。」
「私たちはドゥランの人たちのように賢くはなかったのです。」
と、彼は謎めいた感じで答えた。
「私たちは、手遅れになるまでお互いに戦うのを止めなかったのです。以前、外の世界はとても美しかったのですが、今は砂漠以外の何もありません。私たちはそれを何とか修復しようとしていますが、土地にも一部の人たちのように抵抗力があります。」
「何を言いたいのですか?」
「一部の人々は外の砂漠を以前の様に美しい場所にしたら、再び争いが起きると考え、反抗するのです。」
「戦うのを防ぐために戦うのですか?」
「その通り。」
僕たちがコーナーを曲がると、山のような男が近づいてきた。彼はヒューマノイドだったが、背丈が少なくとも2メートル以上あってエドワードの脂肪ではなくて筋肉が2倍くらい大きかった。ただそのバカでかさが気になったのではなかった。僕が知っている大男たちの経験からすると、彼らの多くは体力に優れているが、能力に欠けている。
彼がチェーンに繋いで引っぱっていた若い女性を見ると、僕の推測があっていることを裏付けた。彼女はダークブラウンの長い髪にライトブルーの目が青白くて丸みのある柔らかい感じの顔をしていた。彼女は怒りで唇をしっかり噛んで頭を下げていたが、目には恐怖が浮かんでいた。僕はトロールが女性を好きなようにするために洞窟へ引きずって行く場面を想像した。
僕は女性を見ながらナノの袖を引っぱった。
「彼は彼女に何をしているのですか?」
と、聞いた。
「彼女は囚人なのだ。」
と、彼は答えた。
ふと、僕は話していけないことを思い出し、彼はそのダメージをコントロールしようとしているのか、自問した。
彼はただ笑って
「心配しないで。ディオスは、外国人にも利用されている。」
「どうして彼女は囚人なのですか?彼女は何をしたのですか?」
ナノはその山のような大男にアラビア語とゲール語が混じったような言語で話しかけた。彼の声は穏やかで、深みがあって、注意を要求していた。マグスの様だった。彼は疑わしいしかめ面で僕の方へ振り向いた。
「彼は、王の殺人未遂に関わる情報を彼女が隠している疑いがかけられているそうだ。ディオスには9つの都市があり、それぞれに王がいる。上級王が全部の都市を支配しているが、皇帝のように直接的にはかかわっていない。」
僕はもう一度女性をよく見たが、その眼に再び恐怖を見た。そこには罪の意識や怒りは見えなかった。
「ナノ、彼女が罪を犯したのは確かですか?」
と、聞いた。
ナノが再び大男の方へ向いたので、その女性は奇妙な視線で僕を見た。彼女は希望を持ったようだ。
僕が投げかけた質問と同じ質問をナノが見張り番にしている間、その女性は僕の腕を掴んだ。パッと見、彼女の手かせは物をつかめないほどきつくなかったようだ。僕はほんの一瞬驚いただけで、その後僕の心は彼女の感情でいっぱいになった。強い感情だったが、自分の感情と間違うようなことは一切無かった。彼女の恐れや絶望と新たな希望を感じることが出来た。彼女の全ての感情を感じることが出来たが、罪の意識や悪意は一つも感じることは無かった。誰かを傷つけるための動機やおそらく正当な理由と思える動機もなかった。
見張り番が遠ざけて膝をつくように引き戻し、更に痛みを与えるために手かせと引っ張ると、それらの感情は消えた。
「止めろ、彼女は無罪だ!」
と、僕は怒鳴った。
見張り番は僕を無視したが、ナノが何か叫ぶと彼はすぐに放した。彼女の痛みの表情は和らぎ、再び彼女と視線が合った。見張り番が怒った様子で何か言い、彼女は僕から少し離れた。
「ナノ?」
「彼は彼女が触れると、その人と感情や記憶を共有することが出来ると言っている。彼女が君に触れた時にそのようなことをしたのですか?」
「彼女の感情を感じることが出来た。それらは信用できるものですが?本当の感情を押さえて他の感情を送ることはできるのですか?」
彼が見張り番に聞くと、彼は不思議そうに答えた。
「いいえ。」
と、ナノは答えた。
「では、彼女の言っていることは本当だ。彼女は悪意など一切見せていない。彼女がサイコパスでない限り、怒りや憎しみ、決意などがあるはずです。彼女からはサイコ的な感情さえ感じなかった。唯一感じ取れたのは、恐怖や怖れと希望です。」
「あなたはそれが分かると確信持てますか?彼女は人間ではありません。」
「神々は全員同じモデルを使っていると信じはじめました。チャンスを与えてあげてください。彼女の言い分を私に聞かせてください。お願いします。」
ナノは3秒ほど迷ったようだが、見張り番のところへ戻って彼らの言語で話した。その女性は僕の手をとったが、見張り番が遠くへ引き戻した。どうやら彼は僕のお願いに満足していないようだった。ナノが冷静にもう一言彼に伝えると、大男のしかめ面は、不安そうなしかめ面に変った。
彼は彼女の方へ振り向き、見張り番が手かせを外している間、笑って見せた。彼女は再び引っぱり戻されるのではないかと恐れながら手を差し出し、僕は彼女の手をとった。その直後、僕は目の前が眩むにつれて落ちる感覚がして、次のシーンが見えた。
全てが緑っぽかった。僕の脳は半眠しているようで、何が現実で何が現実じゃないのか分からず混乱しているようだった。まるで船の中でエドワードが教えてくれたα状態のようだったが、今回は誘導されているようで、薬物の影響下にあるようだった。僕は岩壁に囲まれた全く違ったところにいて、動いているようだった。
続いて声が聞こえたが、集中できなかった。ある部屋に入ろうとすると、大きな男が2人見え、彼らは小声で話していたが、何か放送されている声もしていた。彼らは彼らの母語で話しており、言葉は分からなかったが、何を言っているか分かった。
大きい方の男がもう一人の男が全てを台無しにするところだったと言って侮辱していた。僕はドアの後ろに隠れ、声に集中した。彼らのうちの一人が、王の寝室に繋がる隠し通路のことを話していた。もう一人は獰猛な獣たちのことを心配していた。最初の男が、それは伝説で暗殺者たちはそれらについて良く知っているから、心配無用だと言っていた。
暗殺者?いったいどのような暗殺者が王の寝室に通じる隠し通路を護っている獣の心配をしなければいけないのだ?僕の背後で強い忠誠心を感じた。
僕は怒りの叫びに驚き、僕はドアのところへ戻ったが、その一歩先にあの大男の厚い胸板があった。
すると、落ちる感じが無くなり、僕の視覚が普通に戻った。僕は膝まずいてナノに支えられており、女性は心配そうに僕のことを見ていた。僕の心は元に戻り、彼女の記憶を見て感じたのだと分かった。見張り番たちが王の暗殺に関わっていたので、彼女は誰を信用して話していいのか分からなかったのだ。
僕はゆっくりと自分の足で立ち上がりながら、言った。
「彼女は無実です。」
僕は他に二人の女性を見たが、見張り番とみなした。彼は混乱しているようだったし、捕まるのを恐れていた。
「見張り番の数名がその件に関わっています。彼女は暗殺者たちが王に通じる隠し通路のことでもめているところに出くわしたのです。どの王のことかは分かりません。」
「上級王のことです。」
と、ナノが言った。
「都市の王を殺害しても何も得られないし、彼らは家柄から選ばれています。それは継承されるもので、誰もほしがらない地位です。上級王は、地上の世界の森林化・緑化を急がせるために、近々、膨大な金額を使う許可を下そうとしています。私たちは徐々に海を取り戻すことに成功しています。土地が実れば、多くの人がそちらへ移動するでしょうし、世界は基本的に2分化されます。問題は、地上にいる者に食料や飲料水が手に入るが、地下にいる者は苦労することです。」
「どうして全員地上へ行かないのですか?」
「上級王は、全員が行けるようにしようとしているのですが、土地のために再び争いが始まるのを恐れている者いますし、その一方、地下に残る家族や労働者を支配しようとする者もいるのです。」
「奴隷のように?」
「今では奴隷制度に対する法律もあるのですが、上の土地に戻ると言うことは、法律も地上へ行ってしまうことなので、地上へ出遅れた労働者は奴隷となるでしょう。だから、私はそれを阻止するために時の大半を地下で生きようと考えているのです。私たちは地下資源を使い果たしているので、地上の土地が必要なのです。」
と、ナノは言った。
女性と見張り番は、ナノの邪魔をすることなく困惑しつつも辛抱強く待っていた。
「なんか二重に負けたように聞こえる。肝心の見張り番が裏で絡んでいるとすれば、いったいどうやって王の暗殺を防ぐことが出来るのでしょう?」
と、僕は聞いた。
「我らの王はご自身で身を守ることが出来ます。私たちはただ危険に晒されているということ、つまり、相手は暗殺者ではなく見張り番だと言う情報を提供すればいいのです。それに、王の支配下の見張り番たちだけがその計画に関わっているとは思えません。少人数だが、他の都市の見張り番グループが情報共有のために出入りしているので、それらの幾人かが関わっているのだと思います。」
「それに、どの見張り番が敵なのか分からないので、見張り番を信用して伝えることはできません。」
ナノは同意した。
「この女性はコーの王のいる場所、つまりこの都市なのですが、直接連れて行くべきです。では、上級王へ行く準備は出来ているようですね。」
彼は振り返って女性に何かを言い、彼女は不安そうにうなずいて同意した。彼は僕の方へ向いて
「それで、あなたは?ガーディアンについての全てを見たいですか?」
「民事の問題を解決するところを?」
「私たちは全ての問題を解決します。神々や王、人々など全てに使え、全人類の平和と利益のために努めます。私たちは基本的に問題解決をする者です。神々が飛べと言えば、“はい、ご主人様”と言うし、人々が助けてと言うと、“助けたら何をくれるのだ”と、言う。」
と、彼が言った。
「え?」
「冗談ですよ。私たちは、必要としている人々全てを助けます。あなたはそれをやってみたいですか?でもあなたが希望すれば、ドゥランへ送り届けることも出来ます。」
「それでエドワードは?彼が心配するのでは?」
「彼には彼のミッションがあるし、ディヴィーナは君が無事だと分かっているはずです。」
僕はもっとディオスのことを見たかった。エドワードには自分のミッションがあるとナノが言うなら、僕は彼を信じる。僕はナノといる方がドゥランに1人でいるよりも絶対に安全だと思った。
「いいですよ。あなたと行きます。」
「よかった。王の居宅まで道のりはとても危険だが、忘れられない経験となるでしょう。」
「分かりました。あなたは僕を獣に食わせないと信じています。」
と、僕は言った。
彼は変な表情をしたが、有無を言わずに歩き始めた。あの女性は期待するような目で僕を見た。僕はため息をつき、だんだん暗くなる通路を彼の後に続いて歩いた。女性は僕の後についてきた。
僕たちは10分ほど沈黙して歩いた。
「僕の名前は、ディーラン。あなたの名前は?」
と、女性に聞いた。
「ヴェッ ヒャッジツ ユベン?」
と、ナノが聞いた。
「ダェバ」
と、女性が言った。
「ヒャッジツ ホン?」
と、彼女が僕に聞いた。
発音できるかどうか分からなかったが、多分、ダェバは彼女の名前であって、賭けてもいいが、今彼女は僕の名前を聞いていると思った。
「ディーラン」
「ディージャン?」
と、僕の名前を完全に違った発音で言いながら、彼女は聞いた。
ナノが笑い始めた。僕は、もっと酷い呼ばれ方をしたことがあった。
「ああ、だいぶ似ているよ。」
彼は思う存分笑って、やっと話せるようになってから
「ハイはスコで、イイエはスウィヨ。」
と、言った。その後彼はダェバに何か言って、彼女が言ったように僕の名前の発音をわざと間違えて言ったのが聞こえた。
「さあ、これから私たちはコーの一番大きい街に入るところです。ディオスの人々は外国人や異世界の人のことを知っていますが、街によっては不愉快と思う人たちもいます。彼らはあなたを奇妙な顔でみたり擬視したりするかも知れません。一部ですが外国人は病気持ちだと信じて恐れている人もいます。それに、人間は戦争に病気を使うと聞いていますので、もしあなたが人間だと分かったら天然痘にかかっているような扱いを受けるかも知れません。」
僕はダェバをよく見たが、僕には完全に人間にしか見えなかった。
「彼らはどうやって僕が外国人だと言えるのですか?」
と、聞いた。
彼の目は、まるで僕が愚かな質問をしたかのように大きく開いた。僕たちは暗い階段に着いて、ナノはためらうことなく上り始めた。ダェバは気長に僕のことを待っていたので僕は彼女が先に行くよう手で合図したが、彼女は笑顔を見せて僕の腕をつかみ彼女と一緒に行くよう引っ張った。
「コキオセット」
そして僕は再び暗闇で女性に混乱させられ、主導を握られた。
その階段は石段で急だったが、やっと一つの街に着いた。薄暗いが人口が多そうだった。その街は昔の石畳が敷かれて高い石の塀のある王国を思わせた。まるで星の無い夜空に開けた街の様だった。その王領は壁に備え付けられたものと全室内に設置された長いポールの上にある松明で照らされていた。廊下や上の階へ通じる階段やドアがあった。開け閉めのときにそれらの多くが店舗のものだと分かった。中を見ることが出来たもののうち、一つは銃器の倉庫で、一つはパブ、そしてもう一つには古本が置いてあった。人々や動物、水が流れる音などの雑音が、この街に古い中世時代の雰囲気を与えていた。
全員人間に見えた。男性の大半がケープ付で厚めの茶色いチュニックを着ていたので、まるで怪しげな旅行者か、例えて言うと、警備員が短い時間であまりにも交代を繰り返すので(着替えるのが面倒で)どっちともつかない軽いボディアーマーを着ているようだった。その一方で、女性の大半はサテンやカラフルなコットンの長いドレスを着ていた。少女たちは女性たちの衣類を真似たような感じで、少年たちはアーミッシュの衣類セットと言えるような装いで、どの子供も清潔だった。
ダェバは僕の腕から手を下へ滑らせ、手を握った。ナノはお互い握りしめた手を疑い深く見た。
「ディヴィーナは自分がいない間にあなたがダェバとベタベタしているのを良く思わないと思うのですが」
ダェバはよく分からないけど心配そうな表情で自分の手を緩めたが、完全には放さなかった。僕は彼女の手を優しく握った。
「僕たちはベタベタしている訳ではありません。彼女は私といて安心しているのです。それにディヴィーナが僕を二度見することはありません。彼女にとって僕は息子のようなものです。」
「彼女にとっては皆子供の様です。でも、それと同時に彼女自身が子供のようなものです。彼女の心はそのように働くのです。彼女は一人の女性です。だから、私たちの考え方や心と比べるべきではありません。悪く思わないで下さい。ディヴィーナには、つながりが必要で、君が信じようが信じまいが、前回彼女にあったとき、彼女は一時も君のことを話さずにいられなかった。あなたは機会を与えるべきです。そして、彼女には絶対に分かってしまうので、あなたが誰にキスするか気を付けてください。」
「女性たちはいつも分かるのでは?」
ダェバは辺りを見回し、心配そうな表情で何か言った。
「スケテ。」と、ナノが言った。
「旅先はまだとても長いので、行きましょう。」
ナノは私たちを幅広い階段へと連れて行った。このエリアは壁に家紋がある巨大な戸口がある一か所を除き、殆ど似たような感じだった。金属でできた家紋の後ろには雄大な翼が彫り込んであった。
扉の両脇に2人ずつ衛兵が立っていた。僕は彼らに調べられ、ナノは僕たちを通すように説得すると思っていた。ところが、扉が開き、8~9歳くらいの少年が走って出てきた。そして、その少年がまるで長い間会っていなかった父親に再開したような感じでナノに抱き着いたので、衛兵たちの動揺は不安に変わった。その少年は興奮して喋りまくり、ナノが何かを話すまで数分かかった。
ナノは僕の方へ振り向いた。
「この子は私の孫のケットです。彼の両親は仕事で忙しいので私が時々旅行に連れ出すのです。」
「初めまして、お会いできて光栄です。」
と、ケットは完璧な英語で話した。そして手を差し出した。握手しながら僕の目は大きくなった。
「僕もお会いできて光栄です。」
「私は彼に英語を含む異世界の言語や文化を教えてきました。」
一人の女性が扉の向こうから出て来て、彼女が近づいてくるとともに衛兵もついてきて、ついには僕たちを取り囲んだ。彼女は落ち着いた感じでナノと話をした。ケットとは逆に、この女性は自然にエレガントで洗練された感じだった。ケットもこの女性も衛兵たちを無視していたが、ダェバは僕の側に立って僕の腕を死にそうにしっかりとつかんでした。
「大丈夫、ナノが彼らの事を信頼しているならきっといい人たちです。それに彼はエドワードを恐れているので、エドワードが今まで苦労して護ってきた僕を死なせるようなことをしたらきっと彼を捕って食うと思います。」
「私はあなたの師匠の怒りを恐れていません。ディヴィーナが怖いのです。」
と、ディヴィーナの方がもっと恐ろしい物の様にナノが言った。
「それに、彼女はあなたが何を言っているか分かりません。彼女は英語が話せません。」
「分かっていますが、彼女は僕の落ち着いたトーンが分かるでしょう。」
「あなたが何処へ行ったとしても、ペットや友達を手に入れたりしたら、キロはあなたをキャビンに閉じ込めて二度と出してくれないでしょう。あなたがノーウェンを持っているのを見たらきっと卒倒すると思います。それに、あなたが女性を連れて戻ればディヴィーナが卒倒します。」
「僕は女性やペットのコレクションをしている訳ではないので、心配ありません。それにシノブは子猫のように無害です。」
ナノが大笑いしたので、女性が驚いて一歩引いて、ケットはどうしたらいいか分からないようだった。
「無害ですって!それは愉快だ!あなたはキロにそう言うべきです!」
「エドワード。」
「まあ、どうでもいい。マイ、ケット、こちらはディーラン。ディーラン、私の娘のマイです。私たちはサゴのようにカースト的な称号はありません。」
「ディージャン?」
と、マイがダェバと同じように聞いた。
「“L”の発音を覚えるにはかなり時間がかかります。ケット?」
「デァーレン。」
「それはとても良いですね。」
と、僕は言った。ケットは嬉しそうに笑った。
「英語には私たちを悩ます音が沢山あります。」
と、ナノが言った。
「あなた達は古代ヘブライ語が上手そうだと感じます。でも、ヘブライ語には“L”の音があります。」
「私たちは異世界の言葉も学びますが、全く知らない音もありますし、多分自分の脳が自分の知っている音に変えようとするのです。それはガーディアンの特色なので、あなたが様々な言語を覚える助けになると思います。」
ダェバが彼に何か聞いたが、マイが彼女の腕を捕まえた。ダェバは僕の腕を更に強く握ったが、マイが放さなかった。
「いったい何が起こっているのですか?」
と、ナノに聞いた。
「ダェバは何が起こっているか尋ねていたのだが、マイが王の所へ連れて行くと言っているのです。私はこの状況についてマイに少し説明したら、ダェバが聞いたことを王に言うまで待っていてほしいと言ったのです。しかし、ダェバは王が自分の言うことを信じてくれないと思っています。」
マイは諦めてダェバを放した。
「でも、王はあなたが言えば、彼女の言ったことを信じるのですよね?」
「しかし、彼女は私に言った訳ではない。私は2人の事を信じるが、彼女はあなただけに記憶を見せたのだし、彼女が王に触れることは許可されません。王が信じるかどうかは、地球のガーディアンであるあなたの発言にかかっています。あなたは、自分のために王の助けを求めようとはしていませんし、ただ情報を上級王へ伝えるまで彼女を守っているだけです。」
「彼女を一緒に連れて行ったらどうですか?」
「チスは簡単な旅行ではないのです。」
「でも彼女はそんなにデリケートな小さい花でもありませんよ。」
ナノとマイは扉を通って中世のお城のようなところへ導いた。内部は高い天井で開けており、驚くほど贅沢なガラスのシャンデリアが吊るされ、電球ではなく蝋燭で照らされていた。天井や壁は石で出来ていたが、床は黒っぽい木材で出来ていた。
僕たちは使用人と思われる人たちに迎えられ、彼らは僕たちを大きな木のテーブルが置いてある更に大きな部屋へと通した。ずっしりとしたそのテーブルは粗塗りの石で覆われ、主婦がうんざりしそうな金属製の食器が置かれていた。銀のドーム型の蓋をかぶせられた数々の皿は、ドゥランでケバブを食したのが最後だった僕のお腹を鳴らせた。旅行は胃には過酷だった。
「私たちはディナーに招待されているようです。」と、ナノが言った。
「ディナーは何で構成されていますか?」
「主にパンや野菜、果物と魚のグリルです。」
「ヘルシーな様ですが、お腹が空いているので食べます。」
と、僕は言った。僕はどうやってそれらのものを地下で生産できるのか疑っていたが、魔法を使っているのだと想像した。
僕たちは座り、ナノが片方にいてダェバがもう片方にいた。彼女はもう捕まらないだろうと安心したのか、やっと僕の腕を放した。テーブルには他に12名ほどの男性や女性と子供が数名座っていたが、誰も彼らより先にその恵に手を付けなかった。料理はあまり贅沢なものではなかったが、地球外の料理であっても僕の前に出されたものは全て完食できるくらいお腹が空いていた。
マイと一緒に男性が室内に入って来て、二人は退屈そうにしている女性にしきりに話しかけているケットと合流した。その女性はマイに作り笑いを見せ、マイも彼女と同じように冷たくて計算高そうな笑みを返した。彼らが座ると、マイは男性に僕とダェバを指し、彼は静かに彼女に合図をしてから僕をじっと見つめた。
「ナノ。あの人は僕の頭を切り取りたいようです。」
と、囁いた。
「ええ。彼は王のクンで、何時もあのような感じです。」
「彼は自然にあの熾烈な表情をしているのですか?」
「いや、彼はみんなの頭を切り取りたいだけです。」
「では、彼は何故善人なのですか?どうしてあなたはダェバをここに連れて来るほど彼の事を信用しているのですか?また、どうして彼はあなたの家族と一緒にいるのですか?」
「彼はマイの夫です。それは彼がいいやつだと言うことです。私の娘は不適切な男であれば結婚していません。」
ほとんどの父親は、片手にショットガンを持ちながら真面目くさった顔で自分の娘のことをこのように言わないだろう。もしかするとここの文化では、若い女性たちはとても賢くて責任感があって不良少年に興味を示さないのかも知れない…。でも、真面目な顔を維持できないものは?
王が自分の皿に料理をよそって、その次に奥さんの皿によそうまで、皆静かに待っていた。彼が愛しい人を労わるための時間を取っているのは普通に見えたが、我慢して見ている大人たちやお腹をすかしているのに何も残してくれないのではないかと恐れる子供たちは、彼の動き一つ一つを食い入るように見ていた。やっと全員それぞれに手伝い始めた。マイはケットの皿に料理をよそい、彼の顔が緑になるのではないかと思うくらい野菜を入れた。多くの親が自分の子供たちの皿に料理をよそっていたので、ナノが僕の皿に近づくのを見て、僕はさっと取って、自分でよそった。
僕がブルーベリーと思って取ろうとしていたものを、ナノが止めた。僕はそれにアレルギー反応を起こすとディヴィーナに聞いたらしい。それの代わりに彼は、どう見ても植物性ジャーキーにしか見えない何かを強く勧めてきた。僕は安全そうなパスタやパンと魚にこだわった。
魚はとても乾燥していたので、僕はパスタが入っている赤いソースにつけた。それを見た5~6人の大人が笑い始め、子供たちは楽しそうに叫んで自分の魚をつけはじめた。ナノは何の騒ぎか確かめるために見て、うなった。
「僕は今回何をしたというのですか?」と、憤慨した。
「あなたの世界で非常に凝っていて礼儀正しい食事とはどのようなものですか?」
と、聞いた。
「キャビア―、メカジキ、神戸牛…」
「では、あなたは誰かがそれらのいずれかをケチャップに突っ込むのを見たらどう思いますか?」
その点、親たちは笑いを失い、子供たちが(ソースに)突っ込むのを止めさせようとしていた。
「私はあなたを王の家に連れて来たのに、あなたはその家族構造の秩序と権威をぶち壊したのです。」
「家では、子供たちが親に向かって食べたいと叫ぶ食べ物を作っていました。」
僕はそのこと自慢したいわけではなかったが、ファストフードで働いていたことに罪悪感に襲われた。
「子供たちの大半がケチャップにつけさえすれば、虫でさえ食べかねない。」
「地球のあらゆる文化で虫を食べると、ロネスから聞きました。」
「まあ、スコットランドの料理は、“食べられる物なら食べてみろ”という感じで、言わば挑戦的なノリがベースになっています。中国人の友人は、彼らは足があっても唯一食べないのは椅子だと言っていました。」
「どちらが言っていることにも、問題はないと思います。もちろん両文化とも、自分たちの持っている資源を有効に活用する価値を理解しています。私たちが初めて地下へ移動したときに、どのようにして生き残ったか、あなたには信じられないかも知れません。」
僕は皿を遠ざけた…、そして降参して食事を終えた。
まもなく二人とも食事を終え、出かける準備ができていた。ナノはダェバが滞在することについて王と話に行った。マイはそれについてあまり幸せそうではなかったが、彼女の夫が僕に近づいてきた。彼は彼の言葉で話しかけ、その声は深みがあり明らかに僕を威嚇している態度だということが分かった。
「私が通訳しますので、彼にあなたが何を見たか話してください。私の義理の息子は外国語を学ぶほどかしこくも賢明でもありません。」
と、ナノが言った。
僕は王に向かって出来るだけ友好的な笑顔を浮かべ、ナノへ言った。
「ここで権力を持つ者はバカだと知ることが出来てステキです。故郷のことが懐かしく思えます。ダェバは2人の巨大な山のような男たちに偶然会うまで廊下をさまよっていました。彼らは低い声で何かについて議論していたのですが、大きい方が小さい方の男が彼らの計画を台無しにしたと言っていた。ダェバは隠れるためにドアの影にしゃがんで耳を澄まして聞き続けていた。すると、彼らは、王の寝室に通じる隠し通路と暗殺に関することを話し始め、小さい方の男が恐ろしい獣の事を言ったが、もう一人の方がそれは伝説だと言った。そして、ダェバは見つかって捕まった。」
ナノは通訳し終え、王は僕をじろじろと見つめてにらみ倒した。僕は相手が王であっても何も間違ったことはしていないので、彼をしっかりと睨み返した。
最後に、王はどなりつけるように返事をして離れて行った。ダェバは微笑んで僕にハグをして頬にキスをした。彼女は美しかったが僕のタイプではなかったので、彼女に別れを言うのは容易だった。ナノが僕たちを外へとガイドした。
僕たちは2つの大きい木製の扉に着くまで街中を数分歩いた。両脇にそれぞれの衛兵たちが立っていた。ナノに敬礼し、扉を引くと、そこには大きな洞窟の入り口が現れた。歩行者が走って近づき、おじぎをして、うやうやしく話して松明を渡し、その後、布を運んでいた女性たちを手伝うために走って行った。
「意味が分からない。」 と、僕は言った。
「彼らはあなたが地球のガーディアンだということを知ったようです。まあ、そんなに驚いていません。」
彼が歩くペースを落とすまで10分ほどかかったが、それは足元が悪くなったからだった。
「あなたの幼少期について聞いてもいいですか?」と、尋ねた。
ナノは肩を上げ、
「もちろん。」と、言った。
「あなたのご両親はあなたがガーディアンになる運命だと知っていましたか?」
彼は複雑な表情をした。
「それは、分かりません。なぜならば、全てのガーディアンは生まれたときに両親から離されるからです。キロ…、つまり、エドワードとロネスは例外だった。彼らはサゴに生まれ、両親が殺害された後にガーディアンとなったのです。彼らは、他のみんなの手本となりました。全ガーディアンは、神々の力をもって生まれてきます。その一方であなたは、神々が望んで創造されたわけではなく、あなたが持っているパワーがゆえにガーディアンになったのです。
「でも僕が本に署名したのは数…」
「ディーラン、あなたはガーディアンになるために生まれたのです。ただし、あなたが本物のガーディアンになれなかったのは、既にロネスが地球のガーディアンとしていたからです。それであなたのパワーは本に署名するまでの間、制限されていたのです。
「誰によってですか?」
「特に誰かが制限したわけではありません。神々はあなたがきっと死んでしまうと思ってそこまで気にしなくていいと思っていたようです。あなたは、彼らが作ったものではないため、自分のパワーを持て余すだろうと考えていたわけです。だから、彼らは予言が忌々しいと思っていたのです。しかし、君は生き残ったし、彼らの一番強力なガーディアンなのに、彼らが創造したものではないので、余計に怒っていると思います。」
「それって、ちょっと…」
「エキセントリック?」と、無垢な感じで聞いてきた。
「ありがとう。でも、ガーディアン達が両親から引き離されるならば、彼らは誰が育てるのですか?
「エドワードがそれをあなたに説明していないとは驚きですが、全員僧侶によって育てられます。」
と、彼は言った。
それは、僕が期待していた答えではなかった。
「宗教的な僧侶ですか?」
「全ての人が何かしろの宗教レベルがあると思います。神々は、適切な倫理観や似たような教えがある宗教から数名の僧侶や神父を選ぶのです。それらの教育をしてから、生まれたばかりのガーディアンを預けるのです。
「でも、ロネスとエドワードはドゥランに残りましたよね。」
「彼らは、小さい島の僧侶に預けられたのです。彼らが生まれて間もなく世界大戦があり、それ以前、大きな国には違った宗教があったのです。その僧侶たちは古代歴史から神々の真実や魔法を学び取っていたので、全ての神々が子供たちの預け先として選び、それが恒例となったのです。あなたが現れるまではそうだったのです。あなたは、あなたの家族の元におかれていました。
「正直言うと、そうでない方が良かったと思いますが、僧侶に育てられたていたら、僕の生活や性格がどのように変わっていたのか想像がつきません。きっと日本の仏教の僧侶だったのでは?」
「なぜそう思うのですか?」
と、なのが聞いた。
僕は肩を上げた。
「ドゥランの多くことが、僕の世界の日本という国を思い起こさせることと、仏教と神道は日本の宗教です。」
「もしかしたら、日本にはドゥランの影響があるのかも知れませんね。どの世界にも異世界からの影響を受けたところがあります。」
と、彼はまるでそれが自然な結論のような感じで言った。そして、僕が何か言う前に、続けた。
「私たちは今から沼地に入ります。落ちないように気をつけてください。」
トンネルが巨大な沼地へと開いた。洞窟の地面は苔で覆われており、水は深緑になっていた。洞窟の中の唯一の明かりは、水の外に伸びている木々からのものだった。その巨大な沼地には、細い木々が数十本あり、僅かな白い明りを発していた。沼の真ん中には巨木があり、その幹は白く輝き、葉っぱは様々な色を発して輝いていた。
「どうやって渡るのですか?」
「どうやってだと思いますか?」と、言って微笑んだ。
「魔法。」
彼は答える代わりに水を見て右手を上げ、彼の深くて力強い声で命令した。
「ヴァン ヒェット!」
彼の呼びかけに答え、水から両側に分かれて突然石がせり出てきたような感じで、細くてデコボコした危なそうな通路ができた。
「ああ、これは、面白くなりそうです。」
僕はナノよりも注意深くゆっくりと一歩踏み出した。
僕はきっと滑りやすいだろうと見込んでいたが、その通りだった。薄暗い明りよって柔らかく光っている海藻の層があった。ゆっくり歩いて向こう岸につく前に転んだ。ほんの数日前に転び方の技術についてエドワードから数時間のトレーニングを受けたばかりだったので、無様に水に落ちるということはなかった。どっちにしても、完全に通路の上に着地できなくてナノが手伝おうとしていて、僕が足を水の中から引き揚げようとしていると、何かに掴まれた。僕は通路の反対側にしっかりつかまったが、衝撃から回復するまえに水の中の生物が僕の足裏をなめ始めた。
ナノが僕を掴んで遠くへと引いたが、その生物はがっちりと深く食らいついていた。数分の間激しい綱引き状態になり、ナノが勝って僕を通路に引っ張り上げた。僕は振り返ってその生物が何だったのか見ると、ロードオブザリングのゴラムに似たような生物で、渋々と水の中へ戻っていった。
「気をつけてください。」
と、ナノが言った。
僕はまだ呼吸を整えようとしていたので、ただ彼をジッと見た。
「やつは君に悪さをしようとは思っていなかった。きっと一人ぼっちで寂しくて注意を引きたかったのです。それでも、あなたは溺れさせられたかもしれません。」
そこで、もしやナノは少しいかれているのではないかと、僕はふと思った。
「もちろん、溺れることは心配のうちではないのですよね。あなた方、ガーディアン達には何やらおかしいところがあるようですね。」
「あなたは、そのうちの二人と知り合いました。でも、私たちについてまだまだ半分も知らないです。ヴァイダに合ったら分かりますよ。でも、私たちがいかれているって言うのは間違いないでしょう。」
きっと僕は最終的に適合するのだろう。
「僕が食われたり、毒を盛られたり、引き裂かれたりされたら、きっとエドワードがあなたに蹴りを入れるでしょう。」
と、僕は確信をもって言った。
「あなたは、ここでそうされるのと、ドゥランで一人の時にそうされるのと、どっちがいいですか?」
と、彼は聞いて、答えを待たずに歩き始めた。
水中ゴブリンと残るしか選択肢がなかったので、僕は彼についていくことにした。沼地の終わりに別の洞窟の入り口があった。
「松明はどこですか?そしてなぜこの道ではないと感じるのでしょう?
と、聞いた。その入り口からの冷気に鳥肌が立った。ゴブリンたちは後ろに残り、目の前には未知がある。
「君を水から引き出そうとしていた時に落ちてしまいました。ここはアラニシアです。英語で‘蜘蛛の洞窟’として知られています。あなたが蜘蛛恐怖症でないことを願います。」
「僕は恐怖症とは言えません。でも、蜘蛛は嫌いですが、やつらは僕が嫌いな虫を食べてくれるので、彼らの存在はあまり気になりません。」
「今後なるかも知れませんね。」
なんてこった。
「この世界で蜘蛛たちはいったい何をしているのですか?」
「輸入されたものです。ここを出てから説明します。」
そう言って、彼は洞窟に入っていった。彼のその癖にはイラついた。
不気味な古い家に一歩踏み入れ、自分の後ろでドアが閉まってしまう場面がどのような感じなのか、今分かった。ただし、自分の後ろで洞窟の入り口が崩れ落ちるということは想定していなかった!大きな岩同士がぶつかる恐ろしい音は、急に暗闇に包まれたことと洞窟の深さを語るような風が唸る音ほど嫌な予感がするものではなかった。
「驚かなくても大丈夫です。蜘蛛が出ないように洞窟の入り口を塞ぐ必要があるのです。」
ああそうですか、
それって慰めになっているのか微妙だが。
「確かにこの道を行くべきなのですか?」
彼が沈黙して考える間が気になった。
「今あなたに言われてからではなんですが、ここから行くより安全な道はありました。でも、もう手遅れです。」
僕には彼がどこにいるのか分からなかったが、真っ暗闇に圧倒されていて、せめて彼の方向に目が向いていることを願った。
「どこにいるのですか?」
と、聞いた。そして彼が僕の手に触れたので驚いた。
「行きましょう。」
「あなたの手をとって行くのはちょっと…」
「それでは、いいですよ。私の圧倒的な気配についてきてください。
そう言って、彼は行ってしまった。僕はパニックに陥り、彼の後を走って追おうとしたが、頭を守ることもできないまま洞窟の壁にぶつかってしまった。
「そんなことすべきではありません。」
「分かっています!あなたには良く見えるのですよね!?」
「もちろん。」と、彼は言った。
僕は唸った。怒ったオオカミのように唸った。
彼は笑った。
「あなたはまるで怒った子猫のようです!」
と言い、笑い声がどんどん大きくなっていった。彼の頭を叩けるくらい近くまで彼の音について行きかねなかったが、それは更に彼の笑いをさそった。
「全ての蜘蛛が笑い死にしてしまう前に行きましょう。」
「せめて何か…」
僕が明かりを頼む前に、彼は自分の言葉で静かに何かを言った。すると、ナノが持っている木製の杖のような物の先端に和かい明かりが灯った。その明かりは脈打つように大きくなり、杖の周りに彫られている複雑な文字が見えてきた。そして、その明かりは、杖の先についている小さな水晶から出ていることが分かった。
「あなたは杖を持っているのですね。」
と、明るく言った。
ナノは複雑そうだった。
「私は棒切れを持っているのです。」
「そう、魔法ができる棒切れ。あなたは魔法の杖を持っているのです。」
「先端についている石です。どのような石でも、透明な物や鉄製の物でも、魔法の焦点として使えます。多くのマグスは難しい魔術や危険な魔術に集中するために使う石や水晶を持ち歩いています。」
「ということは、明かりを灯すのは難しい魔術なのですか?なぜ懐中電灯などを使わないのですか?」
「懐中電灯とは何ですか?」
と、彼は聞いてきたのを、僕はただ見つめた。
「いいえ、明かりを灯すのは難しくありません。実際にはね。だから私は石を使うのです。私たちガーディアンは常に何かすることがあります。多分キロ…、エドワードが君に説明していると思いますが、あなたの魔法は感情が制御されていないときに発揮されます。それは驚くべきことですが、なくなることはないでしょう。私たちは、それぞれに何か好んでいじる物に出会っています。時がたつと、私たちの魔法の火花は無意識のうちにその‘物’に吸収されていきます。
「そしてその‘物’は信じられないほど力を増していくのですが、それを使って既に克服した魔術や、簡単すぎてつまらなくなった魔術を行っていくのです。私のものは、石です。残念ながらそれにある魔法が人の注目を集めてしまいました。人や獣が訳も分からずにそれを欲しがるようになったので、守りやすくするためにこの杖の先につけたのです。」
「うわー。エドワードはこんなにシンプルな説明をしたことがないです。」
「彼は物の機能や使い方について講義をするタイプではなく、使って見せながら話すタイプです。それに彼は人に考えさせるために物事をはっきり言いません。彼には私よりも多くの弟子がつきましたし、私よりも年上です。」
「彼の魔法の物とは何ですか?」
「カードの束です。彼は誰か強力な相手と会ってその人について知りたいときは、カードゲームを一戦させてもらいます。その一戦と彼らが出すカードによって、彼らがどういう人たちなのかを学び取ります。それを友人たちとの絆をつくるためにも使います。私にはそれが不思議でたまりません。それに私は自分の水晶で遊ばせたりしません。」
僕は、エドワードがディヴィーナと遊ぶためや僕に相手の気持ちを読む方法を教えていた時に使っていたカードを思い出した。
「彼は僕と対戦したことがありません。触れたこともありません。」
「それは変ですね。彼は弟子を取る前に必ず彼らと一戦を交えます。あなたは何らかのカードゲームができますか?」
「ポーカーとゴーフィッシュなら。ところで、ロネスの魔法の物は何だったのですか?」
「知りません。彼から私に言ったことがないし、私も知ろうと思うほど興味がありませんでした。それに、通常はそんなに大事なことではありません。」
「僕にもあるのでしょうか?」
「それはどうだろう。君がそれに出会ったらきっと気づかないし、ある日落ち込んだりしているときにそれを探して、それが君を落ち着かせると分かった時点で、やっとその存在に気づくでしょう。エドワードがストレスを感じている時に君はきっと彼がカードをいじっている姿を見ると思います。さあ、この明かりが蜘蛛たちを怒らせる前にここを出発しましょう。」
奴らの音が聞こえ始めたので驚いた。きっと大きな蜘蛛だ!僕は何千もの目に見られているような気がして、ナノについて行った。洞窟の壁は、普通の洞窟の壁と変わりなかったが、水晶が飛び出ており、それらの多くには蜘蛛の巣がついていた。
約1時間経ったころ、僕たちは広くて小川のある場所に着いた。小川には藻があった。
「明かりがないのに、どうやって藻は育つのですか?」と、聞いた。
「水のおかげです。」
彼はそう言って小川の辺にしゃがんで小さな銀の器を手に取った。そして器を水にくぐらせ、それを持ちあげて僕に渡した。
「あなたにサバイバルの方法を教えたら、あなたの師匠は怒ると思いますか?」
彼の横に足を組んで座り、
「エドワードには僕を生存させておく為に、あらゆる助けが必要になると思います。」と、ドライに答えた。
「では、君に水を飲料水にする方法を教えます。心を無にして水を見てください。」
「エドワードはいつも目を閉じるように言います。」
「それはあなたが目を開けたまま心を無にすることが出来るようになるまでです。対戦するときは絶対に目を閉じないでください。心を無にするのは君にとって簡単だと思うので、今度は、周りの世界をしっかり見ながら空にすることを覚えるのです。この中の水以外のすべての物、例えば、細菌、微生物、異物などを想像して、ある色が輝いていると想像してください。色はどの色でもいいです。どれくらい輝くかについては、自然に起こるので考えなくていいです。もし難しければ、デイドリーム状態になって水の夢を見つつ、その一方でこの器に入って輝いている水のことも考え、目を離さないでください。」
約5分後、ぼくはあの不気味な泉で心をさまよわせた。エドワードがそこの水はきれいだと言ったし、そこで沢山泳いだからだ。もしこの魔法を覚えたら、彼はあの泉でもその魔法を実施してあの水を飲むように言うのだろうか?…幽霊の尿のような水を…うわぁ…
「輝いている!」と、急に言ったが、それは器の中の水が実際に緑色に輝いているのを見る前だった。
「これの色は何ですか?」
「緑がかった色です。」
「いい感じです。緑は自然な植物の色ですし、赤は毒です。赤だったら離れてください。黄色もあまりよくありません。カビなどの部類です。また、黒は腐敗です。本当は良くないと思えるものは避けた方がいいのです。では、これから不純物を取り除くのに少し手がかかります。器の中の水全体にあなたのエネルギーを送り込んでください。そして、紙のようにはっきり見えると想像するのです。そして、それと一緒にエネルギーを取り出すと、不純物を濾過することになるのです。つまり、エネルギーを半防水の膜のようにして使うのです。」
「コーヒーのフィルターのようにですか?」
「私にはそれが何なのか分かりません。」
僕は自分の活発な想像力を機能させ、自分の中に感じるエネルギーを外へミストをスプレーするように流し、それが紙のような有形物を作り出すのを想像した。
「そんなにしっかりしたものが必要ですか?」
と、彼はドライに聞いた。
「紙のような有形物を作り出すのに多くのミストが必要です。」
僕は器の中にその内側を包み込むようにした。
「輝いているのは水ではなく、不純物です。あなたはそれらの輝きを濾過しています。」
僕はコーヒーのエクストラファインフィルターが持ち上がって水を濾過しているところを想像した。その流れはゆっくりだったが、輝きはなかった。そして最終的に水は十分に流れ、フィルターの端を合わせることができた。そして植物の沈殿物などがついた想像上のフィルターを蜘蛛たちがいる暗闇の方へ捨てた。
「よくできました!ま、これもエドワードからはあまり聞かない言葉でしょうね。」
それを聞いて悪い予感がした。
「でも、悪いようには取らないで下さい。彼はとても良い師匠ですし、彼より良い人はいないと思いますが、彼の弟子になるにあたって、今は最も悪いタイミングなのです。」
それは理解していた。
「僕は彼の兄弟が亡くなったことを常に思い出させるメモ書きのようなものです。」
「決してそんなことではないです。彼は二つの世界を守らなければいけないし、あなたの教育もあるし、兄弟をなくしたばかりなので最も悪いタイミングなのです。あなたはロネスの死を思い起こさせるものではありません。」
僕たちは沈黙した。
「では、ヴレチアルについては?それも、現在悪い時期にしている原因では?
「神々は私たちにヴレチアルは脅威ではないと言いました。」
「あなたは、彼らを信じるのですか?」
「そんな愚かなことはしません。そんなことは彼らさえも信じていません。私たちがやみくもに彼らを信じ、彼らの行く手を阻まないように、そのようなことを信じさせようとしているのです。神々の大半がガーディアン達を奴隷のように扱います。私たちに彼らの想定していないひらめきがあると、疑われて閉じ込められかねません。」
「公平なビジネスとは思えませんね。」
「そうですね。でも、幸いなことに私にはパワーがありますし、不死の人生を楽しむことも出来ます。ある日、年を取りすぎたので死にたいと愚痴を言っている老人に出会ったのですが、正直、殴りたいと思いましたよ。」
「それは人生を最大に楽しんでいないからですか?」
「いいえ、ジェラシーです。時には、表面的に若くても年寄りだと感じないようにするのは難しいのです。その一方、自分の実年齢に見合った体を持つこともできますが、それは魅力的でないのです。
「あなたは、どうやら紫色のぞうのビスケット箱よりもぶっ飛んでいるようですね。」
彼は目を輝かせて僕に近づいてきた。
「これから言うことは、ガーディアンの生か死に関わることなので、よく聞いておいてください。私は紫色のぞうのビスケット箱よりもいかれています。私たち全員がそうです。だから、もしあなたが生き延びたければ、あなたもそうならなければいけないのです。」
彼が歩き始めたので僕も明かりを追った。
「それは変です!エドワードはいかれていませんよ!」
「いいや、彼もそうですよ。全員そうなのです。それぞれが、自分の思うようにいかれているのです。」
僕たちは洞窟の中を進み、行き止まりにたどり着いた。ナノは明らかに物理の法則など心配していなそうだったので、僕たちが迷っているとは疑いもしなかった。彼はまるでその壁に気付いていないような感じでその壁をすり抜けて行った。僕は物理的ダメージの履歴を考慮して、前方に手を伸ばしてゆっくり進んだ。残念ながらナノは明かりを持って行ってしまったので、どれくらいの距離に壁があるか分からなかった。すると、彼が僕腕を掴んで思いっきり引っ張るのを感じた。
壁はなかった。
僕たちは大きな岩の中にあって松明の明かりのついた通路に止まった。その一方は大きなダイニングルームに通じ、もう一方は大きな階段に続いていた。僕たちは二度と見たくないような生物に囲まれた。人間に似ていたが、背が小さくてずんぐりとしたその生物は、ヒューマノイドとは似ても似つかなかった。一見、彼らの表皮と甲冑の区別がつかなかったが、それはどうでもいいことだと気づいた。何故ならば、正気な人であれば、彼らを攻撃しようとは思いつかないだろうからだ。彼らの皮膚か表皮は、金属の甲冑と同じダークグレーの鱗でできていた。それらの生物は、僕より約30センチ背が低かったが、それはボリュームでは勝っていた。ただし、甲冑で覆われていたので、その体積が脂肪なのか筋肉なのか、判断できなかった。それらは皆、しかめ面をして、細い口と唇と疑っているような感じの細い眼をしていた。それと黄色の目だったと付け加える。
「これらは、いったい何ですか?」と、僕は聞いた。
「ゴブリン。」
「彼らは何か怒っているのですか?」
「怒ってはいないと思います。どっちかと言うと、正に熱狂的のようです。どこかでトロールがあるのでしょう。これらのゴブリンは高価な報酬をもらって城を守っています。ゴブリンたちはペテン師で、とても貪欲です。もし彼らが融通したとか、いい交渉ができたと思ったら、承諾しないでください。また彼らは全ての王国を騙し、彼らの要求する料金を払わないと、城に出入り出来ません。
「トロールたちは国々の清掃をして安全に保っています。トロールは見つけた宝石を全て国王に差し出します。ゴブリンたちがギャンググループを作ってトロールが見つけたものを奪うために殺したという噂を聞いたことがあります。彼らは底なしの酒豪で、女性が近くを通るとセクハラをする機会を逃さないそうです。」
「どうやら王国は守られているようですね。正気な者であれば、誰もこことはかかわらないでしょうし、彼らから盗むほどの度胸もないでしょう。」
「その通り。」
今に、どうしてナノが上級王の衛兵たちだけが暗殺計画に関わっているわけでないと考えていたのか分かった。ゴブリン達は、失うにはもったいなすぎる仕事がある。
「でも、あなたは王に会うためにどうやって入るのですか?ゴブリン達はあなたがガーディアンだから言うことを聞くのですか?それとも、通り抜けるために魔法を使うのですか?」
「私はどちらかをやってもいいし、王は私の甥なので、このまま進んで彼に会うことも出来ます。」
「素晴らしい。僕は死なないようにしますので、ここに放置して行ってもいいですよ。」
「いや、いや、いや。ノーノー。そういうことはしません。あなたが迷って食われたりすることは、最もあってほしくないことです。エドワードは私よりも強力ですし、もしあなたの髪の毛一本に何かあれば、きっと彼は私をあの邪悪な黒いチビットにエサとして差し出すでしょう。あなたは今私の保護下にいますし、ゴブリンにあなたのお守をさせるはずがありません。」
「あなたは僕が大人だって分かっていますよね?自分で自分の世話をできますし、自分自身に責任を持てます。」
「あなたは半分正しいです。あなたは大人です。しかし、エドワードの弟子であることから、彼はあなたのケアだけではなくあなたの完全なる責任者でもあります。ドゥランの法律の観点から、あなたは彼の3歳の息子だと言ってもおかしくない。」
彼は大きな階段を上り始め、僕は黙ってついて行った。僕は本当に何と言っていいか分からなかった。もちろん、以前はそのようなことで話すのを止めることは無かった。
一番上に着くと、僕は
「僕は子ども扱いされるのに疲れました。」
と、言った。
僕たちは多くのホールやドア、階段のある場所に着いた。階段から真っ直ぐ行くと、いくつかの巨大なドアのセットがあり、その前にゴブリンの衛兵が3人いた。
ナノはため息をつき、僕に注目した。
「あなたは、私たちのいずれかが子供をどのように扱うか見たことありますか?」
「実は、ありません。」
「それでは、どうして私たちがあなたを子ども扱いしていると分かるのですか?私はそうしていませんし、エドワードも子供が怖いので違うし、ディヴィーナも…していませんね。他の方たちがあなたの事をどのように扱っているのかは知りませんが、私は、あなたが事故に巻き込まれやすい若者であって、もし怪我でもしたら、あなたの厳しい師匠に大きな問題を抱えさせることになると思っています。でも、あなたがどうしてそう感じるか分かります。それは、あなたがこの新しい世界にいて、私たち全員があなたの世話をしようとしているからです。でも、なぜ私たちがそうしているかについて考えてみてください。これら全てがあなたにとって新しいことですし、あなたはまだ若い。あなたは子ども扱いされるのが嫌かもしれませんが、いつかきっと懐かしく思うでしょう。私はエドワードのように高齢ではありませんが、曾、曾、曾孫の結婚式に招待された時など、年老いたと感じます。
「あなたは、マグスが何だか知っていますか?それは、いくら勉強しても足りないと気づくほど十分学んだ人です。常に勉強し続けなければならないし、常に成長、変化していかなければならないのです。私はもう既にどのようなどのような人だったか覚えていませんが、現在どのような人であるか分かっているがゆえに、二度と昔のようにはなりません。私の周りで世界が変化し、成長していくのが分かります。人々や考え方、文明…、すべてが生まれ、無くなり、再び生まれてきます。そして私が死ぬことはないでしょう。永遠に年を重ねていくのです。あなたは、まだ若い。出来る限りそれを楽しんでください。」
彼は振り返り、たった今ぶちまけた感情などまるで何事もなかったかのように、ゴブリンの方へ向かって歩いた。
僕は彼に続いたが、ゴブリンたちがドアを開いてくれていることに対し、なぜ両側のドアを開ける必要があるのかと自問した。中に入ると、大きな部屋があって小さなドアが二つあり、衛兵のグループとクラシックな王座に座っている若者がいた。壁沿いにゴブリンが20体ほどいた。赤いチュニックとベージュのパンツを装った30歳くらいの男性が王座の横にいた。王自身が驚きでした。彼はどう見ても16~7歳くらいで、明るめの金髪にダークブルーの瞳と、落ち着きない表情で、僕が想像していた人物とは程遠かった。
少年王にお辞儀をすべきかどうか考えるに足りる間もなく、彼は王座から飛び降りて大きな声で何か挨拶の言葉をかけながらナノの方へ走り寄って、ナノが危うくひっくり返るくらいの勢いで抱き着いた。衛兵たちは動じなったが、王座の横にいた男性が唸った。
ナノと少年がどこの言語か分からない言葉で話し、僕の方へ振り向いて
「ニーラ、彼はディーラン。彼は英語を話す人間です。彼は地球の新ガーディアンとなる。」
「それはティアマトの世界ですよね?」
と、王がなまり交じりで聞いた。
「そうです。」
「初めまして。どうぞニーラと呼んでください。」
と、彼は手を差し出し、僕は握手をした。
「こちらこそ、お会いできて光栄です。」
まだ誰だか分からない男性が王座の横を離れ、ドスドス力強く踏みしめながら歩いてきて、近づくにつれて怖い雰囲気を醸し出していた。そして、あまり気にかけていないような感じのニーラに話しかけた。
僕は、
「ナノ。」
「ええ、知っています。」
その男性は僕を軽蔑するように見てニーラの肩に手を置き、ナノに対して横柄な感じでがみがみ言った。僕は彼の悪意に満ちた臭い、暗殺の臭いを感じた。
ナノはしぶしぶ僕を見た。
「アドレー、こちらはディーラン。」
「何ディーラン?」
と、あざ笑った。
「ただのディーランです。」
と、睨みつけた。
「ディーラン、こちらはニーラの兄、アドレーです。」
「あなたがニーラと親戚だとは想像もしませんでした。きっとあなたは家族の偉大な羊なのでしょうね。」
と、僕は言った。
ニーラはクスクス笑い、ナノは僕とアドレーの間に入った。
「ディーラン、君は外で待っていた方が良いかも知れない。」
と、彼は言った。
まあ、連れ去られて食われるのと、ニーラの兄に対抗するのはあまり違いが無いようだった。
「行きます。」
と、ニーラが明るく言った。
「いいや、君はここにいるのだ。」
と、アドレーが唸った。
「私は行きます。」
と、ニーラは繰り返した。もちろん、自分の言うことが最終決定で、自分のしたい通りすると分かっているようだった。
ナノはため息をついた。
「自分がこんなこと言うなんて信じられないが、ディーラン、彼には気を付けてください。ニーラはあなたよりもトラブルに巻き込まれやすいし、もし彼に冒険しに行こうとでも誘われたら、お願いだからただ断ってください。そして、何度も、何度も、必要であれば、先の尖った大きな物を使ってでも断るのです。」
ニーラはナノの心配をよそに笑って、僕の腕を取って広間の外へ引っぱり始めた。
「来て、秘密の橋の向こうにある大きな火山を見せてあげる。」
ナノが、
「あの火山に近づいてはダメです!」
と、叫んだ。
「楽しそうですね。」
と、僕は言った。扉が僕とニーラの後ろで閉まったとたん、僕たちは笑いだし、面白がっている僕たちを衛兵たちが見ていた。
「火山の事は嘘です。」
「分かっています。では、君は何をしたいのですか?」
「キッチンへ。お腹が空いた。待て!」
と、彼は僕たちについて来ようとしていた衛兵に向かって叫んだ。
「そこにいなさい!いい子だ…」
「君は、単純に衛兵か従者に食べ物を持ってくるように言えないのですか?」
「私は王の食べ物は食べたくない。美味しい食べ物が欲しいのです。こっそり取に行くのです。あなたは、手伝って。」
「何かをレクチャーしなければならないようですね。まあ、いいから案内してください。」
彼は下りて行かずに、別の部屋に連れて行った。こちらの部屋は小さかったが、伝統的なプライベート図書室のような感じで作られており、棚には本が並べてあり、大きな木製のテーブルに暖炉と、その前には快適そうな対になった椅子が置いてあった。窓は無かったが、僕たちは地下にいるので、どこにも窓は無かった。ニーラは真っすぐ絨毯の方へ行き、持ち上げた。もちろん、隠し戸があった。
彼はそれを開け、僕を見て笑い、中へと飛び込んだ。扉は締まり、絨毯は滑って元に戻った。僕はきっと飛び込んだら、どこか骨が折れるか、食われるか、それかまた思いもよらぬ方法で怪我をするかも知れないと思った。でも、ナノの所へ戻ればニーラの兄に殴られるのが、もう一つの選択肢だった。それに、ナノはニーラを見張るように言った。
死へ向かって飛び込んだと思ったが、それとは逆に、何か柔らかいものが衝撃を和らげた。扉が閉まると、僕は暗闇の中にいた。僕は辺りを探ってみたが、古いマットレスの上にいるようだった。ニーラは辺りを探っている僕の手を掴み、引き起こしてしっかりした地面の上に立たせた。
「あなた、ケガない?」
「いいえ、君は?」
「ワタシ、ケガない。ワタシ、毎日落ちる。」
「それはあまり健康的でないですね。明かりはありますか?」
「ワタシ、明かり忘れる。明かり、ない。あなた、明かりつける?」
彼は僕の手を放し、冷たくなった松明をくれた。
僕はすぐに気づき、腕を伸ばして彼が近くにいないか確認した。
「僕はあまり上手くないし、僕たちどちらも事故で君に火がついてほしくないので、下がっていてください。」
「あなたのジョーク面白いね。」
「もちろん。」
僕は松明の先端だと思われるポイントに集中し、船内でやったことを再現しようとした。松明から熱が放たれるのを感じるまで数分要した。それとも、僕は炎に何か別の物をセッティングしているのか?後数分かかって松明は赤々と光り始めた。爆発的に炎が上がると、僕はそれを落としてしまった。
幸いなことに、地面に落ちる前にニーラがそれをキャッチした。
「面白くないです。あなた、火を落とした。地面に火が付く。面白くない。ディーラン悪いね。」
僕たちは畳のような柔らかいカーペットの上にいることに気づいた。その他、室内は、木でできた家の古くて朽ちそうなリビングのような場所だった。
「床に火をつけたくないなら、なぜ君自身が明かりを灯さなかったのですか?君はマグスではないのですか?」
「ワタシ、マグスちがう。ワタシ、効果ない。」
といって、離れた。
彼にはナノの面影があった。
「え?効果ないってどういうことですか?」
と、似たような他の部屋に移動している彼に続きながら、僕は聞いた。
「ワタシは、魔法できない、魔法もワタシに何もできない。」
「つまり、あなたに対して魔法をかけられないと言いたいのですか?」
「そう。血が魔法を殺した。」
「どうやったらそのようなことが出来るのですか?それは魔術ですか?」
「父親暗殺の血で生まれた。神からのギフトです。母は、嫌うね。アドレーも嫌う。ナノは好き。ナノ僕をアイシテル。彼が悪い母から僕を奪って、僕に名前くれた。」
「それは良かった。彼が名前を与えたのですね。それは特別なことです。」
「ワタシに名前くれたとき、ナノ怒っていた。」
「そうですか。」
「友達が良く思ってない。ワタシがナノを罰した。ナノのベッドにかゆくなるものを入れた。彼は王の食べ物を変なものにした。ワタシ、やり返した。ワタシ、あなたを盗んだ。彼が謝るまで、あなたを返さない。
「うーむ。僕はナノの物ではない。僕は、キロ ヤトゥヌスのものです。」
「キロ?彼は良い人。ワタシがナノを罰するの、かまわない。怖くない。ワタシ、あなたに食べ物と飲み物あげる。」
そう言って、彼は別のドアから出ていった。
これから子犬扱いってことか、なんてことだ。
僕は彼の後に続き、細い階段セットを見つけた。彼が松明を持っているのと、通って来た道が分からないので正確に戻ることはできない。今度は部屋の真ん中に大きくて丸い金属製のオーブンのある古いキッチンにいるようだ。壁沿いには大きな木製の風呂と大きなテーブルがあった。
ニーラは僕に松明を渡すと、冷たくなったオーブンによじ登って天辺につくと、木の天井を押し上げ、明かりが入って来た。別の落とし戸だ。彼はそこから出て、
「待て!」と、彼は鋭く囁いた。
約5分後、大きな音と叫び声、そして走る音が聞こえた。ニーラは落とし戸から落ち、彼の後ろで戸が閉まった。僕は落ちてきた彼の衝撃を和らげるために彼の下に入る時間しかなかった…そのため、僕はかなりの衝撃を受けた。僕は衝撃を和らげるために風を操るパワーを使おうとしていたので、僕は驚いた。
何も起こらなかったのだ。下敷きになった僕の体を心配すべきだったが、僕は知る限りの魔術を使おうとしていた。僕のエネルギーは体の中を落ち着きなく渦巻き這い回ったが、僕の言うことを聞かなかった。僕はパニックに陥った。
「僕のパワーが使えない」」
「ワタシ、無効にする。」
僕の上から下りながら、彼が言った。
彼が僕に触れるのを止めると、松明の炎が爆発するように上がり、炎が揺れ、風が強くなった。残念ながら、風の通り道にあった炎を巻き込み、竜巻となってドアをすり抜けて行った。炎の風は僕たちを取り囲み、だんだん酷くなってきた。
「止めて!」
「僕は何もしていない!」
と、僕は叫び返した。辺りは更に熱くなり、僕は息が苦しくなってきた。炎が近づいてきていた。
「止めて!」と、ニーラは再び叫んだ。そして僕の腕を掴んだとたん、全てがなくなり、炎も風もなくなった。
「僕が引き起こしていたみたいです。ごめん。わざとではないのです。」
「あなた、とても強い。感情のコントロールがない。魔術にパニックはダメ。あなたパニックなると、魔術もパニックなる。エネルギーはペットのようなものです。それは、あなた守る、怖い、アタックする。」
炎の竜巻は消え去ったのに、彼は、何故かまだ火がついている松明を手に取った。そして、落とし戸の外の部屋で手に入れた大きな袋を持った。彼は紫色の大きな果物を手に取り、僕へ投げた。
「食べて。」と、彼は言った。
「皮も?」
「そう。全部食べて。皮も食べ物。」と、彼は言った。
彼が言ったことを考慮して、その果物にかぶりついた。リンゴのような歯触りでネクタリンの味がした。彼は小さな瓶から干し肉のような物を取り出して食べ始めた。彼は味見させるために僕に少しくれた。それは干し肉のような味だったが、干し肉にしては柔らかかった。そして、彼が次に取り出したのは、チョコレートバーだった。彼はそれを半分に折り、小さいほうをくれた。
僕たちは面白そうな食べ物を満喫しながら、おそらく30分ほどそこに座っていた。幸いなことに、僕にはそれらに対してアレルギー反応は出なかった。その後、僕たちは本がたくさん置いてあり、壁に巨大な地図がある部屋へ行った。彼は、つたない英語で自国民の歴史、地上で暮らしていたころのことを話した。正直言うと地球の歴史に似ていたが、彼らは人工知能技術や自動車、高層ビルなどを構築するのではなく、彼らは彼らの世界が滅びるまで戦い、最終的に地下に移り住んだ。
「そろそろ戻りましょう。ナノはきっと君の兄と話した頃でしょう。」
「ええ、アドレーは僕を探し回っているはずです。」
「あの、アドレーは…、あまりいい人じゃないよね?」
彼は驚いた顔で見た。
「もちろん。アドレーは僕を6回も殺そうとした。僕、バカじゃない。あなたとナノ、ワタシに知らせるためここへ来た?」
「はい。ある少女が衛兵は君の暗殺を企んでいるということ聞いたのです。ま、対象は君だと、はっきりいった訳ではないのですが、ナノは君のことだと思っています。衛兵たちが君に危害を加えようとしていることを知らせようと思ってここへ来たのです。でも、ゴブリンたちではなく、他の衛兵です。」
「ショックはない。アドレーは、父を、僕の父を暗殺したことを知らないと思っているのだ。」
「それは、最悪だ。それについては、どうするのですか?」
「ナノがアドレーのパワーを取って手伝ってくれる。ナノは証拠を待っている。僕は証拠を見つけるのを手伝う。僕が暗殺を止める。もしアドレーが暗殺者を雇ったら、証拠を見つける。ナノは神様に言ってアドレーを空っぽにする。そして、牢獄に入れる。それで民は永遠に幸せになる。」
「英語が話せないにしては、良い言葉を知っていますね。」
「僕の文法は悪い。新しい言語の良い辞書は無い。言葉を覚えるのは簡単です。では、行きましょう。」
と、彼は言った。彼は立ち上がり、僕を最初の部屋へと連れていった。
「どうやってここを出るのですか?」
彼はロープを取り出した。
「あなた飛んで、ロープ握って、僕は上る。僕に触らないで。火をつけて。」
「う~ん…、どうやって?」
と、聞いた。
彼は僕がまるで変なこと言ったかのように眉をひそめた。
「僕は火をつけたことがない。」
炎にエネルギーを注ぐのを止めるのは知っていたが、松明は持続的なものだった。
「あなたが炎です。あなたは、大きくする、小さくする。それは、教えてもらってない。」
そう言われて、僕は考えた。僕は意識を集中し、エネルギーを集めてそれを炎へと流した。ニーラは即座に僕の腕を掴み、僕のエネルギーを遮断した。
「炎にエネルギー。僕たちは、もういらない。もっとエネルギーで大きくする。」
と、言って、僕の腕を放した。
今回は意識で達成した。熱さを感じ始めるまで数分経っていた。そして間もなく、とても熱くて速いエネルギーだと感じた。それがシャボン玉の中にあるように想像した。シャボン玉が小さければ小さいほど、エネルギーが早くなり、火傷は更に熱かった。それで僕はそれをもっと大きくした。そしてそれを冷たくして、シャボン玉と言うよりも、ゼリーのバブルのようだった。バブルの真ん中にエネルギーの粒子が出てくるにつれてバブルが封じられ、エネルギーの勢いが落ちた。しばらくすると、バブルの中に残っているエネルギーはほとんどなく、僕はそれを破裂させた。目を開けると暗闇の中にいた。
「今度は、飛ぶのだ。」
彼は僕にロープを渡して冷たくなった松明を手に取った。実際に飛び方が分からず、僕が森の中で石にやったようにした。ロープを浮遊させ、それにつかまった。幸いなことに真っ暗なので、自分がどれだけ高いところにいるのか分からなかったので、落ちるのは怖くなかった。僕の手が天井に触れるのを感じたので、エネルギーを減らし、ロープの高さを保つに十分なだけにした。僕は天井沿いに自分を押したり引き寄せたりして、天井の動く部分に達した。ロープにエネルギーを足して、落とし戸を開けて、自分の足で着地した。
ロープの先端を下に垂らし、彼が引っ張るのを感じた。そして、念のためにロープの端をテーブルの足に結んだ。彼が上ってくるのに1分もかからなかった。彼が僕の背中をじっと見つめるのを感じる前にテーブルの足からロープを解いた。
「あなた、火をつける。あなたは、何ですか?」
「君は何を言いたいのですか?あなたは、どのようなマグスも、自分の炎を外に出すことが出来ると言ったではないですか?」
「ワタシ嘘言った。それは、あなたの火じゃない。あなた、とてもパワーある。ガーディアンよりも強い。あなた、物理を破壊する。マグスは冷たいエネルギーを炎に注ぐ、そして酸素を消して、風で火を消す。どのマグスも火をコントロール出来ない。」
「でも、炎はただの熱くなったエネルギーです。」
「いいえ。火は、物理的エネルギーで、ノミナルエネルギーが入ってない。マグスとガーディアンはノミナルエネルギーをコントロール出来る。あなたは、物理的エネルギーをコントロール出来る。あなた、ガーディアンよりもパワフルです。」
「ディーラン、どこにいるのですか?」
頭の中でナノの声を聞くのは衝撃的ではないはずだったが、僕はこのとき既に動揺していた。僕は後ろに転んで落とし戸の中へ落ちた。
再びロープを上げ、ニーラと僕は物理的議論をしている(体をはって喧嘩をしている)ナノとアドレーのところへ戻った。ニーラは僕の腕を掴み、外へと引っ張り出してドアを閉め、続いて大きくドアを叩いてドアを開けた。今回はナノもアドレーも、僕たちが入ってきたのに気づき、喧嘩するのを止めた。
「ちょうどいいタイミングです。私とディーランはこれから発ちます。」
と、ナノが明るく言った。
「何ですって?でも、僕たちはこれから…」
「まあ、あなたは自分が認識しているよりも助けになっているが、もうあなたの師匠のところへ戻る時間です。ディヴィーナの腕の中へ戻すのが早ければ早いほど、私は自分の家族の問題に専念することが出来ます。」
「ディヴィーナの腕の中へ?いいですね。それでは行きましょう。」
「あなた、また会いに来て。」
と、ニーラが言った。それはお願いと言うよりも、要求だった。
「冗談言っているの?エドワードに頼んで、毎週末訪問していいか聞いてみますよ?」
「さあ、頭の中でドゥランのシンボルにフォーカスして下さい。」
と、ナノが言った。
僕はどのようなものだったか思い出すのが難しいのかと思ったが、彼がシンボルのことを言うと、それは直ぐに思い浮かんだ。何度も練習したおかげで、心を無にするのは簡単だった。僕は目を閉じ、そのシンボルだけに集中した。
ドゥランへ初めて行ったときのように、落ちるような感覚がして、無重力、無風で息苦しくなった。
キロ
地球はとても繊細な場所だった。空気はとても薄く、重力が軽くて私のパワーは減少した。その一方、公害と無秩序があった。ロネスは地球のあらゆる場所が未開拓で美しく、文化や宗教の影響で魅力的だと言っていた。見たところ、ロネスとディーランが住んでいたところは、文化的影響や様々な自然資源が剥奪されているようだ。ロネスでさえも、この地が偏屈と憎しみ、貪欲によって行動する人々で満たされていることに不満を言うだろうが、ここがそんなに悪いところならば、私は彼が何故ここに住み続けるのか疑問に思うだろう。
でも、更に当惑させたのは、古い木製の家に似たような場所で見つけたものだった。私の前に階段があり、後ろには空っぽの部屋があった。その家は明らかに放置されており、暗くて冷たかった。
「さて、これが上手くいくとは限らないが、私は少しがっかりしている。」
階段のてっぺんに、少女がいて、彼女の年齢以上のパワーを発していた。彼女の力は彼女の心からどのような子供も締め出してしまうくらい強力だったが、この子は人間味が無く、私は彼女が正気ではないと疑っていた。
彼女の髪と瞳は血のように真っ赤だった。彼女は自分の肌よりほんの少し青白い服をまとっていた。いつの日か少女であったであろうが、今は完全に非人間的だった。生きている人というよりも、悪の化身の様だったが、私はこの体にはまだ人間味のあるものが残っているか知りたかった。
「カードゲームをしないか?」
私はそう言いながら、カードを取り出した。
彼女はせせら笑った。
「私はあなたを殺そうとしているのに、あなたはそれを止めてカードゲームをしようと?」
「いつだってゲームを一戦交える時間はあるはずだ。それに、私を殺してしまえば、カードゲームが出来なくなってしまう。知っているゲームはあるか?」
「スナップドラゴン。」