第十四章

この光景は今まで見たものとは異なるもので、僕は大きくて暗い洞窟にいた。僕の周りにある物は全て光るヒビや欠けが入った石の円柱だった。全てがヌルヌルしているようだ。

僕の肩に重たい手が置かれ、僕が息を吸い込んで叫ぶ前に、もう一方の手は僕を静かにさせるために口を塞いだ。僕を引っぱり、影に隠れるために後ろへ数歩下がったときに彼の臭いに気づき、僕は安心した。エドワードは僕を放し、横の方向を指差した。

僕たちがこの光景の中を移動することが出来るのか、驚いた。

僕たちがいる場所から約メートルの所に、20代の男性がいた。彼の長い黒髪は後ろで結ばれ、彼が来ているダークブラウンのゆったりした衣服と混じっていた。彼はとても白くて痩せており、マントを着せてヘアージェルをつければ、若かりしドラキュラ似ていただろうと思われる。彼のアンサンブルをコンプリートするかのように、彼のチュニックの腰辺りに剣がささったベルトをしていた。その男性はクッションの上に跪き、分厚くて黒い本に何か書いていた。

僕たちの3メートル先で閃光が走り、瞬時に夢から目覚める時の痛みを感じた。目を閉じると痛みはスッと引いた。

夜の冷たい空気と息苦しさがあると思っていたが、それどころか、空気はまだ温かく湿気があった。目を開けると、僕はまだ洞窟の中にいたが、別のエリアにいた。エドワードが僕たちを見えない場所に移動させていたのだ。僕は即座にその男性の居場所を確認し、今その男性はそこに入ってきた人に微笑んでいた。

「この愚か者!」

と、彼女は怒鳴った。あの髪と目の赤い少女だった。

男性は立ち上がった。

「それが君の一番上の兄に対して話す態度か?」

彼は彼女が怒鳴ったことに対して怒っている様子ではなかった。

「いったい何を考えていたの!?」

彼女は男性に近づき、彼に殴りかかろうと拳を上げたが、彼は前腕を掴んで身動きできぬようにした。彼女は数秒戦ったが、彼女は明白に自分の惨めさに崩れ落ちた。

「何故?」と、彼女は叫んだ。

彼女の兄が手を離した。

「私には可能性があったからだ。お前は見張られていたし、シオは地球でみんなの時間を無駄にしていた。私には狩るチャンスがあったので、それをやって、報われた。」

「では、あなたは本当に彼を見つけたの?」

少女は驚くようにして聞いた。

僕は後ろにいるエドワードを振り返って見たが、彼は彼らに注意を注いでいた。

「私がお前に嘘つくはずがない。ヴレチアルはまさに今、シオを迎えに行かせている。それに、彼らはドゥランにいるので、お前の言うことは合っていた。」

彼女は嬉しそうに笑った。

「だからシオに言ったのに。彼はきっと自分を愚かに感じているわ。私たちで…」

「ダメだ。それはシオに任せるのだ。まるで本が地球にあるかのように見せかけるために彼らが何をしたにせよ、それは罠に過ぎなかった。そして、もちろん、彼らは私たちに追われていることを知っている。シオが働くために数時間与えた方が良いだろう。」

「何故?」

「私は彼をアノシイまでつけて行ったことがある。君は幼かったので覚えていないかも知れないが、アノシイで魔法を使うことは禁じられている。彼らはそこで生きることが出来ないのだ。だから、魔法が使えない場所で生活しようと思うノクォディはいないはずだ。」

「それでは、ヴレチアルはただ待つだけなの?」

「そう思わないほうがいい。どっちにしても、ヴレチアルはそんなに忍耐強くないので、人が多いところを出歩かない方がいいだろう。私たちはシオに、自分で本を見つける機会を与えよう。本を手に入れるか、魔法で捕えられるか、抹殺されるだろう。最低でも注意をそらすにはいいだろう。」

「でも、私はヴレチアルのために本を手に入れたいわ。」

「もしお前が失敗したら、ヴレチアルは容赦しないだろう。私としては、お前にシオを見張ってほしいが、混乱は避けてほしい。」

と、男性が命令した。

「十分に離れて見つからないようにすることと、アノシイでは魔法を使わないこと。」

エドワードは驚くほど冷たい手を僕の肩においた。たった今目覚めたが、何の痛みも息苦しさも感じなかった。

 

*         *         *

 

目を開ける前からディヴィーナの甘い香りを感じることが出来た。僕はまだ民宿の庭にいた。ディヴィーナは僕の隣にいて、モルドンが反対側の数メートル先にいた。彼は怯えているようだった。

「大丈夫?」と、ディヴィーナが聞いた。

「ええ。多分エドワードも向かってきています。あなたは、大丈夫ですか?」

と、モルドンに聞いた。

ディヴィーナが訳して「ダイカラ サイ?」と、言った。

モルドンはうなずいた。

「彼らは僕たちがアノシイにいるということを知っています。」

と、僕は言った。

ディヴィーナは驚いていなかった。

「彼らは私たちが出るのを待つはずがない。どうします?」

「エドワードがここに来るまで待って、それから戦う準備をするのよ。さあ、部屋へ戻りましょう。」

彼女は僕の腕をつかんで、軽々と上へ引き上げた。

「彼はいったいどうしたの?」

と、モルドンを指しながら聞いた。

「私はもう彼とも話したわ。彼は大丈夫。ただ恐れているだけよ。彼は私がここへ来るまで、あなたを魔法で温めていたの。」

ディヴィーナが僕をドアの中へと引きいれたため、僕はモルドンに手を振った。その意味を知っているかどうかは分からなかったが、彼は手を振って返した。

僕とディヴィーナが部屋へ戻ると、ディヴィーナは怪しげに落ち着いていた。

「彼らは、僕たちがアノシイにいることを知っています。彼らがどうやって僕たちを見つけたのか、知っていますか?」

と、聞いた。

「いいえ。少し考える時間がほしいわ。」

彼女はテーブルの下から白いタオルを出して僕に渡し、その後ベッドへ行って足を組んで座り、膝の上に手を置いた。彼女の小さいスカートを考慮すると、とても魅力的な態勢だったが、自分の本を守らなければならないという強い意志が、そのほか全てのことを忘れさせていた。

「エドワードはいつここに来るのですか?」

と、僕は髪を乾かしながら聞いた。彼女は目を閉じたまま僕をゆっくりと黙らせた。

そして、僕はやっと、エドワードが自分とあそこにいたという夢の意味が分かった。エドワードの本は危険にさらされたことなどなかったのだ。

「ディヴィーナ?」

彼女は答えなかったし、筋肉一つ動かさなかった。

「ディヴィーナ!」

ドアが開き、エドワードが入って来た。僕は飛び上がり、自分の安堵感を制御する前に部屋を横切ろうとしていた。

「君は大丈夫か?」

と、彼に聞かれて僕はうなずき、彼はディヴィーナの様子を見に行った。

「彼の本はどこにある?」

彼女は瞑想から出て、立ち上がり、自分のバッグから僕の本を出した。

「本は無事よ。」

と、彼女は言って、本を僕に渡した。本を手に取るときに静電気でバチッときたが、僕はそれでも本を手に取った。

エドワードが本に向かって手を伸ばした。

「私が守っていよう。」と、彼が言った。

もし彼が本を二冊とも持っているとすると、ヴレチアルのサーヴァントたちからの攻撃を防ぐものは何もない。仮にヴレチアルのフォロワーたちが全員彼を攻撃した場合、戦いきれないかも知れない。もし、シオだけの場合、本が別々にしてあれば、彼は躊躇して誰を先に攻撃すべきか迷うかも知れない。それに本当のところ、僕は本を手放したくなかった。

「僕は…、自分で守りたい。」と、僕は言った。

エドワードはゆっくりと自分の手を引っ込め、彼の表情は読み取れなかった。

「あなたは、これから私たちがどうしたらいいか、何か提案があるの?」

と、ディヴィーナが聞いた。

彼女は僕に「提案する」ように言っているような言い方をした。エドワードの怒ったような表情から、彼も気づいたようだ。

「私たちはショモジイへ戻る。」と、彼が言った。

ディヴィーナは何か音を発したが、割り込んだ訳ではなかった。

「奴らは私たちがここにいることを期待しているので、奴らがここにつく前にここを出れば、数日の間、私たちがここにいないことに気づかないかも知れない。それに、私は自分のテリトリーにあるチャンスの方が好きだ。ここでは、魔法を使うことによって法的トラブルに巻き込まれる可能性があるし、ここにいる大勢の罪なき人々が巻き込まれてケガをしたり、死んでしまったりするかも知れない。」

「でも、奴らは私たちが誰だか知らないわ。私たちが人々に紛れ込んでいたら区別がつかないのでは?…」

と、ディヴィーナがやんわりと聞いた。

「え?奴らがのこのこ家へ帰るとでも?」

「まさか、奴らは全員を攻撃しませんよね?」と、聞いた。

「なぜそうしないと思う?この人々は奴らにとって重要ではない。奴らは、地球であの獣たちが君を見つけ出すためにやったように、私たちを見つけ出すために邪魔になるものは全て殺すだろう。さあ、もう反論することがなければ、出発しよう。」

彼は、まるで空袋であるように全ての袋を軽々と持ってドアの方へ向かった。僕がベッドの上に無造作に置いてあった楽器を持つと、ディヴィーナが彼の行く先に立ちはだかった。

「あなたは後戻りのできない決断をしているわ。もう少しそれについて考えて。数秒でいいから、止まって考え直して。」

「私はここへ向かう途中で考えた。」

「あなたの決断には、一冊の本だけが関わっているわけではないわ。あなたの本と、彼の本、そして私たちの命もかかわっているのよ。」

「途中で考えてきた。」と、エドワードは繰り返した。

「私たちは奴らに攻撃されるのを待つわけにはいかないのだ。私の武器や道具の全てがショモジイにあるのだ。もし安全な場所があるとしたら、そこしかない。」

そう言って、彼は彼女を押しのけて通った。

「地球もあるわ。」

と、まるでつらいアイデアだと言わんばかりに、目を閉じながら、彼女は提案した。

エドワードが止まった。

「それは、私の身を守る方法を全てなくし、全て君の背に伸しかかることになる。そのうえ、私には武器がない。」

「あなたには多少のパワーが残るし、ディーランは彼の経験からしてとても強力だし、私もそんなに悪くはないわ。それに、地球は彼らが真っ先に探しに来る場所ではないわ。だからこそ、私たちには準備する時間があると思うの。」

そして、彼女は振り向いて僕に言った。

「あなたは、どれくらいに相当するか分からないけれども、彼と同じくらいガーディアンの本能があるわ。」

彼女が何を言いたいのか分かった。彼のその決断は恐れや希望などに影響されているので、僕がどう思っているか知りたかったのだ。僕の最初の反応は、自分が誰の負担にもならず、勝手を知る世界、自分の家に帰るチャンスをつかむことだった。でも、僕はそのアイデアを忘れることにした。今は、ドゥランが僕の家だし、僕はそれに慣れなければならなかった。次の反応は、驚くことに、師匠の側に付くことだったが、それにしても、そのアイデアを消し去った。何故ならば、自分の足でしっかり立たないといけないからだ。3つめは、ディヴィーナの側に付くことだった。それは、彼女の胸の開いたブラウスに説得力があったからだ。エドワードは地球で不利になることを考えながら、僕はどこに行っても不利になることに気づいた。

「どこへ行くべきだと思う?」と、彼女は聞いてきた。

「地球とドゥラン以外の選択肢はないのですか?つまり、他に後8つの世界があるのですよね?僕はナノの本に署名した。ディオスへ行けるかもしれません。」

「ナノはズィールについて忠告してくれた。神が怒っているような世界には行きたくない。」と、エドワードは言い、

「地球よりは良いかも知れないが、私は自宅にいた方が良いであろうと思う。」と、続けた。

「私は地下の敵と戦うのは嫌だわ。」と、ディヴィーナが主張した。

「地中へ行った方が時間を稼げるわ。」

「それでどうにもできないなら、意味がないし、私のパワーも減少してしまう。ショモジイの方がまだ選択肢がある。」と、エドワードが反論した。

「私たちが何らかの準備をする前に攻撃されてしまったら、ショモジイに行っても良いことはないわ。」

「では、別れましょう。」

と、僕は言った。彼らは口論を止め、僕の方を見た。

「ディヴィーナ、あなたは、2冊の本を持って地球へ行ってください。その間に、僕とエドワードはここで準備をします。そうすれば、それらの本は離れることは無いが、せめて遠くにあることになる。」

両者ともそれについて考えた。

「アイデアとしては良い。しかし、私たちが世界をまたいで分かれると、何かにつけて上手くいかない。それに、ガーディアンでない人に本を2冊も預けるなんて、自殺行為でしかない。」

と、エドワードは言った。

それよりも重要なのは、それらをディヴィーナに預けると、彼女を危険に晒すことになる。

「他にアイデアは無いの?」と、ディヴィーナが聞いた。

そしてエドワードが続けた。

「別れるのは悪いアイデアではない。ディヴィーナ、君は彼の本を持って、私は自分の本を持つ。私たちはショモジイへ戻り、私は自分の所で攻撃に備える。その間に君は防衛に必要な備品を自分の居場所で集めるだ。そうして君が彼を地球へ連れて行き、彼と彼の本の安全を確保して戻り、それから一緒に戦うのだ。」

と、彼は言い、ディヴィーナは同意して了承した。

この場合、「彼」とは僕のことだった。つまり、彼の計画では、今回も僕はのけ者ってことだ。

「どうしてあなたは単に本をどこかでガードして、3人で戦えないのですか?必要であれば、僕がおとりになることも出来ます。」

「ダメだ。」

「ごめんね。あなたの落ち込む気持ちも分かるけど、もし君が殺されでもしたら、私たちがどのような気持ちになるか想像してみて。」

と、ディヴィーナは言った。

僕は想像してみた。

「今度は、私たちがあなたを守ろうとして死んでしまったら、あなたがどのような気持ちになるか想像してみて。」

想像してみた。そして、きっと僕の表情に出てしまったのだろう。

「今あなたが出来る最善の事は、私たちの心配ごとを減らし、私たちが戦う間に自分と自分の本の管理をすることよ。それに、私たちの戦いはあなたが想像するよりもはるかに大変なことなの。」

僕はうなずいたが、それと同時に僕の心は暴走した。僕は別なことを考えないといけなかった。考えるのは僕が唯一出来て、得意なことだった。

敵に見つかるまで逃げて僕の本を守るか、エドワードとディヴィーナを助けるために最善を尽くすか。もしロネスが今の自分の状況に置かれていたら、彼は間違いなくエドワードやディヴィーナの身代わりになるためにあらゆることを図っていただろうし、彼の唯一の迷いは、安全性について誰を騙そうと決めるときだっただろう。残念ながら、僕は十分に強力ではないので、それらの本を危険に晒すことはできない。僕はどれが賢い決断なのか分からなかったが、ただ単に、逃げることが正しいとは納得できなかった。

何が起こっているか気づくと、僕たちは既に階段を下りていた。

「ディヴィーナ?モルドンに別れを告げるのに僕のためにテレパシーで話してもらえますか?」

彼女は僕の腰に腕を回し、自分に引き寄せた。

「もちろんよ。」と、言った。

「それで、君のあの小さいストーカーについて、私に何をしてほしいの?」

と、テレパシーで聞いてきた。

僕は振り向いて廊下を見たが、最初は何も見えなかった。すると、もう少し近づいてみると、ガラスの壁を通してあの子が見えた。シノブは中庭にいて、その小さい前足をガラスに押し付けていた。反射的にそこに近づこうとしたが、ディヴィーナの腕がしっかりと僕の腰に巻かれていた。

「彼女は私たちについてくるわ。キロは気が散漫していて彼女に気が付かないのか、彼女の生きる音さえ聞こえるほど偏執的になっているかのどちらかよ。彼女があまり離れるようだったら、連れていくために私のバッグに入れてみるけど、私たちがキロと話すまで彼女と一人きりにならないわ。彼女は隠れようとしているけど下手だわ。」

「君たちは先に行って静かにしていなさい。」

エドワードがやんわりと注意した。

「そしてディヴィーナは魔術で攻撃されようとしているときに、魔法を使うのを止めなさい。」

ホテルを出て坂を下りていくときの静けさは不気味だった。通りにはまだ多くの人がいたが、そのほとんどが年の若い青年たちで、誰も急いでいる様子ではなかった。ここでは話してはいけないと感じた。僕はシノブに気を付けながら行く先をちらっと見た。詳細は分からなかったがエドワードが何か唸った。どうも僕が原因の様だ。僕は前を見てシノブがついてきていることに期待していたし、ディヴィーナが何とかすると思っていた。

都市の境に着くまでそんなにかからなかったが、ここは変わっていた。住宅街に入るのではなく、浜辺のような場所に入った。そこには大きな球体とその前においてある祭壇と小さな木の小屋以外、誰もいなかった。球体の下半分は白く、上半分はガラスだった。

「話さないように。」と、エドワードが僕に向かって囁いた。そしてディヴィーナに「魔法なしで。」と囁き、厳しく注意した。

僕たちは小さな小屋まで彼について行った。すると、ディヴィーナは急に素早い動きをしてリュックのふたが開いた。シノブの銀色でキラキラ輝く目が覗いているのを見て僕はとても嬉しくなった。僕はエドワードが何をするか見当もつかなかったが、それを知る暇はなかった。少なくとも、皆が信じているように彼女がいずれ死ぬべき運命の物であれば、彼女にも戦いの手助けけができるかも知れないし、そうなると、エドワードに彼女を飼うことを認めてくれるだろう。

僕たちは小屋につき、エドワードは殴るように強く3回ノックした。ドアが一瞬開き、ため息が聞こえて、ドアが素早く引かれて音を立てて閉まった。僕より頭ひとつぐらい小さくてとてもデリケートそうな男がその禿げ頭を覗かせた。

「ヤトゥヌス・マル。マダテ。」彼はドアを閉じた。

僕はあっけに取られていたが、エドワードとディヴィーナはそれが普通だと言わんばかり、集中して落ち着いていた。ドアが完全に開く数秒前に女性の声が聞こえ、小さい男がダークグリーンのマントを引っ張って素早く動いた。彼が巨大な球体へ向かって走ったとき、僕は道を開けようとして危うく転ぶところだった。その後、彼は上着から鍵を取り出した。

僕たちは彼に続いて球体の方へ行き、彼はスタンドの前で止まった。そして彼がポディウムに鍵をさすと、ガラスのドームが真ん中から開き、完全に開き切るまで後方へロールバックした。僕を魅了したのは、滑らかで白い下半分の一部分が約2フィート幅のしっかりした階段状に形成されたことだった。

エドワードと小さい男は数分話し合い、エドワードが彼にお金を渡したが、それについてディヴィーナは僕をつついた。僕は平坦な足場が見えなかったので真っ先にそこに入りたいとは思わなかったが、ディヴィーナの前で断ることも考えられなかった

幸い、階段を上がるにつれて、音がしたり、きしんだりすることはなかった。プラットホームはホテルの床のように、固いスポンジのようで、長いベンチと揃えられていた。言われることなく、僕は座った。ディヴィーナはリュックを下し、僕にぴったりくっついて座った。エドワードも合流し、それから数分後、階段はなくなって球体と一体化し、ガラスのドームは元の場所へゆっくりと戻った。

「君が簡単にめまいや乗り物酔いをしないことを願うわ。」と、ディヴィーナが言った。

実はいうと、どっちもあるが、言う必要があるとは思わなかった。

「君は水に着いた瞬間、目を閉じたくなると思うわ。」

急な金属音と不吉な音がして球体は水に向かって傾いた。

水のラインがガラスに当たろうとしたとき、球体は急激に海の奥深くへと潜った。そしてやっと止まった時には完全に海に潜っており、空気ははるか遠くにあった。

これは厄介なことになりそうだ。

僕には原理の想像がつかないが、この球体の船は水や水圧に対処できるようだ。

低いクリック音が静けさを破り、明かりがついた。二つの明かりがジェットコースターのようなレールの両脇にあった。僕がそれを見るために立ち上がると、4フィート先にもう1セット出て来て、不気味な魚の群れを驚かせた。

ディヴィーナは、球体が動き始めるちょっと前に僕を引き戻し、座らせたが、それは前に進んだのではなかった。球体はゆっくりとスピンし始め、次第に速度を上げて行った。僕は目を閉じ、僕たちも前進しているのが分かった。球体の速度は速すぎて、僕たちは座っているシートにしっかり押し付けられた。それは明らかに超高速で前進しているようで、スピニングはわずか10分で速度を落とし始めた。

それが一度止まり、昇進し、再び止まったとき、僕はバカみたいに感じた。上の部分が開いたとき、止まったことを示していたはずだが、気持ち悪すぎてよく分からなかった。

ディヴィーナが僕をつついた。

「もう目を開けていいわよ。」と、言った。

僕は頭を振ったが、直ぐにそうするべきではなかったと、後悔した。

「いや、僕はまだ開けられないと思います。」

ディヴィーナは僕を引っぱり、立ちあがらせた。

「ゆっくり開ければいいのよ。初めてのときは誰もが嫌うのだけど、これが一番早く渡れる方法だったの。」

なだめる彼女の絹のような声は、僕に積極的かつ輝かしい効果があった。僕は目を開け、ディヴィーナに押されるがまま、再び出現した階段の下へと押されていった。僕は思ったよりも目の前に広がるショモジイの森と輝く二つの月には圧倒されず、まるで自分の家に帰ってきた様に感じた。

エドワードが

「そんなに悪くはなかっただろう?」と、聞いた。

「あれ以外であれば、他のどの着陸方法でもいいと思います。」

と、僕はしっかりと地面を踏みしめようとしながら答えた。僕たちは森へ向かったが、その前に僕のひっくり返った胃の対処をするために、ちょっとだけ道を逸れた。どの道を行くべきか決めるのに数分かかり、僕は自分が初めて森へ入ったときよりもきちんと進めていると思った。

驚くことに、木々の間を通り抜けてエドワードの小屋が見えたときには、ほんの数日しかそこでは過ごしていなかったにもかかわらず、凄く安心した。

「急いで。」

と、ディヴィーナが言った。

「ここには、一時間もいられないわ。」

僕が自分の本を渡すと、彼女は森の中へと消えて行った。

「聞こえただろう。さあ、入るのだ。」

と、エドワードが言った。

一度中に入ると、エドワードは荷物を床にどさっと置き、落し戸を開けて中に消えて行った。僕が部屋へ降りていくと、彼のベッドの近くには明かりのついたランプが吊り下げられており、棚を横に押していた。その後ろには棚の大きさの秘密の小部屋があった。

エドワードは、そこから床を引きずる大きな音をたてながら、古くて長いチェストを引っ張り出した。僕は、その箱が開けられる前から、そこには大変強力で危険なものが入っていると感じた。彼はふたを開けて支え、剣が露出した。その剣は、全く驚くべきものだった。形は侍が使う刀の様だった。柄は薄い金属布で覆われており、しっかり握れるように、太くて黒いネットがしっかり巻いてあった。二つのスリットが入った甲手は黒い素材で出来ており、金属なのか、石材なのか判断がつかなかった。さやは、木材の上に黒皮が施してあった。

「さあ、どうぞ。」と、エドワードが言った。

僕は優しく刀を手に取って、温かいことに驚き、鞘から抜いた。刀の美しさは、その刃自体だった。まるで大理石のように反射し、宇宙のように黒く、その刃はまるでパワーのオーラ包み込まれているように、光を寄せ付けなかった。

「この刀はロネスの物だった。彼のため、地球のガーディアンのために作られたもので、私は彼の双子の兄弟なので、使うことが出来ない。刀の刃は、イゼラスというヴァイダの金属から出来ている。ヴァイダのガーディアンがロネスへの贈り物として作ったものだ。この金属は魔法や物理的な攻撃を受けても折れない。これに対して魔法は使えないし、炎によって熱くなることもない。君がこれを持ちあげられたことは、君はロネスがそうだったように、地球のガーディアンとなる運命だったということを、何よりも証明する。君と神々以外はこの刀を長く持ち上げることすら出来ない。」

そう言われても、刀をとても軽く感じた。

彼は振り向いて棚をかき回して何かを探し始めた。僕はエドワードがくれたベルトに刀を取り付けた。エドワードは黒い鞘の短剣を僕に渡したので、僕は期待しながらそれを見つめた。彼が何処に置くべきか言わなかったので、それもベルトに取付け、それは十分に固定された。エドワードは剣と短剣を横に差し、投げナイフをブーツに滑り込ませた。

僕は今回なんの危険も察知しなかった。一瞬、エドワードと一緒に部屋に居たが、次の瞬間、目を開けると何度もヴレチアルを見た部屋にいた。僕の後ろに明かりが灯っており、ヴレチアルが反対側を向いており、彼からは僕が見えなかった。僕たちは2人きりだった。

「やあ。」

と、ヴレチアルが言った。僕は、僕たち以外に誰もいないことを見て、一瞬驚いた。

「座りなさい。」

暗闇から椅子が出てきたので、僕はぶつからないように避けた。それはヴレチアルの正面で止まった。僕は時々鈍いが、馬鹿ではない。僕は座った。

「僕が観察しているのをいつごろから知っているのですか?」

と、僕は思っていたよりも何気ない声で聞いた。

「私が必要だと思う限りの間だ。もちろん私がお前を見ようとでもすれば、本がお前を遠くへ引き離すだろう。そんなことになったら、お前を引き戻さなければいけなくなるので、それは忌々しい。私はただ話したいだけだ。」

「以前には出来なかったのに、僕は今回どうして動いたり、話したりできるのですか?」

「今回は私自身が、お前の地球との繋がりを利用して、お前をここへ呼んだのだ。だから、子供よ、なぜお前は私から逃げているのか話してみよ。」

彼の丁寧さは狼狽させるもので、僕はいつでも逃げられるように椅子の端に腰かけていた。どこへ逃げるかは、定かではないが。

「あなたが僕の本を追っているからです。」

「そうだ。それで?」

「あなたは僕の本やエドワードの本を持ってはいけません。」

「なぜダメなのだ?」

と、彼はまるで想像できないかのように聞いた。

「それらはあなたの物ではないからです。あなたは既に二つの世界を持っています。他の神々にしてみれば、それで十分すぎるのです。」

「私は欲しいし、他の神々と同じくらいの権利はある。実際には、私の方にもっと権利があるのだ。私は他の神々のように世界が枯れて死んでしまうようなことはしない。」

「何が言いたいのですが?あなたはティアマトが地球の面倒を見きれないとでも言いたいのですか?僕はあそこに住んでいたし、文句はなかったですよ。」

ま、多少はあったかもしれないが…

「お前は、お前の世界の人々が世界の生命を吸い取り、お互い殺し合うのが好きか?」

「もちろん嫌ですが、それは彼女のせいではありません。」

「そうではないのか?彼女は世界をコントロールしているのに、全然注意を払っていない。彼女が最後に人間の要望を聞いたのがいつだか、お前に言ったのか?」

と、聞いた。

僕は眉をひそめた。彼は神として重要な事実をいくつか失っているようだ…、ついでに頭のネジもいくつかね。しかし、再び、彼は僕が何処にいるのか分からないようだ。もしかしたら、神というのは、自分の世界の人しか本当に知らないのかも知れない。

「私たちは話していません。」

「私はそうでないと疑う。ティアマトはお前に話しているはずだ。私は彼女が話したが、お前が知らないだけだと思う。それがお前たち、下等生物の問題だ。私は今お前の息の根を止めることが出来るが、お前はここにいるし、私を恐れずにただ話したいだけだ。」

「あなたが、話したかったのですよね。あなたが、話したいだけだと言いました。」

「それはそうだが、多少の恐れがあっても良いのではないか。それはちょっと失礼だと、分かっているだろう?私は上位の者だから、平和であるべきかどうかは私が決め、お前は私が与える慈悲を丁寧に受け入れるべきだ。」

「あなたは、そんなに簡単に僕を抹殺できるのならば、どうして僕が恐れることに拘るのですか?」

「皆はお前の頭に何を吹き込んだのだ?私が抹殺できるからといって、いちいち皆殺しにすれば、誰もいなくなるし、支配することが出来ないではないか。私はお前を抹殺することに全く興味が無い。どちらにしても、君が失礼なことをしない限り、私には本当にどうでもいいことだ。私は、私の事を恐れない者を好ましく思わない。」

「では、私があなたを恐れるようなことをしてください。あなたは、神なのですよね?」

「私はそうしようとしている。地球の人間たちやドゥランのサゴ達は、恐れるべくして恐れるだろう。そして、ティアマトとエロノは直ぐに滅ぼされる。そして、私の新たなパワーで、他の世界も征服する。そうすれば、恐れられる者は私だけとなるだろう。それで、バランスが取れる。」

彼はそこで僕を完全に見失った。冷たい風が渦巻き、僕は自分の体が大きく重く、しびれているように感じた。僕は体を椅子から滑らせ、目を閉じた。

 

*         *         *

 

エドワードが僕を起こそうと、僕の体を揺さぶっていた。僕が座ったとき、息苦しさは感じなかった。

「彼が話したがっていた。」といって、僕は直ぐに説明に入った。

「彼は、ティアマトが僕と話したがっていて、彼がやっていることは善意だと思っていると、確信しました。彼はとても礼儀正しかった。」

「彼は君の脳みそを溶かしていても、礼儀正しいだろう。後で、他に何があったか話してくれ。もし大事なことでなければ、もうここを出なければならない。もしかしたら、それは時間稼ぎだったかも知れない。」

と、彼は言った。

でも、そうではなかった。どうして分かるのかは知らないが、僕は以前から人を読むのが得意だったし、ヴレチアルは、簡単な方だと思った。

「ディヴィーナは君のアパートに着くことが出来ないかも知れないが、私たちもゆっくり出来ない。君はもしもの時に素早く迎えに行けるように、彼女が連れて行ったところで待っているのだ。出来る間に、学習したことを訓練するのだ。」

そして彼は本棚から数冊の本を取りだすために移動した。

「あなたは連れ戻してくれないのですか?あなたなら僕のアパートへ連れて行けますよね…」

そこには、ヴィヴィアンがいるだろう。

「いいや。私はすべきことが…」

彼は沈黙し、僕の心臓もそうした。

「ディーラン…、ディヴィーナがいる所へ行くのだ。」

彼の態勢と表情から、彼は何かを聞いているのだと分かっていた。

「悪い奴らが近くにいるのですか?僕と来て下さい。あなたは一人で戦ってはいけません。」

「私はもう2千年以上生きているし、生まれてからずっと魔術を学んできているので、一人で戦うことも出来る。さぁ、泉へ行ってディヴィーナの家へ行く前にフォローアップをするのだ。彼女は君の本を持っているし、私のように身を守れない。最低でも君の警告が必要だ。」

彼の言うことが正しかった。僕がエドワードを手伝おうと思っても、ディヴィーナは警告が必要だ。

「行きなさい。」

僕は発った。立つのは気が引けたが、行くしかなかった。それに僕はエドワードのパワーが減少しているはずの地球でサーヴァントの化け猫と戦うのを見たので、彼がマグスに倒されるなんて想像できない。

泉へ向かって走るのは容易だったが、それは新しいブーツのおかげだった。僕は自分のやっていること、つまり、エドワードを後に残すことを忘れられなかった。しかし、向こうに着くと僕は困惑した。僕はどっちが泉の「上流」なのか、見当もつかなかった。水はそこにあったが、辺りを見回してもどっちの方向にも山という山は見当たらなかった。僕は秒針の進む音が、耳をつんざくような自分の鼓動の音よりも高く聞こえるように感じた。答えは僕の目の前にあった。ただ、それを利用する方法を見つけ出す必要があるだけだ。

白っぽい髪をした精霊の小さい女の子が、以前座っていた場所と同じ大きな岩の上に座っていた。彼女は足を組んで座り、僕をしっかり見ていた。僕の豊富な女性経験を元にして、出来る限りの魅力をふりしぼって、彼女に尋ねることにした。

「あの、精霊の娘さん?すみません。上流への道を教えて頂けませんか?」

彼女は見動き一つしなかったので、僕はゆっくりと彼女へと近づいた。

「あなたは、ディヴィーナの家の場所を知っていますか?」

彼女が消えた。僕は驚いて一歩下がり、石につまずいて…その少女のところに転んだ。僕が見上げると、彼女は僕に背を向けていたが、そのまま振り向かずに僕を凝視していた。

「名前はなしで。」

と、彼女の口は動いていなかったが、頭の中で囁き声が聞こえた。

「賢いね。」と、別の声が聞こえた。

全体的な状況を言うと、地獄のような不気味さだった。僕の後ろにある森から電動のこぎりのような音が聞こえた。すると、少女は急に驚いた。

「彼が来ているわ。」

そう言って彼女は反対側の泉の下の方をさして、どこかへ行ってしまった。

一瞬、彼らを助けに行こうと考えたが、どうしたらいいか分からなかったし、自分は既に問題を抱えていた。億は立ち上がり、正しい方向へ向かっていたが、急に行く手を阻まれた。

赤い眼の女の子だった。大きな木々に囲まれた彼女は以前見たときよりも幼く、白いドレスを着て髪を黒いリボンで結んでいた。

「こんにちは。お名前はなんて言うの?」

と、悪意のないような感じで聞いた。

僕は小さい子供を扱う経験はあまりなかったが、特に大人しそうな子は、危険だと知っていた。

「お話をしたいのはやまやまだが、僕は戦うべきことがあって既に遅れている。」

「戦いは常にあるわ…、それは私の師匠が本を手に入れたときのことだけどね。でも、あなたは、あなたの本を持っていないわ。」

「どうして君は僕がガーディアンだと分かるのですか?」

「あなたはその匂いがするのよ。それと、インクね。あなたの本はどこにあるの?あなたが言ってくれれば、殺す必要がないわ。」

と、彼女が言った。彼女の声は無垢で、非常に不気味だった・

僕は自分の周りのエネルギーに集中し、次に温度やそれらの差に注意を払った。ディヴィーナやエドワードの温度とは逆に、この子は僕の骨に直接しみるような冷気を発していた。彼女が本当のことを言っているのかいないのかは別として、彼女には善意が全くなかった。

僕は自分の後ろを指した。

「あっちです。あなたはどうして英語が話せるの?」

彼女はまるで侮辱されたようだった。

「英語とは何ですか?私の師匠のパワーによって、私は誰とも通じ、誰のことも理解できるの。」

僕の本は夢の中で訳することが出来たので、なるほどと思ったが、何かが気になった。

「エドワードはどこにいるのですか?」と、聞いた。

彼女は眉を上げ、

「もう一人のガーディアンですか?あなたの本を手に入れるまで、私の師匠のところよ。あなたが協力してくれれば、迷惑であってもあなたともう一人のガーディアンを無傷でこっちに返してくれるように頼むわ。」

「君がそれを守るという保証は一つもない。」

「もちろんないわ。でも、あなたが協力してくれなければ、師匠は堪忍袋を切らして怒って、あなたを罰するために、もう一人のガーディアンを殺すと思うわ。それに、師匠は私に対しても怒るだろうから、私はあなたを罰することになるわ。あなたの脳みそを空っぽにして、あなたが大事にしていること全てを見つけ出して、全滅させるわ。

子供の声でそのようなことを言われるので非常に不気味だった。エドワードは僕に自分の思ったことを守る方法を教えてくれていなかった。

「大丈夫よ。どっちにしても私はあなたそれについて考えていなくてもあなたの記憶を辿ることが出来るので、助けはいらないわ。あなたの愛する人…、ヴィヴィアン。もし彼女のことを既に殺していたら?もし、私があなたに魔法をかけて彼女を殺させたら?それに…、あなたの母親。あなたは彼女のことが嫌いな様だけど、愛しているのよね。それと、ディヴィーナ…。彼女はあなたの本を持っているわ。だから、あなたは実際には必要じゃないのよ。そうすると、私の師匠は私があなたを殺したとしても、気にしないわ。」

それが僕のヒントだった。僕は心を無にしなかったし、目も閉じなかった。僕は自分の中で作り出したエネルギーを素早く一気に彼女へ向かって押し出し、それは彼女の不意を突いたようだ。彼女にノミナルエネルギーを注ぎ込み、彼女の中でエネルギーを熱くした。恐ろしく汚い手だったが、僕は自分の身を守らなければならなかった。僕は一瞬上手くいくかと思った。彼女は大汗をかきながら唸り、犬のように体を振った。僕がいくら熱を送ろうとしても、エネルギーが冷めて、彼女の体から出ていくのが分かった。

彼女が笑い始めたとき、僕は諦めた。

「いい試みだと言いたいけど、それはあまりにも弱すぎるわ。」

と、嫌味を言った。

彼女が右手を上げてから、僕が猛烈な痛みを感じるまで、隠れるところを見つけるチャンスなどなかった。僕はけいれんしながら地面に倒れたが、それは突然終わった。シノブが僕の腕に上がっていたが、痛みが引いた後に感覚がなくなったので彼女を感じることが出来なかった。小さい少女の腕には不気味な噛まれた痕が残っており、その周りは真黒になっていて、彼女は最大限の苦痛を感じているような表情で自分の腕を押さえていた。その黒い色はあっという間に広がり、噛まれた周りの皮膚が溶け始めた。

エドワードがなぜ僕がシノブを近くにおくことに反対したのか理由が分かった。

彼女は悪に満ちていて僕の大切な人たちを殺そうとしていたが、僕は彼女を助けたかった。子供が苦痛を感じているのを見るのは、耐えられなかった。僕は反対側から逃げようかとも思ったが、僕は動くことさえできず、立ち上がって走るなんて出来っこなかった。僕は感覚を失っていたので、自分の周りのエネルギーを感じることが出来ず、魔法も使えなかった。ディヴィーナのためにやらなければならないと分かっていたので、シノブをつぶさないように気を付けながら膝をつかって這いずろうとした。僕の四肢は全く思い通りに動かなかったので、這いずって進むまでに何分もかかった。その間、少女は痛みでずっと叫び、唸っていた。

シノブは僕の腕から飛び降り、少女に向かって威嚇しようとしていた。

僕は唸りながら、

「シノブ。ディヴィーナを探しに行って、彼女を守るのだ。」と、言った。

彼女は僕と少女を見たので、その小動物はきっと僕のことを理解できなかったのだと思った。しかし、シノブは少女をもう一度威嚇してから、彼女の横をすり抜け、ディヴィーナがいると思われる場所へと向かった。僕は少しずつ感覚を取り戻し、ぎこちなく立てるようにまで回復した。

でも、そうすると、その黒い色が広がるのを止め、皮膚が溶けるのも止んだ。骨が見えるまで肉がなくなった肩までの傷を負ったその子を見て、僕は憐れんだ。僕はそのように痛ましい傷を負ったことがなかった。その傷が修復しはじめ、ディヴィーナと僕は危険に晒されていることを思い出した。

一分後、残った噛み痕以外、彼女は完全に回復していた。そして、彼女は僕を見た。「これについては、私の師匠があなたを罰してくれるわ。」

彼女の声は痛みで震えていた。

「彼は殺すよりも酷いことをするわ。今、私自身があなたのお友達のところへ本を取りに行ってもいいし、または、あなたが彼女のところに取りに行けば、彼女を巻き添えにしなくて済むわ。」

僕はどうしたらいいか分からなかった。僕はそう簡単に本を渡すことは出来ないが、彼がディヴィーナを助けてくれるなら…。少なくとも、彼女は何をすべきか知っているだろう。それに彼女の保護を受ければ、少女は通れないかも知れない。

「案内するのよ。」と、彼女が言った。

僕はゆっくりと足を引きずりながら案内したが、彼女は僕よりもふらついていた。シノブが噛みついたことから彼女はまだ回復していなかったので、どうしてディヴィーナから本を奪うのに僕が必要なのか説明がついた。彼女が僕の後ろで苦しそうにしていたことから、彼女が僕を殺すにはあまりにも傷ついて弱っていることが、僕がまだ生きている唯一の理由だと分かった。

僕は泉沿いを30分ほど苦しみながら進み、開けたところに出た。その土地はエドワードの土地と良く似ていたが、家に関しては、男性が所有するものとは似ても似つかなかった。家の周りの芝生はカラフルな野生の花で埋め尽くされており、それらのいくつかは、見たこともないような色だった。キャビンの高さは低く、壁などの高さは180センチ以上なく、レンガで出来ていた。屋根は茅葺の様だった。正面には小さな木の扉と小さな窓が2つあって、横には煙突があった。煙突から数メートルの所で大きな岩が赤いキノコと輝くような青い色のキノコで丸く囲まれていた。なかなか快適で居心地の良さそうな小さい家だったので、ディヴィーナの様なエネルギッシュでエキゾチックな女性がそこで幸せだということが想像できなかった。

「彼女に本をあげるべきではないわ。」

と、ディヴィーナが僕の横に現れて言った。僕は彼女の発言には何か裏があると思ったが、その後、泉の向こう側で忍耐強く待っている少女を見た。

「彼女に皆を殺させるわけにはいきません。」

「それならば、彼女を殺しなさい。」

彼女があまりにも容易に殺すように言ったので、僕は不快に思った。別にそれに慣れていないわけではないが、少女がやったのと全く同じだったからだ。生きるということを真剣に考えているのは、どうやら僕とエドワードだけの様だ。

「僕は人を殺しません。」

「君はガーディアンなのよ。人を殺しに行っているの。さあ、入って。」

僕は何か反論する間もなく彼女は腕を僕の腕に巻き付けて中へと導いた。

「彼らはエドワードといます。あの少女は、僕が平和的に本を諦めないと彼を殺すと言いました。ただし、そうしたからといっても彼らがすんなりと彼を返してくれるとは思いませんが、僕が本を渡さないと彼を殺すと確信しています。」

僕たちが近づくと扉が開き、そしてその後僕らの後ろで閉まった。

小屋の中は衝撃的だった。僕はてっきり小屋に魔法がかかっているのだと思っていたが、そうでもなかった。真っ先に目に入ったのは、部屋の中央におかれている大きな木のテーブルだった。そこには白いお皿や本、果物、パンと見たこともないような陶器類とカボチャやナイフが置いてあった。ナイフはダイニング用ではなく、血を流すための物のようで、そこには地図や蝋燭もあった。火がともった7つの蝋燭のセットの横には、いつの日かサゴのものだったと思われる頭蓋骨が置いてあった。また、テーブルは6脚の椅子に囲まれ、それらはゴージャスな赤い木材でできた椅子で背もたれの横は高く尖っていた。テーブルの上には金属のリングに6つの蝋燭が立ったシンプルなキャンドルが吊るしてあった。テーブルの反対側にはレンガの階段があり、それは5つある本棚のうちの1つの壁代わりになっていた。

その部屋はあまり大きくなかった。14×14くらいだろうか、それにしても外から見た感じより2倍広かった。外に煙は出ていなかったが、暖炉は輝く炎で満たされ、木々がパチパチと音を立てていた。暖炉の左側の棚は瓶や陶器でいっぱいになっていたが、その他の本棚には本がぎっしりと置かれていた。暖炉の上には森の中にいる黒い馬の大きな写真が飾ってあった。暖炉と階段の間には背の高い祭壇のようなものが備え付けられており、小さくなった蝋燭2本と本が開いておかれていた。

テーブルについている椅子の1つにシノブが座っていた。

「君は自分の師匠に希望を持ちなさい。もし戦ったとしても、彼は何とかできると思わない?」

「でも、ロネスは…、エドワードは復讐のために地球でその獣たちと戦いたがっていました。それに、彼が捕まったのはシオに近づくためだとしたら?」

「その可能性はあるし、そうだと思うけれどもそれは彼のやり方よ。彼が自分の本を危険に晒すなんて馬鹿げているけど、彼はもう既に危険な目に合っているので、君を送り込んだりしたら彼は自分自身の怒りを収めるために問題を拡大することになりかねないわ。君は、自分の本を守ることに集中すべきよ。」

「それでも、もし本を渡して彼らの気を散らすことができれば、エドワードの本を救うために何かできるかも知れません。」

と、ねばった。

「君は、ガーディアンだとしても頭がおかしくなったのでは?君は、神々がどのように思っているか、見当もつかないでしょう?それに、神々が君に対してどういうことが出来るか分かっていないわ。」

そして、口を突いて出た。

「でも、あなたは知っていますよね。ティアマト?」と、僕は尋ねた。彼女の眼は大きく見開き、彼女の体の筋肉が一つ一つ強張った。彼女の衝撃は僕が発見したことは正しいという裏付けだった。彼女はずっとそこに居たのに、思いもしなかった。

「なんですって?」

彼女の声はあまりにも優しくて、僕は一瞬彼女が何を言ったか確信が持てなかった。

「あなたは、神々のことを色々知っているし、何かパワーを隠しているし、あなたは完璧すぎる。アラドリンで僕たちが走っていた時も、あなたは一度も息を切らしたことがない。あなたは、アノシイで僕を見つけたし、あなたはエドワードが不信感を持たないように彼の元を去った。あなたが僕の本を手に取ったとき、あの静的感覚があってビジョンがあったが、まるで地球が灯台に照らされたようだった。だからこそ、あなたの手元にあったほうが安全だし、あなたは誰よりも守ることが出来るし、傷つけることはないと思います。それに、僕がガーディアンとなったからには、直接会ってみなければならなかったのでしょう。エドワードは知らないのでしょう?」

彼女はもう僕のことを見ておらず、窓の外を見ていた。

「いいえ。知っていれば君に言っているはずよ。私はこんなに無防備になったことがなかったわ。私はミスを起こしたことがないし、誰も気づいたことがない…彼以外…。」

「ロネス。なぜ彼はエドワードに話さなかったのでしょう

「私が彼に話さぬように頼んだの。彼がその秘密を守り切れなくなったときに、彼はキロから離れるための口実を作るために喧嘩したの。」

「3年前ですか?」と、僕は聞いた。彼女はうなずいた。誰しもタンスの奥に骸骨を持っている(秘め事をもっている)が、彼女の場合、墓場ごと持っていた。

「どうしてあなたは僕を選んだのですか?僕が最もガーディアンに向いていたからですか?」

「ディーラン、運命だったのよ。」

「運命は間違えたようです。なぜでしょぅ?」

「単純に、君なのよ。君が知らなかっただけ。私が君をガーディアンにした訳ではないわ。君は生まれつきそうなの。私は君が生きるのを許しただけよ。」

と、彼女は言った。

僕は僕たちの間にあった距離を縮めたが、彼女は何の反応も示さなかった。僕は信じられないほどがっかりした。彼女は僕にずっと嘘をついていたし、彼女が僕に近づいたのは、第一に、僕を信用していなかったからだ。それしても…、僕は彼女のことをどう思っているか分からなかったし、その気持ちがなんなのか確信できなかった。

「本はどこですか?僕は彼らがエドワードを殺してしまう前に行かねばなりません。」

彼女は渋々と僕の本を自分のリュックから取り出した。実際には僕の本ではなくて、彼女の物だった。

「キロを行かせるべきだと君を納得させる方法はないの?」

「あなたは、彼が奴らに殺されるのを放っておけと?いいえ。僕は行かなければなりません。あなたは、別の本を作ることが出来ますか?つまり、エドワードに近づくために奴らに渡せるような偽物の本を作れますか?」

「いいえ、奴らには分かるわ。彼のところにたどり着いたら、君は何をしようと企んでいるの?」

「分かりません。それに、彼はまだ‘旅をする’手本を見せてくれていません。」

彼女は僕の方へ振り向き、本を差し出した。僕はそれをゆっくりと受け取ったが、彼女は僕の手の上に手を置き、僕にはそれを動かすことは出来なかった。僕たちはあまりにも近くにいて、彼女の体の熱が僕の優先することをぶち壊そうとしていた。彼女が誰で、どれだけ嘘をついたか分かり、それは彼女を遠ざける意味しかなかったし、全てが違っていたはずだった。でも、それとは逆に、僕は彼女を僕の腕の中に包み込みたかった。

「ならば、私も行くわ。」

それは、僕を彼女から遠ざけた。

「でも、ヴレチアルはあなたを殺すことができますか?」

「ええ、私を滅ぼすことは出来るわ。でも、自分には何もできないで無力だと感じるよりはいいと思うわ。私はこの本を守らなければいけないの。ヴレチアルはまだドゥランを征服していないわ。そうなっていれば、私たちには分かるはずなの。まだチャンスはあるわ。ヴレチアルのような者を倒すにはより多くのエネルギーが必要だということはない。タイミングのいい時に適切な魔術を使えばいいのよ。私が行くわ。あなたは残って。」

そう言って彼女は僕から本を取り戻そうとしたが、僕は反射的に自分のバッグに本を滑り込ませた。

「いや。あなたは他の神々に今起こっていることを報告すべきです。もしあなたが出向いて倒されたら、10人の神々が混乱するし、二人は自分の世界を失うことになる。僕が行って倒されたら、11人の神々が怒り、3人が世界を失うことになるが、パワーは残っている。あなたはまだパワーを持っていますよね?」

「そうでもないわ。もし君が行ったら、失敗することは明確よ。」

「そんな確信はないと思います。あなたが行った方がリスクは大きいと思います。」

「確信がないってどういうこと?君はヴレチアルに勝ると思っているの?」と、彼女は聞いた。彼女にそういわれると、間抜けに聞こえた。

「あなたが言ったように、適切なタイミングに適切な魔術が必要です。僕はヴレチアルのことを知っていると思います。」

「君は少し先走っていないかしら?どうしてヴレチアルのことが理解できていると思うの?」

僕の答えは嫌味を言ったつもりはないが、そう聞こえたかもしれない。

「ガーディアンの本能です。」

僕がドアへ手を伸ばすと、彼女は僕の腕を掴んで自分の方へ引っ張って彼女の方へ向けた。頭では言うことがあったが、僕の唇が彼女の唇を触れたときに、言おうとしたことは口先から消えてしまった。

僕が想像していたよりも甘く優しくて、僕の脳は彼女に吸い込まれてしまった。今までこんなに脳みそを溶かすような素晴らしい感覚を味わったことはないし、想像したこともなかった。僕の体は、独自の意思があるかのように彼女の体を包み込んだ。僕の腕は彼女の体を抱きしめ、二度と放したくなかった。

彼女はキスを止めたが、僕の唇は彼女の首を伝った。

「ああ、私はまたこんなことをしている。」

彼女の声はあまりにも美しく、彼女が発した言葉の意味がしばらく解らなかった。

「何をですか?」僕は彼女の甘い肌に触れながら言った。僕にはどうでもよかった。彼女にはただ話し続けていてほしかった。

「私が恋して自分のガーディアンを巻き込むことよ。」

彼女に体を押されるまで彼女の言葉は僕には伝わらなかった。僕はまだはっきりとしたことを考えられなかったが、現実が見えてきた。

「あなたが僕に恋をしているのですか?」と、尋ねた。僕は考えをまとめようとしていたので、ゆっくりと話した。

「ここにいて本を守って。そうしないと、私が強制的にそうさせるわ。」

「この本でさえ、僕の意思に反して守らせることは出来ないでしょう。」

「この本のパワーは偉大なのよ、ディーラン。私は神なの。私は君を思うようにできるわ。」と、彼女は言った。

彼女がそう願えば出来ると知っていたが、そうするかは解らなかった。どっちにしても、その脅迫は僕の頭をすっきりさせた。

「あなたは僕の道理を否定することはできませんが、もし二人で行くのならば、どちらかが気をそらすことが出来るかも知れません。僕の援助がどれだけ微力であっても、僕は行った方がいいと思います。あなたの本のことを考慮してください。地球のことも。僕を守ろうとして地球を失うリスクを負うなど、いけません。それに、エロノはいったいどこにいるのですか?」

彼女は振り返った。

「あのバカ…、彼は私たち全員分の頑固さを持っているの。ヴレチアルが彼の世界を奪った後、彼はまだヴレチアルを倒せると思っていたの。彼はキロのことを疑っているので、キロの言うことの真逆のことを本当だと思いかねないわ。」

「彼にも知らせてください。あなたも彼らの仲間でしょう?」

「彼は私の言うことを聞かないわ。彼は以前から私のことを良く思っていないし、特に彼がサゴの体を乗り取ってここに家を建ててからは、私の言うことを真剣に聞いてくれないわ。」

「あなたはなぜ作ったのですか

「私は人生を送りたかったの。」と言って、僕を見た。 

「あなたはイアドナの世界がどんなにつまらないか見当もつかないと思うわ。」と言って、彼女はドアを開け、僕がついて行くように先に出て行った。

あの少女も、その兄も、家から数キロ先に立っていた。彼らは僕が以前見たビジョンと全く同じだったが、ただ違うのは、ディヴィーナのことをいやらしい眼で見ていたことだった。彼は、ヒロクのことを思い出させた。

僕が彼らとディヴィーナの間に立とうとしたら、彼女は僕の腕をつかもうと手を伸ばした。

「私たちは自ら入ることを許したの。ただ、私たちが外にいながらも距離を置かせるための障壁がないことを不快に感じるの。」

と、少女が言った。

「あなたは僕たちが保護下にないというのですか?」

僕はなるべく失礼にならないように、ディヴィーナに聞いた。

「私は他のことに気を取られていたようね。」

「どうでもいいわ。」と言って、少女は兄に微笑んで、

「もし彼が協力しなかったら、私自身手を下していい?」と、聞いた。

「静かに。せめてガーディアンが協力するかどうか探り出そう。そしてメスの方を良く見てみよう。見かけよりも何かあるようだ。」と、男が言った。

僕は本当に彼が気に食わなかった。

「あなた達二人ともサゴなのね。」と、ディヴィーナが驚いたように言った。

少女はそれにイラついたようだ。

「それがあなた達に何の関係があるの?」と、少女が聞いた。彼女が一歩踏み出して右手を上げると、彼女の兄が同じ勢いでその手を掴んで下げさせた。

「取り乱すな。」と、彼は言った。

彼女は抵抗を止めてディヴィーナを見た。

「私はクラエルだ。この子は妹のトミーだ。彼女の言うことに気を悪くしないでくれ。」

彼は僕を見て

「そして、君は誰?」

「不満だ。」とイラついて言い、頭に浮かんだ嫌味や失礼なことを心に封じ込めた。

「僕はディーラン、こちらはディヴィーナ。君はどうしてヴレチアルに使えているんだ?」

「彼の申し出だ。もう誰も僕たちのことを助けてくれなかったときに、彼は手を差し伸べてくれた。彼はトミーの命を助けてくれたんだ。」

「彼が外の世界で何をやっているか見たのに、それでもまだ彼のことを手伝うの?」と、ディヴィーナが聞いた。

「彼は何も破壊していません。彼はバラバラの世界を統一して平和にしたいだけです。」と、クラエルが言った。

すると急に、ヴレチアルに会ってから感じていた違和感が何だか分かった。

「自由意思を奪ってでしょう?」と、僕は言った。ディヴィーナとトミーが驚いた顔で僕を見たが、クラエルは笑った。

「正にね。では、私の師匠がイラつく前に始めましょうか?」

「ちょっと待って、君は英語を話している。」と、僕はクラエルに言った。出来の悪い吹き替えのようだったトミーとは逆に、彼は流ちょうな英語を話していた。」

「それが君の母語なのだね?君は人間だ。」

「あなたは英語を覚えたの?いつもヴレチアルが通訳しているものだと思っていたわ。」

「僕は魔術の通訳能力を信じないので、自分で学習できる言語は自分で覚えるのだ。」

彼はポケットから何かを取り出し、僕の方へ投げた。反射的に僕は手を伸ばしてキャッチし、後悔した。なにやら小さい円盤のようなもので、すごい勢いで焼けたので、熱いと気が付く前に僕の皮膚を焼いたと思った。

僕は高い悲鳴を上げてその円盤を放し、僕の手から落ちたそれには僕の血がべったりついていた。ディヴィーナはそれが地面に落ちる前にキャッチし、痛みで呻いてクラエルの方へ投げ戻したが、彼は何の痛みも示さずにそれをしっかり掴んだ。トミーは彼の反対側の手を掴んだ。

地面が揺れ、木々が揺れ始めた。実際のところ、僕の目の前の地面が割れ開き、輝くピンクの光の壁が出現した。地揺れが止まった。その時、シノブがディヴィーナの家から走り出て僕の前にしっかりと立ちはだかった。僕は彼女を腕の中に収めようとしたが、ディヴィーナは優しく彼女を僕から取った。

「彼女は残るべきよ。」

僕は反論しようと口を開けたが、彼女は

「彼女は保護心が強すぎて、ヴレチアルを速攻で攻撃するかもしれないわ。彼に殺されるわ。」

僕は彼女の考え方に同意し、彼女はシノブを家へ連れ戻った。

彼女が戻ると、クラエルは

「どうぞお先に」と、言った。

ディヴィーナは躊躇しながら光の中へと入って行ったが、反対側に出なかった。彼女は消えてしまった。クラエルは辛抱強く僕の方を見たので、僕は進み始めた。僕はその地球の割れ目に落ちることを見込んで目を閉じて、光の中に入った。