ドゥランにしては、重力が軽すぎた。目を開けると、僕が信頼するようになったダークブラウンの瞳が目に入った。
「エドワード!」と、ばかみたいに叫んだ。
彼は瞬いた。
「誰?」
僕は明らかに彼を驚かせていたが、僕も同じくらい驚いていた。
「ロネス。」と、ディヴィーナが息を切らしながら僕の後ろで囁いた。
彼が亡くなっていなければ、僕もそのように想像しただろう。僕は目の前にいる男性をよく見たが、時が経つにつれてだんだんエドワードに似ていないように思えた。その一方で、彼の髪は何センチも長かった。彼の兄弟が言ったこととは逆に、この男は袖なしのダボダボのベージュのシャツにダークブラウンのパンツを着て黒いブーツを履いていた。
驚くことではないが、僕たちは僕とエドワードがビジョンを見たときと同じ洞窟にいた。ディヴィーナは僕の後ろにおり、アンデッドロネスは僕の横にいて、トミーとクラエルは、僕たちの前の3メートル位先に居た。エドワードは何処にも居なかった。
アンデッドロネスは僕の方に乗りだして僕の肩に手を置いた、
「すごい隠れ場所だ。君はこれまでとても…非常に楽しませてくれた。」
彼は僕の本をバッグから滑りださせた。
それは、味方が言うようなことではないと思った。
アンデッドロネスは僕の方に向いたまま後ずさり、本をクラエルに渡し、彼は笑いながら受け取った。
「彼を君に残していくとしよう。バカなことをするんじゃないぞ。」と、クラエルが言った。
アンデッドロネスが唸ったが、クラエルとトミーを暗闇の中へと歩いて行かせた。僕はディヴィーナが怪我をしていないか確かめるためにチラッと後ろを見ると、彼女はペテン師のロネスに怒って睨みつけていた。
「あなたはロネスではないな、いったい誰なんだ?」と、僕は聞いた。
「私は、彼を殺した者だ。君はシオと呼んでいい。」
シオがロネスを殺した…、そして、彼の体を乗っ取ったようだ。
「エドワードは何処だ?」と、聞いた。
シオは目をむいたが、ロネスとエドワードは本当にそっくりな双子だったので、気味が悪かった。
「キロ。ロネスの双子の兄弟だ。彼はいったいどこにいるんだ?」
もし僕の怒りが彼の気にかかるとしたら、ちっともそう言った素振りは見せなかった。
「もし君がもう一人のガーディアンの事を言っているのなら、彼はいま多くある地下牢の中に入っている。近々君もそこに行くことになる。つまり、それは君がヴレチアルに好印象を与えれば、の話だが。そして、君に関しては…。」
彼はディヴィーナの方へ向かって一歩進んだので、僕はシオを見ながら彼らの間に入った。彼はエドワードよりも痩せていて病人の様だったが、怒った表情は家系由来の物の様に見えた。
「君は人間にしては度胸がある。」
特に命に限りある者にしてはね。
僕は瞬いた。彼が僕の頭の中で話しかけていないと気づくまで数秒かかった。僕が彼の思っていることを読んだのだ。僕はよっぽど嫌みで答えようと思ったが、もしや彼の思考は保護されていないのではないかと思った。
「どうやったらここから出られるんだ?どの道から行けばいい?」
「君は行けやしない。このから出る術はない。ここを突き抜けるしかない。」
そうすれば、僕には君のこの美しいお友達と二人きりになる時間が出来る。もしかしたらヴレチアルは僕に彼女のパワーを少し持たせてくれるかも知れない。
彼女に対する彼の悪意に満ちた視線が気に入らなかったが、彼女は黙ったままだった。
「何処にいる…」
僕は突然背後に気配を感じたので、止まった。ディヴィーナの温かみではなく、寒くて、陰気で、強力な存在感だった。
「ディーラン、場所を変えて。」と、ディヴィーナが言った。
振り向いてヴレチアルを見る前に一歩横にずれた。どっちにしても彼には不意を突かれたが、僕は絶対彼だと思った。彼は、深みのあって赤茶けた短い髪に瞳はピーナッツバターの色をしていたが、光っていた。彼は黒い服に黒いブーツを履いていた。多分、彼の特徴で一番印象的だったのは、彼が最高でも30歳くらいににしか見えないことだった。
それに彼はパワーや暗黒のエネルギーで輝いているように見えた。そのエネルギーがあまりにも強すぎて、僕は立っていることさえ難しかった。とても不快で、今までかかったことのある風邪よりもはるか酷く、自分の体を重く感じた。
彼はシオとディヴィーナに対し満面の笑みを向け、その後に僕にも笑いかけた。
「まあ、これは、会議でもない。やっと君に面と向かって会えて嬉しく思う。小さい人間よ、ちょっとだけお君の友達を借りるので、悪く思わないでくれ。」
彼はシオの方を向いた。
「君は人間を扱うことが出来るよね?」
「はい。ご主人様。」
「よろしい。」と、僕の腕をがっちり掴む前に言った。
彼の肌は冷たくて石の様に硬かったが、まるで彼が死んでドロドロとした何かの様に、僕の背筋はゾッとした。僕は神に触れられるとどのような感触なのか見当もつかないが、彼に触れられるのとディヴィーナに触れられることの差は疑う余地のないものだった。
「私のノクォディから手を離しなさい!」と、ディヴィーナが唸った。
彼女の献身に驚いたようだが、ヴレチアルは彼女の言うことを聞かなかった。彼は僕の手を離す前に、僕の左手首に金属の堅い手錠をつけた。その手錠には全体に記号が彫ってあり、初期の楔形文字の様だった。
「ふむ、きれいだけど、僕の瞳の色には似あわないと思います。」
ヴレチアルは笑った。
「お前は面白い人間だな。その呪文はここでお前が私のサーヴァントを負かしてここから逃げ出さないための物だ。」
「本当に?それはどうやってやるのですか?僕が単にこれを外したら?」
「私のサーヴァントしかその呪文を取ることが出来ない。では、これで失礼する。シオ、その人間を彼の師匠の所へ連れて行きなさい。」
シオは彼にお辞儀をし、神はディヴィーナの腕を乱暴に掴んだ。するとフラッシュがたかれた様に目が痛くなるほどの光がさし、明るくなると僕とシオは岩の廊下に二人きりでいて、高圧的なヴレチアルのパワーは減少していた。ホールの左側の壁には火の灯った松明が3メートルおきに置いてあった。シオは僕を前方へ押した。
「急かすなよ、ゾンビ。」と、言いながら僕は歩き始めた。
いくつものホールを通り過ぎ、終わりのない道をずっと真っ直ぐ進んだ。僕は、エドワードやディヴィーナ、ヴレチアルと3人のサーヴァント、全員感じ取ることが出来たが、どこにいるのか分からなかった。僕は彼らの感情やオーラ、考えていることや意図することなどを感じ取ることが出来た…、でもそれら全てが野生のエネルギーに交じっていた。僕は、まるで超濃い煙か霧の中の中に、自分の目で見えないようだった。エネルギーは全てを拡大させて濁しているようだった。
約五分後、僕はイラついてきた。シオは彼の考えをちっとも隠しておらず、彼は汚れた心を持っていた。
「では、シオ、君はどうやってロネスを見つけたの?」
「それは、お間に関係ない。」
この野性のエネルギーは、僕がコントロールしなくても、どうにかして心を読むことを可能にしていた。このエネルギーが同じようにシオに働いていないのか、シオがとても乏しいアシスタントなので僕の考えを読み取れないのか分からなかった。
「そうだろう?僕は彼の後継者なので、君が僕を同じようにコントロールできないのか確認しなければいけない。それに、君はそれについて自慢をしたいのかと思った。」
僕が振り返って彼を見ると、彼は睨みつけた。彼はエドワードの顔をしていたが、エドワード同じような肉食動物の様な睨み方は出来ないようだった。
「僕がそれを誰に言うと思ったんだ?君は僕を探し出すのに散々な目に会ったので、君が僕を逃すとは思えなかった。」
「黙れ。僕が主人に心を捧げたとき、彼は自分のパワーを僕に少し与えてくれた。そしてそのパワーは新しい精神となり、僕はノクォディのお前よりも強い者になったのだ。自分の心で支配する新しい精神は、世界を通じて旅をすることが出来る。僕が居たい場所にいるときには、必要な身体を見つける。僕の脳と精神がそれを支配するのだ。僕がカフーンという場所を旅していたときに、地球でのノクォディの話を聞いた。地球のノクォディ、つまりロネスは、地球の神との問題とドゥランのノクォディとの問題を抱えていたので不安定になっていると聞いた。それで僕は彼を探すために地球へ行った。僕の精神は本に、引き寄せられるので、必然的に彼に引き寄せられた。その後、彼を殺したが、彼は本を捨てた。」
「ならば、なぜ殺す必要があったんだ?君が彼を殺したために、別のガーディアンが必要になった。君は彼をヴレチアルの元に連れて行った後に本を探し出そうと思わなかったのか?」
「それは出来なかった。僕が旅を出来るのは僕の精神が神の手によって創られたものだからであって、僕の体は移動できない。本は君の体を精神と共に移動することを可能にする。僕の主人は…、世界の間に裂け目を作ってポータルを創り出す装置を持っている。
「え?それって未来の宇宙の話みたいだ。」
「そのように物理的物に干渉するのはそんなに難しいことではない。物理的な物は容易に破壊することが出来るし、魔法のエネルギーで変わる。」
それは、モルドンが言っていたことと同じだった。
「ノミナルエネルギーは変化と同じだ。物理的物を変化させるのがそれの目的だ。そうでしょ?」
「魔法のエネルギーが出来る唯一のことだが、それの目的が物を変化させることなのかは分からない。それらの目的がなんなのかなんて、僕には本当に関係ないことだ。しかし、言いかけていたように、そのディスクは心と体を引き離す必要のないポータルを創り出す。もちろん、ヴレチアルはそのディスクを使うほどノクォディの命を心配していなかった。だから僕は彼を殺した。それで、ヴレチアルはこの体をここに戻ってから利用するための呪文を使うことを許可したのだ。」
「では、彼は亡くなった者の死体を利用するために呪文を使うことを許可するが、生きた彼をではないのか?」
「彼を生きたまま連れて帰ることは誰に対しても良いことは無かった。殺したからこそ、僕には体があるし、僕はそれに満足している。」
「では、たったそれだけのことか?僕は君のことが嫌いだ。君はうんざりするほど恐ろしい人だ。正直言って、可能であったならば、君は僕の母親と知り合って、キリスト教についてがなり立てる彼女の側で苦しむべきだ。」
「ああ、それにしても神々に対処するには、君は小さいな。君のそのサイズにしては、とても騒々しいな。」
僕はもちろん彼に近づいていて、僕が目論んでいた効果を得ることが出来た。つまり、彼の若い女の子たちに対する汚らわしい考えから注意を逸らすことだった。もし僕が心を読むのを止められないのならば、それらから注意を逸らすしかなかった。
「だったら、なぜ僕とエドワードをここへ連れて来たのだ?ただ殺せばよかったのでは?」
「僕だったら殺していただろうが、クラエルが君を見つけたのだ。」
僕は自分が学んだことについて考えようとした。辺りには持ち上げて彼に投げつけられるような物は一切なかった。僕は間違いなく自分の剣を使うことが出来ない。何かをするために火を十分に操ることも出来ない。トミーでやろうとした事があるが、それがロネスを殺した者だとしても、男を中から外へあぶり出すために焼けるとは思えない。そうすると、なんだ?もしかしたら彼の背後にまわって僕が居ることを忘れさせることが出来るかも知れない。そうではない。僕が剣を取り出す以外に考えられるのは、モルドンの眠りの呪文だったし、それを歩きながらできるとは思わなかったが、僕は何かしなければいけなかった。
僕はロネスの体の中でロネスが疲れていくのを想像し、そのあとエネルギーを吸い取ろうとしたが…、僕には出来なかった。僕は、めちゃくちゃ膨大なエネルギーの量を浴びていながらも、まるで僕の周りに障壁があってエネルギーの吸収を遮っているようだった。僕は手錠を見た。僕はそれを外さなければならなかったが、引っぱってみると、とてもがっしりしているのが分かった。僕はそれを外す必要があったし、シオに消えてもらってエドワードを探し出さなければならなかった。
正確には、自分の周りのエネルギーを使わずにどうやってシオの考えていることを読んでいたのか分からない。また漏れてしまうような質問を一つ。
「地下牢はどれだけ遠いの?僕たちはそこへ直行しているの?」
と、僕は聞いた。
「このホールは直接地下牢に繋がっているし、もうそんなに遠くない。君の師匠はきっとそこで弱って見る影もない状態だろう。」
「でも…、僕は…」僕は長年やっていなかった顔をした。それは僕がおバカな少年に見えることを知っていた。
「トイレに行かなきゃ。」
「我慢しろ。」と、彼はボソッと言った。
「いやいや、我慢できない!トイレに行かなきゃ!」
多分ヴレチアルが気付いて心配するほど強くないかも知れないが、僕は無意識にこんなにエネルギーを集めたことが無かった。すると、もう吸い込めなくなったが、自分の中には大量に吸収していた。
「お願い。お願いだ!」
僕は自分のノミナルエネルギーを彼に押して彼が疲れてしまうのを想像し、ノミナルエネルギーのウィルスが彼の物理エネルギーを変化させるのを想像した。
僕が懇願し始めてから数分後、疲れが彼を襲った。
「分かったよ!」と、彼は唸った。
僕たちが道を逸れたとき、僕は話すのを止めたが、彼のエネルギーを変え続けた。数分後、僕が十分にイラつかせていないことに気づいたので…僕には選択肢は一つしかなかった。
「僕は、ヘンリー8世である。ヘンリー8世である。」
と、ぶつぶつと小さい声で歌い始めた。シオはそれをショック療法と捉えた。
「何をやっているんだ?」
「僕は自分の気を紛らわしているんだ。僕がこれから死ぬのなら、せめて自己表現をしたい。」
もし僕の計画がうまくいかなければ、自分自身を破壊したくなるくらい彼を十分にイラつかせることが出来るかも知れない。
「僕は隣の未亡人と結婚した。彼女はその前に7回も結婚していた…」
と、僕は続けて、彼がその韻文が永遠に繰り返していると気づいたころ、僕は、彼はまだそうしようとしてはいなかったが、僕一人だけが剣を使いこなせるということが非常に嬉しかった。
僕たちは約5分後、中央にある広い小川の流れによって分割された大きな部屋に入った。
「行け。」
僕が彼を散々イラつかせたので、てっきり僕にそこに飛び込んで死ねと言っているのかと思って、ほんの一瞬、僕の血が凍りつくように感じた。でも、幸運なことに、そうではないと気づいた。
「ここで?これって、屋外便所より酷い!屋内配管の利便性を理解している者は誰一人もいないの?」
僕には、もうエネルギーが殆ど残っていなかったので、時間を無駄にする余裕はなかった。彼はもう既にふらついていた。僕は小川の方を向いて深呼吸をしながら左手首を右の手首の上に重ねるようクロスした。
「君はせめてこの束縛している物を外してくれないのか?こんなに縛られていたら、僕は何もできない。」
それは、汚い攻撃だったが、彼は僕があまりにもうるさいので、ゆっくりと近づいてきて手錠を持って引っ張った。それは簡単に開いた。
僕はほんのコンマ数秒で息をするように自然に、出来る限りのエネルギーを吸収し、シオは音を立てずに地面に崩れ落ちた。僕はあまりにも多くのエネルギーを吸い込んだため、めまいがして少しの間壁に寄りかからなければならなかったので、それを少し放出した。しっかり立てるようになってから開いたままの手錠をカバンに入れ、エドワードを探しに廊下を走った。約15分後、自分が完全に迷っていることに気づいた。
なんて不運だ。
僕はさ迷い、更に迷って行った。どうも自分の心の中で「エドワードを見つけろ」と繰り返しているのは、あまり助けにならなかった。恐怖に慄きながら、自分が主人を探してさ迷っている子犬と同じだと気づき、僕は座り込んだ。 彼を見つけたらどうする?彼は僕に家に帰れと言えない。
僕は先ず彼らを助ける方法を見つけなければいけなかった…。
いいや。僕がやるべきことは、自分の本を見つけ出して守ることだ。 僕はどのようにして守ればいいのか分からなかったが、なんとしてでもそうしなければいけなかった。エドワードは守ることが出来る。きっと彼は既に脱出していて、独自に本を探しているのかも知れない。僕はまだ生きているので、本はまだヴレチアルの手に渡っていないはずだ。もし僕がロネスのしたように本を捨ててしまえば、地球の安全な場所に落ちるだろうか?いいや。もしそのような選択肢があるなら、エドワードが教えてくれたはずだ。
僕は立ちあがった。本は僕を見つけ出したのだ。本が僕の手元に来たあの日、もしヴィヴィアンが小論文を書く必要が無かったら、僕は家に帰っていなかっただろうし、本を見つけてもいなかった。もしエドワードが僕を見つけた日に、僕が仕事の代行に入っていなければ、きっと僕はベッドに戻って寝るためにその本をもって、さっさと出て行ってくれと言っていたかも知れない。もし僕が泉でシノブとかくれんぼをしていなければ、あの少女、トミーに殺されていたかも知れない。もしモルドンが僕と同じホテルに宿泊していなければ、僕はシオから遠ざけてくれたあの歩術を覚えていなかっただろう。それらのことは、僕が運や運命について確信を持つに十分ではなかったが、常に僕を助けている何かがあるはずだ。
他にいい選択肢が無く、僕は再び歩き始めたが、今回はどんな地獄を味わってでも見つけるべきものを見つけると、硬く決断していた。そして、約10分後、廊下の終わりにドアがあるのを見つけ、考えもせずに入った。
そこは気の滅入るような部屋か、独居房だった。高い壁と天井と床は石で出来ており、唯一の家具は金属フレームのむき出しのままになっている黒いベッドだった。そのフレームには足かせが繋がっていた。部屋は、12×12くらいだろうか、それによって更に空に見えた。
「あなたは、ここにいるべきではないわ。」
若い女性の声が僕の頭の中で囁き、僕は背筋がゾッとした。
「僕には十分です。」と、僕は言ってドアの方へ振り返ったが…、そこにはドアが無かった。ドアが消えていたのだ。
「もう手遅れよ。」
僕は振り返り、ベッドに静かに座っているトミーを見た。
「あなたは死ぬのよ。」と、彼女は言った。
「でも、僕は死ぬのには若すぎます。僕はせめて木曜日まで生きていられると思ったのに。まあ、いいや。」
僕は彼女の心を読みたくなかったし、幸いなことに、彼女はそれを保護しているようだった。彼女が座っているベッド以外に、動かせるものは何一つなかったし、どっちにしてもそんな暇はなかった。彼女を寝かせる時間は無かった。なので、何の選択肢もなく、僕は剣を取り出し、エネルギーを集めた。驚いたことに、彼女は目を見開いた。
「何処でアジュラーを手に入れたの?どうやってそれを刃の形にしたの?どうして君には持ち上げられるの?」と、聞いてきた。
僕の剣はパワーで脈打って唸っているようだったので、かっこよかった。
「僕が強力なジェダイの騎士で、これは僕のダークサーベルだからだ。僕は良い人で、君は悪い人だから、僕は勝つことが出来る。僕に弟子などがいたら負けるかも知れないが、僕には弟子がいないので負けない。これはクライマックスの戦いで、悪い人がクライマックスの戦いで勝つことは決して無い。」
少女の前で自分の震えをコントロールできずにいるなんて、誰も威嚇できないので、僕の映画に対する信仰がとても強いことが非常に幸運なことだった。
「人間よ、あなたはバカじゃないの?本当に私を倒せると思っているの?」
「絶対にね。それが起こる可能性は何百万通りも考えられるし、その中の一つに僕が勝利する可能性がある。それにどっちにしても君は僕の心を読めるようだから、僕には小さな少女を攻撃することに抵抗があるって知っているよね?」
「このバカ人間、私は不死身よ。それに私は400歳を超えているわ。もう世間話はお終いよ。これからあなたを殺すわ。」
僕の腕の周りに圧力がかかって下へ引っぱろうとしていたが、剣が下りる前に圧力が弱くなってきて痺れが残った。この痺れは、てっきり彼女が圧力をかけるのを止めたため、僕の血液が再び腕へと流れ始めたから起こっていたのかと思ったが、彼女の殺意を持った視線と剣の脈打つ勢いが増したので、その逆だと思った。
まるでとても熱いものを食べた後のように感じた胃の辺りの熱は、どんどん焼けて、強烈に炎上してそこいら中に広がろうとしているようだった。僕の剣はこれまで以上に脈打ち、痺れが腕へ広がって、次は僕の体中へと広がった。それは熱を乗り越え、少し不快なチクチク感が残った。
トミーは幸せそうでなかった。
「あなたはどうやってそのようにアジュラーをコントロールできるの!?」
「僕がやっているのではない。そしてどうやら君の魔法は暫くの間僕には効かないようだ。」と、僕は言った。
彼女はベッドの横にあるチェストのところへ行った。それはさっきのドアが消えたのと同じように、僕が話している間に出てきたのだろう。僕は彼女が金色の唐に黒い持ち手のある両刃の剣を取り出すのを止めさせようとはしなかった。
「いいわ。あなたを剣で倒してあげる。」
「う~む…、君は僕が魔法を使えるって忘れている?」
「あなたが使うものが魔法だとは言えないわ。アジュラーのせいで私の魔術が使えないかも知れないけれども、あなたから身を守ることは出来るわ。」
「君が年上だとしても、君の体は少女のものだ。それに、僕は君のよりもよい剣を持っている。」
僕はここの重力がドゥランよりも軽くて、有頂天になっていた。それに、彼女を倒すことが出来るとしても、子供を傷つけるのは間違っている。彼女は僕より何世紀も年上かも知れないが、見かけも行動も少女の様だった。
彼女は自分の剣を僕に向けて来たが、僕は簡単にブロックした。思っていた通り、彼女は少女の様な戦い方をした。彼女は魔術に関して腕が良かったが、剣に関してはその体のせいで秀でることはないだろうし、重大な怪我をさせるほどの重さが無かった。その一方、僕は彼女に有利になるくらい不器用だった。ブロックを破るために彼女の剣に沿って僕の剣を縦に滑らせると、彼女も同じ方向へと変えた。それによって、僕の剣が自分の足にあたった。それはエドワードが教えてくれた動作を思い出させた。刃を上に勢いよく上げ、彼女はそれをブロックしたが、押し戻された。
「あなたは対戦が好きじゃないようね。」と、彼女は不機嫌な少女のように言った。
「ええ、好きじゃないし、少女と戦いたくないのは確かだ。君がいくつであろうとも、見かけは少女だし、精神異常のある少女みたいな行動をする。」
「無に等しいバカを殺すのと、体格的有利なのに戦わない男を殺すのは別物だわ。あなたの気分を変えるために何をしたらいいの?あなたの腸を切り刻めばいいの?それとも、あなたが私を殺さなければ、私はあなたの大切な人たちを皆殺しにすると約束しなければいけないの?でもそれは、私が人を殺す以外に良いことが無いと言うわけではないわ。」
「僕の友人たちがヴレチアルに対処している間に君が邪魔するようなことをしなければ、僕は君を傷つける必要はない。」
「私がここから出て彼らを追うことを、何が阻止できると思っているの?」
「プライド。この剣が僕を魔法の力で守っている間、君は物理的に僕と対戦しない限り、勝つことは出来ない。君はまだ僕に手をつけられていない。大きさが全てではないと知っているが、僕は君の体は少女の体なので、君の心も子供のままだと思う。きっと剣や武道をマスターしたことをかなり誇りに思っていると思う。そうでしょ?」
「私は行うこと全てにおいてマスターよ。剣や武道を習う必要なんてなかったわ。」
彼女はものすごいスピードで攻撃してきたが、僕は考えなくても自分の剣でどうにか防御した。怒りの様な物が彼女の目に浮かび、更にスピードを増して再び攻撃してきた。僕の剣は目の前で不安定に動いたが、あまりにも早くて目で追うことが出来なかった。そして僕の剣と彼女の剣が衝突し、僕のためらいや自信の無さは全て消え去り、ほとんど傲慢で浮つくような自信に変った。
彼女は高速で移動していたので彼女の刃を見ることもままならなかったが、僕は全ての攻撃をブロックした。そして、攻撃に耐えきれるだけではなく、彼女の背後に回り込むことも出来ることが分かった。彼女は表情に怒りを露わにして僕の方を向き、彼女の刃は僕の喉元へと来た。今回は防御することさえできなかったが、彼女の手首を掴んだ。彼女は剣を落し、僕の体の横を殴り始めた。少女にしては強かったが、十分な強さではなかった。
僕はバッグに手を入れ、手錠を出して彼女を腕にかけ、それを握った。彼女がそれを取り外せるのかどうか分からなかったが、そのチャンスを失うことは出来なかった。手錠を信用するしかなかったので、僕は彼女の腕を掴んだまま剣を鞘に納めた。彼女は僕の手を掴んで手錠を取ろうとした。僕は彼女をベッドの上に押し、彼女の細い腕に片方の手錠をかけた。幸運なことに、それは彼女にしっかりはまり、自動的にロックがかかった。彼女が取ろうとする前に、もう一方の腕にもはめた。彼女は乱暴に蹴り始めたが、僕はもう届くところに居なかった。彼女は手錠をかけられ、魔法も使えず、怒りすぎて理にかなった言葉を発することが出来なかった。
ドアが再び出現した。
僕は彼女を飢え死にさせるためにそこに放ってはいられなかったが、もう彼女をどうすればいいか分からなかった。エドワードだったら分かるだろうが、彼を探すのに彼女を連れて行くわけにもいかなかった。僕は尖った物が沢山入っているチェストを探し、鈍い短剣を出した。そして、出来るだけ素早くドアに×マークを切り込み、次に、×マークが良く見えるようにドアを少しだけ開けておいた。彼女の怒り狂った叫び声から急いで離れた。
僕は、遠い廊下にたどり着くと、止まって座り込んだ。次第に成長している不安が僕を神経質にしていた。僕の体はあのように動くはずではなかった。僕が動きを制御するべきだと思った。
「君は簡単にあの少女を置いてきた。もっと拷問することも出来たのに。」と、囁き声か聞こえ、僕の背筋に悪寒が走った。
「いいえ、彼女はただの少女だったのよ。」と、もう少し軽い声が囁いた。
「黙って。」と、僕は軽い方の声に行った。
「暗黒よ、続けるのだ。」
「全ての痛みや威嚇。想像力を使うのだ。彼女が自分の罪を忘れぬように彼女の肌に小さな模様を刻みつければよかった。彼女の靴を二度と見つけられないように隠せばよかった。彼女が聞こえるはずの無い兄を求めて泣き叫ばせればよかった。行けよ、ディーラン、拷問するのだ。君の師匠に任せるのではなくて、拷問するのだ。拷問しろ。」
僕は立ちあがった。
「さて、どっちから来たんだっけ?」
もちろん、僕は冗談を言っていたんだが、僕の幻覚も言っていた。
「左だ、ディーラン。左だ。」
僕は自分の左側を見て鳥肌が立った。僕の背後、約4,5メートル先で何かが廊下を横切った。僕は良く見たが何も見えなかった。もちろん、映画の見過ぎでそこまで行って調べたりしなかったが、その代わりに上を見た。何もない…すると、松明の明かりが揺れ始めた。
それは、ミイラやゾンビ、幽霊、エイリアンやミュータントモンスター等さえ萎縮しただろう。
僕のバッグは肩から地面へ滑り落ちた。僕はもう一度左を見て、再び背後の1メートル半くらいの所に何かを感じた。再び、そこには何もなかった…。
日本の幽霊、またはエイリアンやミュータントモンスターでさえそれで逃げ出した。
突然何かが僕の30センチぐらい後ろに立ったが、僕はなんの息づかいも感じることが出来なかった。気配を感じることは出来たが、体の温もりが無かった。
「血だ、ディーラン。血だよ。」
僕は誰が僕を食おうとしているのか見るために振り向いたが、僕の足がバッグに絡まり、転んだ。
彼は残酷な笑みで僕を見つめ、非常に強力かつ危険に見えた。彼にはエネルギーが有り余っていて、それが彼を光らせているようだったが、ヴレチアルほど邪悪ではなかった。彼の黒い瞳と邪悪な考えは松明の光を受けて輝いていた。彼の明るい肌は光を吸収しているようだったが、黒髪は闇に吸い込まれているようだった。ギリシャ彫刻でさえ彼の様に理想化されていないだろう。彼の顔は良く知っていたが、完全に非人間的で衝撃的だった。今回はエドワードと間違えなかったが、シオでもないと知っていた。今回目の前にいるのは、間違いなくロネスだった。
彼は上段までボタンを留めた黒のサテンのシャツに黒ジーンズと黒いブーツを履いていた。彼はエドワードと殆ど変らず、顔のつくりもエドワードに似ていたが全く違うようだった。エドワードはこんなに青白くないし、このロネスの様に極悪で嬉しそうにしているのを見たことがない。僕の恐れがとても面白かったのか、暫くすると彼は笑い始めた。
すると、彼は手を差し出したので僕は考えずにそれを掴み、彼は軽々と僕を引っぱり上げた。
「驚かして悪かったが、これは二度とないチャンスだと思って、見逃すことが出来なかった。」
「いや、分かります。僕は自分の幻覚に混乱させられていないと、無視されているように感じます。僕はあなたの体がこの辺を走り回っているのを見たと確信を持っているのですが、どこだったか言えません。」
「どっちにしても、もうそれは克服したからいいよ。私は君のためにここに来た。」
「すみませんが、僕はまだ終わらせていませんよ。」
「ああ、それもいいのだ。私は待つよ。君がいる所までついて行ってもいいかい?」と、彼は聞いた。
僕はしゃがんでバッグを拾った。
「いいえ、絶対だめです。あなたのお供を利用することも出来ますが、僕の頭の中の声が僕に話しかけられなくなる。」
僕は廊下を下り始めたが、ロネスが僕の前に立ちはだかって左に向かってジェスチャーをした。
「こっちの方が良い香りがするから、こっちへ行こう。」
「いいでしょう。それで、最近はどうですか?」
「ああ、まあ、いいと思う。死んでいるってちょっとつまらないけどね。もちろん、君が悪者と戦っているのを見るのは面白い。ディヴィーナが悪者たちと戦っているのを見ると、更に面白い。君は僕の剣を楽しんでいるか?」
「素晴らしいです。あなたは僕がトミーと戦っているとき手伝ってくれていたのですか?」
「君が無意識にやっていたように剣にエネルギーを注ぐと、君は彼女の魔法から保護する力を与えたのだ。私はちょっとだけ後押しをしたけれども、彼女は自分の魔法なしでは大して強力な対戦相手ではなかったし、私は君の感情的サポートを少ししただけだ。こっちだ。」
彼は僕を別の廊下へと連れて行った。
「それで、あなたはなぜ、どうやってここにいるのですか?」
「まあ、大半の者が知らないのだが、君の名前が12冊の本のどれかに書いてある場合、本当に死ぬことが出来ないのだ。実際に何が起こるのかは断言できない。生命に限りあるものでさえ、死が休む地には入れない。それに、私は不死身だ。というか、そうだった。これら全て、私には新しいことなのだ。私が何処に居たのか、本当にわからない。」
「あなたが死んでいたのならば、なぜ今になって現れるのですか?まさかあなたは、あなたの兄弟をからかっているだけではないでしょうね?」
「いいや、もちろんそうではない。わたしはまだ来ることが出来なかったのだ。どうも、本当に少し死んでいるらしい。数時間前にディヴィーナが行ったミーティングを覚えているか?」
僕は頷いた。
「それで、私は今ここにいることが出来るのだが、私は幽霊のようなものではないようだ。私は本当に霊とエネルギーなのだ。しかし問題は、わたしがあまりにも不自然に魔法のエネルギーを吸収しているためにバランスが乱れていると言うことだ。私は長いことここに留まることは出来ないが、非常識なほどパワーを持っているヴレチアルに近づけば近づくほど、長くいることが出来る。君は私に何か聞きたいようだね?」
僕は考えを整理するために間を置いたりしなかったし、僕たちが話していることを誰かが聞いたとしても気にしないので、黙っていなかった。
「なぜ僕があなたの後継者なのですか?どうして僕にはこんなにパワーがあるのですか?なぜ選ばれたのですか?ディヴィーナは僕が選ばれたわけではなくて、適任者だからといいましたが、何故ですか?」
「ディーラン、君は僕から選ばれたのだ。」
「なぜ?あなたには多くの子孫がいるでしょう?」
「私は君が強力だと知っていたが、君がどのように考えるかも知っていた。君は私やキロでさえ持っていないノミナルエネルギーと自然に繋がっている。君が君の友と話すときに使った魔法でさえ、新米ガーディアンにしてはとても自然で強力なものだ。君の学習能力は優れていて、順応しやすい。私の決断は正しかったのだ。私には多くの子孫がいるが、君は特異なのだ。ディーラン、私は君の父親だ。」
「う~む…、なんですって?」
僕の父親…、僕には父親がいるのか。いや、僕には父親がいたんだ。エドワードは常に僕の父親のことを話していたんだ。エドワードは…、僕の伯父。それにしても腑に落ちない。どうしてこんなに強力で‘賢い’人があの母親と恋に落ちるんだ?
「君は私の末子で、君だけが正当なガーディアンになると知っていた。なぜ君がそんなに不運を持っているが知っているか?宇宙はバランスを保たなければいけないからだ。君はガーディアンのパワーが無くても、とても強力だったから君はある意味バランスを崩したのだ。それを修正するために、チャンスがあれば不運が君を妨げたのだ。宇宙が常に君を抹殺しようとしていたのだ。君がガーディアンになったとき、君が強力になったことによってそれは均等化されたのだ。現実には、私たち2人とも生きていることは出来なかったのだ。君は私に良く似ているし、ガーディアンになる運命だった。シオが私を殺すことが出来た理由の一つはそれだ…、正しい時期ではなかったのが残念だ。ディーラン、この戦いは私一人で対処すべきだったのだが、運命はもう私にうんざりしていたのだろう。だから君は訓練されないまま戦うことになって、私の兄弟は私の敵を討たなければならなくなった。」
「では、あなたが死んでいる原因は僕ですか?」
「違う。私は交代させられる運命だったのだし、私は君と知り合ったときにそれが分かった。」
「つまり、僕が生まれたときと、あなたは言いたいのですか?‘僕と会ったとき’って、変な感じがするのですが。」
「本当のことを言うと…、そうだ。私はそれを言いたかったのだ。それにあの台風は絶対に君のせいではなかった。私は本当に君のところに居て、君を育てたかったが、私たちはお互いの近くにいることが出来なかったのだ。君は生まれる前から風邪や地震までも起こり、常に危険に晒されていた。君が生まれた夜、君の部屋は火事になった。実に一週間の間、君の命を常に守って過ごした後、私は君が私のエネルギーを吸収できない場所へと発たなければならないと知っていた。私は君のことについてキロに話したかったが、彼が何すること恐れたのだ。」
「彼があなたを救うために僕を殺すことを恐れていたのですか?」
「私たちは双子なので、そうせざるを得ないのだ。幸運なことに、何もしなくて済んだが、もし彼に、彼の代替えとなる子供がいたら、私は何かしていたかも知れない。君は適切な訓練を受ければ、特にキロから受ければ、私には絶対なれなかったくらい強力になれるが、きっと不運は付きまとうだろう。」
「僕に自分の身と他の人たちの身を守るパワーがあれば、不運でも構いません。」
「君はそれに慣れるだろう。それまでにはキロの助けを借りるといい。私と違って、君は自然に彼からパワーを吸い取ることは無いだろう。」
彼は立ち止まって僕を見たので、僕も止まった。彼の視線は温かみがあって、少し悲しそうだった。
「君がもっと若い頃、母親に私が元気か聞いた。でも、私が誰なのか、どうして出て行ったのか聞かなかった。何故だ?
「まあ、あなたはきっと僕のことを知らないと思っていた。それに、母はとてもルーズだった。でも、僕はあなたのことをもう少し知りたいと思います。つまり…、あなたは僕に命を授けた。」
彼は僕の頬に触るために手を差し出したが、躊躇して手を落した。
「私は君に子供時代を与えたかった。君と一緒に居たかったが、君の母親が育児放棄する度に、ただ君を迎えに行ってドゥランへ連れ去りたかった。私はキロの様に弟子を取らなかった。彼は彼の子たちといくつか非常に悪い経験をしたが、彼は弟子たちを大事にする。私は女性たちを愛したが、そんなに子供はいなかった。子供たち一人一人の所にいることは出来なかったが、出来る限りのことを全員にしてきた。それに自分の子供たちが年老いてどんどん死んでいくのを見て、それが非常に辛くなって、子供をあまり持たないようにした。君は運命が授けてくれたのだ。」
「やっぱりね!僕はただの間違いだったんだ。ありがとう。それは本当に僕の助けになります。」
「君は間違いではない。」
と、彼は笑った。
「私が君を望んでいたのだが、君が生まれるまでは、自分には選択の余地が無いと言うことを学習していなかったのだ。君は他の子たちとは違っていた。君が生まれた夜には、君はこの世へ来るために苦戦し、医師の冷たい手の感触に激怒した。君の蹴る力は強かった。医師が君を私に渡すと、君は戦うのを止めた。君はただ興味津々な大きな目で私を見て、腕の中でとても静かになった。私が保育室に連れて行き、私たちの間には絆ができた。私の想像をはるかに超えて愛しかった。君は私の心音を聞きながら眠り、私はそれをもっと見ていたかったので、眠りたくなかった。君の人生の一瞬たりとも失いたくなかった。でも、私にはそうするしかなかった。私は毎日君の世話をしたが、生きていても助けようがなかった。君の母親が君の大学の学費を払わないと知ったとき、本当に腹が立った。」
「もしかして、大叔母の死亡によって大金が入ってそれが二度取り消されたという‘政府の手違い’は、あなたの仕業ですか?」
「そうだが、それでも君は仕事を見つけて、そうしなければならなかった。」
「あなたと一緒に過ごせていたら、僕の人生はどうだったのでしょうね。母が僕に食料を与えなかったときや暴力的なボーイフレンドを連れてきたときは本当に辛かった。でも、僕たちが一緒にいれば危険だったと言うことは分かりました。公平ではなかったけど、あなたのせいではありません。エドワードが…、キロがあなたについて話していたとき、まさか自分の父親のことを話しているとは思いもしませんでした。僕の成長を見てほしかったけれども、あなたが側に居たら、どのような人になっていたか分かりません。僕はあなたが母の一夜のボーイフレンドのうちの一人でないと分かって幸せです。」
彼の瞳には安心感と、温かみと親しみを感じた。もしそれが出来ていたならば、きっと僕たちは良い関係を持てただろう…。僕は視線を逸らした。彼はとても愛情深くて父親のように見えたので、彼から聞いた絆が再構築するのを恐れた。既に逝ってしまった人と関係を持つのは恐ろしくて寂しいことになるかも知れない。その一方…、遅くともないよりはまし、かな。
「それと…、きれいな女性が何よりも優れていると思うのと、正しい戦略を見つければ彼女らを全て手に入れてよいと思うその小さな倒錯本能…、それらについては、申し訳ない。」
そう言って彼は離れて行った。
僕は暫く黙ってついて行き、ある角を曲がると、廊下に寄り掛かかって僕を待っているクラエルに会った。彼は意味ありげに笑い、ロネスは彼に会って驚いている様子ではなかった。クラエルはロネスがいることに気づいていないようなので、僕は直ぐに自分だけが死んだ人を見ることが出来るのだと判断した。
「君がすぐに現れるだろうと期待していたよ。戦う準備は出来ているか?それとも一分待とうか?」
「僕は本当に戦うのが得意ではない。ボードゲームかカードゲームならやってもいいけど。負けた方が部屋に閉じ込められるっていうのは、どう?」と、聞いた。
「悪いけど、そうはならないんだ。僕も本当は戦わない方が良いんだが、言われたことをやらなければならないんでね。」
ロネスはクラエルに近づき、彼の見えていない目の前で手を振って、次にクラエルの目玉を引っこ抜く合図をした。
「君は眠りなさい。眠りなさい…。」と、ロネスが深くて低い声で言った。
ロネスは、彼の真っ直ぐな優先順位があると分かって良かった。
「本当にこのような形でしかあまり助けることができないのだが、君を驚かせるだけだ。」
「僕は自分の本を持っていないし、迷っているし、エドワードを見つけることさえ出来ない上に、ヴレチアルを倒す術も全くない。君は僕を打ち倒すことによって何を達成しようとしているんだ?」
「いいぞ、無防備な役を演じるのはいいぞ。彼は本当に恐怖に震えるぞ。」 といって、ロネスは拍手をした。
「黙っていて!」と、僕は言った。
クラエルが眉を上げた。
「僕は自分の幻覚と話しているんだ。」
「私は幻覚ではない。君は神経症かも知れないが、精神異常者ではない。でもそれが私のせいである可能性は少ない。遺伝的な物でもない。恐れる必要はない。君がこの対決で勝てることは分かっている。それには3つの理由がある。1つ、彼の攻撃が弱いこと。それは私が彼の事を観察していたから分かる、そして今の彼は自分の固形の体の中にいる。2つ、君のその剣で倒せぬものは無い。3つ、君の方が彼よりもはるかに勇敢だ。君の体には私の血が流れているので、それが君を更に強力で、賢く、しかもカッコいい。
「あなたはうぬぼれが強いですね。そうでしょう?」
「ああ、時どきね。」と、ロネスは微笑みながら答えた。
クラエルはため息をついて、剣を取り出した。
「お前は幻覚よりも、対戦者に集中すべきだと思う。さあ、剣を取出してこれをさっさと終わらせるとしよう。」
「もし戦う代わりに僕が高速で来た道を走って戻ったらどうする?」
「魔法でお前を押し潰したいところだが、この状況では魔法よりも剣を使うほうがいい。君の持っている物を自由に使うといい。」
ロネスが思慮深くクラエルを検討していたので、僕は剣を取り出してそれにエネルギーを注ぎ込んだ。クラエルはエネルギーを吸収していなかったが、彼の周りには大量にあった。そして僕はなぜ急にそういうことを感じるようになったのか分からなかったが、野生のエネルギーがチョークを撒くときの様にそれに群がるようにした。
「ブロックしなさい。」と、ロネスが言った。
僕は考えることなく、ただ動いた。彼が動いたことに気づく前に僕の剣がクラエルの剣にあたった。
クラエルの目が若干大きく開いて、彼は笑った。
「防御できたのか。いいぞ、少しは面白くなりそうだ。」と、クラエルが言った。
クラエルに敗れるかなんて、本当に心配していなかった。有能でない僕と違って彼は確実に無事だろうけれども、僕はエドワードのことが心配だった。多分それはロネスの落ち着きか、彼の言った僕が勝利する3つの理由のおかげだろう。
それでも僕は完全に安心していなかった。トミーはサイコキラーだったが、少女だったので、彼女と戦うのは難しかった。でもその一方、クラエルは男だった。僕は彼がディヴィーナをおもちゃのように狡猾な目で見て、僕を見下した見方をしたのが気に入らなかった。僕の中で小さい部分が彼と戦いたがっていたが、その小さい部分は彼に負けることが出来なかった。それはディヴィーナに近づく男を彼女から遠ざけようとするために戦わせようとする厄介なホルモンや自己破壊的なプライドのせいではなかった。これは僕が以前対処する必要のなかったものだ。多分、敵が目の前にいるときにガーディアンが持つ感情だ。
「私に戦わせなさい。」と、ロネスが僕の前に1歩踏み出して言った。
「君の代わりにはなれないが、手伝うことは出来るし、後で学習する動作を教えることも出来る。キロに見せたければ、キロ相手に使ってもいい動作がある。君は十分な訓練を受けていないので、彼との対戦を助けたい。」
「OK。」と、僕は言った。
ロネスは僕の後ろで1歩踏み出し、僕は非常に不自然なものを感じた。それは、僕が吸収しているエネルギーではなく、押し込まれているもので、冷たかった。そのエネルギーは物理的な物ではなくて僕を不安にしたが、不確実なことはまるで全て洗い流されたようにゆるぎない自信を残した。クラエルと戦う意欲が増大した。ロネスのエネルギーが豊富だったので、僕は自分のエネルギーを放した。
これで初めて、エドワードもロネスも僕がロネスに似ていると言った意味が分かった。僕は彼の考えや感情を感じることが出来たのだ。僕たちは全く違った形で教育されたが、似たような感じで育って生活をしたので、僕たちは同じだった。それにしても、僕にしてみれば彼は古風だったし、人間ではなかった。彼は知識、権力と僕には想像もできない経験をしていたし、存在さえ知らなかった感情もある。ただの痛みとは言えない苦悩。殺すことも出来る喜びなど。僕たちはそれぞれの経験によって変った部分以外、同類だった。僕の剣はエネルギーを得て急に猛威を振るい、黒い金属は赤みがかったオレンジ色に光った。
クラエルは自分の剣を上げ、僕もあげた。彼は左へ迅速かつわずかに移動し、それがまるで痙攣しているように見えた。僕は瞬時に反応した。僕が右へ移動している間に左側を遮るアイデアが頭に入った。僕の体は偉大な脳の指令を受けていないようだった。彼と戦っている間、考える暇さえなかった。僕が彼の動きを遮るまで、彼の動きが見えなかった。彼の素早い動きはフェイントだった。僕の剣は胸に迫る攻撃をかわし、僕は一歩前へ出て彼を自分から遠ざけた。クラエルは体勢を立て直し振り向きざまに僕の胃に後ろ回し蹴りを当てた。僕は倒れたとき、彼のブーツを掴んで自分と一緒に倒した。僕は背中から転がり、下に向かって蹴りを入れて彼の体の側面に当てた。彼は背中から転がり、座って僕の首に手をかけようとしたが、僕は彼の首に手をかけるに十分なだけ防御した。
ロネスは彼の本能を僕にくれていたが、彼は助言するよりも僕をコントロールしていた。僕は彼のコントロールを遠ざけ、手を離した。僕はクラエルの首を絞めたくなかったし、ロネスはそれを妨げなかった。
クラエルは自分の剣を取るために僕を放したので、僕は逆方向に自分の剣の所まで転がった。まだ少し光っていたが僕が手に取ると、再び猛威を振って明るく光った。僕はクラエルの方に向かって剣を振ったが、彼は振り返って防御した。僕は剣を振り上げて彼の背中を攻撃した。しかし、彼は反撃し始め、僕は正面からの攻撃を一層強めて、彼の胸に一撃くらわした。彼は後ろへ投げとばされて倒れ、うめきか唸りか分からない音を発した。僕はそんなに強く打撃を与えるつもりはなかった。
「君が彼を倒すためには、彼を傷つけなければならない。」頭にロネスの声がした。
「でも、僕は殺す必要はないですよね。」
クラエルはそう長く地面に倒れてはいなかった。彼は素早く剣を持って立ち上がった。彼は素早く剣を振り上げ、僕はそれをブロックしたが、次に、僕が殴られことに気づく前に顎が燃えるように熱くなった。危うく自分の剣を放すところだった。すると、彼は再び剣を引き上げ、僕の腕の下部に当てた。僕の剣は手から落ちたが、急に反対側の手にあった。僕は右利きだが、左手に持っても違和感がなかった。もしそれがクラエルの不意をついたならば、彼は顔に出さなかった。
僕たちは攻撃したり防御したりを繰り返していたが、どんどん早くなり、しまいには自分が攻撃しているのか防御しているのか分からなくなってしまった。僕はクラエルのパンチやキックにすぐに慣れたので、自分の剣で防御することが出来るようになったので、彼はその戦術を使わなくなった。僕は彼が実際に何をしているか分からなかったし、次に何をするのか予測できなかったが、僕の体は分かったようだった。
僕は剣を待っている彼の手に自分の剣の刃の根元を当て、次に前へ押した。彼の拳が自分の胃に当たり、彼は自然に押し戻す前に唸った。僕はその勢いを利用して彼の剣を自分の剣で上へと押し上げ、自分の剣を下、そして横へと振り下ろし、更に右側へ踏み込んで彼の胸に剣を横切らせた。彼は再び後ろへ倒れた。僕は暴力的にふるまっていたが、そうではないように感じた。彼との戦いがだんだん簡単になっているようだった。
クラエルは彼の決断力だけでエネルギーを吸収しているようだった。僕はどこからエネルギーを得ているのか分からなかったが、彼が僕より早く疲れることは知っていた。クラエルが攻撃のスピードが増すにつれて、彼の攻撃が有害ではなくなってきて、エネルギーの吸収も少なくなってきた。僕は彼にもっと攻撃させるようにしたかった。僕が踏み出せば、彼のアドバンテージなるため、そうしなかった。彼のいるスペースが狭ければ、剣を使う範囲が狭くなるので、それを補うために彼は力を入れるはずだ。彼は僕が後退しない限り、踏み出してこないだろうから、僕が後退しているように見せかけなければいけなかった。それで、彼が最初にしたように、僕は迅速に左へ移動し、一歩下がるようにして右へ移動した。クラエルは本能的に僕のトリックに引っかかった。彼は1歩踏み出したので、もし僕が踏み出していたら、彼がやっていたと思われる攻撃をした。振り回している間、僕は力いっぱい剣で狙っていた的、つまり、彼のみぞおちに打撃を加えた。そうすると、彼の剣は僕の肩の上に落ちた。
両者とも回復しようとして数分経っていた。クラエルは彼のできる限り攻撃していたし、僕は彼が最低でも何処かしら骨折していると確信していた。しかし、彼は呼吸困難になっていたので、僕がやったことはもっと酷かった。僕が肩に負った怪我がどれくらいのものが調べようとしている間、痛みは消えてしまった。僕たちは誰が先に立ち始めたのか分からないが準備ができていないにも関わらず、突然2人とも立っていた。彼は弱点を完全に露わにしてしまうので、先に攻撃するはずはなかった。僕は間違いなく彼を崩していた。僕は彼が防御している間に打撃を加えた。僕たちは気が付かぬ間に、お互いの首に刃を当てていた。どちらも微動出来なかった。僕は左手を離さず、自分が何をしているか分からぬまま右手で彼の鼻をパンチしていた。それと同時に、彼の拳も僕の鼻にあたった。僕は即座に涙目になり、顔中が熱くなった。僕は見えなかったが、彼も見えていなかった。僕は懸命に剣を手に取ろうとしたが、彼も僕の怪我した肩の上に体を倒していた。
僕はまだ彼が何処にいて、どのように攻撃してくるか分かっていた。彼は僕に向かって振り下したが僕は防御し、彼の足に打撃を与えることが出来た。しかしそれで、僕の左腕に彼の強力な右パンチを受けることになった。でもそれで剣をもう痛んでいない右手に握りかえることになったので、僕にはよかった。彼はそれを見込んでいなかったので、僕は腕で防御しながら、僕の剣の柄を彼のみぞおちに当てた。彼を倒すに十分ではなかったが、それは敏感なエリアに2度目の攻撃だったので、彼を驚かせた。それで十分だった。
彼が余分な領域を使って胸に打撃を与えたので、僕は彼の右肩を攻撃した。僕はダメージを感じることが出来たが、彼の打撃は全力ではなかった。刃の先端が僕の無防備な顎に来た。それは、鼻に食らったパンチよりも、僕を混乱させ、次に彼は刃の無い方で僕のみぞおちをドンと打った。僕は動けなくなって、もう終わりだと思った。何も見えなかったし、息も出来なかったし、僕の両腕は痺れていた。でも、僕の体は別なことを計画していたらしい。僕は膝をつき、まだ僕の剣を持っていた。彼は僕の背中に打撃を与えた。そしてちょうど彼が僕の喉を切ろうとしていたのを阻止するべく、剣が持ち上がった。防御した後、僕はそれから逃れ、刃を振り上げることができ、続いて彼の右手を攻撃するために後退した。もちろん、彼は剣を落したので、左手で拾った。彼の右手の優美さはなくなり、勢いも減少した。彼は僕の左側に移動して傷ついた手を胸に当てていた。
僕が上に向けて彼の胸を攻撃すると、あまりにも力が入って自分の剣のコントロールを失うところだった。彼の足が地を離れ、息を荒くして倒れた。僕は再び剣を持ち上げた。ロネスがまたコントロールをしていたので、今度は止めを刺そうとしていた。僕は止めたかったが、そうしなかった。クラエルの剣は数メートル先の地面に落ちていた。彼が僕の足を払おうとしたので、1歩後退した。彼は自分の剣から、僕を見た。彼は僕の動作を見ていたのだろう。彼は抜け出す代わりに、両腕を自分の頭の上に置いた。彼は十分に素早く逃げて僕を攻撃することができないと判断したのか、自分を完全にさらけ出していた。僕の剣が彼の首に向かって思いっきり振り下ろされた。彼の腕がどうにか衝撃を和らげたのだと思うが、それは十分ではなかった。僕はやりたくなかった。本当に、本当にやりたくなかった。
「止めて!」と、自分の頭の中で叫んだ。剣は彼からわずか1インチぐらいの所で凍りつき、僕は自分のコントロールを回復で来ているのが分かった。
「いいだろう。」と、ロネスが答えた。僕は剣が黒の状態に戻ると鞘に納めた。
ロネスが後退してエネルギーが放出してから、どれだけの圧力がかかっていたか分かった。それは、僕を軽く、空っぽで弱く感じさせた。その反動として僕は自分の体の震えが治まるまでエネルギーを沢山吸い込んだ。
ロネスが僕の前に立った。
「大丈夫か?」と、彼は聞いた。
「大丈夫です。」
僕はクラエルを見て、
「自ら敗北したとみなすんだ。」
彼はぽかんとして、恐怖と尊敬の間の何かを感じていたようだ。
「私たちが発つ前に、彼の妹は再び彼のものになり、彼を許すと言っておきなさい。」
それは、奇妙な要求を追加するようだったが、僕はメッセージを伝えた。クラエルの目は不安と悲しさでいっぱいになった。僕は答えを待たずに他の廊下を下り始めた。数分経ってから、僕は「ありがとう。」と、言った。
「問題ない。ついやる気になってしまって、すまなかった。私は戦いに慣れているのでね。私は多くの戦争に出ていた。」
「ああ、いいや、まさかあなたは参加した戦争や、あなたが僕の年頃にどうだったとか言うつもりではないですよね?」と、僕は聞いた。
彼は笑って頭を振った。
僕は自分の本を感じることが出来たが、エドワードやロネス、ディヴィーナとヴレチアルを感じ取るのをかろうじて超えるくらいだった。僕は感情などとヴレチアル、ディヴィーナ、ロネスとエドワードのパワーを区別することが出来るようになったので、多分このエネルギーに慣れてきたのだろう。僕はエドワードが安全かどうか確認するために彼の考えや感情に集中した。
「今、あることに気づきました。」と、僕は言って、
「僕たちは勝ちます。」
キロ
ディーランはやっと逃げた。彼が頑固なのは確かだ。私がすべきことを彼に説明する方法が無かった。彼には2千年以上もの間、強化されて発展してきた双子の兄弟の絆がどのようなものか見当もつかないだろう。ただの敵討ちではなくて、私は自分の兄弟がしていただろう反撃をしなければならなかった。私は彼の戦いを終えなければならないのだ。
私は、それを生じさせた運命、それが無かったものとして解明する。私は兄弟のストレスと混乱を感じ取っていた。別の世界に居ても、私たちは永遠にお互いの一部であることには変わらなかったが、彼が私に言いたくなかった遠いことも知っている。多分私たちはあまりにも近すぎて、長い間教養のある者としていられなかったのだが、私たちの議論は何も心配するようなことではなかった。しかし、今、私は今後自分の永遠の命の残りをどうしたらいいか、出来ることは無かったのか等と、自問していた。彼の命は未了で、彼の死はあまりにも突然であっけなかった。私の衝撃は、穴がぽっかり空いたかのような物だったが、私の兄弟は死んだのではなくて、行方不明になっただけの様だったので、完全に空っぽな穴ではなかった。
そして私は人間でまだ子供の様なディーランと知り合った。彼は私の兄弟に良く似ていて、彼の様に行動したので、私は空虚を焼き払って親しみやすさに癒された。彼の目の頑固さの中に自分の兄弟の姿を見ることが出来た。この少年は兄弟がそうだったよりもはるかに強力だったし、私たちの年頃になると、私たち2人よりもはるかに強力になるだろう。彼のパワーと不運にあっても、彼はユーモアたっぷりあって幸せで、火の下に置かれても自分のパワーを見つけるような人で、それでも彼は少年の喜びを保つだろう。
私はテーブルへ戻り、横にある剣を手で叩いた。男の影が私の少し下の地面に落ちた。ディーランは出て行ったが、誰か強力な者が付き添っている。彼に助けが必要になったら、助けを見つけることが出来るだろう。
「私の兄弟を殺した奴はいったい何処にいる?」
「私はあなたを彼の所まで連れて行くことが出来ます。あなたは私に本を渡さなければいけないが、そうしなければ、誰かにあなたを追わせます。あなたは私たちを遠ざけておくことは出来ません。私たちはあなたの本を持って行き、あなたは敵を討つ機会を失ってしまうでしょう。」
彼は若くなかった。声は若かったが、彼の言葉と声音はかなり昔の人物の物だったが、私より年寄りではなかった。言うことすることは全て本当だったディーランとは全く逆で、この男はとてもあいまいで、不確実だったので、彼の言葉にどう反応すればいいのか。
「では、君は私の兄弟を殺した奴の所に私を連れて行って、私はそいつと戦って、下手をすれば彼に本を取られる可能性があるというのか。」
私は戸口にいる男を見るために振り返った。彼は、私のガーディアンのビジョンに出てきた若い男で、彼の体は現実のものではなかった。彼は生きていなかった。
「OK。それは公平そうだな。」 彼は振り返って出て行った。
私は彼の後について出て、ドアを後ろ手に閉めた。その男は立ち止まり、小さな金属のディスクを差出して、私に投げた。私はそれが私の手を焼く間、数秒間キャッチして彼に投げ戻した。多分私が今まで触ったものの中で一番不自然で汚らわしい物だった。
地面が揺れ始め、パックリ開いて輝く光のシールドを放った。揺れが止まり、私は光へ向かって歩いた。
* * *
目を開けると、私はビジョンで見た洞窟にいた。私の左側の数メートル先にあの男が有体でいた。そして1メートル半ほどの距離に、吐きそうになるくらいのエネルギーを放出しているヴレチアルがいた。彼は神々の中で一番パワーを持っていた。彼の体は非常に強くて濃縮したエネルギーの塊が有体化したものに過ぎなかった。彼は濃い赤茶けた髪にライトブラウンで輝く瞳を持っていた。
私が生きている2千年以上もの間、まさか神と戦うことになるとは思ったこともなかったが、ヴレチアルに関しては、彼が死ぬところさえ想像出来なかった。何世紀も経って初めて、私は心の底から絶望を感じ、それは無数の無意味な戦いと共に埋葬されているようだった。他の神々が彼と戦うべきだが、彼らでさえ、彼との対決を避けていた。ヴレチアルが目の前にいることから、私の本を捨てることも出来ないし、もし出来たとしても他のガーディアンの手に渡ってそれを守り始める前に彼は追いついて奪うだろう。私は、サーヴァントたちと戦いながら彼の弱点を見つけたかった。
「ノクォディよ、そんなに悲観しなくても良い。お前は私と戦う必要はない。」と言って、ヴレチアルは笑った。
「私に本を渡し、シオとじゃれに行きなさい。彼がお前の兄弟を殺した者だ。彼はお前の兄弟の体を使っているので、すぐ分かるだろう。」
途轍もない吐き気が襲ってきた。
「なんだって?」
私の声にわずかな動揺があった。彼は私の兄弟を殺した上に、彼の体を乗っ取る度胸があったのか。私はヴレチアルとは戦いたくなかったが、私の兄弟を殺した奴を破壊したかった。
「知っている。私はシオなんてどうでもいい。彼は本当に野蛮だ。残念ながら、彼は今忙しくしているので、お前は地下牢で待つことになる。では、本を渡してシオと戦うために生きているか、拒否して強制的に渡させられた後に殺されるか。お前は誠実に長い人生を送ってきて多くの事を学んだが、お前は敗北も学んだか?」
私はゆっくりと自分の本をバッグから取り出した。彼には渡したくなかったが、彼と戦うのは愚かだった。私の人生で唯一の仕事はこの本を守ることだったが、私の兄弟を殺してしまった敵を討たないまま死んでしまったら、兄弟の人生は未了になってしまう。敵を討った後にだったら、本を守るために自分の人生を自由に使って棒に振るのもいいだろう。自分の兄弟の平静を保つために自分の本を手放して、その後本のために自分の人生を捧げるなんて、なんて愚か者だろう。
不思議なことに、僧侶たちは優先順位をつける方法を教えてくれたことが無い。
「数百年経った今、敗北を学ぶことにしよう…。」
私は自分の本を差し出し、そのパワーがヴレチアルのオーラに吸い込まれるのを感じた。彼は私の本を受け取った。
「よし。では、お前はこれからクラエルについていって地下牢で待つのだ。」
クラエルは歩き始め、私はついて行くためにゆっくり振り返った。それは奇妙で間違っていると感じた。その時、暗黒の神は私を殺さずに約束を守った。
洞窟は暗くなり、地面が柔らかくなるのを感じた。数分後、暗闇が消えて私たちは全て同じで沢山の松明が灯る迷路のような廊下にいた。移動した距離は短く、私たちはお互いに何も話さなかった。私は明かりもない暗い洞窟の様な地下牢の壁に繋がれ、おいて行かれた。私はクラエルと戦わなかった。彼にはエネルギーを使う価値が無かった。彼は直ぐに出て行き、私は待つしかなかった。
この世界の重力は軽くて地球と同じくらいだったが、放射線が強かったので、きっとこの世界は一つの太陽の近くになるのだろうと思った。ここのエネルギーが私の感覚を拡大させたが、全てが歪んでいた。私はまだヴレチアルのパワーを感じることが出来たが、それは彼の周りの全ての様に圧倒的ではなかった。私はクラエルを感じることも出来たし、ここで困難な滞在をしている数々の人々が邪魔にならないようにしているようだった。数分後クラエルの気配が無くなった。
10分後、クラエル、ディヴィーナ、ディーランとあと2人の人物の気配を感じた。2人のうちの1人はあの邪悪で陰気で怒っている少女だったが、もう1人は何の役にも立たない、うじ虫のような奴だった。きっと彼がシオだろう。数分後、ディヴィーナとヴレチアルが遠ざかり、クラエルと邪悪なやつが一緒に出て行った。ディーランとシオは私の方向へ向かってきた。私の弟子がその卑劣なやつといるのは好ましく思わなかった。ディーランは彼の事を嫌っていたが、彼はそんなに動揺していないようだった。私はもう待てないので、それは重要ではなかった。錆びついた鎖は直ぐに壊れた。
「キロ、待って。」と、ディヴィーナの声が聞こえた。
「今はその時ではないわ。ディーランは自分で何とかできる。あなたはクラエルの後を追って、彼はディーランの本を持っているわ。あなたは後でシオと会う機会があるわ。私の事を信じて。」と、アドバイスした。
私は一瞬考えた。ディヴィーナは言っていることに確信を持っているようだ。
私はそれに答えなかったが、手探りで壁を探し、ドアを見つけてクラエルを探しに出た。多くの廊下を通ってクラエルから約1分の距離になった。もう1人の邪悪なやつは彼と分かれてあてもなく歩いているようだった。
「さあ、今言ってシオを倒すのよ。」と、ディヴィーナが言った。
「私はまだ本を手に入れていない。」怪しい。
「分かっているわ。後にして。今があなたの兄弟の敵を討つチャンスよ。」と、急き立てた。
私はため息をつき、更に廊下を進んだ。私はディヴィーナが文字通り私の時間を無駄にしようとしているのか、そうでないのか分からなかったが、私の彼女に対する信頼が揺らぎ始めていた。数分後私は立ち止まり、方向を変えた。
「だめ!ディーランが対処しているわ!彼に任せて!」
殺人目的の邪悪なやつが彼と一緒にいた。
「彼は私の弟子だ。そいつに彼を殺させはしない。」
「彼を信じて。」
「信じるか否かの問題ではない!彼は訓練を受けていないに等しい。タイミングがいいとか信用するかなどは関係ない。彼は私の弟子だし、私の兄弟は私が弟子を守っている間、もう少しの間不安に休んでいても構わない。」
誰も彼に手を振れる権利はない。特にあの狂暴で不愉快なあの少女には。
「彼はそれに対処しているわ!今あなたが手を出したら、余計にややこしくなるわ!放っておきなさい。彼女はせいぜい彼を引っ掻くくらいしかできないわ。信じて!」
私はゆっくり止まった。
「なぜ?なぜそうしなければならないのだ?」と、私は聞いたが、彼女は答えなかったので、私はため息をついた。
「これが終わったら、君は何故すべきことを知っていて、どうして君の事を信用しなければいけないのか説明してもらう。」
「これが終わったころには、あなたも知ると思うわ。」
私はがっかりして、最初に向かっていた方向へ戻った。シオにたどり着くには長い道のりがあった。私は容易に自分の兄弟の敵討ちをそっちのけにしてディーランを守ろうとする自分に驚いたが、私の兄弟はもう既に死んでいたし、ディーランは私を必要としていた。1歩進むごとに私は本当にディヴィーナを信用してディーランに会いに行かなくて良かったのか自問自答した。
心の中の葛藤は実際にとても大きく、危うく自分の死へと走って行くところだった。不注意のために死ぬなんて、悲惨だった。私はその匂いを感じて止まった。私はロネスの臭いを知っていた。私は直ぐにシオだと思ったが、急に風が巻き起こった。私は廊下の端から、反対側の端を見た。いったいどこから風が来るんだ?まるでロネスの魔法だった。
それを振り払って進む前に、数歩先に小さな光の線が見えた。腰の高さほどあり、指1本の太さだろうか、その光は廊下の壁から壁へと続いていた。壁の穴は完璧に丸くて、光も完璧に焦点が合っていたので、自然が創ったものではないと分かった。私は似たような穴が無いか、地面を良く調べると、きちんと並んだ同様の穴を見つけた。穴を踏まないように十分な距離を置いてから自分の剣を反対側に投げた。刃が光を横断すると、金属の尖った物が地面から飛び出した。
「ディーラン、罠が仕掛けてある!もし君に聞こえるなら、罠に気をつけなさい。」
答えの気配さえなかった。彼には聞こえていないのだ。
私はさっさとこれを終わらせて、彼を探し出さなければならなかった。私は石の地面に横になり、光線の下を滑って罠を簡単に通過した。廊下の終わりに不思議な屋内の小川があって、そこには物理的エネルギーを殆ど失ったシオが意識を失ったまま倒れていた。ヴレチアルが言ったように、シオはロネスの体で移動していた。シオは胸の悪くなるような恐ろしい生き物だったので、そこで彼を見つけたからには、彼がやったことを償わせるための拷問する時間が無数にあればいいのにと思った。
私は一瞬躊躇ためらって、何故彼からエネルギーが吸い出されたのか考えた。私はまだこの様な魔術をディーランに教えていなかったが、シオが彼を地下牢へ連れて行っていたので、彼だけがシオとコンタクトを取ったはずだった
事故なのか?いや、強力な魔法かも知れない。もしかしたらディヴィーナが手伝ったのかも知れない。それはどうでもいい。私はシオにノミナルエネルギーを注いで、それを物理的エネルギーに変えた。数秒後、彼は意識を取り戻し始めて、彼が目を開けたとき、そこには恐怖が見えた。彼は自分にこれから何が起こるか知っていた。それは十分ではなかった。
「何をするんだ?」 彼はムロの主言語であるチュレーンで答えた。
長年経ってから彼の恐れで歪んでいる声を聞くと私の胸が焼けるように感じた。私は兄弟の恐れる声を聞くことや、瞳に恐れを見たくなかったが、シオは私が与えるその恐れの一滴一滴を味わって当然だった。
私は彼の首根っこを掴んで彼を壁に押し付けた。
「私はまだ決めていないのだ。そんなにゆっくりでなくてもいいが、ゆっくり苦痛を与えること。もしかしたら君を切り刻んで、激痛で死ぬまで血を流す魔法をかけるかも知れない。お前は弱いので激痛で死ぬだろう。」
「お前は自分の兄弟の体を切り刻むことが出来るのか?僕はこの体をいつでも手放すことが出来るので、その手間は全部無駄になる。」
「いったい何を持って私が君を生かせると思うのだ?私はお前よりもはるかに強力なのだ。お前は無だ。私はお前を焼いて、冷凍して、切り刻んで溶かしたい。お前に慈悲を求めて泣き叫ばせてやる。私はお前の胸に入り込んで心臓を潰してもいいが、お前にそのような死に方は早すぎる。」
私は、怒りでおののいていた。私は色んな方法で殺してやりたかったが、あまりにも早く殺してしまう恐れがあるので、動けなかった。彼は、殺されて死ぬべきだが、それは私の手によってであって、しかも、彼は死ぬことを懇願しなければいけなかった。彼はただ純粋な人の命奪っただけではなく、ロネスの命を奪ったのだ。ロネスは2千年以上私の双子の兄弟だったのに、このチビで不愉快で汚らわしい男が彼を逝かせてしまった。
「私は自分の仕事をやっていただけだ。」
「これ以上私を怒らせない方がいいぞ。」
私は彼の目を見ていなかった。この目は冷たくて弱かった。彼は私の兄弟とは似ても似つかなかった。
「体の部分のカットすることから始めるかも知れない。指から始めるほど気長ではないので、先ずは、お前の手足から始めようか。だからせめてそれについては感謝するのだな。もしかしたら先に耳を切り落とすべきかも知れないな。」
「お願いだから、ただ実行してくれ。私があの小さい人間に負けたことでヴレチアルの罰を受けるよりもましだろう。」
「では、ディーランがお前のエネルギーを空にしたのか?」
「そうだ。彼は相手の呪文から自分の呪文を保護して中にエネルギーを入り込ませない魔術さえ使っていた。彼はそれを蓄積したはずだ。クソ人間の野郎。」
自分の弟子が、彼の知っている魔術さえろくに出来なかったという考えが浮かび、心配になってきて、再び怒りが収まってきた。
「彼は何処か怪我をしていたか?」
「いや、していないと思う。それに彼はその呪文を使うのを止めた。次の瞬間、目が覚めたときにはお前が目に殺意を露わにして私に覆いかぶさっていた。だから、お前のやることはヴレチアルがやるであろうことよりましだ。」
「ヴレチアルは私が怒っているほど、怒れないだろう。」
私の怒りが視野を曇らせたのだろうか、私は彼のブーツが私の膝にあたるまで、彼が動くのが見えなかった。私を倒すほど痛くはなかったが、彼から手を離すくらいの不意打ちを食らった。彼は手が解けると、短剣を取り出し、私を刺そうとした。しかし私の方が素早かった。私はその攻撃をかわすのに間に合うよう、自分の剣を取り出した。
シオは卑劣でハゲタカのような奴でガーディアンにはかなわない。私は手首にエネルギーを集約した。私は稲妻を落とすには嵐が必要だとディーランに示したとき、彼に少し不誠実だった。私はフル充電すれば、稲妻を創り出すことが出来る。シオは短剣を落し、うずくまった。
これが私の兄弟を殺した奴なのか?彼は弱すぎる。ロネスはこんなに弱い奴に殺されるべきではなかった。でも、彼が逝ってしまったのは事実だった。この様な降参している状態では攻撃する気も失せた。
ガーディアン達は、それぞれの本と私たちの民を守るために創造された。私たちにとって、命を奪うのは自然なことではなかった。それは、最終手段だった。シオは完全にカスだったが、私の兄弟の体を使っていた。彼を滅ぼすのは、彼の体を使っているシオと同じように下劣だった。
サゴは人が死ぬと、死人の世界では、死んだ時のままの姿でいると信じていた。改革の以前には、ある人物が死刑に値する罪を犯した場合、起こした犯罪をその人物の額全体に記した。それは、生きている間も、死んでからも、その人物が犯した罪を皆に知られると言う考え方だった。宗教が法で無くなってからは、そのような罰し方は古典的だとされたが、人々は愛しい人たちの体をきれいに保てるように努力した。
私が躊躇している間にシオは彼のチャンスがあった。私を倒すことが出来ないと知っていながら、彼は廊下へと逃げた。よりによって、罠の方向へ行った。
「シオ!」と、私は叫んだ。彼は私を見るために振り返ったが、走り続けた。私は金属が擦れる音と彼の短い叫び声が聞こえる一瞬前に避けた。彼の所まで行って、それらの尖った物が引っ込んでいくのを見た。
ロネスと私は本当に長年会っていなかったので、彼の顔を見ていないのを寂しく思うのは不思議だった。彼はいつも自分の体はどうでもいいと言っていたし、もし体を変えることが出来るなら、自分に満足するためにも、美しい若い女性の体がいいと言っていた。そして、一番酷い部分は、彼と全く同じ奴がもう1人いることだと言っていた。長い年月が経って、やっとお互いの外見を気にしなくなったが、そうしていなければ、お互いに我を忘れて戦うことが出来なかっただろう。私たちの全ての問題は感情的になって離れてしまうよりも身体をはって解決する方が簡単だった。それに、彼の命を失った顔を見ると孤独以外の何かがあった。それは、彼は亡くなったばかりではないので、最後の別れではなかった。私は本当に別れを告げていなかったのだ。
「あなたは知るべきだと思ったので知らせておくけど、あなたの弟子はあの邪悪な少女をいとも簡単に倒したわ。さあ、汚れを落しに行って。」
と、ディヴィーナの声が僕の考えを遮った。
私自身がそういったのかも知れない。
* * *
私はディーランの匂いがして×マークが記されているドアを見つけたので、少し開いたそのドアを開けた。その部屋の唯一の家具、ベッドに地球と私のビジョンで見たあの少女が座っていた。ディーランとディヴィーナは私にいったい何をしろと言うのだ?私はベビーシッターなどやらないぞ。
「サゴ!私を解放しなさい。」と、彼女は要求した。
私は何故彼女がそのような汚らわしい悪だか分かった。彼女は良心や無邪気さが欠如した子供で、その未発達な脳に囚われ、子供が耐えられることを全て剥奪されているからだ。ヴレチアルは彼女に魔法の能力を与え、死を取り上げて、時間がその他の物を全て奪っていた。
「ディヴィーナ、君は見せかけているよりもはるかに強力なのだな?」私はゆっくりと彼女のパワーに注意しながらベッドに近づいた。
「ええ。」
「この子の不死身の力を取り除くことが出来るか?どうやってやるか分かるか?」
私はベッドに座り、少女は私を見た。
「あなたは何を待っているの?早く外して!」
「ええ、出来るし、そうするわ。」と、ディヴィーナが頭の中ではなく、ドアの所で言った。
私は彼女を見た。ロネスとは違って、私は、見ずにいるのはもったいないほど彼女が美しかったので、常にディヴィーナの容姿を見ていた。でもその一方、彼女のパワー更に驚かされた。彼女は私が常に珍しいと思っていた古代の神聖な力で輝いていた。
ロネスの様に私も全てを理解したかった。
私は特に彼ほど秘密を好まなかったが、私には知る必要があった。例外は民だった。私は彼らについて全てを学ぼうとは思わなかったので、ディヴィーナを理解しようとはしなかった。それに彼女は、人々が彼女を理解してほしいとは思っていなかったし、彼女の謎は彼女の魅力的な部分だった。
彼女は少女の所まで行って、片手を彼女の額に、そしてもう一方をお腹に当てた。少女はバタバタと暴れ始めたので、私は彼女の足を下へ抑え込んだ。それは、悪魔祓いを思い起こさせた。ディヴィーナは更にエネルギーを注ぎ込み、少女は徐々に落ち着いた。
「これは彼女のパワーの大半も取り除くわ。」と、ディヴィーナが言った。少女は反論しようとしたが、彼女は殆ど意識が無かった。
「彼女はもうそれを必要としないでしょう。」と、私は主張した。
ディヴィーナの手が光り始めた。彼女はそれを持ち上げ、そこには暗くて柔らかく見える黒い炎が上昇した。彼女は手を合わせ、炎はそれに従った。彼女が手を開くと、炎が彼女のお腹を突き抜けてドアから出て行った。彼女は炎が彼女の中を通ったのが気に入らなかったと言える。
「あなたの番よ。」
彼女はベッドの横のチェストに腰かけた…、先ほどまでなかったチェストに。
私は少女の額に手を当てた。不死身で亡くなった彼女はとても壊れやすそうに見えた。私は自分のエネルギーを集め、彼女の記憶や経験に集中した。怒り、憎しみ、痛み、時、力、空腹、損失、自己嫌悪、孤独…、彼女は良いことや幸せなことを何一つ知らなかった。私は彼女の記憶を取り除いて、完全に消した。この様な記憶は少女の物ではなかった。彼女の目が覚めたら、無邪気さと良心が戻っているだろう。
「君はサゴや人間ではない。」と、私は言った。彼女は頭を振った。
「君は生きているのか?」
「私の体は生きているわ。」
「でも、君はそれ以上だ。君の体は君のパワーからエネルギーを得ている。そうだろう?君はヴレチアルと戦えるのか?君は彼を敗北させるチャンスがあるのか?」
「もちろん、あるわ。ただし、正しい方法を見つけなければいけないわ。私の体は、私のパワーを使う妨げになるけれど、彼を破壊すれば、私のポテンシャルを完全に取り戻すことが出来るわ。ヴレチアルは私を破滅しようとするけれども、私の体ではないわ。私たちの関係はこれから異なるものになるかしら?」
「私はそれを恐れている。」
「それは良くないわ。私は私たちの気軽な関係が大好きだったわ。あなたは私の秘密を探ろうとしなかった数少ない人たちの一人よ。ロネスは、探ろうとしなかったけれども…、知ってしまった。だから、彼は出て行ったの。」
それは本当に驚くべきことではなかった。ディヴィーナは素晴らしかったが、彼女を神として見たことが無かったので、まだそうするのは難しかった。彼女はいつも子供っぽかったし、どちらにしても、彼女はおそらく神童の一種のような子供だった。
「あなたはディーランに言わないわよね?」
「彼に頼まれたら、言うかも。」と、答えた。彼女は唸った。
「私たちは色んなことを乗り越えてきた。そして君は常に危険から抜け出す自然な才能を持っていた。君がヴレチアルを倒したら、この少女を連れて帰る必要がある。アノシイには彼女を養女にする人がいるはずだ。」
「何かよからぬことが起ころうとしている。あなたの弟子をチェックして。」と、彼女が言った。
私は手を差し出し、直ぐにディーランを感じた。彼はヴレチアルと話していた!私の弟子は、たった1人で暗黒の神といた。
ヴレチアルは彼に何の用があるのだ?彼は何と言っているのだ?彼は傷つけようとしているのか?でも、痛みを感じている様子はない。私はそこにいる必要があったが、そこの行くための方向が分からないので歩いて行けなかった。
「ディヴィーナ!私を彼がいる所に送れるか?」
「ええ、ディーランを守るのよ。でも、あなたにはヴレチアルの気を逸らしてもらわなければならないわ。」と、彼女は言った。
私は同意した。私の視界は白くて眩しい光でいっぱいになり、室内が不愉快なまでに熱くなった。数秒後、その光と熱は蒸発してしまった。